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ハナクソ”花ちゃん”のだいぼうけん

作者: Rita

処女作です。

笑って楽しんでいただけると幸いです。


 「もう小学5年生でしょ、ふたりともっ。蛇さんがかわいそうだと思わないのっ。」


 ぼくの隣にいる身長160センチのいじめっ子、タカシくんは今怒られている。

 先生は顔を青くしながらも怒っている。いじめっ子のタカシくんを校長先生がかばっているから先生はいつも怒れなかったらしい。うらがねとかあいじんとか噂されていたけどよくわからなかった。

 ぼくは先生はたいへんだなと思った。先生はいつも胃薬っていうお薬を美味しそうに飲んでいる。先生はタカシくんより背が小さくて可愛いお姉さんだ。だからぼくは、先生はお薬を飲んでいる時が一番生き生きしていてキレイでかっこいいと思う。

 ぼくとタカシくんと先生、三人だけの空間なのにぼくには関係のないところで二人だけが仲良く遊んでいるみたいだ。

 ぼくは暇だったので、なんで先生に怒られているのかをもう一回思い出すことにした。




 2時間目の理科の時間。僕たちは学校の校庭にあるイチョウの木の近くに落ちている銀杏を拾っていた。

 「みんなちゃんと手袋してくださいねー。おててがカブれちゃいますよー。」

 先生がみんなに注意を呼びかけている。銀杏は素手で触ると手をかぶれさせるため、取り扱いに注意が必要だ。去年、手を真っ赤にしてかきむしっていたぼくのお姉ちゃんは、銀杏は悪魔のうんこだって言ってた。その言葉をきいて、銀杏がくさいのと苦いのはうんこだからか、とぼくは納得した。

 そんな銀杏に四苦八苦しているクラスのみんなを眺めながらぼーっとしていると、遠くに蛇さんを見つけた。学校の敷地内に迷い込んだのだろうか。蛇さんは多分、ぼくの背と同じくらいの長さに見える。ものすごく大きい。かっこいい。ぼくはもう少し近くで見てみることにした。体を触らせてくれたりしないかな。ぼくはものすごくワクワクした。


 近づいてみると、蛇さんはどことなくぐったりしているように見える。まるでお母さんに怒られているお父さんみたいだ。でも、お父さんと違って頬は赤くないし、口元はにやけていない。やっぱり違うみたい。

 ぐったりとした蛇さんについてだが、ぼくは重大なことに気づいてしまった。そう、蛇さんが向かっている先は銀杏がたくさん落ちている場所なのである。銀杏という名の悪魔のうんこのたまり場に、だ。ぼくは蛇さんはうんこが好きなのか、と衝撃の事実に鼻毛が飛び出た。左の鼻の穴から出たものすごく長い鼻毛と右の鼻の穴から出たちょっとだけ長い鼻毛が絡まる。痛い。泣きそう。でも、鼻毛が絡まることがこんなにつらいなら、お腹が空いた蛇さんはもっとつらいのかもしれない。ぼくは必死に考えた。体を引きずってうんこを食べに行く蛇さんにしてあげられることはないのだろうか。遠くでタカシくんが大声をあげた。と、同時にぼくはひらめいた。

 そうだ、クソが好きなら、ハナクソも好きなんじゃないか、と。


 それから、ぼくは鼻をホジホジして、ホジホジして、いっぱいホジホジした。蛇さんの喜ぶ姿を想像したらぼくはたくさんホジホジできた。ついでに左の鼻の穴もホジホジした。鼻毛は絡まったままだ。

 たくさんホジホジすると、ぼくの右手の人指し指にはみたこともないくらい大きなハナクソができあがった。

やっと蛇さんを楽にしてあげられる。

 ぼくは目の前を通り過ぎようとしている蛇さんに向けて一歩踏み出した。

 蛇さんは後ずさった。

 ぼくはもう一歩踏み出した。

 蛇さんは後ずさった。

 ぼくは蛇さんは施しを受けないサムライみたいでかっこいいなと思った。

 なので、ぼくは蛇さんの気持ちを無視するのもかわいそうだなと思えてきたのでハナクソをあげようかどうか迷った。ぼくはそれから、悩みに悩んでよくわからなくなったのでとりあえず左手にもハナクソを作ってみようかな、と思った。すると、どこからともなく現れたタカシくんが叫び声をあげながらこちらへ走ってきていた。

 「うぉぉぉ!おい蛇野郎!弱いものいじめをするなぁぁ!」

 そして、タカシくんはいじめっ子パワーを発揮して蛇さんを殴りつけた。さすがはいじめっ子、全体重を乗せたその拳はたった一撃で蛇さんの意識を刈り取った。必死に食べ物を得ようと這い進んでいた蛇さんの頭は、タカシくんの手の中となった。

 「おい、大丈夫か。怪我はしていないか。」

 タカシくんはぼくに気遣うような視線を送りながら声をかけてくれた。

 ぼくはタカシくんはいじめっ子だと思っていたので、とても驚いた。気遣いのできるナイスガイでとてもかっこいいなと思ったので、ぼくはタカシくんにお礼と褒め言葉を送ることにした。

 「ありがとう!タカシくんはかっこいいね!」

 タカシくんはぼくの言葉に嬉しそうにはにかんだ。タカシくんはワイルド系のイケメンなのでとてもカッコよくて可愛かった。

 ぼくはずっとタカシくんの顔を見ていようかと思ったが、大事な使命を思い出したので頑張ってタカシくんの手元を見ることにした。タカシくんの手に握られている蛇さんは気絶している。口を開けて、舌を出していて、とてもだらしない。ぼくはそんな蛇さんを見て、気絶したので蛇さんのサムライの精神を考えないで良くなったからちょうどいいなと思った。タカシくんが固定してくれている蛇の口へ右手のハナクソを突っ込む構えをとったぼくは、素晴らしい状況を作ってくれたナイスガイ、タカシくんにもう一回お礼と褒め言葉を送った。

 「ありがとう!タカシくんはかっこいいね!」

 タカシくんは引きつった笑みを浮かべた。

 「さて、蛇さん長く待たせてごめんね。お腹すいたでしょう。今からごはんあげるね。」

 ぼくは蛇さんにハナクソを食べさせようとした。しかし、タカシくんは奇声をあげた。

 「ぎゃーっ、近づくな!」

 タカシくんは手に持つ蛇さんをムチのようにしならせて振り回している。ぼくはムチになった蛇さんもかっこいいと思った。あと、振り回された蛇さんの尻尾がぼくの鼻先をかすめたら、鼻毛が切れた。ものすごくスッキリしたぼくはやっぱり蛇さんとムチとタカシくんはかっこいいなと思った。

 そうやってタカシくんと遊んでいると、先生がお薬を片手に穏やかな声音で問いかけてきた。

 「ふ、ふたりとも何しているのかな?とりあえず、手に持っているものを離しませんか?」

 先生の言葉に、タカシくんは蛇さんを地面に下ろした。

 これで、やっとぼくは蛇さんにハナクソを食べさせてあげられる。

 ぼくは待ちに待った瞬間にゴクリと唾を飲み込んだ。そして、蛇さんに右手を差し出す。

 「やめなさいっ。」

 先生の鬼気迫った声が聞こえる。タカシくんがまた何かやらかしたのだろうか。

 あと少しで蛇さんの口にハナクソを届けることができる。そんな時、世界が揺れた。あと、目の前が真っ白になった。




 そうして、先生はよくわからない真っ白なところでぼくとタカシくんを怒っている。ぼくはよくわからないところでびっくりしているというのに。今日のおやつはパンケーキだから早く帰りたいなと思った。先生は普段と違うからタカシくんを怒るという暴挙に出ちゃったのかな。でも、怒られているタカシくんはなんか嬉しそうだからぼくもうれしい。

 蛇さんの口にハナクソを放り込む練習をしていると、白くて何もなかった空間におじいさんが出てきた。

 「ふぉふぉふぉ。待たせたの。わしは神じゃ。これからわしはお主らを異世界に送り込む。何か聞きたいことはあるかの?」

 ぼくは目の前に変な人がいるのですげぇビビった。あと、人の気持ちを考えないで好き勝手やる奴はクソだってお父さんが言っていたので、神様はクソだと思った。もしかしたら、クソならぼくの右手のハナクソを食べたいのかもしれないと思った。だから、ぼくは先生やタカシくんと魔王を倒せば帰れるとか超能力があるとか離している神様に聞いてみた。さぁ、今こそ練習の成果を発揮する時だ。

 「あの、も、もしかしてぼくの右手のハナクソを食べたいんですか。……ごめんなさい。ぼくの右手のハナクソは蛇さんのものなんです。だから左手でホジホジするのでもう少し待ってもらえますか。」

 ぼくは神様は喜んでくれると思っていた。でも、ぼくの言葉に神様は唖然としていた。先生も唖然としていた。タカシくんも唖然としていた。ぼくはとりあえず左手でホジホジを開始しようとした。すると、次の瞬間、なぜかわからないけど、神様は顔を真っ赤にしていた。

 「ふざけるなぁ。転移じゃー。」

 ぼくの目の前は真っ暗になっていった。



 気がつくと目の前は真っ暗であった。時々モゾモゾゴソゴソするけど真っ暗のままだ。とても暇である。正座をして喜んでいるお父さんを眺めている時みたいにしばらくの間ぼけーっとしていると、どこからか声が聞こえてきた。

 「花ちゃん、寝る前にトイレ行ってきなさい。またお漏らししちゃうわよ。」

 どことなく落ち着く気もする穏やかな女の人の声に反応したのか、ぼくはなんか移動をしている気がする。もしかしてぼくは花ちゃんなのだろうか。ぼくはお漏らしさんなのだろうか。うんこかな、おしっこかな。ぼくは少し嬉しくなった。


 少し移動した感じがした後、突然女の子の唸るような声が聞こえてきた。

 「うぅ、うぅ。」

 苦しそうである。ぼくは唸り声を上げている女の子に幸せになってほしいなと思って、突然目の前から消えてしまったハナクソが好きなおじいちゃんの神様に祈りを捧げた。

 すると、突然、目の前が明るくなった。

 なんと、ぼくは肌色の地面の上にいるみたいである。あと、体が丸くて黄緑色である。そして、ぼくの目の前にはとても大きな女の子がいる。とっても大きい。トイレで便器の上に座っている。どうやらこの子が唸り声の主人らしい。ぼくはこの子は便秘なのかなと思ったので、ハナクソの神様のおじいちゃんに、この子の便秘が治りますようにと祈った。あと、この子が花ちゃんじゃないかなと思ったので、この子が花ちゃんですか、とハナクソのおじいちゃんに問いかけてみた。

 すると、突然、ぼくの前に指の爪と思われる物体が現れる。そして、その指の爪によって、ぼくは飛ばされた。ぼくは今、空を飛んでいる。黄緑色の物体が空を飛んでいる。ぼくは不意に、北海道のキャラクター、マリモがもっこりしているヤツを思い浮かべた。ぼくはマリモがどういう生き物か知らなかったので、マリモは空を飛べてすごいなと思った。

 華麗な着地を決めると、目の前では、十歳くらいの女の子が便器に座っている。そして、その女の子の右手の人差し指と親指が何かを弾き飛ばしたような体制をとっている。ぼくはそこでとても重大な事実に気がついた。

 そうか、ぼくは花ちゃんのハナクソだったのか、と。

 少しだけ悲しくなった。

 ぼくが花ちゃんのハナクソであることに気づいたのは理由がある。そう、ぼくは毎朝、家のトイレでうんこをしながらハナクソをホジホジしているからだ。だけど、ぼくはハナクソを飛ばす派じゃなくて、ハナクソを壁にこすりつける派である。ぼくがこすりつける派なのは、こうすると、ハナクソを壁にこすりつけたのはお父さんだと勘違いして、お母さんが怒るからだ。そして、喜んだお父さんにお菓子を買ってもらえるのだ。だから、ぼくは、花ちゃんのお父さんはハナクソをこすりつける派じゃなくて、弾き飛ばす派なんだなと思った。


 それから、花ちゃんがウンウン唸っているのを十分くらい見守っていると、さすがに便秘な花ちゃんが心配になったのか援軍がやってきた。

 ネズミさんだ。

 ネズミさんは突然、忍者のようなすり足で、音もなく花ちゃんの目の前に現れると、花ちゃんを見つめる。まるで吸い込まれるようなつぶらな瞳。その裏では何を考えているかわからないような視線で、花ちゃんの注目を捉えて離さない。果たして、数秒か数分か、はたまた數十分か。手に汗握る沈黙を経て、花ちゃんが可愛らしい声をあげた。

 「ぎぃやぁぁぁぁぁ」

 ネズミさんは花ちゃんの声に驚いて、足をもつれさせて転んだ。ネズミさんの側にいたぼくは、ネズミさんとトイレの床に挟まれてぺしゃんこになった。ちょっと気持ちよかった。そして、平べったくなったぼくを背中に飾り付けたネズミさんは、全速力でその場から駆け出した。ぼくはジェットコースターよりもスリリングで楽しいなと思った。あと、花ちゃんの便秘は解消されたみたいです。



 そうしてぼくを背中に乗せたネズミさんは、どこまでも続きそうな草原を駆けていく、と思ったけど、すぐに森が見えてきた。森のすぐ近くまでくると、不意に鋭い視線を感じた。視線の主人に目を向けると、そこにはとても大きな蛇さんがいた。まるで獲物を見つけたかのような鋭い視線をこちらへ向けている。この蛇さんもお腹を減らしたのか少しダルそうにしている。ぼくを見ているのかな。ぼくを食べたいのかな。やっぱり蛇さんはかっこよくてハナクソが好きなんだなとぼくは思った。ぼくにちょっとだけ遅れて、ネズミさんも蛇さんがいることに気づいた。すると、またネズミさんのジェットコースターが始まった。さっきよりも少しだけ速くなったジェットコースターはもっと楽しかった。ぼくは家に帰ったら、トイレの壁にいっぱいハナクソをなすりつけて、お父さんにネズミさんがいっぱいいる遊園地に連れて行ってもらおうと思った。

 ネズミさんは走る。蛇さんも追いかけてくる。ぼくは、ネズミさんのジェットコースターが楽しいからずっと続けばいいなと思ったけど、悲しいことにすぐに終わってしまった。なぜなら、ネズミさんが食べられて、ネズミさんを食べた大きな蛇さんが恐竜さんに食べられてしまったからだ。ネズミさん、蛇さん、バイバイ。あと、ぼくは蛇さんって食べれるんだと知った。


 ハナクソになる前、家族四人でショートケーキを食べていた時に一歳上のお姉ちゃんが食べながらくしゃみをしてしまって生クリームを鼻につけたことがあった。お姉ちゃんの鼻は真っ白になった。それを見たぼくはお姉ちゃんに送ってあげたい言葉があったので言ってみた。

 「お姉ちゃん、エッチだね。でも、お父さんの本の中の写真のおねえさんはの方がもっとエッチだね。お姉ちゃん頑張れ!」

 ぼくは前にお父さんのカバンから盗み取った本をみて、生クリームを体に塗ることはエッチなことだと知った。生クリームをよりたくさん塗った人がよりエッチになれることを知った。だからぼくはお姉ちゃんに頑張って欲しいなと思ったので、言葉だけじゃなくてぼくのショートケーキもあげることにした。ものすごく、ものすごくあげたくないけど、お姉ちゃんのためだから仕方がない。ぼくがショートケーキを差し出すと、お姉ちゃんは満面の笑みを浮かべた。そして、お父さんを思いっきり引っ叩いた。お父さんは満面の笑みを浮かべた。お母さんはお父さんの顔面にぼくのショートケーキを叩き込んだ。

 そんなこんなでぼくは恐竜さんの鼻先についている。恐竜さんもごはんをたべる時、間違って食べ物が鼻についちゃうこともあるんだなと知った。恐竜さんは背が高いので、五人くらいのお父さんに肩車してもらっているみたいで楽しかった。だけど、お父さんが五人もいても気持ち悪いから楽しくなくなった。恐竜さんも早くジェットコースターにならないかなぁと思った。

 そして恐竜さんの旅はつづく。どうやら恐竜さんのお仕事は強そうな魔物を探して、見つけたら食べるか、従えることらしい。恐竜さんは強いので未だに負けているのを見たことがない。ぼくはもしかしたら蛇さんよりも恐竜さんの方がかっこいいのかもしれないと思った。でもどこかに蛇さんの方がかっこいいと信じている自分がいたのでよくわからなかった。

 恐竜さんの鼻の先で恐竜ライフを楽しんでいたが、ある日、恐竜さんは今まで通ったことのない道を進み出した。確かに、この辺りにはネズミさんも蛇さんもいるけどお野菜が少ないし、果物は殆どない。ぼくはここに八百屋さんを開いたら大繁盛だなと思った。そうして、初めての道を進んでいると遠くに禍々しい雰囲気を発しているお城が見えてきた。ぼくはお城に住んだことがないのでお城に住んでみたいなと思った。

 お城の目の前に行くと一人の女の人が立っていた。女の人はムチを持ってつり目で網タイツを履いている。ぼくは女の人のことをまるでお父さんが大好きな女王さまみたいだなと思った。女の人の前までくると、誰にも負けなかったすごく強い恐竜さんは突然、お腹を見せるように仰向けになって寝転んだ。まるで犬のようであった。

 すると、女の人は恐竜さんをムチでひっぱたいた。

 「あふぅん!」

 気持ち良さそうな声が聞こえてくる。ぼくは恐竜さんの声を今まで聞いたことがないので気持ちよく鳴けることに驚いた。あと、ぼくは恐竜さんが蛇さんよりかっこよくなかった理由がわかった。恐竜さんは犬だったからだ。それも、お父さんみたいな変態な犬だったからだ。

 「帰ってくるのが遅かったわねぇ。どこをほっつき歩いてたのかしら、私の犬の分際でっ。」

 女王さまが叫ぶ。お仕置きとしてムチをまた振るう。

 「あふぅん!女王さまのムチさばき最高!」

 また鳴き声がきこえる。だが、ぼくはどうやら途轍もない勘違いをしていたらしい。鳴いていたのは恐竜さんじゃなかったのだ。恐竜さんごめんね。ぼく恐竜さんが変態な犬だと思っちゃった。ただの犬なんだね。

 ぼくは鳴いていた声の主人にものすごく気になっていたことがあるので聞いてみることにした。

 「ねぇねぇ、ムチさん。もしかしてキミっていじめっ子のタカシくんなの?」

 「ぎゃぁぁ!ハナクソが喋ってるぅぅー!」

 ムチさんはものすごく驚いたのか、とても大きな叫び声をあげている。ぼくはこの叫び声が銀杏を食べようとした蛇さんを振り回すタカシくんと全く同じだったので、ムチさんはタカシくんだと完璧にわかった。あと、タカシくんはちょっと興奮していた。


 「あふぅぅん!」

 ムチが叩きつけられるとムチが喜んでいる。何度目になるか恐竜さんを叩きつけた時、ぼくはムチに引っ付いた。ムチであるタカシくんはハナクソに引っ付かれているということにとても興奮していた。

 ぼくはものすごく気になったのでタカシくんに聞いてみた。

 「ねぇねぇタカシくん。キミってもしかして、Mなの?」

 ムチからはさらに興奮した様子が伝わってきた。

 女王さまのムチはいじめっ子のタカシくんだった。ぼくはタカシくんはいじめっ子だからSだと思っていた。けど、Mだった。ちなみにさっきは興奮していることがバレたことにものすごく興奮していたらしい。

 ぼくは言いたいことがあったので言おうと思ったが、その前にタカシくんが語り出した。

 「ぼく。この世界に来れてよかったよ。だってムチになれたから。

 ムチになる前、ぼくはいろんな子にビンタをしたり、悪口を言ったり、踏みつけたりした。

 全然満足できなかった。先生やお母さんは全然怒らないし。

 でも、ムチになって世界が変わったんだ!

 女王さまに叩いてもらえる。気持ちいい。

 女王さまが罵った相手を叩くことで、自分も罵られたものと一体になれる。気持ちいい。

 女王さまは機嫌が悪い時、ムチを踏みつけたり蹴りつけたりする。すごく気持ちいい。

 世界ってこんなにも美しいんだね。」

 ぼくも世界はキラキラしてきれいだなって思った。

 ぼくはやっぱりタカシくんに言いたいことがあったので言ってみた。

 「タカシくん、ムチって蛇さんみたいでかっこいいね。」

 それから僕たちはムチのかっこよさについて語り合った。時々、タカシくんの言っていることがよくわからなかったけど、かっこよさは正義だと思った。



 それからぼくはタカシくんにいろいろなことを聞いた。

 ここは異世界だってこと、ここは魔王城だってこと、女王さまが四天王の一人だってこと、多分先生が勇者になってるからここにいたら家に帰れるよってこと、勇者のムチさばきも味わってみたいから先生に早く会いたいなってこと。

 ぼくもタカシくんにいろいろなことを話した。

 花ちゃんのハナクソになったこと、最近ぼくの名前はハナクソの花ちゃんだと思っていること、先生の胃薬を飲む姿が見たいこと。

 ぼくは早くおやつのパンケーキが食べたいなと思った。


 それからしばらくして、勇者の快進撃と明日には魔王城に突入してくるという知らせに魔王城ではザワザワが収まらなかった。勇者はとても強くて魔王さまでも勝てるかわからないので、魔王城からは逃げ出す人が多かった。勇者は子供を二人探しているのと胃薬が主食だという情報が流れていたので、魔王さまは子供の行方の調査と勇者に子供を二人預かっているという嘘を教えて動揺させるように命令していた。ぼくは勇者である先生が僕たちを探してくれていることにとても嬉しくなって、早く会いたいなと思った。あと、勇者の快進撃に四天王の女王さまが荒れていたのでタカシくんはとても興奮していた。


 翌日、魔王城にて女王さまと勇者さまの対決が実現していた。

 女王さまは勇者を威嚇するためにムチを床に打ちつける。

 ムチがあふぅんと鳴く。

 勇者はドン引きする。

 女王さまはムチを再度叩きつける。

 ムチはあふぅんと鳴く。

 勇者は胃薬を構える。

 女王さまVS勇者、新時代の黄金カードは予期せぬ消耗戦となった。タカシくんの鳴き疲れと勇者の胃薬の在庫切れ。戦いは混迷を極める。決着は意外なところでついた。

 始まりはぼくだった。ぼくは先生が真面目に戦っている姿がかっこよくて、邪魔をしたくないなと思ったから黙っていた。でも、戦いが長引いてくると次第に、先生に会えた嬉しさを声に出して伝えたくなっていった。ぼくはしばらく我慢していたけれど、やっぱり先生に会えた嬉しさを伝えてあげたほうが先生も嬉しいかなと思って声に出してみることにした。ぼくは女王さまが先生にムチをたたきつけようとしている今がチャンスだと思った。

 「先生、こんにちは!」

 「ギャぁぁぁぁぁ!ハナクソが喋ったぁぁ!」

 「ギャぁぁぁぁっっ!」

 先生は悲鳴をあげた。

 突然悲鳴をあげた先生に驚いた女王さまも悲鳴をあげた。女王さまはびっくりしすぎて転んだ。頭を打った。

 先生は呆然としていた。

 そして、しばらくすると、女王さまは起き上がり、先生の前にひざまずき、ムチを先生に捧げた。

 「勇者さま、このムチをお納めください。そして、私めにご褒美をください、引っ叩いてくださぁぁぁい。」

 先生は呆然としていた。




 そうして他の四天王も魔王も倒した先生とぼくとタカシくんは無事に学校の校庭に帰ってきた。

 クラスメイトのみんなにきいてみたところ、二時間目に銀杏を拾っていたら、ぼくとタカシくんと先生が突然倒れて、すぐに起き上がったらしい。とりあえず三人とも状況がよくわからなかったので蛇の丸焼きを食べた。クラスメイトのみんなにもプレゼントしようとしたら泣いて喜んでいたけど、遠慮していた。みんなお腹いっぱいなんだって。

 三時間目はそのまま校庭で体育の授業だ。先生が頑張って動く姿がおままごとをしているみたいでかわいいからみんな大好きな授業だ。異世界に行って友達になったぼくとタカシくんは、魔王を倒した先生がやっぱりかわいかったのでとても大好きになった。だから僕たちは三時間目の授業をサボって作文した。先生のおかげで異世界ライフがどれだけ楽しかったかを知ってもらいたかったからだ。そうして出来上がった作文、題名は”花ちゃんのだいぼうけん”。ちなみにタカシくんが書いたのは”女王さまとワンワンたち”だ。

 三時間目の間に書き終わったので、先生にタカシくんと一緒に渡しに行った。お昼ご飯の時間に間に合ってよかった。

 先生は三時間目と四時間目の間の休み時間に花ちゃんのだいぼうけんを読んでくれた。

 読み終えると、先生は嬉しかったのかお薬を飲みながら涙を流していた。

 僕たちはすごくいいことをしたと思ったので、「すごくいいことをしたね」と言い合った。

 4時間目は自習になった。

 その後、お昼ご飯の時間にぼくとタカシくんは異世界にいた時に見てみたいなぁと思った動画があったので、先生のポケットから盗んだスマホで見てみた。

 その動画ではムチを持った女の子とぶたみたいなおじさんがビシビシアンアン言っていた。

 タカシくんは興奮していた。ぼくも少しモヤモヤしたけど興奮した。僕たちは動画の女王さまのムチさばきに解説をつけながら、ムチの奥深さについて語り合ってみた。

 そしたら、周りのクラスメイトたちがたくさんハァハァいっていた。

 先生もムチのかっこよさに感動していたのかお薬を飲みながら泣いていた。

 やっぱり先生はいい人だなと思った。

 先生の誕生日は来週みたいなので、タカシくんと一緒にムチをプレゼントしたいなと思った。



 家に帰ると、ぼくはお母さんにただいまー、と言わなかった。

 お昼ご飯を食べながらタカシくんと語り合った時にできたモヤモヤが頭を離れなかったからだ。

 ぼくは家族みんなで使っている、リビングにあるパソコンにダッシュで向かって、その電源を入れた。

 リビングにはおやつのパンケーキを作っているお母さんがいた。ゴロゴロとテレビを見ているおねぇちゃんがいた。仕事をクビになって落ち込んでいるお父さんもいた。ネコのトムはいなかった。また遊園地でネズミの顔の風船とかを割っているのかな。

 ぼくはパソコンで、大音量で、ハァハァしている動画を見てみた。興奮していたら、お母さんとおねぇちゃんに怒られた。お父さんも一緒に怒られた。


 おやつのパンケーキをたべ終わった後、ぼくはお父さんの部屋に行った。なんでも、人生の先輩として話があるとのことだった。

 部屋に入ると、お父さんはドアの鍵を閉めた後にぼくに優しく語りかけてきた。

 「どうしてあの動画を見ていたんだい。」

 ぼくはお父さんに今日起こった不思議な出来事を話した。

 蛇さんにハナクソをプレゼントしようとしたことや花ちゃんのハナクソとなったこと、タカシくんとSMビデオを見たこと。先生にプレゼントしようと思っているムチの名前も相談した。

 お父さんもぼくの知らないお父さんをたくさん教えてくれた。


 そうして、ぼくはお父さんからバイやゲイやおねぇやらの話を聞いてやっとわかった。

 ぼくは”花ちゃん”と女の子の名前で呼ばれて少し嬉しかったんだ。だから、ぼくは花ちゃんという女の子じゃなくてハナクソだと知って少し悲しかったんだ。

 ぼくはSMものの動画のWebページを見たとき、上の方にあった広告欄のTSもの広告でモヤモヤした。そして、興奮していたんだ。


 翌朝、おねぇちゃんのスカートとブラジャーと真っ赤のランドセルを校門前で剥ぎ取って身につけて登校したぼくは、やっぱ違うなーと思いながらハナクソをホジホジして、スカートでふいていた。

 女装したぼくをみて先生が興奮したのはまた別の話。

読了いただきありがとうございました。

不定期ですがこれからもいろんなテーマで書いていきたいです。

誤字脱字、改善点等ご指摘いただければ幸いです。

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