救済
ドスッ。
…………
……?
「ぅ、ぁ……?」
咄嗟に瞑った眼をゆっくり開きました。
刺されたお腹が、まるで傷みません。フェリスがクッションになってくれたのでしょうか?
そういうわけでもないようです。
フェリスの背中には一本も、槍が刺さっていませんでした。
どういうことなのでしょう?ゆっくりと辺りを見回しました。
そこには、不思議な光景が広がっていました。
私達を刺そうとした彼らが吹き飛ばされていたのです。
「ぇ……?」
「……アルマ、どうしたの? ってえぇ!?」
私もフェリスも、何が起こったのか分かりませんでした。
……いいえ。
私だけが、何も理解していませんでした。
フェリス含め皆は誰によってこれが引き起こされたのか分かっていたのでした。
最初に口を開いたのはフェリスでした。
「……ルディーノ、さん?」
その名前には、聞き覚えがありました。
あの男か女か分からない、たぶん男の化物みたいな人。
でも、あの人が何をしたのでしょうか?
フェリスの視線を辿り、私もそちらを見ます__
そこには、正真正銘の『化け物』がいました。
80センチほどに膨れた腕。
コートを羽織っているだけの、ムキムキの体。
腕よりもではないですが、筋肉により肥大化した足。
それは人というより、岩人形のようでした。
いや、岩じゃなくて筋肉? 筋肉人形?
「……お疲れ様、二人共♪」
ルディーノさんの声はいつもと変わりませんでした。
強いて言えば、少しくぐもっていた位です。
「ルディ、ィ、ノ、さん?」
「はぁーい、アルマちゃん♪」
必死に声をかけると、ルディーノさんは快く反応してくれました。体は化け物ですが心は人間のようです。
「……おい、何だ貴様は?」
「あら?」
アルマ達の安堵を遮ったのは、一人の男でした。
エティールノ、だっけ。フェリスの親。
噂には聞いていたけど、意外となかなか本当に酷い人でした。
そんな彼に、ルディーノさんは挑発するように向き合いました。
「私はルディーノ。長くて面倒だから名字は言わないけど、ルディーノちゃんって呼んでね♪」
「糞が。貴様も地獄に落ちろ!!」
悪態を吐きながら、彼は懐からあるものを取り出しました。
それは拳銃。
私達を殺す、最悪のアイテム。
「ぁ……!?」
あれは、マズい。
私の本能が、そう訴えかけていました。一発受けたフェリスが、既に大怪我を負っているのです。
いくらルディーノさんとはいえ、耐えれるわけが……!!
「ふふ、大丈夫よ♪」
パァン!
(……あぁ)
撃たれてしまった。
反射的に、私は目を瞑ってしまいます。ルディーノさんが殺される瞬間を、私は、見たくなくて。
カァンッ!!
……?
『カァン』??
「……え、ルディーノさん??」
この場に不釣り合いな、気の抜けた声がします。
フェリスでした。
とはいえ別に、フェリスが変なわけではありません。もし声を出せたなら、私もそんな声を出していたでしょう。
「……なんだ?」
続いて、明らかに困惑したエティールノの声が聞こえました。
こちらも、エティールノが変なわけではありません。
おそらくそこにいた全員……ルディーノさんを見ていた全員が困惑していると思います。
「……うふ、うふふふふふ」
ルディーノさんの肌には、傷一つ付いてなかったのです。
確かに拳銃は……彼? 彼女? とにかくソレに向けられていたはずでした。
しかしその姿は__全く傷ついた様子がありません。
「貴様、どういうことだ!!」
顔を真っ赤にして、ふたたびエティールノが引金を引きました。
パァン!
カァンッ!!
パァン、パァン!
カァンッ、カキンッ!!
カチッ……
カチッ、カチッ……
「なっ!?」
銃から弾が出なくなり、エティールノはさらに困惑します。
全弾命中したにも関わらず、弾はすべて弾かれたのですから。
「あらあら、手詰まりねぇ……♪」
傷付いたようすのないルディーノさんが一歩、また一歩と、エティールノに近づいていきます。
……その見た目はまさに鬼の形相。
ルディーノさんが味方で、本当によかった。
「く、来るな!来るんじゃない、化物が!!」
「フフ、ふふふふふ……」
エティールノも一歩、後ろへ下がります。それに合わせてルディーノさんもまた、一歩。
本人はジリジリ後ずさってるつもりなのでしょうか、既に十メートルは離れています。
次の瞬間、ルディーノさんが叫びました。
「ヴェルニスちゃん、ニーミアちゃんっ!!」
その声に合わせ、上から二つの人影が現れました。
……そう、上からです。
人混みを掻き分けることをせず、ジャンプで私達の下まで来たのでした。
「わあぁぁぁぁぁーーっ!!」
「……ヴェルニス、うるさいわ。」
そして予想通りというか、その正体はヴェルニスとニーミア……なのでしょうか?
声と雰囲気は、紛れもなく二人でした。
では何が違ったのかというのか。体です。
まるで現在のルディーノさんのように、二人の体は筋肉で膨張していたのです。
筋肉人形が三体。なかなかシュールな光景です。
「ねえ、この体使いにくいんだけど! キモいし!!」
「諦めなさい、今だけだから♪」
「そうよヴェルニス。お姉ちゃんはもう諦めたわ」
ズシン! と重々しい着地音の後、二人は私達をひょいと持ち上げます。
どうやら、筋肉は見た目だけではないようです。
「……二人共、どうしたの?」
「ふふ、驚いたでしょ?」
フェリスから聞かれ、ニーミアは笑います。この変化に対し、そこまで嫌ってないようでした。
「……へん、な、感じ。」
「私だって分かってるわよ!な によこのキモい体!!」
「諦めなさいヴェルニス。私もそう思ってるから」
一方、ヴェルニスはとても嫌っているようでした。私が言及しただけでこの反応です。
呑気に会話してると、また声がかかりました。
「ほら二人共! 話してないでアルマちゃん達を運ぶの!」
「やってるって! いちいち指図すんな!!」
ヴェルニスは犬が吠えるように返事したあと私に訊いてきます。
「アルマ、走るよ! 準備いい!?」
「ぅ、ん……??」
走る?
いや、私は無理ですよ? 体が焦げて全身が痛くて、自分の足では……
「フェリスさん、ちょっと失礼」
「え、何__」
一方、フェリスも私のような顔をしていました。
そして、次の瞬間。
「「とうっ!!」」
「ぁ、っ……!?」
「キャアアアアアアッ!!??」
……私達は、空を跳びました。
飛んだのではなく跳んだ。二人がそれぞれ私とフェリスを担ぎ、跳び上がったのです。
「「なんだっ!?」」
「おい、逃げたぞ!!」
「「ばっ、化物だー!!」」
当然、現場は大騒ぎです。
肝心のエティールノは、ルディーノさんに威嚇されてて行動できません。
人混みを抜けると、二人は跳躍から走行に切り替えました。
「フェリスさん、アルマさん、このまま街を抜けるわ!」
「というか、山にも戻らないよ! アイツが用意した隠れ家があるの!」
走りながら、二人が話してきます。表情こそ分かりませんが、声色は楽しそうです。
「かく……れ、が?」
「あ、アルマは無理しないで! ……いいよね、フェリス!」
「えっ、あ、うん大丈夫!」
フェリスが頷くと、二人はさらにスピードを上げます。
……というかこれ、人の速さじゃありません。時速五十キロは出てます。
こうして、色々ありましたが……私達は、街から抜け出すことができたのでした。
※その全てが、小さなものの積み重なりで※
※その全てが、奇跡となって※
※マスターと周りの人間は、幸せを築く※
※奇跡コード 始動※




