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竜王の嫉妬

 ……ザッザッザッザッザ!


 一糸乱れぬ動きで行進する戦士たちが広場へと集合する。その動きは機械の如く正確で力強く、最後の1人が定位置についたのを合図に全員が敬礼する。これまた一寸の乱れもないその動きは瞠目に値するだろう。

 マサキの修行を初めて早11日。3日修行し、1日休むという荒行を耐え抜いてきた戦士達である。


 彼らの出来具合を満足気に見つめていたヴィルヘルムは、鷹揚に頷くと当然とばかりに命じる。

 

「ご苦労。明日1日よく休むように」

「「「サーイエッサー!!」」」


 ニコリとも笑わず無表情に返答する彼らは、まるで調教された犬のよう。だが、一度彼らの目を覗き込めばその考えが間違っていることに気付くだろう――その光失せし虚ろの眼差しを見れば。

 そう、彼らは夢の住人。修行(ごうもん)と言う名の辛い現実から逃げ出し、脳内妄想とランデブー中である。


「解散せよ」

「「「サーイエッサー!!」」」



 ……ザッザッザッザッザ!

 


 ヴィルヘルムの隣でその様子を恐れおののきながら見つめていたマサキの目には、同情、恐怖、共感といった様々な感情が浮かんでいる。アレが遠くない未来の彼の姿なのかもしれない……。


「ついて来い」


 ヴィルヘルムはマサキの返答を待たずに歩き出す。その姿は支配者の如き貫禄を持ち、相手がついて来ることを微塵も疑ってはいない。


(……このまま別の場所に行ってやろうか)


 脳裏に浮かんだ考えにマサキはそっと蓋をした。そんなことをすれば、どんな恐ろしい目に遭うか分かったものではない。


 ヴィルヘルムの後ろをトボトボと歩くマサキの姿は既に日常の風景と化している。

 だがマサキのそんなしょっぱい気持ちも、ヴィルヘルムに続いて入室した部屋――と言っても扉のない広い空間のようなもの――の中にいる人物を見て吹き飛んだ。


「カトレア!」


 3日ぶりに会う恋人に、マサキは嬉しそうに駆け寄りその身体を抱きしめた。そんな恋人たちの甘い空気に当てられることもなく、遠慮と言う言葉を知らないヴィルヘルムが話しかける。


「頼んでおったものは出来たか?」

「はい、こちらに」


 マサキの腕をすり抜けたカトレアから〈収納〉の鞄を受け取ったヴィルヘルムは中身を外に出す。不満そうに唇を尖らせていたマサキも、取り出された部屋の大半を埋めるほど巨大な光魔石に興味津々に近づいて行く。


「これで全てか?」

「はい」


 自然界にこれほど巨大な魔石は存在しない。それは小さな鉱石のほうが魔力が満ちやすく、魔石化しやすいからだ。

 ではこの巨大な光魔石の正体は何なのか……その答えは人工魔石だ。

 神域で生み出された特別な光魔石を中核に、他の光魔石を融合させて作り上げたものだ。

 材料として使用されている光魔石は、ノースティア近辺にあるものだけでなく、魔道具や魔導飛行船に組み込まれていたものも含まれている。  


 それだけではない。

 魔石の融合には繊細な魔力コントロールと膨大な魔力を必要とするため、非常に難易度が高いのだ。

 膨大な魔力を有し、尚且つ光魔石と相性の良い神獣でなければ成し得ることの出来ぬ(わざ)だと言えるだろう。


「これどうすんの?」


 そう尋ねたのは、値段がつかぬほど高級な光魔石をペタペタと無遠慮に触っていたマサキだ。

 残念ながらマサキに甘々(?)なヴィルヘルムとカトレアが、光魔石の真価を教えることはなく、マサキはその表面に額をピッタリつけて中を覗き込んでいた。


「今のままでは汚染獣に勝てぬ。我の魔力では奴らに喰われる故な」

「え!?そうなの!?」


 目を見開き不安そうなマサキをグリグリと撫で、ヴィルヘルムは両手で光魔石に触れる。隣で「禿げる……」という声が聞こえるが当然無視である。


 ヴィルヘルムの手から流された魔力が、まるで文字のように光魔石の中を揺蕩(たゆた)う。否、法則性を持つそれは間違いなく文字そのもの。

 ただし誰も知らぬ秘されし文字――“世界の言葉”だ。

 そして魔法陣に使われている魔術文字の原型でもある。


「これは!?」


 それまで部屋の隅で空気の如く佇んでいたエドモンが走り寄り、興味深げに刻まれた文字を凝視する。


 マギカ技術連邦国はその名に冠する通り、魔導技術に力を入れている国である。エドモンも魔導技術に対し造形(ぞうけい)が深く、魔術文字もある程度は理解している。そんな彼が見たことすらない未知なる文字……彼の反応もある意味仕方のないことだろう。


「魔石に術式を直接刻んでおる。これを身体に取り込むことにより肉体と魔力を光属性へと作り変えるのだ……まあ一時的なものだが」

「そ、そんなことが可能で!?」


 これにはエドモンだけでなくカトレアも驚きの表情を浮かべた。その様な技術は見たことも聞いたこともないのだから。それは間違いなく世界の叡智の一端。

 ヴィルヘルムは会話をしながらも手を休めることなく術式を刻んでいく。


「……以前、大陸は3つあった。()()()()が発達し、力ある言葉が世界を満たしていた時代だ。だが人種(ひとしゅ)の愚かさは今と変わらぬ。戦争のための兵器が次々と開発され、大陸二つが海に沈んだ。それ以降、力ある言葉は秘されることとなったのだ。この文字は人種(ひとしゅ)が知るべきものでない。よいな?」


 金色の眼が冷徹な光を宿しエドモンへと向けられる――逆らうことを許さぬ絶対者の眼差しが。


「ぎょ……御意」 

   

 震える声でそれだけを口にしたエドモンは倒れるように跪いた。

 沈黙が辺りを支配する中、朱金色に輝く文字だけが楽し気にダンスを舞っている。

 暫くその様子を見つめていたヴィルヘルムが手を放せば、最後の光が内部へ吸い込まれ固定された。


「完成ぞ」


 そこには複雑に編み込まれた術式が幾何学的に絡み合い、1つの巨大な魔法陣を織りなしていた。もし一目でもこの魔法陣を見たならば、それがどれ程高度なものかが分かるだろう。 

 呼吸すらも忘れ、その美しく繊細な魔法陣を見つめるエドモンとカトレアの耳に、信じられない言葉が届いたのはそんな時。


「すっげぇ!どうやんの!?俺にもできる?」


 つい先程ここで見たことは忘れるように、と警告を受けた2人は蒼褪める。誓っていうがマサキに悪気はない。ルーファと一緒でちょっとお(つむ)が弱いだけである。

 笑顔で近づいたヴィルヘルムはゆっくりとマサキの頭に手を伸ばすと……


「あべし!!」


 デコピンを喰らわせた。

 倒れ伏すマサキにカトレアが駆け寄るのを他人事のように眺めながら、ヴィルヘルムはエドモンに向き直る。


「飛行船の進捗具合は?」

「はっ!30隻完成し、試用運転も済ませております。いつでも行けますよ」


 ヴィルヘルムがエドモンに要請していたのは、小型魔導飛行船の作成。とは言っても、彼らが乗ってきた大型船のメンテナンスに使っていた小型船を改良したものに過ぎない。

 ただし作り上げたのは機動力を重視し、魔導砲が搭載されている戦闘機タイプだ。

 

「明後日打って出る。細かい調整は任す」

「はっ!!」


 退出の挨拶を終えると同時に走り去ったエドモンを見送り、ヴィルヘルムは振り返る……カトレアに膝枕されデヘデヘと鼻の下を伸ばしているマサキへと。

     


 イラッ!


 

 ヴィルヘルムは苛立つ自身の心を不思議に思う。

 最近、マサキとカトレアの仲睦まじい姿を見るたびに溢れる感情だ。

 ヴィルヘルムは伴侶を大切にする竜種であり、マサキが(つがい)であるカトレアに優しくするのは理解できるのだが……それを面白くないと感じる自分がいた。


 それは“嫉妬”と言う名の感情。

 だが、彼は未だにその感情が何なのか知らない。 

 

 ツカツカとマサキに歩み寄り、ひょいっとその身体を抱き上げたヴィルヘルムの喉からグルグルと威嚇の音が漏れ、その様子に僅かに目を見張ったカトレアは、次いで勝ち誇ったかのように笑う。


「ほほほ、如何されましたかえ?」


 ピシリ、と青筋を立てたヴィルヘルムがカトレアを睨みつけた。

 笑顔のカトレアに無表情のヴィルヘルム。両者の間に異様な空気が漂う。


「あ、あの~。仲良く、ね?」


 ヴィルヘルムの腕より脱出したマサキがヘラリ、と場を取りなすように笑う……が、それは逆効果だ。2人の視線が同時にマサキへと突き刺さり、謀ったかのようにその腕をガッチリと掴む。

 逃げ場を失ったマサキが情けない悲鳴を上げるの無視し、両者は一歩も譲らぬ構えで対峙する。


「ほほほ、そうよなあ、ここはマサキの口からハッキリ申し上げる方が親切と言うもの。マサキ、竜王様に妾とどちらが好きか答えてあげたらどうかえ?」


「マサキ、分かっておろうな?」


 2人の鋭い眼光にダラダラと汗を滴らせたマサキは、助けを求めて視線を右往左往させる……が残念ながらこの部屋には3人しかいない。グビリ、と唾を飲み込んだマサキはそっと自分の腕を取り戻すと、ジリジリと後ずさる。


「あ~、やっぱり友人と恋人への愛って違うと思うんだよね。ほら!比べれないっていうか!ねっ?」


 途端に人形の如く感情を失った2人は無言でマサキを挟み込むように退路を塞いだ。その流れる様な連携は先程までいがみ合っていたとは思えぬほど息ピッタリ。


「おおおおおおおお俺は2人とも好きだよ!!」

  

 怯えるマサキの前に進み出たカトレアは悲し気にマサキを見つめ、白い手がそっとマサキの頬に触れる。動揺したマサキはカトレアの為すがままに……



 ちゅ~



 10秒ほど吸い付いていた柔らかい唇が離れ、カトレアの目が好戦的な光を宿しヴィルヘルムに向けられる。  


「妾とマサキは毎日口づけを交わす仲。竜王様は如何かえ?」


 ドンっという音と共に瞬時にマサキの側に移動したヴィルヘルムは、未だに動揺冷めやらぬマサキの顔をガッチリと掴んだ。


「まって!!お、落ち着こう!!」

「抵抗するなマサキ。すぐ終わる」


 グググッと近づいて来るヴィルヘルムの顔を手で押し返しながら、マサキは助けを求めてカトレアに目を向けると……何故か彼女はマサキのスマホを2人へと向けて構えていた。


「……カトレアさん?何してますのん?」


 思わず尋ねたマサキに、にっこりと笑い返したカトレアからは、背筋が凍るような何かが噴き出していた。


「ほほほ、どちらが好きか問われて恋人である妾の名を答えぬとは何事かえ?反省しなんし」


 注意力の逸れたマサキをチャンスとばかりにヴィルヘルムが引き寄せる。


「まままま待てっ……あんぎゃああああああああああああ!!」


 カトレアに対抗したヴィルヘルムは、マサキに20秒間ディープなやつを喰らわしたとだけ記しておこう。





 決戦は明後日。


 世界の命運をかけた戦いが始まろうとしていた。







  

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