表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
アル☆ドル ~アルバイトでアイドル?~  作者: 渡里あずま


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

1/29

春休みデビュー

 どしゃぶりの雨の中、走る少年。

 でも、辛かったり情けない感じがしないのは、彼の表情のせいで。

 真っ直に前を見る、その真摯な横顔は思わず応援したくなる。

 ……と、雨がやんだのに彼が足を止めて、視線を上げる。

 濡れた金茶の髪。

 晴れていく空を、その空に浮かぶ虹を仰ぐ瞳も、同じ色。

 そしてフワッと笑ったかと思うと、少年はジーンズのポケットから濡れたスマートフォンを取り出し、そのレンズを虹へと向けた。


『あの虹を、捕まえる』



 いつもの待ち合わせ場所。ショッピングモールのテレビで流れているのは今、評判のCMだ。あんなに格好良いのに、名前すら解らないのが更に話題となっている。

 しかし、遅刻寸前の十和とわにはそれを観ている余裕はなかった。

 全速力でスクランブル交差点を渡りきり、待ち合わせの相手――親友である、梨香りかの前にピタリと止まって頭を下げた。


「悪い、待たせたっ!」

「……って、あんた、十和!?」


 波打つ長い黒髪をポニーテールにした、華やかな美少女である彼女は同じ私立のエスカレーター校に通い、この春からも同じ高等部に進むことになっている。

 それなのに何故、疑問形なのか?

 何も知らなければそう思うだろうが、むしろ解ったのは親友の梨香だからこそである。

 ……何故なら、今の十和は背中まであった黒髪をバッサリと短く切り。

 おかげでますます似合わなくなったスカートではなく、パーカーにジーンズ――我ながら、男にしか見えない有様だったからだ。



 母親を早くに亡くした彼女は、父親である江藤万理えとうばんりと二人で暮らしてきた。

 カメラマンである父の代わりに家事をこなしてきた十和だったが、それは別に良かった。問題だったのは、万理が彼女に何かと『女らしさ』を押しつけてくることだ。


「やっぱり、髪は長くないと」

「あと、ワンピースだな。ただ、足は絶対に出しちゃダメだぞ?」

「彼氏か!」


 即座にツッコミを入れた彼女に、万理が悲しそうな顔をした。

 だが、十和にも言い分はある。

 真っ直な長い黒髪に、ロング丈のワンピース。扶養家族としては、似合わないと解っていても父親の買ってくれる服を着て、学校も亡き母のいたお嬢様学校に通っているのだ。せめて、喋り方くらいは勘弁して欲しい。


「……十和~……」


 そんなある日、万理がひどく暗い表情で帰ってきた。


「どうした? 具合でも悪い? それとも、いよいよリストラか?」

「違う……アメリカの本社から、お呼びがかかって……」


 夕ご飯を並べる手を止め、尋ねたが事実は全く逆だった。むしろこの不況の中、仕事を認められるなんてめでたい話ではないか。

 安心してそう言った十和だったが、途端に父親が眼鏡の奥の瞳を潤ませたのにギョッとした。


「だって……三年だぞ!? 三年、十和と離れて暮らさなくちゃいけないんだぞ! そんなの、耐えられる訳がないだろうっ」

「……って、まさか、断ろうとか思ってるんじゃ?」


 そんな、まさか。いくら子煩悩な馬鹿親でも。

 そう思って疑問形で確認したが、途端に頷かれたのにはブチリと切れた。


「オヤジが行かないなら私、親子の縁切るからなっ!」


 ……そんな訳で昨日、万理は泣く泣くアメリカの雑誌社へと旅立った。

 そして空港で父を見送った帰り道、ふと十和は気づいたのだ。


「これって、もしかして好きな格好するチャンス?」


 呟き、グッと拳を握り。

 思い立ったが吉日、とばかりに十和はその足で美容室へと向かったのである。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ