表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
世界を詠う慈悲の魔女  作者: 『H∀Qqy∃ИD』
18/32

不敵な対話

フェリスと話している内に、様々なことに気付いた。


例えば、手の届かない場所の果物を摂る時。

果物を潰さず手元まで持っていくのに、実は力加減が必要であること。

加減をしなければ……果物に念動力サイコキネシスをかけた瞬間、粉々に飛び散ってしまうのだ。


例えば、服の収納スペース。

まるで四次元ポケットのように物を詰め込める服だが、思いもよらぬ特性があった。

『着用者の許可がなければ、収納や取り出しができない』という特性。

つまりアルマが寝ていた間にフェリスが懐から魔導書を盗む……といったことはできない。

本人の意識に直接関与するような構造、これは魔法以外に考えられない。フェリスのそんな主張により、これも魔法だと気付く。



いつの間にやら、アルマはすっかり魔法の使い方をマスターしていた。

本人は全く気付いていないが、おそらく賢者並には実力がついているだろう。

「……私って、そんな凄いの?」

「うん!もう凄すぎて__」

以下略。



そうして二人が仲良く話している時、ソレは起こる。


コン、コン。

扉から、ノックがしたのだ。

「「わっ!?」」

二人が小さな悲鳴を上げる。

次に聞こえてきたのは、やや低く男らしい__


「__あら、驚かせちゃったかしら?」


やや低く男らしい、女性語だった。それはフェリスのよく知る声。

アルマは知らない声。

「ルディーノさんか。いーよ」

「ちょ、フェリス!?」

入室を承諾したフェリスに驚く間もなく、扉が開け放たれる。

そこで待っていたもの、それは。


アルマにとって、なんとも形容し難い人間だった。



長く黒い髪、紫色の瞳、野太い声をわざわざ高くしているような声。

その体は筋肉質で……否、筋肉質なんてものじゃない。

確かに見た目は普通、あるいはやや筋肉質に見えるかもしれない。

だが上着の隙間から見えるピチピチの袖、そこから透けて見えるゴツゴツムキムキした腕。

加えて上着で誤魔化しているものの、アルマより二周り以上大きな肩幅……


アルマは驚き、戦慄する。この人は……男だ。

髪は長い。着ているものの半分は女性物。口から出るのは女性特有の語尾。

だが男だ。

体躯がそれを裏付けている。

少なくともあんな女性を、アルマは見たことがない__



断言しよう。

万が一アルマが丸腰で戦えば、間違いなく負ける。

タックルで吹き飛ばされる。

そのまま星になる。


不敵かつ危険物そのものが、アルマ達の目の前に立ち塞がる。しかもフェリスは、それを承諾してる。

仲良さそうに話している。

意味が分からない。

意味が分からない。

大事なことなので二度、いや、そんなこと言ってる場合では__


「それに、ほら。アルマが怖がってるじゃん」

「アルマ? あぁ、あの子なのね」

フェリスが指差すと、異形が……ルディーノと呼ばれたナニカが、クルッとアルマの方を見る。


目が合い、アルマはガタガタと……

それはもう、まるで産まれたての子ヤギのように震える。

「そんなに怖いのかしら?」

「そんなに怖いんだよルディーノさんが」

「変ねぇ、私そんなに怖がられることしたかしら……?」

「…………」

見た目だよ、とは言わないフェリス。

そんなフェリスの気配りに気付かず、ルディーノはアルマへ近付く。


「貴方がアルマちゃんね? 私はルディーノ、ルディーノちゃんって……」

「……っ!! ……っ!?」

物凄く驚いた顔でルディーノを指差し、ルディーノとフェリスを交互に見るアルマ。完全にパニックに陥っている。

「……アルマ、大丈夫だよ。その人、怖くないから」

「……こわく、ない?」

「うん、怖くない怖くない。ほら、手出してみて?」

「……て?」

涙目でフェリスを見つめるアルマ。

その様子はさながら、パニックというよりは幼児退行のようだ。

「フェリスちゃん?私はどうしたら」

「ルディーノさんも手出して。早く」

「もう。今日はフェリスちゃん、なんだか冷たいわねぇ」

ぶっきらぼうに言われ、ルディーノも手を差し出す。

そして、互いに手を差し出し合った二人は__


握手を、した。


いや劇的には言ってみたが所詮握手である。何も不思議なことは起こってない。

しかしそれをキッカケに、アルマの震えが少しずつ治まっていく。

「……こわいこと、しない?」

「しないわよ。あなたみたいな可愛い子には、ね♪」

「__ふぅー、ビッックリ、したぁ……」

ついでに幼児退行も治る。



「あ。それで、ちょっといいかしら?」

「え、うん」

閑話休題と言わんばかりに話すルディーノに、フェリスが頷く。

「フェリスちゃん、今何時か分かる?」

「何時……ううん?」

「実はね、もう夜なのよ」

「夜かぁ…………」


「え?」

頷きかけて、フェリスは目を見開く。

「嘘!? 夜? え、夜!?」

「ええ。外に出て見たら分かるわ」

それを聞くなり、フェリスは飛び出し部屋の外に出る__

「うわーーーっ!?」

廊下にフェリスの大声が響くのは、そう遅くなかった。



ダダダダダ、と足音を立てて帰ってくるフェリス。

「なんで!? 私が来たときはまだ明るかったじゃん!?」

「フェリスちゃん、よっぽど会話に夢中だったのね♪」

「わーっ!! 帰る! 私急いで帰る!!」

「ふぇ、フェリス……?」

突然焦り始めるフェリスを見て、ポカンとするアルマ。

先程まで落ち着き払って……はいなかったかもしれないが、パニックを起こしていなかったフェリスが、これだけ焦るのが不思議だった。


「どうしたの?」

「あ……アルマ。私のお父さんの話、したよね?」

訊かれて、アルマは思い出す。フェリスの父は、街では偉い人だということ。

その人は少々横暴だということを、ニーミア達二人から聞いたのも同時に思い出す。


「私のお父さん、門限に厳しいの。日が沈んでも帰らなかったら、総出で探しにくるの。」

「それは……優しいんだね」

「道行く人を『フェリスの拉致容疑』とか言って牢屋に入れてても?」

「それは……」

「この前も家で怒鳴り散らしてさ。もう近所迷惑……って、話してる場合じゃなかった!」

話を終えるなり、フェリスは部屋を飛び出そうと__




「その必要はないわ。今日は帰らなくても大丈夫よ、フェリスちゃん♪」



その言葉を聞き、立ち止まる。

「……帰らなくて、いい?」

「ええ。むしろ今出てかれると、私が困るというか……」

フェリスとは反対に、不気味なほどの笑顔で言い放つ。

「なんで!? このままじゃ街がパニックになっちゃうじゃない! そうなる前に私が__」


「フェリスちゃん。街、パニックだった?」

「何言ってるの! 勿論……」

そう言って振り返り、窓を覗く。今すぐ帰ったとしても街は大騒ぎだ。

父が騒ぎ倒し、各場所で騒ぎが……


そこまで考えて、初めて気付いた。

静かなのだ。

既に日は落ちており、門限を過ぎている。父が勝手に決めた門限は、()()()()()()()

もしフェリスが帰ってなければ、街は大変なことになっているはずだ。

なっている、はずなのだ。


街はいつもと変わらず静かだった。

あまりにも静かすぎる気がして、フェリスの額から冷や汗がにじみ出る。

その後ろ姿を、笑みを浮かべて見守る人物が一人。


「クク、ねえフェリスちゃん……いいえ、()()()

ルディーノが面白そうに、可笑しそうに言う。

「幸が不幸か知らないけど……アナタは今日、()()()()()()()()()()()()()()()()()()



感情を読み取れない、ルディーノの不敵な笑み。

その表情からは、得体の知れない__魔女のような狂気が、浮かんでいるようにも見えた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ