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世界を詠う慈悲の魔女  作者: 『H∀Qqy∃ИD』
15/32

魔女の力

二人の目の前には、異様な光景が広がっていた。

血塗れのフェリスと、それに覆いかぶさる熊。

それはひょっとすると、アルマが想定していた最悪の事態かもしれなくて__


「フェリスッ!?」

声を上げたのは、アルマ。

熊に覆いかぶさられているフェリスの下へ、急いで駆け寄る。

「アルマ……助けて……」

「ま、待って!今すぐどけるから!」

そう言って、アルマは熊を退ける。


……簡単に退けたが、百キロほどある熊をヒョイと退けて見せたのだ。シエラの目の前で。

その光景を見たシエラは__

「え、嘘フェリスさん? 会長の子供さんが山で、血塗れで……え? えぇ?」

__パニックに陥っていたので、アルマは事なきを得た。


熊を退けられ、ようやくフェリスが顔を上げる。

今まで地面に突っ伏している格好で、熊の一部に潰されていたのだ。

「はぁ……はぁ……ありがと、助か__」

「フェリス! 大丈夫? 怪我は? 何があったの!?」

当のフェリスを差し置いて、アルマが心配の声を上げる。しかし……



「どうしたの、そんな慌てて?」


フェリスは息を整えると、飄々とした態度で言った。


あまりにも自然に話すので、アルマはさらに驚く。

「え……? フェリス、怪我は?」

「怪我? 擦り傷とかはしてるけど」

「じゃあその血は!?」

「血……? あ、コレ?」

アルマに言われ、フェリスは自分の服を指差す。

「コレ、()()()()()()()()()

「えっ?」

「……ちょっと説明が必要かも」

余計に訳が分からなくなるアルマ。それを見て、フェリスは少しだけ失笑してしまう__




事の発端は数十分前まで遡る。フェリスは今日もアルマに会いに行くため、山道を歩いていた。

(今日は新しいのもあるし、アルマもきっと喜んでくれるよね)

フェリスのポケットには、最近新しく買った紅茶の茶葉が入っている。

ちなみに専用のポットはアルマの家に置きっぱなしである。母が紅茶好きで、家に三つほど残っていたのだ。

楽しい時間を期待して、スキップで山道を進むが__


だが、その途中で妙な音を聞く。


『パァン!』

「やっ!?」

突然、破裂音のような音が山に響き渡る。その音はまるで風船が割れたような、まるで爆発音のような__

まるで、銃声のような。

「もしかして……アルマが、バレた?」

前々から噂されてる災厄の魔女。もしアルマの存在がバレて、災厄の魔女だと勘違いされたなら……

そうとしか思えなくなってしまう。フェリスは急いで、音のした山奥へと走る。


山の中腹……アルマの家とは少しは慣れた位置に、ソレはいた。

熊が、血を出して倒れていたのだ。

「これって……何かに、襲われたの?」

否、熊を襲うような……ましてや、熊にこんな深手を負わせるような動物はいない。

少なくとも、この山にはいないはず。

__すると考えられるのは、先程の銃声。

「じゃあこれって、人がやったの?」

恐る恐る、フェリスは熊へ近付く__


「グルル……」

「キャーーッ!?」

突然熊に睨まれ、尻もちをついてしまう。まさか生きているとは思わなかったのだ。


しかし、そんな程度でフェリスは引かない。

アルマが住む山の動物なのだ。たとえ猛獣だったとしても、助けられる命は助けたい。

「……でも酷い怪我。すごい血が出てる……どうしたら……」

フェリスは現在、紅茶の茶葉しか持っていない。

当たり前だが、こんなものでは傷の手当なんてできない__



その時。

『……お前は、アルマの知人か?』

フェリスの頭に、不思議な声が流れ込んでくる。


「誰!?」

当然、フェリスは驚いて辺りを見渡すが__

「……?」

自分以外、辺りには人影すら見当たらない。しかし声は、続いて頭に流れ込む。

『……奴等は、奥へ行った。もしかすると、奴らはアルマを……』

「アルマを?」

『撃つ気かもしれん』

「それは駄目!!」

声の返答を聞くなり、フェリスは焦りだす。

「ねえ、誰か分からないけど……アルマがどこにいるか分かるの!? もし分かるんだったら、私を連れて行って! 私なら庇える!!」

『何……? アルマを庇う、だと? 人間が?』

一方の声も、困惑を隠さなかった。しばらくの間、沈黙がフェリスを包む__


話を切ったのは、声の方だった。

『分かった。ただし条件がある』

「条件?」

『……そこの、凛々しい小熊を連れて行くのだ。』

「凛々しい……熊を!? アルマの所まで!?」

『そうだ。生きた状態でな』

「生きた状態って」

見た限り、熊は腹から大量の血を流している。かなりの生命力だが、おそらく熊はもう__

『……このままでは、その勇敢な熊は助からないだろう』

「それは悔しいけど、だったら……!」

『……だが、その豪快な熊の命が尽きた時、私の声も潰える。アルマの下へは辿り着けないだろう。』

こんな熊をアルマの下まで連れて行くのは、無茶だ。フェリスにそんな筋力はない。

だが、そうしなければ自力でアルマを見つけなければならない。家にいれば幸運だが、もし不在だったなら__

この広く見通しの悪い山中を探し回る羽目になる。そうなってしまえば、見つけるのは不可能だ。


『……選べ。もう時間は無いぞ?』

声の主は最後まで落ち着き払って言い……しかし、それがフェリスの焦りを加速させた。

完全に極限状態まで追い詰められてしまったフェリスは、声に対し__



「分かったわよ! 引きずってでも何しても連れてってやる!!」

熊を、連れて行くと。

小熊とはいえ、百キロはあるだろうソレを連れて行くと宣言する。


『……そうか。では私……じゃなかった、そこの熊を連れて行け。私が道案内をしよう』

「任せてよ」

焦りが混じっているとはいえ真剣な表情で、フェリスが応える。

こうしてフェリスは、熊を引きずりながら山へ入ることになったのだが……


数十分後、つまり現在より少しだけ前。

「も、もう無理ー……」

熊の重量に耐えきれず、フェリスは力尽きてしまう。

当たり前だ。今まで火事場の馬鹿力と言わんばかりの勢いで運んできた。数十分保っただけでも凄まじい。


今まで血塗れの熊を運んできたこともあり__そして熊の下敷きになり、フェリスは血塗れで地面に突っ伏してしまう。

「大体、ここまで運べたのが凄いと思うよ……ねえ、女の子に力作業なんて無理だよー……」

『……うむ、ここまでご苦労。背負わず引きずっていたのは少し、いやかなり痛かったが__』

「そんなことより! アルマは無事なの!?」

熊の下からフェリスが言う。体は限界だが、精神はまだまだ元気そうだ。


『……あぁ、ここからなら届くかもしれん』

「届くって?」

『アルマは今、近くにいる。大声で呼べば……或いは』

「本当!?」

それを聞くなり、フェリスは大きく息を__

「ゴホッ、おぇ、獣臭い!」

吸い込めなかったものの、二度目はしっかり息を吸い込み__


大きく叫んだのだった。

「アルマー!! 助けてーー!!!」




「……ってことがあったの。」

血塗れの身体でフェリスが話す。疲労こそ見えるが、おそらく健康そのものである。

「えっと、じゃあフェリスは大丈夫なの?」

「うん、アルマに触られたらすぐ元気になっちゃった」

「熊さんは?」

「それは……沢山血が出てて、もう__」

「熊さんっ!!」

話を聞き終わる前に、アルマが熊へ駆け寄る。

「…………」

「熊さん! 大丈夫、私がいるよ!」

「アルマ……その熊は、もう……」

暗い表情でフェリスが宥めるが、アルマは聞かない。

もう吐息も聞こえないくらい多量出血で弱った熊。その傷口に、そっと手を当てる__


確かに熊の命は、あと僅か()()()()()()()()()

腹に空いた、いくつかの風穴。開拓班によって空けられた傷だ。

そう簡単に塞がるものではない。


無論、魔法を除いて。


「……ぇ」

無表情で呟く。それ以上の言葉は出なかった。

「嘘……」

後ろで見ていたシエラも言葉を失ってしまう。それくらい信じられないことが起こった。


熊が、起き上がった。

アルマが手を添えてから、たった十数秒。

腹の銃痕はいつの間にか完全に塞がり、血は一滴も出てこない。

「グルル……ガアァァッ!!」

衰弱していた頃から一転、熊も完全に気迫を取り戻す。

その光景を、二人は少し離れた場所で見ていた。


特にフェリスは、その光景に目を惹かれる。

(……凄い)

特にフェリスはここまで熊を運んできたのだ。どれだけ熊の傷が深かったのか、よく分かっていた。

引きずる度に、傷口から血が滲み出てきた。

時間が経つごとに、熊の吐息が静かになっていった。

熊を取り巻いていたのは、間違いなく死の雰囲気だったはずだ。


それをアルマは……たった一瞬で、完全に取り除いて見せた。

遠吠えで空気がビリビリと振動する。それほど力強く回復した熊に、先程の瀕死な様子は微塵もない。

現代の医療技術では治らないような重傷を、手品のように治したのだ。

しかもフェリスには、その手品の種が分かっていた。

(これが……魔法、なの!?)

目を輝かせて、アルマを見つめる。

友達が魔女。その事実には後ろめたい気持ちより、誇らしい気持ちが強く残った。



「下がって!!」

フェリスが感心していた時、ようやくシエラが動く。

熊を危険と判断し、自分を盾にフェリスを守ろうとする__しかし無論、その必要は無い。

「ガルルル」

熊は二人を一瞥すると、のっそりした動きで山へ戻っていく。


『ありがとう、小娘よ』


「熊……さん」

その後ろ姿を、フェリスも最後まで見送った。





その場には、三人が立ち尽くす。

皆、呆然としており、誰一人として喋らず……

「……ん?」

その状況に、フェリスが首を傾げる。


フェリスとシエラの二人が黙るのは、まだ分かる。この瞬間、何が起こったか分からず呆然とするからだ。


だが()()()()()()()()()()()。呆然とする必要もない。むしろ、フェリス達二人に話しかけるはずだ。

今のは医療だと、魔法でも何でもないと……自分は魔女ではないと言い訳するために。

それをしないということは__?



アルマに、何かあったのかもしれない。


「アルマッ!!」

異常事態に気付いたフェリスは、急いでアルマに駆け寄る。

案の定__アルマは、膝から崩れ落ちる瞬間だった。あと一秒というところでフェリスが横から支える。

「アルマ! 大丈夫!? しっかりしてアルマ、アルマッ!!」

「……うぅ、フェリス……?」

薄っすらと目を開け、アルマが呟く。

そんなアルマを揺さぶりながら、そして涙を浮かべながら叫ぶ。


消えてしまう気がした。

熊の傷を治した代償に、アルマの命が消えてしまう気がしたのだ。

あれだけの傷を治したのだから、命くらい取られてもおかしくない……そう思ってしまった。

だから、ここでアルマの気を失わせるわけにはいかないと__



アルマがその一言を発するまで、思っていたのだった。


振り絞るような声が、アルマから出る。

「……エネルギー、切れ。」

「アル__え?」

何度も揺さぶり呼びかけていたフェリスは、咄嗟に動きを止める。少ししてからアルマが話し出す。

「……頑張ったから、疲れちゃっ、た。元気が、無く、なっちゃっ、て」

そこまで言い、ガクッと__糸の切れた人形のように、動かなくなってしまう。

可愛らしい寝息を立てながら。


その一部始終を見て、フェリスの張り詰めていた緊張が一気に解ける。

「はぁー、心配しちゃったじゃん。」

「くぅー……スゥー……」

「私はアルマを心配して……涙まで、出ちゃったのに……」

「ムニャ……えへへぇ……」

「……良かった」

気持ち良さそうに寝ているアルマを見ると、ついフェリスも笑顔になってしまう。


何時の間にか時間は夕方。

二人は一旦、アルマを連れて街へ戻ることになる。

(この記載は、物語と直接関係ありません)


__あとがきから失礼します。

少しだけお知らせがあって参りました。


偶にこの話を振り返り、ところどころ修正していきます。

小さな部分の修正です。ですが今回、ちょっと大きな修正をしたのでお伝えします。


フェリスの見た目です。

最初の方で、フェリスは『肩までの茶髪』と言いましたが、これを『肩までの白銀色の髪』に変更します。

4/26以前に読んでくださっていた方は、そこを留意して今後の展開をお楽しみください。


ほんとごめんなさい。

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