歩の秘密
「で? どうしたんだよ?」
「……あ、うん」
隣に腰を下ろして尋ねると、歩はパチリと瞬きをし、次いで何かを考えるように下を向いた。
「実はボク、カズに黙ってたことがあって」
しばらくの沈黙の後、相手の口から出た言葉に十和はハッと息を呑んだ。
「ずっと、言えなかったんだけど……あのね、カズ。実は」
「……悪かったっ!」
そして、歩が話を切り出す前に十和は謝った。それから頭を下げたまま、言葉を続けた。
「お前の出てる映画、観たんだ。友達が教えてくれて」
「……っ!?」
「オレの方こそ、お前が言ってくれる前に知っちゃってゴメン!」
「いや、それはカズには責任は……ねぇ、顔上げて?」
言って、更に頭を下げる。気分はほとんど土下座だ。
……と、そんな十和の頭の上から困ったような声がした。
それに、おずおずと顔を上げると――声同様に困った、けれど、それでも笑顔で歩が十和を見つめていた。
「それに、やっぱりボクの方が悪いよ……記事になったって、社長から聞かなければ……こうやって、言い出せなかったもの」
だが、歩の言葉に十和は目を見張った。そんな彼女を安心させるように歩が笑みを深める。
「ありがとう、心配してくれて」
「……アユ」
「だから、カズには自分の口からちゃんと言いたかったんだ」
そう言うと、歩は十和を見つめたまま話し出した。
「北郷も、ボクの苗字なんだ」
「えっ?」
「ボク、捨て子だったんだよ……北郷は施設にいた時ので、今の江藤は養父母の苗字」
元々、いないから寂しくはなかった。そう言った歩の顔に嘘はなかった。
しかし、今の江藤家に引き取られて――無口だが頼もしい義父。そして体は弱いが、明るく優しい義母と暮らしていく中で、歩は家族のぬくもりを実感したと続けた。
「そんな時、店……あ、父さんは肉屋やってるんだけど。突然、店に来たお客さんに、映画に出てみないかって言われて」
「……社長?」
「当時はまだ修業中で、マネージャーとかやってたけどね」
勿論、弱小プロの独断で映画出演は出来ない。オーディションを受けて、合格してからの話だ。
けれど元々、歩は役者になる気はなかった。ただ、その頃体調を崩していた義母を喜ばせたくて――歩は英に言われるまま、オーディションを受けたのだ。
「元々は、義経とか……男の子役のつもりだったんだよ? だから、女の子役で受かった時にはビックリした」
それでも、予想とは少し違ったけれど義母は合格を喜んでくれた。そのことに励まされ、映画撮影に臨んだ歩だったが……。
「……怖く、なっちゃったんだ」
「何が……」
「周りが褒めてくれたのは、求めてくれたのは、大姫の……女の子の、ボクだ。可愛くて泣き虫で健気な……ニセモノの、ボクだったんだ」
そこまで話すと、歩は両手を組んだ。そして俯いたまま、無言でギュッとその手に力を込めた。




