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世界を詠う慈悲の魔女  作者: 『H∀Qqy∃ИD』
16/32

アルマの本音

…………

……


私は笑っていた。

沢山の人と、友達と、笑い合っていた。

ずっとこの時を待っていた。魔女と人の壁が取り除かれ、平和に過ごすことができる日を__


否、それは幻想だった。

ある人が、アルマが魔女だと知った。その人はアルマから離れていった。

一人、また一人とアルマの元から離れていく。

アルマはそんな人々を止めることもできず__

そして、最後の一人でさえも。



「う、ん……?」

__嫌な夢を見た。

改めて自分は魔女なのだと、独りなのだと再確認させられるような。



目を覚ますと同時に、アルマは違和感を覚える。

寝心地がいつもと違う。ここはアルマの家の図書室でも、自分の部屋でもない__

「……ここ何処!?」

それをはっきり認識して、アルマは跳ね起きる。丁寧に布団が掛けられていたが、それもいつもの……アルマ家のものではなかった。

アルマが寝ていた部屋は、一畳半程度の狭い部屋だった。ベッド、クローゼット、机がギュウギュウに詰め込まれた上に、アルマが放り込まれた感じだ。


まず咄嗟に、アルマは魔法陣を描く。

(……よし、これでいつでも魔法を使える)

武器を得て安心したところで、現在の情報を整理する。確か自分は、熊さんを助けたはず。

だがその後、疲労で倒れてしまったのだ。

魔法というのは使い勝手のいい技術だが、代償として使用者の体力を奪う。日常生活に取り入れるだけなら少し疲れるだけで済むが、重傷の治癒ともなれば非常に多くの体力を使う。

例えるなら、十八時間ほどのフルマラソンを完走するくらいだ。

間違いなくぶっ倒れる。


つまり自分は、フェリスとシエラの前で倒れたことになる。

アルマは二人が見ている中、魔法で熊の傷を治したのだ。魔法を、目撃されたのだ__

(もしかして、私が魔女だってバレた?)

だとしたら、自分は現在捕まっていることになる。

それはマズい。アルマは魔女なのだ、このままでは殺されてしまう。


ベッドから降り、部屋を調べる。

クローゼットには何も入っておらず、机の上も手鏡以外は何も置いていない。

他には……ベッドのすぐ近くに、木製の扉がある。

(……出口?)

いや、アルマは監禁されているのだ。警備がここまで緩い訳がない。

緩い、訳が__


ガチャッ!

扉を睨んでいると突然、その扉が開かれる。


そして、アルマは不幸だった。

すぐ近くで扉を観察していたため……アルマの額目掛けて、扉が開け放たれたのだ。


ゴンッ!

「痛___っ!!」

「わ、ちょ、アルマ!?」

扉を開けたのは……フェリスだった。

アルマの声に驚き、すぐに側へ駆け寄る。

「アルマごめん! 怪我してない!?」

「うん、これくらいだったら__」

そう言いながら額に手を当て、魔法を使おうとした所で……体が止まる。

いくらフェリスとはいえ、相手は人間。目の前で魔法を使えば、何を言われるか、



「アルマ、大丈夫だよ」


「……え?」

その言葉に、アルマは大きく目を見開く。

大丈夫……それは、どういう意味なのか。


小さく息を吸い込んで、フェリスが話す。その言葉は確信に近かった。

「……アルマはさ、魔女でしょ」

「それは!」

「私、前にも言ったよ。アルマが魔女でも大丈夫だって」

「そうだけど……」

その言葉に、アルマが言葉を詰まらせてしまう。


確かに、フェリスは言ってくれた。

例えアルマが魔女でも、アルマとは友達であり続けると。

アルマのことが__好きだと。



だが、アルマはまだ()()()()()。ひょっとすると、万が一ということがあるんじゃないか。

そして、アルマが魔女だということを隠し続ければ、その万が一も心配しなくていいんじゃないか。

アルマは__フェリスを疑ったが故に、未だ嘘を吐こうとしていた。



フェリスが続ける。

「私、アルマが魔女でも友達でいるって……アルマが好きだって言ったよね」

「…………」

「大丈夫。怖いかもしれないけど、私は信じる。もう疑いたくない」

「疑う……?」

「うん。私はアルマが魔女でも、そうじゃなくても、友達であり続ける。だから……『アルマが魔女かもしれない』って、疑いたくない」

「でも」

「でも、じゃない。私のために……魔法を、見せて?」

フェリスのため。


前に、フェリスは言っていた。

『魔女かどうかなんて関係ない』

そして今、こう言った。

『アルマが魔女かもしれないって、疑いたくない』


フェリスは、アルマが魔女だということを気にしない。

ただ、アルマが魔女だという確信が欲しいだけ。

フェリスの疑念を晴らすため、その疑念を確信に変える……アルマは困惑する。


今ここでフェリスに魔法を見せたら。

実はフェリスは、アルマのことを普通の人間だと信じていたら。

ここで魔女だということを露見して、フェリスを裏切られたような気持ちにでもしたら__

そうしたら、今度こそアルマは独りになる。



だけど。

フェリスは、アルマを信じると言ってくれた。

例え魔女だったとしても……友達でいてくれると、言ってくれたじゃないか。

だから、だから私は__

私もフェリスを信じて、魔法を見せる。


魔女だということを、ここで証明する。



ボッ、と。

ガスコンロに火を点けるような音が、部屋に響く。

「わ……!」

それを見守っていたフェリスも、驚きの声を上げる。

アルマの掌には、()()()()が灯っていた。


手品だと言われれば、そう見えるかもしれない。

だが種も仕掛けも無い。アルマが使っているのは、間違いなく魔法なのだから。


「……その炎、アルマがやってるの?」

確認として、フェリスが訊く。

コクリと頷くアルマ。

「もう少し大きくできたりするの、その炎?」

コクリ、と再び頷くアルマ。

その直後……ゴオッ、と炎の勢いが瞬く間に強くなる。


「わっ、ちょ、抑えて抑えて!!」

フェリスに慌てて静止され、アルマは咄嗟に炎を止めてしまう。

「あ……」

「ふぅ。危うく火事になるところだった……」

そう言って、フェリスが上の方を指差す。

アルマは上を見上げ、そして納得した。()()()()()()()()()()()のだ。

アルマが起こした炎はあまりに大きすぎて天井に達した。フェリスが止めていなかったら、プラスチックの天井が溶け落ちてきただろう。



「……やっぱり、魔女だったんだね」

その一言で、アルマは我に返る。

そうだ。フェリスは……確かに、アルマの魔法を見たはずだった。

「私、ずっと疑ってたの。アルマが魔女かもしれないって。もし魔女でも、友達であり続けれるかな、って」

その言葉で、アルマはつい身構えてしまう。

やっぱり、駄目だったのかも。


『魔女()()()()()()』と『魔女()()()』は全くの別物だ。危険視していた事態が事実になった今……フェリスは、まだ友達でいてくれるのか。

まだ、アルマのことを好きでいてくれるのか……




当然、そんな心配は要るはずもなく。



「やっぱり凄いよ、アルマ!」

突然声のトーンを変え、明るい表情でフェリスが言う。

「……え」

「やっぱりアルマは魔女だったんだ……うん、素敵。ハッキリしなかったから私、不安で不安で。実はアルマが魔女じゃなかったら……なんて思っちゃってた!」

「ふぇ、フェリス?私は本当に魔女なんだよ?それでも、私と__」


「そんなの関係ないよ!!」

その一言。

たった一言でアルマの人生観が__良い意味で__打ち壊された気がして、固まってしまう。


「そんなの関係ない。大丈夫」

少し落ち着いて、フェリスが言う。

「アルマが魔女でも、そうじゃなくても関係ない」

少し照れくさそうに……だがアルマの目をしっかり見て、フェリスが言い切った。

「だって私は……『アルマ』が好きなんだよ」


嘘なんかでは無かった。

例えアルマが魔女でも、友だちであり続ける……あの時のフェリスの言葉は、嘘ではなかった。


それなのに……今までそれを疑って、魔女であることを言えないでいた。

フェリスがアルマを疑っていたように__私も、アルマもフェリスを疑っていたのだ。


「ごめん」

出てきたのは、謝罪だった。

「ありがと」

次に出てきたのは、感謝だった。


こうして、二人の仲は確かなものとなる。

独りでいることをやめた魔女は__親友と隣合わせに立ち、もう迷うことはない。




「……やっぱり、あの子が」

扉の前に人影が一人。

二人の会話を、静かに聞いていた。

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