CM出演とアイドル活動について
放課後の教室、机を挟んで向かい合う二人の学生服を着た少年。
「家まで待てないのかよ」
「こういうところで食べるのが、美味しいんだろ?」
小柄な方の少年の言葉に、すまして答える少年。そして目の前で食べ始めた彼に、頬を膨らませたかと思うと。
「……一口、よこせ」
「はいはい」
ねだられたのに笑って、備えつけのフォークで麺を差し出す。それに口を開け、少年がカップ麺を食べたところで……。
『こってり、しあわせ』
『サンカップ。シーフード・ピザ味、新発売』
※
「昨日のCM観た?」
「観た観た、和斗君可愛いっ」
「わたしは歩君がいいなぁ。お兄ちゃんっぽくて素敵よね」
「……おはよ」
紺地に白いラインとタイ、膝上丈のプリーツスカートにハイソックス。
黒髪ロングのウイッグをかぶり、可愛いと評判の制服を着て学校に行くと、同級生達が十和の出たCMの話で盛り上がっていた。恥ずかしいが、無視をする訳にもいかないので学校指定の白いベレー帽を脱ぎ、短く挨拶だけをして通り過ぎる。
(でも、お兄ちゃんって……アユは、私より年下だぞ?)
そもそも、最初は十和が歩の役をやる予定だった。
しかし撮影前に楽屋で食べたところ、十和的には涙目になるくらいまずかったのである。
「ピザはピザで食えばいいだろ!」
「無茶を言うな……役を変えるぞ。そんな顔をして食ったら、売れるものも売れん」
十和の訴えも虚しく、英の指示で配役は決定した。だから自分の方が子供っぽく見えるのは、あのカップ麺のせいなのである。
だが、そのことを今、ここで主張することは出来なかった。それが出来れば毎朝、ウイッグをかぶって登校などしない。
(まだ、デビューして二ヶ月だけど)
十和としては『SMnow』でのデビューだけでも十分、すごいと思っていた。
だが、英は彼女の予想の更に上をいっていた。デビュー曲を、人気アニメとタイアップさせたのだ。おかげで初登場でランキングのトップ3に入り、再び『SMnow』に出演出来たのである。
(おかげで、貰った洋服代は返せたけど)
十和としては一安心だが『Es』の勢いは止まらない。今回のCMの他にも、雑誌の撮影があったり取材を受けたりと忙しい。しかもセカンドシングル発売に向けて、英はまた何か考えているようなのだ。
(……今日、事務所に来いって言われてるよな)
一体、何が待っているのか――深いため息をつきながら、十和は自分の席に着いた。
「おはよう、十和」
そんな十和に、同じクラスになった梨香が声をかけてきた。そして、未だに盛り上がっている同級生達に肩を竦める。
「少し前までは、十和のファンだったのにね」
「……へっ?」
「まあ、ファン第一号としては気持ちも解るけど」
そう言って笑う梨香はCDを買った上、音楽配信サイトからダウンロードもしてくれた。確かにアニメ自体も人気だが、ランキングの結果は梨香達ファンのおかげだと思っている。
「……ごめんな、ありがとう」
「何、謝ってるのよ……いいのよ、わたしは和斗のファンなんだから」
梨香は、本当のことを知っているが――周囲を騙しての人気だということに、変わりはない。
だから思わず謝ったが、返された梨香の言葉が意外だった。
友人の欲目だろうか? 首を傾げた十和に、内緒ね、と梨香が言葉を続ける。
「つまらないとは言わないけど、確かに歩って完璧よね。それがいいって子もいるけど、わたしは和斗を見てる方が楽しくて好きよ」
梨香がそう言ったところで、チャイムが鳴った。
(……完璧、か)
歩だって拗ねたり緊張したりもする。けれど、それは十和しか知らない。
自分の席に戻る梨香を見送りながら、十和はふむ、と呟いた。




