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迷宮神獣Ⅱ~異世界人解放~  作者: じゃっすん
リーンハルト激震
94/127

怪盗☆ルーファ

遅くなりました!

すみません(;つД`)

 ――新月。


 それは最も闇深き夜。

 闇に生けし者が活性化し、神獣の力が弱まる日だ。

 故に人種は新月を恐れ、この日ばかりは歓楽街も早々に人気がなくなり、家路を行く人々の姿は心なしか早足だ。

 だが、そんな中でも変わらぬ場所がある。 

 

 ――光星城。


 王の御座(おわ)す城だ。

 煌々と灯された明かりが闇を払い、巡回する衛兵は常に異常がないか目を光らせている。

 あなたは知っているだろうか?光が多く集まる程、闇もまた濃く深くなることを――。



 闇に紛れ影が動き出す。








 ――ッ……



「ん?今何か音がしなかったか?」

 

 衛兵Aの言葉に、衛兵Bは辺りを見回す。

 夜であろうと明かりを落とすことのない光星城の廊下は、昼と変わらず視野に困ることはない。

 端まで見通せる巨大な廊下を彼らは慎重に確認していく。


「気のせいのようだな」


 飾られている芸術品以外に何も発見できなかった衛兵Bは苦笑しながら相方を見る。


「そう……だな。悪い」


 ばつの悪そうに頬を掻く衛兵Aに、「気にするな」と衛兵Bは肩を叩いた。

 交代の時間まであと僅か。気合いを入れ直した彼らは、警戒しつつ廊下の向こうへと消えていった……一対の目がじっと彼らを見つめていたことに気付かずに。


『ふぅ。行ったんだぞ』


 壺の影からのっそりと現れたのは黒い手ぬぐいを頭にかぶった子狐――ルーファである。

 その姿はあからさまに怪しく、如何にも今から悪いことをします!と言わんばかりだ。

 実際に、ルーファは現在進行形で悪いことをしているので、その通りなのだが。


 周りを見渡し、他に人がいないことを確認したルーファは目的の場所を目指して再び行動を開始する。

 コソコソと進むこと(しば)し、衛兵を巧みにやり過ごしながらも、ルーファは誰にも見咎められることなく目的地へと辿り着いた。いや、正確に言えばそこは目的地ではなく、目的地へと続く最後の難関だ。


 ルーファの前に立ちはだかるは、1枚の扉とそれを守る屈強な騎士たち。


 状況を考えるに、正面突破は難しいと言わざるを得ない。

 いくらルーファの身体が小さいとはいえ、その道のプロ相手に正面から気付かれることなく突破することは至難の技だ。

 だが……そんな不利な状況にもかかわらず、ルーファはニヤリと不敵に笑った。



『ご苦労』



 そう声をかけながら堂々とその身を晒したルーファに対し、騎士はと言えば……


「迷宮神獣様、お待ちしておりました」 


 にこやかに微笑むと恭しく扉を開いた。

 もうお分かりだろうか。彼らはこの日、この時、この場所に、計画的に配置されたルーファの味方。ルーファの信者(笑)たるバハルスの手の者なのだ。


 ルーファは念入りに今日のために準備を進めてきた。

 ガッシュのスケジュールの把握に城内見取り図の確保、衛兵の巡回路の入手。

 更には、ガッシュの仕事量を調節することで、ウッカリ鉢合わせしないようにその行動を制限するという念の入れようだ。

 ちなみに、これらの下準備を行ったのは全てバハルスであり、ルーファは何もやってはいない。持つべきものは、有能なスパイである。

 

 

 閑話休題、こうしてルーファは目的地――王族専用の浴場――へ侵入を果たしたのだった。


 

 



 さて、ルーファがここで何をしようとしているのか……それには過去を紐解かねばなるまい。


 竜種が大挙して迷宮攻略へ乗り出したことは、ルーファの記憶に新しい。

 その時、ルーファは気付いてしまったのだ。生パンを奪われれば宝物庫の目玉がなくなってしまうことに。

 言うなれば、餡子のないおはぎのようなもの……それ即ち、おはぎではなくただのもち米だ。

 それと同様に、ルーファの宝物庫もガッシュの生パンなくして宝物庫とは認められないのである! 

 

 そんな訳で、現在ルーファはガッシュの生パンを手に入れるべく、脱衣場に忍び込んでいる次第である。まあ要するに、ただの下着ドロだ。



 犯罪狐は脱衣場の中を見回す。


 脱衣場とはいっても一国の王が使用するだけあって無駄に広い。

 低めに設定された室温は浴場から流れ込んでくる熱気と相まって中々に心地よく、天井にはクルクルと回る魔導扇風機が爽やかな風を呼び起こす。

 洗面台の隣に置かれているのは透明な冷蔵庫。風呂上がりに飲むキンキンに冷えた飲み物は正に至高の逸品だと言えるだろう。

 穏やかなBGMと、部屋の片隅にあるリクライニングチェアが癒しの空間を表現している。


 

 カランッ!



 氷の奏でる涼やかな音に目を向ければ、テーブルの上で芳醇な香りを放つフルーツジュース。


『…………』


 そっとテーブルに近付いたルーファはガッシュの飲みかけジュースを〈亜空間〉へと仕舞った。



 …………



 …………



 …………バシャン!



 響いてきた水音にハッと我に返ったルーファはキョロキョロと辺りを見回す。


 現状はこうだ。


 リクライニングチェアに寝そべった愛らしい子狐に、散乱する食い散らかされた果物とアイスクリームの容器……ルーファは完全に南国気分を満喫していた。


(何という恐ろしい罠か!)


 いかんいかん、と首を振ったルーファは目的のブツがある脱衣籠へと近づく。覗き込めばそこにはガッシュの服があった。

 ここに来てルーファは初めて躊躇(ためら)いを覚えた。

 籠ごと持って帰るべきか、パンツだけ持って帰るかべきか……難問である。

 前者を選べばすぐさまガッシュに気付かれる可能性が高い。無事に逃げ切れるかどうかが成功のカギとなるだろう。

 悩んだ末、結局ルーファは後者を選んだ。目当ては生パン、優先順位を間違えてはいけない。


 そうと決まれば早速脱衣籠の中へとダイブし、スーハースーハーと荒い息を繰り返すという安定の変態性を発揮するルーファ。

 だがしかし、ルーファも成長しているのだ。自らの欲望に蓋をしてパンツを咥えると一目散に脱出を……



 ――ガラリ。



 全裸のガッシュとパンツを咥えた子狐の目がバッチリと合う。


「一応聞くが……何をしてるんだ?」

『お、オレは……そう、散歩をしていたんだぞ!』


 堂々と散歩と言い張る泥棒スタイルのルーファ。


「ほう。オレのパンツを咥えてか?」

『…………』

 

 先に動いたのはルーファ。

 即座にパンツを〈亜空間〉に仕舞うと脱兎の如く逃げ出した!


『うおおおおお!うおおおおお!』


 短い手足をシャカシャカ動かし全速力でルーファは翔ける!……が、尻尾を掴まれているために全く前に進んではいない。


『うわああん!放せぇ!』


 ガジガジとガッシュの手を噛むが、当然のことながらダメージは皆無だ。


「パンツを渡せば放してやる」


 ずいッと手を出すガッシュにルーファはそっぽを向いた。生パンは死守する所存である。 

 

「どうやらお仕置きが必要なようだな」


 そう言ってニヒルに笑ったガッシュはルーファの頭から手ぬぐいを奪うと、それをグルグルとルーファの身体へと巻き付けて簀巻(すま)きにする。

 囚われたルーファは為す術なく、ガッシュの私室へと運ばれていくのだった。










 ――ふぁん……や、やめて。

 ――どうした?もう終わりか?


 ――んっ……そこは、ダメぇ!

 ――最初の威勢はどうした?


 ――や、やだ……んぅ。

 ――そうか、まだまだ夜は長い。どこまで耐えれるか試してやろう。




 寝室から妖しい声が響く。

 扉を開けた先には、意地悪く嗤っているガッシュと……猫じゃらしで鼻先をコチョコチョと(くすぐ)られているミノムシ状態の子狐がいた。

 

『ふぇぇん!くしゅ!はーくしゅん!』

「止めて欲しければ、さっさと返すんだな」


『クッ!殺せぇ!いっそ一思いに殺すがいい!』

「はっはっは!面白い冗談だな。ほ~れほれほれ」


 ガッシュは攻撃の手を緩めずルーファを責め立てる……その後ろに恐怖が迫っているとも知らずに。


 

 ユラリ……



 ソレは音もなくガッシュの背後に現れた。

 歴戦の猛者たるガッシュはその存在に未だに気付かず、無防備に背を向けている。恐るべき隠密能力だ。

 誰にも気付かれることなくガッシュへと接近したソレは……


「何をしておる?」


 突如耳元で囁かれた低い声にガッシュは飛び上がる。

 振り返ればそこには冷たく微笑むヴィルヘルムがいた。


「ア、アンセルムはもういいのか?」


 掠れた声で尋ねるガッシュに、ヴィルヘルムはつまらなそうに鼻を鳴らした。


「まだ調査は終わっておらぬ。ルーファの顔を見に帰ったのだが……これはどうことぞ?」


 ヴィルヘルムはガッシュを睨みながらも、器用にルーファを拘束している布を解く。

 希望に目を輝かすルーファに絶望に顔を歪めるガッシュ。形勢は完全に逆転した。


「大丈夫かルーファ?我が来たからにはもう心配いらぬ」


 頼もしい言葉に、グルグル巻きから解放されたルーファはヴィルヘルムの胸に飛び込むと、ベソベソと鼻を鳴らしながらガッシュを前足で指す。


『ガッシュが虐めるんだぞ!』

「違うぞ!ルーファがオレのパンツを盗んだんだ!」


 まるで親の前でどちらが悪いか相争う子供の図だ。

 腕を組み、ルーファとガッシュを交互に見やったヴィルヘルムは……最後にルーファへと目を止める。


「真かルーファ?」


 信用度皆無なルーファ。

 日頃の行いがここでも響いていると言えるだろう。


『ち、違うんだぞ!オレは……そう!落ちてたオパンツを拾っただけなんだから!拾ったんだからオレのモノなんだぞ!』


 ルーファは盛大に自爆した。

 可哀想な子を見る眼差し×2がルーファへと注がれていることに本狐だけが気付いていない。

 

「そうか……」


 それから先はあっという間の出来事だった。

 気付けばルーファは再びミノムシ状態にされ、テーブルの上に転がされていた。

 

『え……?えっ!?』


 キョトキョトとルーファはヴィルヘルムとガッシュを見る。

 前門の竜、後門の狼……最早、何人たりとも逃げ出すことは不可能。


「我も好き好んでこの様なことをする訳ではないのだ」


 辛そうに顔を歪めたヴィルヘルムが一歩前にでると、絶妙なタイミングでガッシュが猫じゃらしを差し出す。


「許せ……ルーファ」

『ぎゃっふーん!』


 この日、ルーファは手に入れた生パンを失った。




 




クっころ狐……果たして需要はあるのか!?

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