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世界を詠う慈悲の魔女  作者: 『H∀Qqy∃ИD』
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7/32

時間旅行

ある昼下がりのこと。

昨日の大雨はすっかり止み、眩しい太陽が顔を出していた。

そんな日差しの下、一人の少女が悩み事をしていた。


「フェリス……うーん」

木陰に座り込みながら一人で唸るアルマ。

「また会いたい、か。私も会ってみたいけど、魔女だってバレたら怖いし。でも放置とか無視は嫌だなぁ。うーん……」

地面にカリカリと文字を書きとめる。

アルマの独り言はまだ直りそうになかった。



今朝のこと。

「わぁっ、いい天気!」

「よかったね、フェリス」

まだ水溜まりの残る地面を踏みしめ、フェリスが外へ出る。

「色々ありがと。服も乾かしてもらって、貸してもらって、泊まらせてもらって」

「ううん、私も久しぶりに人と話せて楽しかった」

アルマに笑顔で返され、フェリスもつられて笑顔になる。


「あ、そうだアルマ!」

ふと思いだしたように、フェリスがアルマへ向く。

「ん、何?」

「あのね、もしアルマが良かったらなんだけど……また、ここに来てもいいかなって。」

「え……えぇ!?」

思いがけない提案をされ、声を出して驚いてしまう。


「その、迷惑ならいいの!」

焦ったようにフェリスが言う。

「でも昨日も言ったでしょ? 私、友達少なくて。昨日アルマと話してて楽しかったの。だから、またいっぱい話したいなって。」

「うーん……」

「だ、駄目かな」

確かに、アルマも話していて楽しかった。

名前のことなんて初めて聞いたし、童話の読み聞かせなんて初めてした。

フェリスと一緒にいると、初めてが沢山あった。

楽しい、と思えた。

また会いたい、と思った。


だけどアルマは魔女。

もし、それがバレたらどうなるか。

アルマはここで暮らせなくなるだろう。最悪、殺される。

そんなリスクを背負ってまで、彼女に会う必要は無いはずだ。



「……ううん」

だが、

「分かった」

アルマは、

「……また、会おう。いつでもおいで?」

彼女に、そう言ってしまった。


(フェリス、悲しそうな顔してた。)

自分に友達がいないと言う時、フェリスの目元が潤んでいた気がした。

おそらく、嘘は吐いていないのだろう。


孤独は辛い。

アルマはそれを、よく知っている。


「ほ、本当!?」

「うん、本当。」

「あ、ありがとう……えへへ」

幸せそうにフェリスが笑う。

そんな彼女を、アルマは複雑な心境で見ていた___



「アルマ?」

上から声がして、バッと顔を上げる。

そこには、よく知った顔があった。


黒い長髪、不自然に生えた翼。


「マグム……」

「考え事なんて珍しいわね? どうしたの?」

「え、えっと……」

額から嫌な汗が流れる。

ここで正直に『フェリスって女の子が〜』なんて言うわけにはいかない。

マグムのことだ、『二度と会うな』で片付いてしまうだろう。

だが、『何でもない』と言えば怪しまれる。

アルマは苦悩の末……


「魔法で、過去に戻れたりするのかなって」

そんなことを口から出した。

「過去に?」

「うん。過去に行って、昔の私やお父さん、お母さんに会えるのかなって」

昨日、フェリスから言われたことを思い出していた。

過去に戻れば両親に会えるかもしれない。両親は生きてるのか、知れるかもしれない。もし、なにか事故に遭っていたなら……アルマなら、救えるかもしれない。



もちろん、現実は弁えているつもりだ。この後マグムはきっと、残念そうに首を振るだろう。

「会えるわよ」

そう、残念そうに__

「へえ、会え……えぇ!?」

あまりにも自然に返事されたので、つい普通に返してしまいそうになる。


「あ、会えるの?それ本当?」

「本当というか、正に私がそれよ。時間旅行して、今ここにいるわ」

自分を指差すマグムを見てさらに驚く。

「ってことは、マグムは未来人!?」

「そうね。まあ数年だけど、未来から来たわ」

「数年……あ、それじゃあ!」

なにか思いついたようにアルマが立ち上がる。

「もしかして、今どこかに小さなマグムがいる!?」

「……うん? どういうことかしら?」

随分と突飛な話に聞こえたのだろう。マグムが首を傾げる。


「マグムは数年後の人なんでしょ? そしたら、いま私と話してるマグムとは別の、小さな頃のマグムが何処かにいるんだよね?」

「……あぁ、そういうことね。」

「会ってみたいなぁ。小さい頃のマグムさんってどんなのかなぁ」

「探してみる?」

「え? ……え!? 会えるの!?」

驚きの連続。

小さな子供のように声を上げ続けるアルマには、そんな言葉がピッタリ当てはまる。


「いや、会えないわ。」

「えぇ!? なんで!?」

アルマを見て、クスクスと失笑してしまうマグム。少しだけ遊んでる節がある。

「アルマはきっと、昔の私に気付けないわ」

そして、ゆったりとした口調でアルマを宥める。


「私、数年前は羽が無かったのよ。それに髪も黒じゃなかった。今の私を知るアルマは、きっと探せないでしょうね」

「だ、だとしても頑張れば……」

そう言いかけるアルマを、マグムが静止する。

「それに。もし私を見つけたとしても、きっと会えないわ」

「何で?」

「うーん、言葉で説明するのは難しいのよ」

「えぇー、なにそれ」

不満そうに口を尖らせるアルマ。


そんなアルマが可笑しかったのか、マグムが付け足すように言う。

「まあ、もしも……」

「もしも?」

アルマの顔を覗き込み、クスリと笑う。その表情からはアルマでさえ尻込みしてしまうくらい、底知れぬ不敵さを湛えていた。

「もしも、アルマが名前を思い出せたなら、私を探せるかもね」

「名前?」

アルマが首を傾げる。


「あなたを生み、育てた親の名前。あなたの下の名前。それを思い出せると言うのであれば、昔の私を探せるかもしれないわ」

「……それは、難しいかも。」

「ふふ、でしょう?」

口に手を当て、クスクスと笑う。

別に馬鹿にしているわけではない。表情をコロコロと変えるアルマを見て、楽しんでいるだけだ。

それはアルマも知っているので、特に言い咎めない。


「まあ、いつか嫌でも分かるわよ」

難しい顔をして考えるアルマに声をかける。

「嫌でも?」

「そう。私の正体が何であれ、例えそれに気付きたくなかったとしても、気付いてしまう日が来る。それを楽しみに待ってることね」

「なんかそれ、楽しみにできないんだけど……」

「ふふ、確かに。それじゃ覚悟しておくことね」

クスクスと笑い、マグムは翼を広げる。


「またね。あまり無理しないように」

そう言って、そのまま空へ飛んでいってしまう。


「あ! ……行っちゃった。」

段々と小さくなる背中を、アルマは下から見送る。

(…………あれ?)

しかし、マグムの姿が見えなくなった時。

アルマは、一つの疑問を抱いた。


(私……マグムに名前の話、したっけ?)


「……まぁ、いっか。」

気にすることはないと踏んだアルマは、そのまま家へ戻ることにする。

帰り道、頬を撫でる乾いた風。

それがなぜか、アルマを懐かしい気持ちにさせた。



※極小のアノマリーを感知※



※進行 異常無し※

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