不動の事態
……………………
…………
「……へ?」
話を聞き終え、ポカンと口を空けるのはフェリス。
「だから、フェリスが悪いわけじゃない。フェリスは人を傷つけるような人じゃない、だから___」
ひと呼吸置いて、ヴェルニスが言い切る。
「フェリスを恨むのは、違う。私は、この人を恨まない」
はぁ、と溜め息を吐くニーミア。
「そう。ヴェルニスがそこまで言うなら違うようね」
「ニーミア……!」
その言葉に、目を輝かせるアルマ。
「ごめんなさいね。フェリスさん、あなたを恐れるような真似して。私もなるべく、あなたを恨まないようにするわ」
「すごいっ……! これで皆友達だね!」
「ふふ、アルマちゃんは可愛いわね♪」
嬉しそうにはしゃぐアルマと、それを楽しそうに眺めるルディーノ。
こうして、皆は大団円を迎え__
「いやいやいや! 待って! 待ってよ!!」
迎えなかった。
大団円を妨害したのは、先程まで驚いていたフェリス。
「ヴェルニス……さん?」
「呼び捨てでいいよ」
「じゃあヴェルニス! あなた、お父さんからなんて聞いたの!?」
急かすようにフェリスが言う。逆にヴェルニスは淡々とした様子だ。
「えっと···火を点ける、とか言ってた気がする。」
「何に!?」
「確か家に」
それを聞いて、アルマも話に加わる。
「家に……って、どういうこと!?」
「し、知らないよ。私だって盗み聞きしただけで、それがなんの話かまでは__」
「だとしても、ヴェルニスは聞いたんだよね!? 私の家に火を点けるって聞いたんだよね!?」
「……うん」
頷くのを見て、フェリスが青ざめる。
「火を……何で? 私、何でそんなことされなきゃ……」
「お、落ち着いてフェリス! 何かの間違いかもしれないし、それに……」
思いつめるフェリスを見て、アルマがオロオロする。
最近のアルマはオロオロすることが多い。
「フェリスちゃんなら大丈夫よ。私が守るから♪」
口を開いたのはルディーノだった。全員の視線が一斉に集まる。
困惑した視線、戸惑う視線、それらを無視して、ルディーノが言う。
「私やヴェルニスちゃんで会長さんを見張っておくわ。怪しい行動があったら、すぐ止めてみせる。だからフェリスちゃんは安心して寝てて良いわよ♪」
いつもと変わらない、不敵な笑みで言い切る。その目には確信というより、言い表しようのない自信で溢れている。
だからこそ、不敵な笑みとなり得る。
「え……私も?」
一方のヴェルニスは不安そうだった。
「ほんとに?」
「本当よ♪私を信じなさい♪」
まだ不安そうなフェリスに、ルディーノがウインクで返す。
「フェリス、大丈夫。」
続いてアルマも、声をかける。
「アルマ……?」
「フェリスが危ないときは私が助けに行く。だから安心して。私が付いてる」
「…………」
暫く、フェリスは黙った。二人の言葉をしっかり胸に刻み込む。
そしてすぐ顔を上げた。
「うん、分かった! 二人がそういうなら私、人に頼ることにするよ。信じてる」
その言葉に、アルマは強く頷く。ルディーノも視線をに返した。
ヴェルニス、ニーミア達と結託してから数週間。
アルマは一人でいることが無くなった。フェリスはほぼ毎日来るが、夜遅くにはヴェルニスやニーミアが来るのだ。
アルマは二人に訊いたことがあった。
「ねえ、二人共こんな時間に来ていいの? ニーミアの学校? とか、ルディーノさんは怒るんじゃない?」
二人は飄々と答える。
「別に。あのルディーノって人、怒らないし」
「むしろ私達にはここに行ってほしい、って言ってたわ。あと私の学校はそういうのに関わらないタイプなの。というより関わられたら面倒だから、そういう学校を選んだのよ」
「へ、へぇー」
……学校って選べるんだ。
学校そのものを知らないアルマは、そんなことを思うのだった。
そんな感じなので、もうアルマが独りで悲しむことは少なくなった。
強いて言うなら、フェリスが来ない日の昼くらいか。
そんな稀に訪れる昼。
アルマの背後に伸びる影が一人。
「アルマ」
「その声はっ……!!」
やや大袈裟に、驚いたように後ろを振り向くアルマ。
最近ルディーノから教わったネタである。
そしてお決まりの反応。
「……なーんだ、マグムさんか」
「なーんだって何よ、なーんだって」
アルマに声を掛けたのは魔女マグム。久しぶりの対面である。
「最近どう?」
「まあまあ。悪くはないよ」
__決して、人間と付き合ってるとは言わない。
マグムが人間嫌いなのを知っているから。
「そう、私は大変よ? ここ暫く人の出入りが多くて、わざわざ身を隠さなくちゃいけないもの」
「あ、あはは……」
複雑な気持ちで、アルマは頷く。
人は意外と優しいものだ__と、マグムを諭すことも無かった。
しかし次、マグムが妙な発言をする。
「まあ、そろそろ終わるけど」
「終わる?」
アルマが訊き返す……が、それを無視するように話す。
「ねえ、アルマ。過去に戻れるなら何をしたい?」
「え? うーん……」
それはアルマにとって、あまりにも突飛な質問だった。
人から身を隠すことと過去に戻ることに、何の関係があるのだろう。少なくとも、アルマには分からない。
だが、そんなアルマを置いて。
というより、質問する意味がマグムにあるかのように、一人で話を進める。
「過去に戻って、未来を変えられるなら。理想の未来を作れるなら……あなたは、何をするのかしら?」
「えっと……」
「ふふ、最善の選択を心から祈っているわ」
「……マグム、何かあった?」
裏になにか隠しているような、取り繕ったような笑顔。
まるで我が子を見守るような、優しい視線。
いつも見ていたマグムの表情とは少し違う気がして、アルマは首を傾げる。
「いつか分かるわ、この意味が」
それだけ言って、マグムは飛び立ってしまった。
アルマはまだ納得しない様子で、しかしマグムを見届ける。
(……マグムにも、一つや二つくらいヒミツはあるんだろうな)
そんなことを思っていた。
アルマがマグムに対して隠し事__フェリス達人間と会っていること__をしているように、マグムもアルマに対して隠し事をする。
これは何も不思議なことではないだろう。
しかもマグムは、いつか意味が分かると言った。
自分のように最後まで隠すつもりはないのかもしれない。
(私のほうが性格悪いのかも)
そう思ってアルマは苦笑する。
いつか話そう、フェリス達のこと。それからマグムにも理解してもらおう。
善い魔女がいるように、善い人間もいること。
そんな人間くらい、赦してもいいじゃないかということ。
その後、マグムは姿を見せることが無くなった。




