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迷宮を創ろう!

 草原の中に2本の白銀色の尻尾が飛び出している。



 ユラユラ、ユラユラ

    ユラユラ、ユラユラ



 規則的に揺れるソレは、まるで獲物を狙う猫のようだ。


『たあー!!』


 草の中から飛び出した子狐(ルーファ)は赤と黒の毒々しい色合いの蜥蜴に飛び掛かる……が、蜥蜴も負けてはいない。巧みに進路を変えつつルーファを翻弄(ほんろう)する。


『クッ!逃げられてしまったんだぞ……』


 しょんぼりと肩を落とすルーファの前に、草むらから蜥蜴の顔が覗く。



 ぺろろ~ん、ぺろろ~ん



 ルーファを見つめ舌を出し入れする様子は馬鹿にしている様にしか見えない。


『お、おのれ!猪口才(ちょこざい)な!』


 メラメラと闘志を燃やしたルーファは再び蜥蜴目掛けて走り出した。





 ――5分後


 ぐったりと草原に寝そべったルーファの頭の上を我が物顔で歩く蜥蜴の姿があった。


『何をやっとるんじゃ……』

『ラビちゃーん!このトカゲさんがオレの事をバカにするんだぞ!』


 ラビはその蜥蜴を見てため息を吐いた。


 それは荒野の固有種だ。ただし、魔物ではなく普通の蜥蜴である。

 実は荒野には天敵である魔物や動物がいないため、瘴気に適応した昆虫と爬虫類が存在するのだ。

 ちなみに、それらは全て毒持ちであり、ルーファの頭の上に乗っている蜥蜴は猛毒も猛毒。その名も日見不(ひみず)――明日の日が見れないという意味である。 

   

 そんなことは露ほども知らないルーファは蜥蜴を頭に乗せたままラビへと歩み寄る……が、歩み寄った分だけ離れるラビ。

 にじにじと近寄るルーファにじりじりと後退るラビの攻防戦が始まるかに見えたその時……


「ルーファ。迷宮を置く場所は決まったのか?」


 ひょいっとロキに抱え上げられたルーファは(ようや)く本来の目的を思い出した。

 彼らが現在いる場所はカサンドラ跡地。今日は〈迷宮創造〉を使い、ここへ新たな迷宮を設置する予定なのだ。



 もともとカサンドラが冒険者の国と呼ばれていたことは既に知っての通りだ。人口比率でいう冒険者の割合は世界随一。一般市民でさえ、その半数以上が冒険者に関連する職種だったと言えば、どれほど彼らが重要視されていたのかが分かるだろうか。


 鍛冶屋に防具屋、素材の売買所しかり、野菜や果物と言った食料品店ですら全てが迷宮産なのだ。

 そのため、新たにカサンドラという街を作るにあたって問題となったのが人口の確保である。

 何せ、迷宮がなければ冒険者がカサンドラに残る理由はなく、それだけで人口の3割近くがいなくなるのだ。更に冒険者で儲けていた職種は、根こそぎ廃業へと追い込まれる、というダブルパンチつきだ。

 そういう理由もあり、ガッシュとガウディがどうやって人を呼び込もうか、と頭を悩ませていたのをルーファは知っている。


 そこでルーファは考えたのだ!


 迷宮があればすべて解決するのではなかろうかと。

 そんな訳でガッシュとガウディを驚かせるべく、内緒でカサンドラ跡地へやって来た次第である。

  

『え~と、あの辺にするんだぞ!』


 それは本能か、それともただの偶然なのか。ルーファが指した地面は、一寸の狂いもなく以前あった迷宮と同じ場所であった。  

 ロキに下ろしてもらったルーファが魔力の蛇口をひねれば、ユラユラと陽炎の如く立ち昇ったソレが周囲の景色を歪ませる。

 その濃密な魔力に近くを飛んでいた鳥が慌てて進路を変え、ルーファを中心に巻き起こった風が音を立てて草原を走り抜けていく。

 気迫のこもった目で地面を見つめたルーファの前足が上がり……勢いよく振り下ろされる!

 


『〈迷・宮・創・造〉!』



 しーん



 前足で地面をビシッと指しているルーファが固まる。

 もし、ルーファが人化していたのならダラダラと汗を流していたことだろう。

 だが幸いにも現在は子狐の姿。足元が草原な事もあって肉球から(にじ)み出た汗は誰にも気付かれることはなかった。


『あ、あれ?〈迷宮創造〉!〈迷宮創造〉!〈迷宮創造〉!!!……はあはあはあ』


 一向に現れない迷宮に涙目になったルーファが振り返る。


『すまんのう。流石に儂も迷宮を創る力はないのでなぁ』


 あっさりと白旗を上げる頼りにならない最年長のラビ。ルーファの目が一縷(いちる)の希望をもって生後1週間のロキへと向けられた。

 普通あればそれは重荷もいいところだが……彼は生まれながらに最高の頭脳を与えられし男。

 

「確か自然発生する迷宮の条件は瘴気と人種(ひとしゅ)の存在。いや、人種(ひとしゅ)がいなければ瘴気が発生しないことを考えれば、瘴気だと限定できる……か」


 過度な期待をものともせずに、自信に満ちたロキの顔が上がる。


「迷宮にある瘴気を出せるか?」 

『やってみるんだぞ!』


 ルーファは目を閉じると額の迷宮核に意識を集中させた。

 瘴気があるのはルーファの中ではなく迷宮。つまり、メイゼンターグにある迷宮から引っ張ってくる必要があるのだ。


 ルーファが集中し始めて暫し、額に宿る紅玉より溢れ始めた黒い(もや)が膨れ上がり、体積を急速に増していく。やがて人の背丈ほどに成長した瘴気を見てロキが満足気に笑う。


「やれ、ルーファ」


 ロキの合図で、カッと目を開いたルーファが力を解放する!


『〈迷宮創造〉!』


 

 ぼふ~ん!



 気の抜ける様な音とともに現れるは荘厳なる扉……ではなく地下へと続く穴倉だ。


『何か……しょぼいんだぞ』


 迷宮と言うよりも蟻の巣の入口と言った方がしっくりくるような穴を覗き込み、ルーファはぼそりと呟いた。

 なだらかに続く穴の先は見通せないが……ハッキリ言って何処にでもありそうな穴ぼこだ。ただし、ギリギリ人一人が通れる程度の広さはある。


『ほっほっほ!生まれたばかりの迷宮と言うのはこんなものじゃて』


 ラビの慰めに気を取り直したルーファは、ロキの頭の上に陣取ると元気よく叫ぶ。


『しゅっぱーつ!』


 前足で前方を指したルーファに従い、ロキは迷宮へと踏み入る。ちなみにラビはというとロキの背中にへばり付いていた。自分で移動する気が欠片もない2匹である。




「ここが最深部のようだな」

『『…………』』


 歩き始めて10秒。進んだ距離は10メートルといったところか。

 彼らの目の前には煌々と明かりを放つ迷宮核があった。


『せっま!メチャクチャ狭いんだぞ!これじゃ、あっという間に攻略されちゃうんだぞ!』

『儂もここまで小さい迷宮は初めてじゃわい』


 困った顔で顔を見合わせる2匹……を、更に困った顔で見つめるロキ。 




 ロキは最近とある事実に気付いてしまったのだ。


 その事実こそ……実はルーファがおバカなのではないか、という事だ。

 ロキの高い演算能力がルーファの日頃の言動と行動を分析した結果、その知能は8歳並みだと算出されたのだ。


 現在進行形で悩んでいる問題も、ロキからしてみれば迷宮を成長させればいいだけの話である。

 200階層の迷宮を500階層へと成長させた実績があるのだ。1階層しかないこの迷宮を成長させることなど取るに足らない簡単な事の筈。

 だがしかしルーファを絶対視しているロキは、うんうん頭を悩ませているルーファに突っ込んでいいかどうか思案中なのであった。




『そうじゃ!迷宮を成長させれば良いのではないかのう?』

『おお!ラビちゃん頭いいんだぞ!!』


 思考が老人並みに遅いラビの提案に喜ぶルーファ。その背後には生温かい目で2匹を見つめるロキがいた。  

 ちょこちょこ迷宮核へと近づいたルーファがそれに触れるよりも早く、頭の上に乗っていた蜥蜴がピョンっと迷宮核へとへばり付いた。

 それを見たルーファは何かに気付いたようにハッと目を見開き、蜥蜴を凝視する。


『ま、まさか!迷宮の主になりたいのか!?』


 その言葉にロキとラビの視線が蜥蜴へと向く……知能もなければ魔力も感じられない、どこからどう見てもただの蜥蜴へと。


『……流石にそれはないじゃろう。そもそもこの迷宮は寄生型ではないからのう。不可能じゃろうて』

「それにその蜥蜴は魔物じゃあない。魔力がなければどちらにせよ迷宮の主にはなれないぜ」


 1人と1匹の言葉に狐耳を傾けながらも、ルーファがじっと蜥蜴を見れば、そのクリクリとした目からは知能の煌めきを感じる……ような気がする。

 目を閉じたルーファは一拍の間をおいて再び目を開けると、力強く宣言する。


()せば()る!』


 パアアア!と目も眩まんばかりの光がルーファの迷宮核から溢れ、それに呼応するように目の前の迷宮核がその色彩を目まぐるしく変える。


 その神々しい光の中でロキとラビは見た!

 ルーファから溢れた光が蜥蜴と迷宮核を包み込むと、粘土のように()ねくり回して魔改造するその(さま)を!


「あ、有り得ない……」

『……ルーファじゃからのう』


 知らずロキの額に汗が滲み、ラビは達観したように遠くを見つめた。



 ――生命を司りし神の御業。



 正にそう呼ぶに相応しい。


 既に一個の生命体として自我を確立している生物を改造出来る恐ろしさが分かるだろうか。

 これ即ち、人も魔物も動物も昆虫も……この世に在るありとあらゆる生物全てを、意のままに変えることが出来るということ。人を虫へ魔物を人へ――全てはルーファの望みのままに。


 創造の極意たる〈万物創造〉と魂の極意たる〈輪廻操作〉……その神髄である。ただし、今のところルーファの力が増す迷宮内でしか使用は出来ないが。

 

 全員が見守る中、光が治まるとそこには一匹の小さな蜥蜴がいた。


 額に迷宮核を輝かせ、赤と黒のまだら模様が特徴的なその蜥蜴の名は――“迷宮死蜥蜴”。

 後に、「会えば死ぬ」そう恐れられるようになる死の象徴だ。



 種族:迷宮死蜥蜴(迷宮の主)



 名前:トカゲさん

 


 固有魔法


 即死魔法

 〈死ノ接触〉触れた者全てを殺す

 〈死ノ魔眼〉視た者全てを殺す     

 〈死ノ吐息〉致死の猛毒を吐き出し、それを吸った者全てを殺す


 箱庭ノ神

 〈迷宮作製〉迷宮作製及びその内部を変革する力

 〈万物創造・限定〉迷宮内に限り無から有を生み出す力

 〈自由自在・限定〉迷宮内に限り下位格の魔法を自在に使用できる

 〈消化還元〉内部に取り込んだ生命体以外――魔力・死体・魂・武器等――を取り込み自身の魔力へと還元する

 〈瘴気吸収〉迷宮を中心として周囲の瘴気を吸収する

 〈瘴気変換〉瘴気から魔物を生み出す





 

「…………」

『…………』


 ロキとラビはそっとステータスを閉じる。


 この日、ロキは学んだ。 

 この世には自分の演算能力を以てしても理解できぬことがあるのだという事を。






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