狂い、始まる
これは少し前、アルマ達が街から逃げた後のお話。
…………
「きっ、貴様……」
私の前で、怯えた人間が一人。
あぁ、可愛そうね。
私に何も効かないことを知って、完全に怯えてる。
いい気味だわ。
「ふふ、どう調理してほしいかしら♪」
「チッ……くそっ、くそっ!!!」
叫んで相手、街長さんは、懐からナイフを取り出す。
あらやだ、怖いわ。あんなもので切られたらって思うと私、夜も眠れない。
「くそーっ!! うわあああぁぁぁっ!!!」
……それを私に向けて、何やら叫びながら走ってくる。
ちょっと止めてよ! 怖いって言ったばかりじゃない! そんなので刺されたらって考えたら、体が強張っちゃうじゃない!!
ガキンッ!!
私の身体と衝突し、ナイフが鈍い音を立てる。
詰まるところ無駄ってヤツね♪
「うわあああぁぁぁぁ!!」
折れたナイフを、私に向けて必死に突き立てる。
ガリガリ、ガリガリガリ、という音を立てて、段々と削れていく。
ナイフが。
研ぎ物の逆ね、段々とナイフが丸っこくなってて面白いわ♪
そのお遊戯も一瞬で終わるけど。
バキッ!
痛々しい音を立てて、ナイフが根本から折れる。
力、入れすぎたみたいね。
「あ…………」
「さぁ、次は何かしら♪」
彼が繰り出す武器に、私は正直ワクワクしてきていた。
だって、どんな武器も私には勝てないし。
それにもし、私に通用する武器があるんだったら……今の内に潰しておきたい。
アルマちゃん達に向けられる前にね♪
だけど。次の瞬間だった。
私も皆も、誰も思いつかなかった事態が発生した。
バンッ!!!
「ぎゃああああぁぁぁ!!!」
街長が……燃えた。
本当に突然、何の脈絡もなく炎上したのだ。
「これはっ!?」
まさか、魔法? それ以外でこんなことができる方法、考えられない。
ということは、街長さんは魔女……もとい魔人だった? じゃあなんで、同じ魔女であるアルマを手にかけようとしたの?
……だが、違った。
その理論は、根本的に違った。
「ああぁ……助けて! 助けてくれぇ!!」
「ハァ!?」
街長さんは、私に助けを求め始めたのだ。
魔法がコントロールできていない?いや、それにしては派手に失敗し過ぎている……?
「……わっ、街長!?」
「おい、今度は街長が燃えてるぞ!!」
「「化物だーーっ!!」」
先程までアルマちゃん達に気を取られていた住民が、次々とこちらを……
「ちょっと、誰が化物ですって!?」
「ギャーーッ!!」
とにかく、皆がこちらに注目する。
それと同時に__
「あっ__ハハハハハハハハ!!!」
まだ、街の人すべてが状況を把握できていない頃。
高笑いと共に、瓦礫の山から人影が飛び出す。
膝下まで伸びた赤黄色の髪、口からでてる八重歯、腹上でボタンが留められた上着、簡素なホットパンツ……
右側からのみ生えた黒色の翼。
赤色の目に宿る計り知れない狂気。
アイツは__
「たのしーねー! ドッカンってするの、たのしーねー!! ボボーって燃やすの、たのしーねー!!!」
魔女__!!
街長さんが利用していた魔女。
街を破壊した、元凶っ……!!
「……あ、変なヤツがいる!!!」
空中、地面から3メートルほどの場所でピタリと浮遊し、魔女が目を輝かせる。
マズイわ。
今ここで戦闘になれば、一般市民が巻き込まれる。
「たのしーねー! たの、しー……!」
魔女は両手を上げ、何やら力み始める。
わたしの予想が正しければ、あれは構えね。
炎とかの、それも強大な魔法の構え。
……マズい。
これは本格的にマズい。
「お前ら!! この女の子から離れなさい!!」
私は魔女と向かい合いながら、後ろの住民に呼びかけるつもりで叫ぶ。
「でっ、でも街長が」
「黙れ! 死にたくなかったら逃げるのよ!」
私が一喝してすぐ、後ろで足音が聞こえ始める。
音が段々遠ざかっていくところを聞くと、皆逃げていったようね。
__誰も街長は助けようとせずに、ね♪
「たっ……助け……」
肝心の街長はというと、既に意識が朦朧とした状態でこちらに来ていた。もちろん無視する。
別に火だるまが突っ込んできた程度じゃ、私は死なないわよ♪
それより問題はあの魔女。
魔女の頭上には既に、直径五十メートルほどの火球が生成されていた。
もしこんなものが、一般人に向けられたら……そうでなくても、このままこちらに投げられたら。考えただけでおぞましい。
「しー……ねぇぇぇっ!!!」
そして、魔女はこちらに向かってソレを投げつけてくる。
おぞましいソレが、向かってくる。
……あぁ。これは街長、助からないわ♪
尊い犠牲を拝みつつ、私は火球に向かい合う。
私の筋肉は魔法の産物。
本来なら相殺できないようなエネルギーでも、『物理』という属性を持った私の魔法なら可能。
尤も、こんな大きなエネルギーの相殺は初めてだけど……
まあ、成るように成れっ!
気張るのだ、魔人ルディーノ・マグムっ!!




