慈悲の魔女
「フェリスさん、痛くないかしら?」
「大丈夫だよ」
「アルマ、痛くない?」
「……すごく痛い」
私達は現在、どこかの家で休んでいました。
軽い火傷を負ったフェリスと、致死段階まで黒く焼け焦げた私。二人は、私達をそれぞれ治療してくれてるのでした。
「痛っ……あ、大丈夫」
「………………」
「……あ、アルマ?痛くない?」
「全身が痛すぎて、どこが痛いのか分かんない」
街を抜け出してから一日が経ちました。私は未だ肌が焼け焦げてますが、普通に声が出せるようになりました。
もう少ししたら、表面の皮膚も再生し始めると思います。
それが魔女の体です。
コンコン。
誰かがドアをノックします……と言っても、そんな人は一人しかいません。
「入るわよ〜♪」
ドアを開けたのはルディーノさんでした。
あれからルディーノさんも、私達を追いかけてここまで来てくれたのです。
「あ、ルディーノさん」
「アルマちゃん、私はルディーノ『ちゃん』!!」
そんなお決まりな会話をして笑い、本題に移ります。
「魔女が現れたわ」
ルディーノさんの最初の一言がそれだったので、私はビクッとしてしまいました。
それはマグムのことか、はたまた私のことか……
「髪が長くて」
……うん。
「空を飛んで」
……ということは、マグム?
「髪色は赤色、背中から片方だけ翼が生えたヤツよ」
……うん?
「……髪、黒じゃなくて?」
「ええ。私の調査ではあんなヤツ見たことも聞いたこともなかった。おかしな事態が発生してるのは間違い無いわね」
ルディーノさんが、珍しく真剣な顔で考え込みます。
その様子がなんだか新鮮で、私はついルディーノさんをジロジロ見つめてしまいました。
……。
この顔、この表情、どこかで……?
「私、アルマちゃんともう一人しか魔女のこと知らないんだけどね〜?」
「……えぇっ!?」
その呟きで、私は我に返りました。
私が魔女? いえ、確かに私は魔女です。でもそれは、ちゃんと隠してたはず……
「私の前では、隠し事は無しよ〜♪」
「…………」
だとしたら。
ルディーノさんは、私が魔女だと知った上で助けたことになるのでしょうか?
どうして? なにが目的なんでしょう?
そして、さらに驚いたことがあります。
ルディーノさんがそう言ったのに、ヴェルニスとルディーノの二人が少しも反応しないことです。
「二人は知ってたの?」
「何が?」
ヴェルニスが声で反応しました。
まるで、今言われたことのどこが重要? みたいなトーンで。
「私が魔女だって」
「うん」
「なんで?」
「なんで、って……」
私の問に対し、あきらかに狼狽えるヴェルニス。そんな彼女を助けるように、ニーミアが口を挟みます。
「ひとつ。こんなに炎で焼かれたのに生きてた」
「それは……」
確かにそうでした。
でも、二人はそれ以前から知ってた気がします。
「ふたつ。予めルディーノちゃんから聞いていた」
「ちゃん……フフッ」
「アルマちゃ~ん? 何がおかしいのかしら~ん?」
まあ確かに、ちゃん付けしないとルディーノさんがうるさいですからね。
それにしても、まさかルディーノさんの口からだとは。この二人は困惑しなかったのでしょうか。
「そしてみっつ。あんな山奥で生きていた」
「……?」
ですが3つ目の理由はイマイチ分かりませんでした。
山奥で生きることと、私が魔女だということ。どうしたらこの二つが繋がるのでしょうか?
ですが、その答えは簡単でした。
「そうそう! 私達だけで山に住もうとした時、すっごい威嚇されてたんだよ!!」
今度はヴェルニスが口を挟んできます。
「威嚇?」
「アルマに合う前、何回か山に隠れようとしたの。でも山の動物に何度も襲われそうになったんだから!」
「でもアルマさんと出会ってからピタリと大人しくなったわ。あれは不思議だったわね」
あぁ、そういうことでしたか。
確かに山の皆は、とっても警戒心が強いのです。
だから部外者が来たら必至に拒むことが多いのです。
ですが、私の友達は別でした。
友達の友達は、友達になる資格ありです。
なので山の皆は二人への警戒を解いたのでしょう。私の友達だから。
……山の皆。
約束、破っちゃったな。戻るって言ったのに、また会えるって言ったのに。
戻りたいな。
また、会いたいな__
「……そういえばアルマ?」
少し黙ったからか、ニーミアが話しかけてきます。
「うん?」
「今日まだ太陽が出てない頃なんだけど、動物の群れがこの家近くに来たの」
「……群れ?」
まさか。
私は淡い希望を捨てきれず、起き上がろうとします。実際それは無理でしたが。
「痛っ!!」
「アルマ、今は動かないで。お姉ちゃん」
「ええ、そのつもりよ」
ヴェルニスが目配せし、ニーミアが立ち上がります。
そのつもり?
どういうことでしょう?
ガチャリ。
ニーミアは入り口とは別のドアまで行き、その取っ手を回します。
「あなたたち、入ってきなさい」
そして、ドアの向こうへ声をかけます。
『ナー』
「……その声!?」
いや、鳴き声でしょうか?
ともかく私はその音に反応し、また体を動かそうとしました。
「痛たっ!!」
「アルマ! 動くなって言ってるでしょ!!」
「……はい。ごめんなさい。」
ヴェルニスの言うとおりに、私はその場で力を抜きました。どのように動いても痛む体はなかなか不自由です。
ともあれ、私は改めてゆっくりと声をした方へ目を向けます。
そこには__
『ワンッ!』
『ガウ!』
『ナー』
『チュンチュン』
__たくさんの動物がいたのでした。
「……みんな。」
私が安堵の表情をすると、皆は私へと向かってきます。
どうやら、怒っているようでした。
『ガルルルル!』
「ご、ごめんって……」
『フシャーッ!!』
「う……猫さん、毛を立てないで……」
『チュンチュン、チュンチュン!!』
「……うん。でも私、後悔はしてない」
そう、何も後悔は無い。その言葉に皆が黙ってしまいます。
私は言葉を紡ぎました。
自分の思ったように。
もう、誰にも支配されない言葉で。
「確かに今回は、こんな怪我しちゃった。けど、それで守れた人がいた。だから私は……例えあそこで死んだとしても、後悔しなかったと思う」
話している内に、部屋がシンと静まり返ります。
山の皆だけでなく、フェリス達も黙って聞いていました。
「少しでも、魔女は怖くないものだって分かってくれたらよかったんだけど……逆に、みんなを怖がらせちゃったかな。フェリスにまで庇ってもらっちゃったし」
「アルマ!! 私は私がやりたくてアルマを守ったんだよ!」
フェリスが私を咎めます。温かい言葉。とっても嬉しい。
「……ありがと、フェリス」
「えへへー」
フェリスが笑顔になると、つられて私まで笑ってしまいます。今は表情筋が焦げてて痛むけど……いつかまた、笑い合いたいな。
いつかまた、笑い合える。
こうして生きてるんだから。
「……うん! どうせ生きてるんだから、もっと皆と楽しく過ごしたい! これからたくさん楽しいことして、『こんなこともあったね』って笑い合いたい!!」
私がそう言うと、皆が笑いました。
「アルマ、私も!」
「私は……スクラップにされて、もう嫌になってた。でも、アルマや皆とだったら一緒に居たい!!」
「ふふ、ヴェルニス。私も同感」
「もう皆、言うまでもないわね♪」
そう。言うまでもない。
皆、互いに一緒にいたくて此処にいる。
一緒に生きていたくてここにいる。
これから課題は山積みです。
どこに住もうか。そこでは魔女は暮らしていけるのか。
フェリスの親……エティールノは、私達にどう仕掛けてくるのか。
もし仕掛けてくるなら、どう対処するべきか。
いずれにせよ、もう逃げてはいけません。
皆を守るために、私は魔女として生きていく。
沢山の人と対立し、諭し、共に生きていく。
皆と一緒に、生きていける世界を目指す。
それはとても難しいことかもしれません。
今回のような危機だってあるかもしれない。
皆が、危険な目に遭うかもしれない。
その時は、私が助けるんです。
魔女として。
……そんなことを考えながら、私は一日を皆で過ごしました。
皆で話し合って、笑い合って。ここにいる誰もが、私こと魔女を認めてくれていました。
__いつの日か、全ての人間が私を赦してくれる。
そんな日を願って。
ありがとう。
さようなら。




