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世界を詠う慈悲の魔女  作者: 『H∀Qqy∃ИD』
23/32

不動の事態

……………………


…………


「……へ?」

話を聞き終え、ポカンと口を空けるのはフェリス。

「だから、フェリスが悪いわけじゃない。フェリスは人を傷つけるような人じゃない、だから___」

ひと呼吸置いて、ヴェルニスが言い切る。

「フェリスを恨むのは、違う。私は、この人を恨まない」



はぁ、と溜め息を吐くニーミア。

「そう。ヴェルニスがそこまで言うなら違うようね」

「ニーミア……!」

その言葉に、目を輝かせるアルマ。

「ごめんなさいね。フェリスさん、あなたを恐れるような真似して。私もなるべく、あなたを恨まないようにするわ」

「すごいっ……! これで皆友達だね!」

「ふふ、アルマちゃんは可愛いわね♪」

嬉しそうにはしゃぐアルマと、それを楽しそうに眺めるルディーノ。

こうして、皆は大団円を迎え__


「いやいやいや! 待って! 待ってよ!!」

迎えなかった。

大団円を妨害したのは、先程まで驚いていたフェリス。

「ヴェルニス……さん?」

「呼び捨てでいいよ」

「じゃあヴェルニス! あなた、お父さんからなんて聞いたの!?」

急かすようにフェリスが言う。逆にヴェルニスは淡々とした様子だ。

「えっと···火を点ける、とか言ってた気がする。」

「何に!?」

「確か家に」


それを聞いて、アルマも話に加わる。

「家に……って、どういうこと!?」

「し、知らないよ。私だって盗み聞きしただけで、それがなんの話かまでは__」

「だとしても、ヴェルニスは聞いたんだよね!? 私の家に火を点けるって聞いたんだよね!?」

「……うん」

頷くのを見て、フェリスが青ざめる。

「火を……何で? 私、何でそんなことされなきゃ……」

「お、落ち着いてフェリス! 何かの間違いかもしれないし、それに……」

思いつめるフェリスを見て、アルマがオロオロする。

最近のアルマはオロオロすることが多い。



「フェリスちゃんなら大丈夫よ。私が守るから♪」


口を開いたのはルディーノだった。全員の視線が一斉に集まる。

困惑した視線、戸惑う視線、それらを無視して、ルディーノが言う。

「私やヴェルニスちゃんで会長さんを見張っておくわ。怪しい行動があったら、すぐ止めてみせる。だからフェリスちゃんは安心して寝てて良いわよ♪」

いつもと変わらない、不敵な笑みで言い切る。その目には確信というより、言い表しようのない自信で溢れている。

だからこそ、不敵な笑みとなり得る。


「え……私も?」

一方のヴェルニスは不安そうだった。



「ほんとに?」

「本当よ♪私を信じなさい♪」

まだ不安そうなフェリスに、ルディーノがウインクで返す。

「フェリス、大丈夫。」

続いてアルマも、声をかける。

「アルマ……?」

「フェリスが危ないときは私が助けに行く。だから安心して。私が付いてる」

「…………」

暫く、フェリスは黙った。二人の言葉をしっかり胸に刻み込む。


そしてすぐ顔を上げた。

「うん、分かった! 二人がそういうなら私、人に頼ることにするよ。信じてる」

その言葉に、アルマは強く頷く。ルディーノも視線をに返した。



ヴェルニス、ニーミア達と結託してから数週間。

アルマは一人でいることが無くなった。フェリスはほぼ毎日来るが、夜遅くにはヴェルニスやニーミアが来るのだ。


アルマは二人に訊いたことがあった。

「ねえ、二人共こんな時間に来ていいの? ニーミアの学校? とか、ルディーノさんは怒るんじゃない?」

二人は飄々と答える。

「別に。あのルディーノって人、怒らないし」

「むしろ私達にはここに行ってほしい、って言ってたわ。あと私の学校はそういうのに関わらないタイプなの。というより関わられたら面倒だから、そういう学校を選んだのよ」

「へ、へぇー」

……学校って選べるんだ。

学校そのものを知らないアルマは、そんなことを思うのだった。


そんな感じなので、もうアルマが独りで悲しむことは少なくなった。

強いて言うなら、フェリスが来ない日の昼くらいか。



そんな稀に訪れる昼。

アルマの背後に伸びる影が一人。


「アルマ」

「その声はっ……!!」

やや大袈裟に、驚いたように後ろを振り向くアルマ。

最近ルディーノから教わったネタである。


そしてお決まりの反応。

「……なーんだ、マグムさんか」

「なーんだって何よ、なーんだって」

アルマに声を掛けたのは魔女マグム。久しぶりの対面である。


「最近どう?」

「まあまあ。悪くはないよ」


__決して、人間と付き合ってるとは言わない。

マグムが人間嫌いなのを知っているから。

「そう、私は大変よ? ここ暫く人の出入りが多くて、わざわざ身を隠さなくちゃいけないもの」

「あ、あはは……」

複雑な気持ちで、アルマは頷く。

人は意外と優しいものだ__と、マグムを諭すことも無かった。


しかし次、マグムが妙な発言をする。


「まあ、そろそろ終わるけど」

「終わる?」

アルマが訊き返す……が、それを無視するように話す。

「ねえ、アルマ。()()()()()()()()()()()()()?」

「え? うーん……」

それはアルマにとって、あまりにも突飛な質問だった。

人から身を隠すことと過去に戻ることに、何の関係があるのだろう。少なくとも、アルマには分からない。


だが、そんなアルマを置いて。

というより、()()()()()()()()()()()()()()()()()()、一人で話を進める。


「過去に戻って、未来を変えられるなら。理想の未来を作れるなら……あなたは、何をするのかしら?」

「えっと……」

「ふふ、()()()()()を心から祈っているわ」

「……マグム、何かあった?」

裏になにか隠しているような、取り繕ったような笑顔。

まるで我が子を見守るような、優しい視線。

いつも見ていたマグムの表情とは少し違う気がして、アルマは首を傾げる。


「いつか分かるわ、この意味が」

それだけ言って、マグムは飛び立ってしまった。



アルマはまだ納得しない様子で、しかしマグムを見届ける。

(……マグムにも、一つや二つくらいヒミツはあるんだろうな)

そんなことを思っていた。

アルマがマグムに対して隠し事__フェリス達人間と会っていること__をしているように、マグムもアルマに対して隠し事をする。

これは何も不思議なことではないだろう。


しかもマグムは、いつか意味が分かると言った。

自分のように最後まで隠すつもりはないのかもしれない。

(私のほうが性格悪いのかも)

そう思ってアルマは苦笑する。

いつか話そう、フェリス達のこと。それからマグムにも理解してもらおう。

善い魔女がいるように、善い人間もいること。

そんな人間くらい、赦してもいいじゃないかということ。



その後、マグムは姿を見せることが無くなった。

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