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迷宮神獣Ⅱ~異世界人解放~  作者: じゃっすん
リーンハルト激震
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新しい友人

「「本日はお時間を頂き感謝いたします」」


 そう言ってガッシュに頭を下げるのはシリカ騎士王国王女エリザベス・ヴァン・ジュール・シリカとフォルテカ公国公女ティアラ・ファウス・マギ・フォルテカ。


 両者ともに人目を引く容姿であるが、エリザベスが豪奢な金髪をきつく巻いた髪型――俗に言う金髪ドリルと呼ばれる――と吊り上がり気味の目を持つ、如何にも“ザ・悪役令嬢”といった風貌なのに対し、ティアラは薄緑の髪と目をした大人しそうな印象を与える“正統派プリンセス”だ。

 正反対に見える2人だが、実はこの2人の仲はすこぶる良い。


 片や幼いころから剣を振り、騎士団に出入りしていた姫騎士。

 片や幼いころから難解な魔導書を読み解き、既にいくつもの魔道具の開発に成功している才姫。


 方向性は違えど、互いに国のために切磋琢磨してきた好敵手(ライバル)であり理解者(しんゆう)、それがこの2人である。



「堅苦しい挨拶はなしだ。どうだ?学園生活は上手くいっているか?」


 エリザベスもティアラもつい先日リィン王立学園に入学したばかりだ。

 シリカ騎士王国の王女がリィンへ留学するのは毎度のことなれど、フォルテカ公国の公女が来ることは珍しいこともあり、学園ではちょっとした騒ぎになっている。

 正式な挨拶はリィンへ到着した翌日に済ましてはいるが、今日は近況報告を兼ねての訪問となる。


「はい、皆さまとても良くしてくださいますわ」

「図書館の蔵書の豊富さに驚かされました。是非、泊まらせて……むぐ」


 素早く伸びたエリザベスの手がティアラの口を塞ぐ。


「はっはっは!相変わらずだな。まだまだ子供だと思っていたが……時が経つのは早いものだ」


 ガッシュの目が昔を懐かしむかのように細められ、2人を優しく見つめる。その姿は幼子を見守る老人のようである。


「陛下は変わらぬようで羨ましい限りですわ」

「若さの秘訣を教えてください。いえ、むしろ研究させて……むぐ」


 エリザベスの額に青筋が浮かび、普段から鍛え上げている筋肉が唸りをあげる!


「いた!痛い痛い!もう言わないから!」


 リンゴを片手で潰すエリザベスに、顎をぎりぎりと締め上げられているティアラの口から悲鳴が漏れる。

 それでも上品な仕草を崩すことなく、手に持った扇でエリザベスの手をポフポフと叩く姿は流石は姫君。それは“参った”の合図だ。

 

「申し訳ありません陛下」

「申し訳ありませんでした」


 手を放したエリザベスは改めてガッシュに頭を下げると、それにティアラも続く。それに対するガッシュは気にするなと手を横に振った。


 友好国であるシリカとフォルテカには、年に一度の建国祭で互いに行き来する間柄である。

 ガッシュも当然2人とは面識があり、彼女たちが幼い頃には遊びに付き合ったりしたものだ。

 まあ、ティアラは大人しく魔導書を読んでいたので主にエリザベスの“騎士ごっこ”に付き合っていたのだが。

 ガッシュが物思いに耽っていると、スッと立ち上がったティアラの表情が凛としたものへと変わる。


「この度は無理を聞いて下さりありがとうございます。大公に代わり心よりお礼申し上げます」


 実はティアラが留学する予定はなかったのだが……汚染獣の襲撃を切っ掛けに急遽(きゅうきょ)留学が決定したのである。

 汚染獣がいつまた現れるとも知れないこともあり、唯一の跡取りであるティアラを安全なリィンへ避難させたのだ。リィンには神獣(ルーファ)がいるのだから。


「気にするな。こっちも刻印魔法に造詣の深いティアラを受け入れられたのはメリットがある。他の学生にも良い刺激になるだろう」


 そこでふと扉の方へ視線を向けたガッシュが2人へ問いかける。


「友人はできそうか?」


「ええ。お茶会の誘いも既に何件か受けておりますわ」

「私はお茶会よりも研究がした……むぐ」


 ガッシュは懲りないティアラに苦笑する。

 だが、彼女がこの様に砕けた態度を取るのは気心の知れた相手のみだ。それを知っているガッシュは特に注意することもなく話を続ける。


「言い方が悪かったな。お前たちのような何でも話せる友人のことだ」


 返事の代わりに困ったような顔をする2人に、ガッシュは「やはり難しいか」とため息を吐いた。


 血筋が良くなればなるほど友人が作りにくくなるのは最早宿命(さだめ)と言う他ない。

 相手の家柄や派閥もさることながら、そこには家同士の利害も絡んでくるのだ。それが国のトップの血筋ともなれば尚更に。


 ならば平民なら問題ないかと言えばそれもまた別の危険を孕んでいる。

 他の貴族からの嫉妬は当然のこととして、彼女たちを害するための足掛かりとして利用される可能性も否めないのだ。

 自らを守る力を持たぬ平民と仲良くすることの危険性を彼女たちは良く理解している。

 彼女たちが平民を遠ざけるのは彼らを下に見ているためではなく、彼らを守る行為に他ならないのだ。

 

「対等な友人が欲しくないか?」

「陛下は……お心当たりがあるのですか?」


 不敬と分かっていながらも質問に質問で返すエリザベスにガッシュは大きく頷いた。

 「少し待っていろ」そう言って退出したガッシュに、エリザベスとティアラは期待と不安に顔を見合わせる。

 彼女たちにとって“友人”とはどんな宝石よりも得難きものなのだから。













 ガッシュの執務室の扉の前に6人の男女が佇んでいた。

 各々が剣を腰に差し直立不動している姿はまるで彫像の如く威圧感がある。だが物言わぬ彫像とは異なり、その目は強い感情を宿し周囲を鋭く睥睨(へいげい)していた。

 内訳としては()()()の警護騎士2名、エリザベスの護衛騎士2名、ティアラの護衛騎士2名となる。


 何故、ガッシュ個人の護衛騎士でないのかと言えば、ガッシュより強い騎士がリーンハルトにいないためだ。

 彼らの任務の内容は扉の中に許可なく誰も通さぬことであり、その目的はズバリ貴族令嬢の排除であることは知る人ぞ知る事実である。


 彼女たちはあわよくば王妃の座を狙っている肉食系女子群で、真昼間の仕事中だろうと構わず襲って来るアグレッシブさに辟易したガッシュが執務室に配置したものだ。

 同様の理由から私室にもガッシュの貞操(?)守り隊が常駐している。


 

 さてさて、本日は常の3倍いる護衛騎士を相手に襲って来るバカはいない……と言いたいところだが、彼らの様子を廊下の曲がり角から覗いているフードを被った怪しい影があった。

 当然の如く剣に手をかけるエリザベスとティアラの護衛騎士を制したのは、リーンハルトの騎士だ。

 一歩前に出たリーンハルトの騎士が不審人物に声をかける。


「ルウ様、本日は如何いたしましたか?」


 不審人物改め、隠れて様子を窺っていたルーファはソロソロと騎士へと近づくと小さな声で答える。


「ガッシュに会いに来たんだけど……」 

「申し訳ありません。今は来客中で……お取次ぎ致しましょうか?」


 チラチラと見慣れぬ騎士に視線を送ったルーファは首を横に振る。

 流石に自分を睨んでいる騎士たちの側を通る勇気をルーファは持ち合わせていなかった。


「いつ頃終わるか分かる?」

「申し訳ありません。分かりかねます」


 困った様に眉尻を下げた騎士に「気にしないで」と伝え、ルーファが踵を返そうとしたその時……



 ガチャリ



 開いた扉からガッシュが顔を覗かせた。

 敬礼する騎士たちを気にすることなくルーファに歩み寄ったガッシュは、その身体を抱き上げる。


「丁度良かった。お前に紹介したい子がいるんだが、今いいか?」


 ガッシュに会いに来たルーファに(いな)やはなく、そのまま室内に運ばれていく。

  

 一旦退出していったガッシュが12・3歳の子供を抱いての帰還……ソレを見たエリザベスとティアラはどう思うであろうか。


「「か、隠し子!?」」

「違うからな!!」


 ルーファを隣に下ろし、バハルスに茶菓子の準備を命じていたガッシュは慌てて否定する。


「この子はルウと言って死神セイの養い子だ。セイがいない時は城で保護して……」

「死神セイ!!お知り合いなのですか!?」


 今までの“これぞ貴族令嬢”といった雰囲気をかなぐり捨て、グワっと目を見開いたエリザベスがテーブルに手をつくと前のめりにガッシュに迫る。

 強靭な精神は肉体を鍛えることによって身につく、と信じているシリカ王家の一員であるエリザベスは当然“強さ”に対して並々ならぬ思い入れがある。

 歴代のSランク最強と謳われる死神セイへの憧れも当然のことだと言える。


「う……まあ、な。そのセイが溺愛しているのがルウだ」

「まあ!ルウ様は……その、お強いんですの?」


 頬をバラ色に染めたエリザベスがチラチラとルーファを見つめる姿は恋する乙女そのもの……が、彼女は脳筋族。

 ガッシュは正確にエリザベスの思惑を理解した。


「ルウはFランクの冒険者だ(訳:弱いから喧嘩は売らないように)」

「実力を隠しておられるのでしょう?(訳:一度手合わせを)」


 目をキラキラ……否、ギラギラさせたエリザベスの姿は獲物を狙う肉食獣さながら。このまま行けば隙を見てルーファに戦いを挑むことは間違いないだろう。


「まあ待て。ルウは特殊な事情でセイに保護されているんだ」

「特殊な事情ですか?」


 真面目な顔で頷いたガッシュはルーファを城で預かるための設定を思い起こす。


 いくら死神セイの頼みだからといって、王であるガッシュが何の理由もなくルウを保護するのは無理がある。

 いや、セイに恩が売れることを考えればそれも1つの選択だと言えるのだが……それを許すわけにはいかない。

 何故なら恩を盾にセイに無理難題を押し付ける輩が出ないとも限らないからだ。そうなれば……良くてドラグニルと戦争、悪ければリーンハルト滅亡だ。

 最悪な未来を避けるためにも、ルウを保護する明確な理由が必要だったのだ。それがこれである。


「ルウは神聖魔法に類似した固有魔法保持者だ。恐らくその力の性質が光魔法に近いんだろうな。他の属性魔法が一切使えない。そういう事情もあってセイがいない間はオレが預かることになっている。ああ、勿論護衛は常につけてある」


 光魔法士でさえ国家の保護対象だ。

 それがその上位の力であればガッシュ自らが護衛として動いたとしても何らおかしくはない。それ程希少な力なのだ。

 現にエリザベスはルーファの固有魔法に驚いてはいるが、死神セイとガッシュが守っていることに関しては納得したように頷いている。

 だが……ここに魔法に関しては見境のない研究馬鹿が1人。


 ダン!っとティアラがテーブルを叩き身を乗り出す。


「神聖魔法!ルウ様どうか私の研究にご協力を!」


 これまたギラギラと目を輝かせたティアラを前に、ルーファは不安そうにガッシュにしがみ付いた。

 どこからどう見ても怯えているその姿に、お互いに気まずそうに顔を見合わせたエリザベスとティアラは、淑女らしくソファーに座り直した……今更だが。


「申し訳ありません。その……わたくしは恥ずかしながら剣を振るのが好きで、戦闘のこととなるとついつい我を忘れてしまうのです」


「私も魔法のこととなるとつい夢中になってしまって……ルウ様の嫌がることはしないと誓います。お許しください」


 頭を下げる2人をじっと見つめたルーファは目の前に置いてあるクッキーを(くわ)えると、テーブルの上に乗って彼女たちの方ににじにじと近づく。


「ん!ん!」


 (くわ)えたクッキーを差し出すルーファ。

 狼狽えるエリザベスに頭を抱えるガッシュ、ティアラはというと……決意を秘めた顔でルーファに顔を寄せる。


「止めなさい」


 間一髪、ガッシュがルーファを抱え上げ自分の膝の上に捕獲し、(くわ)えているクッキーを手で半分にポッキリと折ると、自分の口へと放り入れた。


「あー!」


 不満そうに半分になったクッキーを食べたルーファがもう一度クッキーに手を伸ばすが、それを許すガッシュではない。

 そのままルーファをガッチリと拘束したガッシュの姿は、犯罪者顔も相まって背後から無理矢理子供を抱きしめる変質者そのもの。

 エリザベスとティアラがそっと視線を逸らせたのも仕方のないことだと言えよう。


「クッキーはもういいから。ほら自己紹介だ」


 ガッシュに目で促され気を取り直したエリザベスが立ち上がる。


「初めましてルウ様。わたくしはシリカ騎士王国が王女エリザベス・ヴァン・ジュール・シリカと申します。以後お見知りおきくださいませ」


「エリ……エリュ……?ん~と、エリーちゃん!よろしくなんだぞ!オレのことはルウかルウちゃんって呼んで欲しいんだぞ」


「ふふふ、分かりましたわルウちゃん」


 エリザベスがソファーに腰を下ろすのと入れ替わりに今度はティアラが立ち上がる。


「私はフォルテカ公国が公女ティアラ・ファウス・マギ・フォルテカ。私もルウちゃんと呼んでも構いませんか?」


「うん!よろしくね、ティアラちゃん!」


 楽しそうにお喋りを始めた3人を微笑ましく見守っていたガッシュだったが、ふと時計を見ると会議の時間が差し迫っていることに気付く。


「悪いがオレはそろそろ仕事に戻らねばならん。折角だから3人で昼食でも食べたらどうだ?」

「よろしいんですの?」


 ガッシュの言葉にエリザベスが驚いたように目を見開く。

 貴族とはどんなことであれ事前に先触れを出すのがマナーである。突然の訪問や予定の変更は常識外れのレッテルを張られることとなるのだ。


「いつもはルウが遊びに来た時は一緒に食べるんだが……外せない会議でな。一緒に食べてやってくれると助かる」


 ルーファの頭を撫でながら、ガッシュはチラリとその影へと目をやる。

 ロキ……ではないが、誰か護衛がついているようなので問題はないだろう。王城内であればガッシュも直ぐに駆け付けられるのだから。


「それでしたら喜んで」

「楽しみです」

「お庭で食べるんだぞ!」


 去って行く3人を見送りながらガッシュは思う。

 エリザベスもティアラも趣味に夢中になりがちだという点を除けば完璧な淑女である。これでルーファも少しは常識を学んでくれるだろう、と。


 だが……ガッシュは知らない。

 時には常識は非常識(ルーファ)に侵食されるということを。



  

 


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