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迷宮の秘宝・下

 ――前回の続きから(※ルーファの妄想)






 見事、迷宮の守護者を降した3人の攻略者。

 彼らの前で遂に宝物庫への扉が開かれん!


 そこで彼らを待ち受けるのは……




『英雄王ガッシュシリーズなんだぞ!「おお!これが英雄王ガッシュのオパンツ!」オパンツを握りしめ感涙にむせび泣く攻略者たち……』


「いやいやいや!それは感涙の涙じゃなくて絶望の涙だろ!」


 思わずルーファを両手で掴みガクガクと揺さぶるガッシュ。

 命を懸けて宝物庫に辿り着いた先にあるのが……ガッシュの履き古したパンツ。暴動が起きそうである。


『チッチッチ!ガッシュは自分のオパンツの価値が全く分かってないんだぞ!ミーナちゃんに話したら、絶対に辿り着いてみせるって息巻いてたんだぞ!』

「話したのか!?」


 口止めをしなくては、と蒼褪めるガッシュを気にすることなく、ルーファはどこか遠くを見つめるように目を細めた。


『こうして英雄王ガッシュのオパンツは伝説に語られることとなった……完』


「ゴフゥ!!」


 限界に達したバハルスが倒れ、ピクピクと痙攣(けいれん)し始める。


『バハルス!どうしたの!?』


 慌てて癒しの力を送るルーファだったが、バハルスはヒュっヒュっと苦し気に息をするばかりで一向に効果がない。

 それどころか震えは激しさを増し、顔色がどんどん白くなっていく有様である


『ガッシュ!大変なんだぞ!癒しが効かないなんて……きっとすごい病気に違いないんだぞ!』


 慌てるルーファとは対照的に、ガッシュは酷く冷たい目でバハルスを見下ろしていた。

 最早我慢ならんとばかりにガッシュがバハルスを踏みつけようとしたその時、それを察知したのかバハルスが蒼白な顔を上げる。


「も、申し訳、ありませ、んグフッ!ハアハア、持病の、発作、です……プッ!こ、こんなことも、あろ、うかと……腹筋を、鍛えて、いた、の、ですが……ゴフゥ!まだまだ、ブフ!修行が、足りなかった、ようで、クっククっ!ヒーヒッヒッヒッヒ!!パンツ!宝物庫に、陛下のパンツ!!アーハッハッハッハッハ!」

 

 バシバシ床を叩きながら転げまわるバハルスの襟首(えりくび)を無言で掴んだガッシュは、そのまま扉へと歩み寄ると手に持っているバハルス(ゴミ)を外へと投げ捨てる。

 内心の苛立ちそのままに、勢いよく扉を閉めたガッシュが振り返った先にはマイモンがいた。


「陛下。今のリーンハルトの現状を分かっておいでですよね?折角のルーファスセレミィ様の御慈悲を無駄になさるとか仰られませんよね?」


 ガッシュも見習いたいほどの非常に素晴らしい笑顔のマイモン……が、その目は全く笑ってはいない。


「いや、だがしかし、これは国の威信に関わる……」

「ゴホン!陛下、王とは常に私心を捨て去らねばなりません。民の生活がかかっているのですよ?このまま行けば税金を上げざるを得ません。お分かりですよね?」


「いや、だから……」

「陛下一人の()()で多くの民が救われるのです。まさか……断るなどと仰られませんよね?」


 ギギギギ……と油が切れた機械の如くぎこちない動きでルーファに向き直ったガッシュは、1つ咳払いすると交渉を開始する。


「ルーファ……他の物ならいくらでもやるぞ。眼帯やコートはどうだ?」

『もう持ってるんだぞ。生パンじゃなきゃ嫌!!』


 ガッシュはルーファの言葉に鋭く目を細める。その言葉が正しければ、何者かが自分の私物をルーファに渡したことになるのだ。


(……いったい誰が)


 ガッシュが疑問に思ったその時、開いた扉より完全復活を遂げたバハルスが現れた。

 にこやかに歩み寄ったバハルスがスッと一枚の紙を差し出すと、そこには……「出来得る限りの便宜を迷宮神獣ルーファスセレミィ様に図るものとする。 ガッシュ・リーンハルト」とあった。

 そう、以前バハルスに頼まれて署名したものである。


「お前が犯人か!?」


 椅子を蹴飛ばして立ち上がったガッシュがバハルスの襟首を締め上げるが……それで怯えるようなバハルスではない。


「嫌ですねぇ、陛下。ご自身の御命令だというのに……耄碌(もうろく)されましたか?」


 微笑みを浮かべるバハルスを睨むガッシュの目つきは凶悪の一言につきる。

 眼差しで人が殺せるのなら、間違いなく彼はこの瞬間に死んでいただろう。


(落ち着け。ここでバハルスを締め上げても意味はない)


 そう結論付けたガッシュはバハルスから手を放し、大きく深呼吸する。

 ガッシュの最大の敵はテーブルの上に優雅に座り、マイモンから(おかし)を貰っているルーファだ。バハルスにあらん限りの呪詛を送りながらも、ガッシュは交渉を再開した。


「10枚だ。パンツ10枚やるから、生パンは諦めろ!」

『ふぅ……ガッシュは生パンの価値を全く分かってないんだぞ!〈清浄〉で洗っちゃったらガッシュ臭がなくなっちゃうじゃん!』


「ダメだ!パンツ10枚だ!これ以上は譲れん!!」


 ガッシュはうら若き乙女の如く生パンだけは死守することに決めた。

 だが、ルーファも負けてはいない。今日の交渉のために裏で準備を進めてきたのだから。

 ここでルーファは最大の手札を切る!!


『ガッシュ君、そう言えば新生カサンドラの人口の確保に悩んでいたのではないかね?』


 突如、口調の変わったルーファに警戒したように狼耳をピクピク動かすガッシュ。


「……それがどうかしたのか?」


 実は近い未来に聖地と認定されたカサンドラに人が殺到するのだが……未来を読むことが叶わぬガッシュに当然そんなことは分からない。


『ふっふっふ。オレが一肌脱ごうではないか!実は新生カサンドラに迷宮を設置したのだ!今なら広大な土地+100階層の迷宮付きだぞ!さあ!生パンを寄こすがよい!!』


「め、迷宮付きですと!?これは凄いことですよ陛下!!汚いパンツなどいくらでも差し上げてください!!」


 マイモンが興奮してガッシュに詰め寄る。ルーファは着実にガッシュの退路を塞いでいると言えるだろう。


 街を作るということは想像より遥かに厳しいもの。

 人口の確保もさることながら、開拓村からのスタートとなれば開墾から始まりインフラの整備、特産品の開発といった経済基盤を整えるまで10年単位の時間がかかるのだ。

 それが、迷宮があるとなれば話は違う。迷宮自体が特産品であり、こちらが呼び込まなくとも商人は我先にとやって来るのだから。


 結果、マイモンがルーファの援護射撃をガンガンし、ニヤニヤと嗤ったバハルスがガッシュの肩にそっと手を乗せる。


「陛下、もう諦めたらどうですか?」

「……20枚だ。これ以上は出さん」


 低く呻きながら掠れた声でガッシュは言葉を紡ぐ。諦めの悪い男である。

 ルーファはふわりと浮き上がり、ガッシュの目を覗き込むと厳かに問う。


『そうか……ガッシュは自分のパンツ20枚に広大な土地+100階層の迷宮分の価値があると、そう思っているのだな?』

「は?い、いや……それは」


 自分のパンツに迷宮1階層分の価値もない、と思っているガッシュは思わず言い淀んだ。動揺するガッシュをスルーしてルーファは続ける。


『マイモンよ。契約書にはこう書くがよい。この土地の価値はガッシュが自ら決めると……自分のオパンツの枚数でな!』


 絶望に顔を歪ましたガッシュはテーブルに手をつき何とか自分の身体を支える。


 これで少ない枚数を言えば、自分のパンツにそこまでの価値があると宣伝している変態……かといって言われるがままにパンツを渡せば、一体どんな用途に使われるか分かったものではない。

 そして何より……この契約書は重要な公文書。つまり、永久保存版である。

 後世の人間に一体何と思われるか……考えるだに恐ろしい。


 力なくテーブルに突っ伏したガッシュが遂に白旗を上げ、くぐもった声で哀願する。


「な、生パン1枚とパンツ30枚で勘弁してください……。オレの部屋にあるパンツ以外の物は持って行っていいから、契約書にはパンツじゃなくて私物で記載をお願いします……」


「う、上手い!あの陛下が自ら支払額を上げるとは!!」


 マイモンが驚愕の表情でルーファを見つめた。


 ガッシュは凶悪な笑顔と強気な態度で主導権を握り、相手によってはアカシックレコードで調べた弱みをチラつかせながら自分の思い通りに交渉を進めることが常である。

 そんな百戦錬磨のガッシュを相手取り、ルーファは不利になるどころか一度も主導権を渡すことなく交渉をやり切ったのだ。


『ふっふっふ!交渉成立なんだぞ。マイモンよ契約書の準備を』

「はっ!このマイモン感動しましたぞ!正にあなた様こそ叡智の申し子!!」


 感動に打ち震えながらも素早く手を動かし、契約書を2通作成するマイモン。

 だが、ここで言わせて欲しい。ルーファは叡智の申し子ではなく煩悩(ぼんのう)の申し子である、と。 






 


 迷宮の秘宝=ガッシュのパンツだった!



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