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アル☆ドル ~アルバイトでアイドル?~  作者: 渡里あずま


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12/29

お前の為にここにいる

 そしていよいよ、本番当日。

 兵部に連れて来られた控室は、当たり前だが歩と一緒だった。さて、どうやって着替えようかと思っていたら、歩がトイレに行ってくれた。


(チャンス!)


 外で兵部が見張ってくれている間に、マッハで着替える。初対面の時、英が言っていた通りのショートパンツは少し恥ずかしいが、着替えるのは楽だ。

(アユは普通なのに……まあ、体育の授業だと思えばいいか)


「兵部さん、終わった!」

「おう……っと、俺もちょっとトイレ行ってくるな」

「解った」


 外の兵部に声をかけると、そんな答えが返ってきた。最初の難関は突破したので、一つ息をついて椅子に座ると――カチャリ、と控室のドアが開いた。


「……アユ?」


 戻ってきた歩の顔を見て、十和は思わず声をかけた。真っ青とまでは言わないが、顔色が悪く表情も硬い。


「大丈夫か? 具合悪いのか?」

「……違うよ。ちょっと緊張してるだけ」


 そう言って笑って見せる歩に、十和は目を見張った。

 生放送、しかも一番目に歌うので確かにプレッシャーはあるが――自分ならともかく、歩が緊張するなんて。


「失敗したら、社長とか母さん達をガッカリさせるかなとか……考え出したら、止まらなくなって」

「……アユ」

「あんなにカズと練習したのに、おかしいよね?」


 意外な言葉に驚いたが、歩は真剣だ。

 そんな彼に、十和は立ち上がって近づいた。それからその目を真っ直に見上げて、十和は口を開いた。


「オレは、ガッカリなんてしない」

「……えっ?」

「成功したらやっぱりスゴいって思うけど、失敗してもまた練習して一緒に頑張るだけだ」

「本当? 嫌いにならない?」


 十和の言葉に、尚も歩が尋ねてくる。呆れることなんて出来なかった。いや、むしろ力になりたかった。

(オヤジでも、カタチが欲しいって言うくらいなんだ)

 ましてや、歩とは他人な上に会ったばかりだ。恥ずかしくても、キチンと言葉にしなければ伝わらない。泣きそうになっている相手には、届かない。


「ああ、嫌わない。絶対だ……オレは、お前の為にここにいるんだから」

「……ありがとう」


 だから少し赤くなりながらも、十和はキッパリと言いきった。

 と、そんな彼女の視線の先で――ひどく嬉しそうに、歩は笑った。笑ってくれた。

 ……君の為という言葉には、鎖とか手錠みたいに相手を縛りつけてしまうイメージがあった。けれど先程、不安に揺れる歩を見たらそれこそ、縛りつけてでも何とかしたいと思った。


「立ち止まっていられない、君の為に強くなる」


 そして今、歩は十和の隣にいる。スタジオのライトは熱くて眩しくて、何も見えない。しかし重なる声が、自分が一人じゃないと教えてくれる。

 歩みたいに上手くはないが、今までとは違って自然と歌詞に気持ちが入った。


「走る僕、その先には君がいる」

「笑う君、ずっとそばで守るから」


 それから歌いきり、クルリと回って――先程の歩の笑顔を思い出し、十和は笑った。

 その瞬間、隣で歌う少年の為の笑顔はスタジオ中の、そしてカメラの向こうにいる視聴者達のものになったのである。

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