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世界を詠う慈悲の魔女  作者: 『H∀Qqy∃ИD』
25/32

魔女の本能

(__あ、無理だ)

目の前まで迫る驚異に、アルマは悟る。


この瓦礫は……防げない。アルマが今まで使ってきたような魔法では、この瓦礫は退けられない。

瓦礫を退かすような持続的な怪力は創り出せても、それを粉砕する瞬発的な怪力は創れない。

この街に来たとき使ったような魔法では……

この場で生き残れない。



(……だったらそれ以外の魔法を使う!!)

そう、()()()使()()()()()()()()()生き残れない、それだけ。

ならば……使()()()()()()()()()()()強力な魔法なら、或いは。

(私はここで死んでいられない。もっと皆と……フェリス達と、笑っていたいから!!)


とは意気込んだものの。

(……どうしよう? 何か使える魔法は?)

魔女の頭脳でアルマは必死に考える。

『使ったことのない魔法』とはいえ、全く使ったことのない魔法は使えない。例えば目の前で爆発を起こしたり、虚空から鎖を出して岩を砕いたり。そういうことはできない。

つまり実質、アルマが使える魔法は限られている。


(私が使える魔法は……大きく分けて五つ。)

ガスコンロ代わりに炎を使うし、冷蔵庫代わりに氷を使う。

包丁代わりに刃を使い、脚立代わりに念力を使い、家電代わりに雷を使う···その程度だ。

つまり炎、氷、刃、念力、電気……この五つをどう使えば、目の前の瓦礫を破壊できるか。



(氷……は、どうかな。)

氷のドームを創り上げれば、瓦礫を防げるか。

__いや、無理だ。そんな時間もなければ、それを創るだけの水も無い。大体、氷のドームが瓦礫の衝撃に耐えられるのか。


(雷は使えなさそうだし、炎は……)

対物に雷だけでは決定打にならない。

アルマが扱える限り超高温の炎を出しても無理だ。この瓦礫の速度では()()()()()()()()()()()()()()()、そのまま落ちてくる。

ペシャンコになるより酷い目に逢うだろう。


包丁レベルの刃で瓦礫はどうにかできない。

念力だって、()()()()()()()()()持ち上げたことがない。

減速こそ可能かもしれないが、おそらく止めるのは無理だ。


__詰み、か?


(いや。可能性はあるはず)

否。

初めから、手札は揃っていたではないか。

(だったら……やってみせる!!)

シエラを背に覚悟を決める。ここで失敗すれば死ぬ。

だからこそ、シエラを死なせないために。

山の友達を悲しませないために。

フェリスと、また笑うために。


アルマは、魔女として立ち向かう。



L(lkqixoz)!!!」

右手を上に掲げ、アルマが叫ぶ。

『エル』。たったその一言。

だが、それで十分だった。


瓦礫が()()()()


否、正確には減速していた。

やはりアルマの力では、瓦礫を止めることはできなかったのだ。



だが、それも計算の内だった。

念力を使ったまま、アルマは別の言葉を叫ぶ。


(gndrj)!!!」

今度は左手と共に、『ジー』の一言。

その言葉はビリビリと辺りに響き……そして、思いもよらぬ現象を引き起こした。


辺りから()()()()()()

ゴオォッ、という音と共に火炎が宙を裂く。


正確には、燃えていた建物から瓦礫に向けて。

いくつもの巨大な火柱が、空中で停止する瓦礫に向かって飛び出した。

そのまま、アルマは叫ぶ。

「溶かせええええぇぇぇぇ!!」

今まで使ったことのない口調で。

今まで出したことのない大きな声で。


変化は、既に起こっていた。

「あっ……!」

側でそれを見ていた男が声を上げる。


瓦礫が()()()()()()()()()()

辺りから吹き出す火柱。その熱に耐えきれず、瓦礫が溶解し始めていた。


アルマにとって、今回の魔法は賭けだった。

自分一人が出すことのできる炎だけでは、絶対に瓦礫をどうにかできない。だから周りを利用した。

初めから手札は揃っていた。念力、炎、『辺りで燃え盛る火災』。


魔法を維持しながらアルマが叫ぶ。

「お兄さん! シエラさんの保護を!!」

「ハイ!!」

目の前のひと異常現象にも物怖じせず、アルマへと駆け寄る男。

__しかし


「熱っ!!?」

「え!?」

駆け寄った男が即座に後ろへ飛び退いた。

「痛……だ、駄目です! 一瞬近付いただけで手に火傷を……!!」

「えぇ!?」

その言葉にアルマは動揺する。


火柱の最も近くにいるアルマ自身は、そこまで影響を受けていない。

後ろのシエラだって、先程から蹲ったまま動かない。男が駆け寄ろうとして火傷するなら、シエラは今頃炎上しているはずだ。

大体、この場は言うほど熱くはない。むしろ()()()()()()()()()()()()()()……


……うん、涼しい?


(……それっておかしいんじゃない?)

冷静にアルマは考える。

魔法に集中していたせいで気付かなかったが、確かにアルマの周辺はもっと熱いはずだ。

瓦礫が溶けるほどである。それこそアルマが炎上していなければおかしい。

大体、ここは火事現場のど真ん中ではないか。吹いてくる風が涼しいはずがない。


(……あ)

辺りを見回すと、アルマはすぐ『ソレ』に気付く。

同時に、この状況がどれほど危険かも思い知る。


アルマの周囲に、()()()()()()()()()()()

アルマの汗が魔法によって固形化し、宙に飛び出していくのだ。

氷の粒は自壊すると共に水蒸気を__主にアルマの外側に向けて__思いっきり噴出していく。その水蒸気が、()()()()()()()()


どうやらその水蒸気で外との温度を中和しているらしい。なので、アルマのすぐ後ろにいるシエラは無事。

だが男は駄目だった。遠すぎたからだ。


……つまり現在、アルマの周辺だけ快適な気温で保たれている。

では、そこから少しでもはみ出たら?

少しでも、快適な気温外に出てしまったら?


答えは簡単。

一瞬で燃え尽きる。



(どっちにしろシエラ危ないじゃん!!)

実を言うと、少しだけ期待していた。

念動力で瓦礫を止めている間、シエラが逃げてくれないかと。

自分は魔法に集中しているため動けない。だが、シエラが動いてくれたらまだチャンスはあったかも……と。

(でも、もう引けない)

もう後には戻れない。

アルマは瓦礫に集中する……既に半分が融解し、それでも落ちてくる瓦礫に。



街から上がる炎は紅。

だがアルマが使う炎はあお。最高出力だ。

「魔女さん……!」

「近づかないで!!」

もう現場の状態は分かった。アルマは大声で後ろの男に呼びかける。


__そんなアルマでさえ、炎の熱さが感じ取れるようになってきた。

__だったら、シエラは大丈夫なのか?


後ろは振り返れない。

振り返れば、集中が途切れる。

そうなれば終わる。



そして、アルマは幸運だった。

()()()()()

それが払われるタイミングはまだ先。

つまり……()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()


かなり小さくなった、まだ人の身長ほどある瓦礫を見てアルマは直感する。

(この大きさなら逸らせる?)

今までずっと、溶かしきることに重点を置いていた。だが別に、瓦礫を壊しきらなくてもいいのだ。

シエラにさえ当たらなければ。自分にさえ当たらなければ。



「いっ……けえぇぇぇ!!!」

それに気付いたアルマは、大きく()()()()()()()()。先程、念動力を使うために掲げた手だ。

そして予想通り、目の前で変化が起きた。



瓦礫が……移動した。


「このっ!!!」

右手につられ、体も大きく傾ける。

それに合わせて、瓦礫も大きく逸れる__

「どっか……いけっ!!!」

その掛け声と共に、腕を振ると……


遂に、瓦礫を弾いた。

アルマ達の2、3メートル先に、瓦礫が落下する。当初より随分と小さくなっているが、それでも相当な衝撃が響いた。

電車一両ほどの瓦礫に、アルマは打ち勝ったのだ__!!



手を下ろすと、念動力と炎が消える。

「シエラさん」

「……アルマ、さん? 生きてるの?」

何が起こったか分からないようで、蹲ったまま辺りを見回すシエラ。

そして困惑した視線。

「……やっぱり、あなた」

アルマのことを、もはや人だとは見ていないような視線。


だが、アルマは気づいていた。

シエラの瞳の奥、恐怖とは真逆の感情があること。

アルマをアルマとして見てくれていること。


だからアルマは胸を張る。

「私は魔女アルマ。森に住む、人が……皆が大好きな魔女」

「アルマ……さん……」

「ほら、行こう? 急いでここから出ないと!」

「……そうね、分かった」

アルマと話しているうちに、シエラは表情を明るくしていく。

魔女が目の前にいる恐怖より強い感情。魔女が守ってくれたという安心感が、そこにあった。


まだおぼつかない足取りで、なんとかシエラは立つ。

震える腕で、アルマに差し出された手を取る。

「……えっと、お兄さん? 何処!?」

「あっ、こっちですよ! こっち!!」

瓦礫と瓦礫の間から、男が大きく手を振る。

「急いでシエラ!」

「うんっ!!」

手を離し、シエラを先に進ませる。

その後に続き、アルマも。



__それは無理だった。



ガツン、

と。


「がっ……?」

アルマの後頭部に衝撃が走る。

ドシャリ、と地面に倒れる。

起き上がれない。

熱い。

苦しい。

息ができない。


魔法の代償。

それが支払われるのは()()()使()()()()()


タイムラグがあるのだ。

魔法が重ければ重いほど、そのタイムラグが大きくなる。

保って数十秒。それが過ぎて、もし体に限界が来れば……


先日のように意識を失う。

その間、()()()使()()()()


周りの爆発音により、アルマが倒れ伏した音は二人に聞こえない。

魔法も途切れるため、炎の熱気が直に当たる。

肌の表面に火傷を負う。

腕が燃える。

足が焦げる。


(誰か……シエラ……フェリス……)

必死に手を伸ばす。地べたを這う。

だが、それでは地面しか掴めない。



そうして、アルマは


一人、街に取り残された。

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