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世界を詠う慈悲の魔女  作者: 『H∀Qqy∃ИD』
9/32

街中

※コード『シティサイド』が起動しました※


※シナリオ決定権を一時的に譲与します※



「おい、フェリス。」


帰るなり早々、耳につく声。

私、フェリスは幸せな気分から一転、深い溜息を吐く。

「なんだ、親に向かってその態度は? お前は昔から……」

「はいはい、ごめんなさい。」

父の話は、いつも長い。

私は適当に相槌を打ちながら部屋へ進む。


「待て」

呼び止める声がかかるが、私は無視する。

無視するはずだった。

「最近、山へ足を運んでいるらしいじゃないか」

その一言。

それを耳にしてしまったせいで、私の足は止まった。

「……お父さんには関係ないでしょ」

「いや、関係ある」

私の反論は、スッパリ叩き切られてしまう。


「お前はエティールノ家の娘だ。そんな不審な行動ばかり取られていては、私が迷惑だ」

「知らないよそんなの」

「それに、山には悪い噂があるらしいじゃないか。災厄の魔女、だったか」

「……それが何?」

「そんな山に出入りしているとなれば、エティールノ家にも悪い噂が立つ。今後、あの山には近づくんじゃない」


……呆れた。

「呆れた」

「何!?」

つい口から出てしまった本音に、お父さんが目ざとく反応するしてくる。

「お父さんは自分のことしか考えてない。そんなに自分と、自分の立場が大事なの?」

「当たり前だ、お前に衣食住を与えているのは私なんだぞ? お前を養うために、仕事を優先して何が悪い?」

「……私を育てたのは、お父さんじゃないけどね」

「おい、今なんて言った」


今思うと、私はストレスが溜まっていたのかもしれない。

最近ずっとこれだ。お父さんと顔を合わせるたび口論を繰り広げている。

私はズカズカとお父さんの前まで歩き、言ってしまった。


「私を育てたのは、お父さんが殺したお母さんだから」


そして、お父さんの横を通って家を出る。

後ろから怒鳴る声が聞こえたが、無視した。



それから数分後、図書館。

私は椅子に腰掛け机に突っ伏していた。


(はぁーっ、またやっちゃった……)

私は心の中で、先程の発言に後悔していた。

別にお父さんが嫌いな訳ではない。好きでもないと思うけど。

それでも、ああして口論になってしまうのは、私としては望ましくなかった。


気配を感じて、ふと私は後ろを振り返る。本棚の陰で、ヒソヒソと話し合う二人の少女がいた。

しかしフェリスに気付かれると、二人揃ってフッと逃げてしまう。

フェリスは彼女たちを知っている。同じ学校に通っていた同級生だ。


(……はぁ、あんな家に生まれなければなぁ。)

はぁ、と深い溜息を吐く。

彼女たち、学校の皆は、決して悪い人達ではない。

ただ、誰もアルマとは話したがらない。会いたがらない。

原因は父だった。


過去、私は男子と喧嘩になったことがあった。

小学生並みの暴言、暴力。感情が高ぶって泣いてしまったんだっけ。

傍から見ればよくある喧嘩。

だが私の場合、そうではなかった。


後日、父が学校に乗り込んできたのだ。

聞けば、教師から話を聞いたとか。そして男子を怒鳴り、叱り、親まで呼んで怒鳴り散らした。

そして、その男子を退学にした。

それから私に関わってくる子はいなくなった。なので別に、虐められているわけではない。

私は、学校で独りぼっちのお姫様というわけだ。


「……サイテーな親」

葛藤をどこにもぶつかることができず、ポツリと呟く。

だが、それを聞いてる人物がいた。

「フェリスちゃん、そんなこと言っちゃ駄目よ?」

「あっ、店長さん」

いつの間にか私の正面には、私のよく知る人物が座っていた。

「もう、店長さんなんて呼び方しないの。堅苦しいでしょ?」

「……じゃあ、司書さん?」

「んもぅ、ルディーノちゃんって呼んで?」

「ルディーノさん」

「『ちゃん』!!」

「ルディーノさん」

「もー、フェリスちゃんは意地悪ね♪」

図書館では静かにしないといけないので、二人でクスクスと笑う。


ルディーノさんは私の数少ない友達だった。

肩まで伸ばした黒髪に、綺麗な紫色の瞳。声は、落ち着いていてやや低い。

黒のトレンチコートを羽織っている辺り、司書らしくはない。

おまけに筋肉質。触らせてもらったことがあるが、カッチカチだった。

とても司書とは思えない。

あと、私と同じでぺったんこ。関係ないけど司書とは思えない。

でも頭はいい。私からの質問にはだいたい答えてくれるし、ルディーノさんでも分からなかったら調べてきてくれる。

そして何と言っても、私に話しかけてきてくれる。



過去の話だが、私は聞いたことがあった。

「ルディーノさん」

「はいはい、何かしら?」

私が席から声をかけると、ルディーノさんはわざわざこちらへ来てくれる。

「あの、私のお父さんのこと知ってますか?」

「ええ、あの気難しい会長さんでしょ? 知ってるわ」

「じゃあ、私の友達を退学させたのは?」

「知ってるわ。全く、無茶な会長さんよね」

クスクスと笑うルディーノさん。私は驚きを隠せなかった。

「あ、あの、じゃあなんで、私と話してくれるんですか?」

「……ん?どういうことかしら?」

「だからー……そのー……」

「……あぁ、会長さんが怖くないのかって話?」

「そう!」

私の言いたいことを、ルディーノさんは代わりに言ってくれる。

訊いたのは私なのに。助かる。


「でもそれって関係あるかしら?」

ルディーノさんが、諭すように言う。

「私は、フェリスちゃんと仲良くしていたいのよ? なのに、そこに会長さんが介入する余地があるかしら?」

「でも……」

「大丈夫よ。私、腕には自身があるの♪」

「それは無茶だと思う」

いくらルディーノさんが力強いとはいえ……少なくとも、男が束になって飛びかかってきたら無理だろう。

「ウフフ、心配しないで。私は平気だから」

ルディーノさんはウインクし、席から外れる。

こうして、この会話は終わってしまった。



(まあ、要するに良い人ってことだね)

私が物思いにふけっていると、カウンターからルディーノさんが話しかけてくる。

「ねえ、フェリスちゃん?

「……何?」

「『魔女』って童話について、少しだけ分かったことがあるの」

「ほんと!?」

ガタン!と席を立ち上がる。

その音が響き、周りから注目を浴びてしまう。少しだけ恥ずかしくなる。

「ふふ、静かにね」と宥めてくれるルディーノさん。


「それでね、やっぱり『魔女』なんて童話、どこの国でも扱われてなかったわ。まして、そんな悲劇的なエンディングはね」

「嘘? でも、私の友達の家にはその本が……」

「まあ、待ちなさい。私はあくまで『どこの国でも』としか言ってないわ。扱っている人種がいるのよ」

「人種?」

私の言葉にコクリと頷く。

「そう。限られた人種が、その童話を扱っている……と、情報収集で分かったわ」

「その人種って?」

勢い余って、私は訊く。


だが。

これは、聞かないほうが良かったことだったのかもしれない。

いや、聞かないほうが良かった。

聞かなかったほうが、楽だった。



「魔女よ」


ルディーノさんの言葉に一瞬固まってしまう。

魔女。童話の中では決まって悪者の存在。


「魔女……?」

「フェリスちゃん。ひょっとしてその本、どこの国の文字か分からなかったんじゃない?」

「う、うん。見たことない文字だった」

「それ、きっと魔法語よ♪」

いつもより少しだけ鋭い目つきで、ルディーノさんが指摘する。

「ねえ、その友達はどこに住んでるの?」

「えっと、山、だけど」

「ふぅん……山、ねぇ……」

少し考えた後、ルディーノさんは一つの話題を私へ叩きつけた。


「ねえ、災厄の魔女の噂は知ってる?」


先程、お父さんの口からもそれを聞いた。

「それって……!?」

災厄の魔女。具体的にはどんなのか知らないけど、とんでもないのが山には住んでるって噂。

「フェリスちゃんのお友達は山に住んでる。そこには魔法語で書かれた本がある。そして最近の噂……これは、どういうことかしらね?」

嫌な汗が頬を伝う。最悪の展開が頭を過る。


アルマが……魔女?

まさか。


でも、もし魔女だったら。

私は、アルマと別れなければならない。

だって魔女だから。


……魔女だから?

なんで?

魔女は悪くない。魔女だからって嫌いにならないでって、アルマに言ったばかりなのに。

なんで私は、アルマと別れなきゃいけないの?

でももしアルマが魔女だったら、魔女だったのなら___


分からない。

どうすればいいのか、分からない。




思いつめた様子の私に、ルディーノさんが言う。

「ねえ、フェリスちゃん?」

「…………」

「友達は大事にね♪」

その言葉に、私は目を丸くする。

「別に、あなたが友達と付き合おうがあなたの勝手よ。例えそれが魔女でも。私には関係ないし、これからもフェリスちゃんとは付き合うわよ?」

「ルディーノさん……」

「それにね?」

ルディーノさんはこちらを見て、優しく微笑む。

「私、フェリスちゃんは良い子だって知ってるもの。そんなフェリスちゃんが気に入ってる子は、悪い子じゃないに決まってる。その子が魔女でもね」

私と、友達でいてくれる……

ルディーノさんの言葉に、目頭が熱くなってしまう。



でも、それだけじゃない。

それだけじゃ駄目だ。


私は、疑った。

そして悩んだ。もしアルマが魔女なら、私はどうすればいいのか。

でも悩む必要なんてない。ルディーノさんに言われて、初めて気付いた。

私がどんな姿でも、ルディーノさんは私と友達でいてくれる。私は、それが救いだと感じた。


じゃあ、アルマは?

魔女だと疑われて、あるいはバレるのが怖くて、人に近付けなかったんだとしたら___

私と同じ、孤独。

その辛さは、よく分かっているつもりだ。



私は頬をパチンと叩いて、ルディーノさんに言う。

「……ありがと。私、友達を大切にする。例え魔女でも。絶対に」

「そう。頑張りなさいね、応援してるわ♪」

そうして私は席を立ち上がり、図書館を出る。


その後、私の頭の中はアルマとのことで一杯だった。


明日も絶対に会いに行こう。明日は何をしよう。

アルマは何が好きなんだろう。

アルマはいつも何をしてるんだろう。

アルマとは次、なにを話そう。

アルマは、ほんとに魔女なのかな。


魔女でもいい。

私の、大切な友達だから。

それは変わらないから___



その夜、私は早めに布団に入った。

明日、友達と少しでも楽しい時間を過ごすために。



※コード『シティサイド』が中断されました※


※シナリオ決定権を剥奪します※




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