探索者
フェリスとあの会話をしてから一週間。
アルマは家で紅茶を淹れていた。
次フェリスが来たときの為、練習しているのである。
「うーん……? 自分じゃよく分かんないかも」
だが自分で淹れた紅茶は、自分ではイマイチ味が分からない。
溜息を吐きカップを置こうとした__その時。
悲鳴が山に響く。
「キャアアアアァァァァッ__!」
「うわっ!? ……あ、やっちゃった。」
びっくりして、自分のスカートへ紅茶をひっくり返してしまう。
しかし、アルマが着ているのは魔法の服。紅茶をひっくり返すくらい何とも無いのだが……
「そんなことより今の悲鳴、フェリス?」
いや、ニーミアかもしれないしヴェルニスかもしれない。
甲高いその声は誰のものか分からなかったが、もし自分の知り合いだったら……
「す、すぐ出なくちゃ!!」
背筋がゾッとして、アルマは家を飛び出す。
結果から言うと、急ぐ必要はなかった。
悲鳴を上げた人物は、フェリスでもニーミアでもなかった。
ヴェルニスでもない。
悲鳴を上げたのは__アルマの知らない女性だった。
山中には似合わない白衣に、黒のミニスカート。見る人が見れば、医者か何かのフィールドワークと勘違いするだろうか。
「い、いやっ!」
何かに怯えるように、その女性は後ずさる。肩まで伸びた青髪が揺れる。
彼女の目の前、茂みの奥には___
金色に光る目が、六つ。
『ガルルルル……』
『グルル……』
『…………』
三匹の何かが、そこに居た。
アルマがそれを見つけると同時、その三匹は茂みから飛び出し__
「駄目っ!!」
それを見つけたアルマも同時に、女性とソレの間に飛び出した。
ガリッ。
「いっ……!」
「ワンッ!?」
噛みつかれた腕から、血がダラリと垂れる。
茂みの奥から飛び出してきたのは、灰色の狼達だった。
「いたた、駄目でしょ? 人に飛びついたりしたら」
「ガルルル……」
「君は一番お兄さんなんだから、皆を纏めないと」
「グル……」
「次男の君も。危ないと思ったら、お兄さんを止めていいんだよ?」
「グルル……」
「最年少の妹さんも。飛びついちゃ駄目!って思ったなら、君だけでも踏み止まらないと」
「クゥーン……」
それぞれ顔見知りのようで、アルマは三匹を軽く叱る。
「……それじゃ、気を付けてね。」
「「「ワンッ!!」」」
やっと開放されたと言わんばかりに三匹が茂みへ戻る。その様子はまるで支配者と奴隷……というより、先生と生徒だった。デジャヴを感じる。
無論、アルマが支配者もとい先生である。
「……ふう。行ってくれたね」
狼たちを見送り一息つくアルマ。あとは後ろの女性をどうするかである。
「あ、あの。怪我はありませんか? 大丈夫?」
「え、えぇ……って、怪我したのは貴方じゃない! 腕は!?」
フェリス達と話したせいか、アルマの人嫌いはかなり緩和していた。今回のように話しかけれる程度には。
「腕……?」
「ほら、噛みつかれて血が出てる! 今すぐ治療するからそこに座って!!」
「いや、大丈夫。このくらいの怪我なら__」
ほんの少し血が出ているだけなので騒ぐ程でもない。
そう言いかけたところで、相手の目の色が変わった。
「ふざけないで! 放っておいちゃ駄目でしょ!?」
女性が怒鳴る。その突然の変貌に、アルマは思わず後ずさってしまう。
「あ……えっと、あとで治療するので……」
「後でって何時? 何分後? 何秒後? 地球が何回__何かあってからじゃ遅いのよ!?」
「う、うん」
「ほら、包帯巻いてあげるから! そこに座りなさい!」
「は、はぁい……」
まくしたてられるように、その場で座らされるアルマ。
しかし治療は非常に早く終わり、アルマは再び驚かされることになった__
一通り女性の治療が施され、「ふぅ」と溜息を吐かれる。
「ごめんなさいね。私、怪我人がいたら放っておけなくって。つい無礼な口を……」
「いや、それは全然大丈夫ですけど。コレ、上手ですね」
自分の腕に目を向けるアルマ。不自由を感じない程度に包帯でガッチリ固定、止血が施されている。尤も魔女であるアルマは体の再生能力も高く、狼の噛み跡くらい一日で完治するのだが__
人前でそんなことを言えるはずもなく。
「こら! 傷跡を触らない!」
「すみません……」
とりあえず頭を垂れておくアルマだった。
その後、辺りの丁度いい切り株に腰掛ける。先日、フェリス達のためにアルマが用意したものだ。
「私ね、街の医療を担っているの」
「医療?」
聞き返されると、女性は胸を張って言う。
「街には病気の治療をできる人が少ないのよ。だから私は、数少ない医者の一人なの。まあ、まだ病気の対処とかはできないけど勉強中。どう?」
「どうって……」
「凄いでしょ?」
「……うん」
そんなの魔法ですぐ治せばいいのに……とは、口に出さない。
ここだけの話、魔法は恐ろしく都合のいい技術である。
本人の素質さえあれば念動力、超常現象、生体操作など何でもできてしまう。魔法を使う本人に負担がかかるのが玉に瑕だが。
アルマはそれを常日頃、無意識に、自然に使っていた。
傷の治療や病気の回復なんて日を待たずとも、チチンプイプイで一瞬なのである。
そんなことを知る由もない女性は、誇らしげにアルマへ語る。
「医学を扱う権利を得るには、会長が決めた試験を受けなくちゃいけないの。それが大変で、そもそも医療に興味を持つ人が少なくて__」
「うんうん」
アルマが頷いたのを見つつ、女性の話はヒートアップしていく。
「__だから、私の父は薬草を栽培するようになったの。麻薬じゃないわよ、薬草よ? ちゃんと特許も取ってて__」
「ふ、ふーん。凄いね」
「__それでね!?この私が医療を学べば、きっとこの街のためになると」
「……ちょ、待って! ストーップ!!!」
……女性が語り始めてから約二十分。あまりにも彼女の一人語りが長かったため、アルマが終止符を打つのだった。
突然大声で話を止めたアルマに、今度は女性が驚く。
「…………えっと?」
「あ、その、長くなりそうだなーって」
「もしかして、話に興味無かったかな? それは、その……ごめんなさいね」
「いや、そうじゃなくて!」
そして、シュンとする女性を慌てて元気付ける。
「その、医療に興味があるのは分かったんですけど……なんでこんな山の中に?」
「……あぁ! 私、『開拓班』のメンバーなのよ!」
アルマが訊くと、女性は再び誇らしげに言う。
開拓班。
その聞きなれない言葉に、アルマが首を傾げる。
「開拓班?」
「え? 貴方知らない?」
「い、いや!アレだよね、あの有名なやつ……」
無論、アルマが知るわけない。
「でも詳しくは知らないから説明してほしいなーって……」
「そ、そう? それなら丁度いいわ! 何と言ったって私が! 開拓班の医療担当だものっ!!」
幸運なことに、女性はアルマの言葉で舞い上がっていた。豚ではなくても、おだてれば木に登るくらいには。
そんな女性の反応に、内心胸を撫で下ろすアルマであった。『自分で調べろ』なんて言われたら手詰まりだったからだ。
だが女性の話を聞いて、アルマは思い知ることになる。
その開拓班が、自分にとって有害な存在であることを。
※原因不明のエラーが発生※
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