開拓班と治療専門
開拓班。
それは一文で表すなら、安全な山道を探すための部隊。
アルマは女性から、開拓班について事細かに説明された。
曰く、女性が住む街とは違う別の街が山の近くに存在する。その街は山を挟むようにあり、二つの街は物資を供給し合っている。
所謂、貿易というものだ。
だが山を回り道するように移動するため、物資を運ぶのにはに時間がかかる。そこで、山を突っ切って進めるルートの開拓を始めた。だが、そこに思わぬ誤算があった。
本来この地域には生息していないような獣、それも猛獣が大量に生息していたのだ__
話を聞き、アルマは首を傾げる。
「え、生息しない?」
「例えば__さっきの狼だってそうじゃない?」
「え……えぇ!?」
アルマが驚いていることには気付かず、女性は話し続ける。
「あの白銀の毛並み、金色の瞳……生息しないどころか、数年前に絶滅したと言われる、『グレイオオカミ』よ! きっとそうよ!」
「そ、そうだったかな……そういえばそうかも。」
興奮気味に語る女性に圧倒されつつ、アルマは頷く。
話を戻そう。
獣はそれぞれ自分のテリトリーを持っており、山中はほぼ埋め尽くされていた。
山に足を踏み入れれば最期。獣に追われ八つ裂きにされ、貿易品も荒らされてしまう。
その事実を受け、御役人は開拓チームを設けた。
この開拓チームに、山の安全な道を作ってもらおうという魂胆なのだ。
戦闘班のピエール、探索班のエリアス……街の精鋭が、その開拓班に組み込まれた。
特に、医療班であるシエラは二十代という異例の若さの女性である__
「そう! 私こそが医療班リーダーを務めるシエラ・ディサイズ! 治療は私に任せなさい!」
「そ、そっかぁ……」
医療って、そんな大事な技術なのかなあ。
魔法ですべてを解決するアルマには到底、理解できるものではないのだった。
しかし同時にアルマは驚いていた。開拓班なんて話、聞いたことがない。しかもこの女性……シエラが本当に医療班とやらのリーダーなら、実は凄い人なのかもしれない__
そこでアルマは、自分の腕に巻かれた包帯を思い出す。
不自由は感じず、しかしちゃんと血は止まっている……これを短時間で施すのだ。医療の知識が無い訳ない。
そして、傷に対する過剰な反応。彼女が医療班なのだと思うと、少し納得できた。
しかし同時に、疑問が浮かぶ。
「あれ……じゃあ、他の開拓班の人は?」
アルマが訊くと、暗い表情をしてシエラが答える。
「実ははぐれちゃったのよ。さっきみたいに動物に襲われてバラバラ」
「襲われた?」
「ええ。その後、逃げても逃げても別の動物に追われるから。私、必死に逃げてたの。そしたら一人になってて……」
その話を聞いて、アルマは沈黙する。また新たな疑問が生じたのだ。
(私の友達は、無闇に人を襲ったりしない)
アルマは知っている。
この山の動物は、そんなに血気盛んではない。
例えばフェリスは六、七回__アルマと初めて紅茶を淹れてから後日、数回遊んだ__ほど家に来ているが、そんな彼女を動物は襲わない。
つまりシエラが襲われたのには、なにか理由があるのだ__
「シエラ……さん?」
アルマは真剣な表情でシエラに訊く。
「山の中で、何か変なことしませんでしたか?」
「そうね……邪魔な茂みを切ったりしたかも。私の肩くらいまで生えていたもの」
「…………」
それだ。間違いなくそれだ。
納得した。この山中で茂みは、動物のテリトリーを区別する壁のようなものだ。
それを無断で壊されれば、動物も怒るだろう。
「あ、他にも生体調査で狐を追いかけたり、珍しい植物があったから持ち帰ったり__」
「…………」
もはや確信の領域。
シエラ達は故意的ではないにせよ、動物たちを怒らせている。ましてや__
「動物に襲われた時、どうしたの?」
「え? ピエールとアリーが応戦したわよ?」
「応戦。」
「サバイバルナイフと拳銃で」
「拳銃。」
確信を通り越し、アルマは呆れていた。
要するに、彼らは山の住民を傷つけたのだ。しかも拳銃となれば、その銃声は山中に響いただろう。
つまり。
山の動物……アルマの友達はシエラ達を警戒、敵視している。
現在シエラはアルマと共に行動しているため、襲われることは無いだろう。しかし、はぐれたシエラの仲間は__
(助からないかも……なんて、言ったら駄目だよね。)
仲間を失うことの辛さ。それは、アルマ自身がよく分かっているつもりだった。
アルマだって、もしフェリスが死んでしまったら……正気でいられるか分からない。
いや、フェリスだけではない。この山の動物達だって__
「あっ……!?」
その時、アルマの中で最悪の未来が予想される。
「ねえ、シエラ!」
「えっ……っと、何?」
突如として焦りだすアルマを目の前に、シエラは少しだけ動揺する。
「拳銃、動物に当たってないよね! 外したよね!?」
「それは……分からないわ。」
「分からないって? 当たったってこと!? ねえ!」
焦ったように大声で言うアルマに対し、シエラは冷静に答える。
「……そうかもしれない。身を守るのに必死で、二人が銃を撃ってたのは覚えてる。」
「そんな……!」
もし弾が動物に当たっていたら、その動物はただでは済まない。
たかが一匹とはいえ、アルマにとっては大切な家族だ。そんな大切な家族が一人、アルマの元から消えたと思うと__
アルマの目から、涙が零れ落ちる。
「そんな……そんなことって……」
「えっ、えっ? あの、大丈夫?」
突如泣き出したアルマ。
それを見て、しかし何もできず、シエラはただアルマを見守るしかなかった。
だが、泣く余裕すらアルマには与えられない。
『…………マー』
その音を最初に聞き取ったのはアルマだった。
「……?」
目元を拭き、顔を上げる。
確かに今、何か聞こえたような__
『……ルマー、アルマー……』
誰かが、アルマの名前を呼んでいる。
「……ん、何かしら?」
シエラも声が聞こえたらしく、辺りを見回す。
その間もじっくり耳を澄ましていると__
『……アルマー、助けてー……』
突然、アルマが立ち上がる。
「フェリス!?」
間違いない。アルマの耳に届いた声はフェリスのものだった。
そのフェリスが、近くでアルマを呼んでいる。助けてと叫んでいる。
「フェリス! どこにいるのー!?」
「フェリスって……あのフェリスさん!?」
アルマの声を聞いて、シエラも立ち上がる。
『アルマ、こっちー……』
「今行く、待ってて!」
「ど、どこ行くの!?」
声がした方角を正確に割り出し、アルマは駆け出す。それに続いて、シエラも走り出す。
場所は、そう遠くなかった。
二人は声の主を見つけた。見つけたのだが__
「こ、これは……?」
「フェリス……なの……?」
見つけ出した人物がとんでもない状態であり、二人は目を疑う。
フェリスは__血塗れだった。
血塗れの状態で、熊に覆いかぶさられていた。




