SMnow(ソング・ミュージック・ナウ)
「立ち止まっていられない、君の為に強くなる……」
弁当を食べた後、十和はデビュー曲の歌詞を口ずさんでいた。
事あるごとに聞いていたおかげで、歌詞は頭に入った。だが、どうも今一つ感情移入出来ないのである。
(君の為とか、わざわざ言っちゃうのって重くないか? 男なら不言実行だろ)
更に、そんな身も蓋も無いことを考えてしまう。
すると、休憩時間だからとマナーモードを解除したスマートフォンが鳴った。
この着信音は、コミュニケーションアプリのものだ。画面をタップすると、梨香からのメッセージが届いていた。
『頑張ってる?
いよいよ来週、ソンナウね。
直接、話聞くの楽しみにしてるわよ♪』
『SMnow』とは今度、十和達がデビューを飾る歌番組だ。正式名称は『ソング・ミュージック・ナウ』で新人からベテラン、更に外国のアーティストまで出演する有名な番組である。
(次の日、入学式だからな)
梨香からのメールを見て、十和は頬を緩めた。レッスン中だから、と電話ではなくメールをくれる辺り、優しい彼女らしい。
「……彼女?」
「えっ、アユ、心読めるのか!?」
そんな時、歩に声をかけられて驚いた。それから、きょとんとしている相手を見て、自分の勘違いに気づく。
「いや、ど……じゃなく、幼なじみ」
同級生と答えかけて、英達との会話を思い出し言い直した。梨香とは幼稚園の時から一緒なので、嘘ではない。
(そっか、男が女の子とメールしてるとそう思われちゃうのか)
考えてみれば当然だが、そもそも恋愛の話題が歩の口から出たのに驚いた。今は年下らしい一面も知っているが、何しろ第一印象が『天使』である。言葉は悪いが、こういう俗っぽい話をするとは思わなかったのだ。
そんな十和の視線の先で、歩が言葉を続ける。
「もしカズの彼女なら、その娘に言うつもりで歌えば、気持ちが入るでしょ?」
……反省しよう。やっぱり、歩は立派な天使だ。
(名前とか顔とか、スタイルが聞きたい訳じゃないんだ)
歩を同級生達(しかも女の子)と同じに考えてはいけなかった。十和が歌で悩んでいるのに気づいて、力になろうとしてくれたのだ。
「ありがとな。だけど梨香に言ったらきっと、余計な気使うなって笑い飛ばされるから」
「……男前な子なんだね」
笑顔で礼を言った十和に、返されたのは微苦笑だった。




