シャーペンの命
「危ない」「握る練習にならない」……そう言った理由から禁止されていたシャープペンシルは、えんぴつを噛む癖のある小学生の頃の私にとっては、オトナの持ち物だった。
「ねえねえ、おそろいのシャーペン買おう」
そう親友の彼女が話しかけてきたのは、小学校の修学旅行の時だった。
彼女が手に持っているのは、キャラクターがついた可愛らしいご当地シャーペンだ。
「え、でも、先生に見つかったら取り上げられるよ……」
「見つからなきゃいいんだよ、ほら!」
ねえねえ京子はどっちがいい?と、何の邪気もなく差し出されたボールペンは、クマのキャラクターとネコのキャラクター。
「……私、こっち」
クマのキャラクターを指し示すと、彼女は、言うと思った!と言いたげな顔でニヤリと笑った。
彼女が死んだ。高校生の時だった。
交通事故でも他殺でも病気でもない、自殺だった。
ずっと心の病をおして、学校に来ていたらしい。
遺書には家族への謝罪が所狭しと並んでいたそうだ。
遺書の隣には、あの日買ったシャープペンシル。
もう珍しくも何ともなくなったシャープペンシルを、あのキャラクター付きの今ではダサいデザインを、彼女は使い続けていた。
不思議と涙は出なかった。
カチカチ、とシャーペンを鳴らすと、ああそうなんだ、と同じリズムが胸に入り込んでくる。
あの時のクマのキャラクターはもう顔の塗装が剥げて、まるで私の代わりに泣いているように目元が歪んでいる。
芯を継ぎ足して継ぎ足して使い続けられる人もいる。
ポキッと折れたらそのままの人もいる。
彼女はその後者だったのだろう。
「謝るくらいなら、しないでよ」
お揃いではなくなってしまったシャーペンを机の引き出しにしまうと、私はベッドに身を投げ出した。