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オン・ワンズ・ワァンダー・トリップ!!  作者: 羽田 智鷹
二章 交錯・倒錯する王都
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シス⑦

 扉が開き、四人の幼子が勢いよく中に入ってくる。

 「しーすー。会いたかったよぉ」 

 今ここで。何があったのか分からない彼女たちはそろって俺に飛びついてくる。

 「間に合わなかったか」

 遅れて入ってきたヴェイルがそういった。

 

 その頃にはもうスタンは消えていた。

 杖と剣を残して……。

 

 「ヴェイル、どこいってたんだ?」

 俺はどうにかいつも通りの口調を取り戻してそう言ったが、いつ何時また、泣き崩れてもおかしくないくらいショックは大きかった。

 

 「スタンが言ってた隣の空き家に行ってた。そしたら、こいつらが飛び出してきたわけ」

 目を腫らした彼女たちをみて、どんな思いをしてきたのか悟った。

 「よく頑張ったな」

 少しがさつだったかもしれないが、彼女たちにおかえりと意味を込めて頭を撫でる。

 

 すると彼女たちはこらえきれなくなったの一斉に泣き出した。

 

 「ごめん、シス。あたしもちょっと頭さすってほしい気分かも」

 ヴェイルが何か言いたげに口を開いたが、声を出す前にマギサに睨まれたらしくすぐさま口を閉じる。

 

 俺はマギサも同じように撫でた。

 その髪は日々の生活に似つかわしくないほど、気を遣われていてサラサラだった。

 

 俺たちは荒らされた二階を整理した。

 皆無事に何処かへ旅立てたようだった。

 ラルトスは俺達たちには参加せず、必死にいつも使っているノートに何かを書き込んでいた。

 

 仲間の遺品を持って、リューゲルたちのいる下へ向かった。

 

 下では収集がついていなかった。

 リューゲルが目の色を変えて、魔法による大掛かりな整理を行っている。

 

 なんとか生き残っていた子は三人いたらしい。

 ミレアが必死に回復魔法を使っている。

 

 一通りことが済むまで俺たちはただこの光景を見ていた。

 

 あるとき突然打ちひしがれるようにリューゲルが膝をついた。

 やるさない顔で床を睨んでいる。

 

 少したった後のことだった。

 近くでバーンと音がする。

 

 「あいつらがまた来た」

 ネモネが怯えたように俺のズボンの裾をぎゅっと握りしめる。

 

 その言葉を聞いてリューゲルは真っ先に戸口から外へ飛び出していった。

 その目は殺気を帯びていた。

 

 俺はネモネに、大丈夫、と一声かけるとリューゲルに続いた。

 

 外は黒装束をした集団に辺りを囲まれていた。

 「おや、人が戻ってきてます。アンナ中途半端では終われなかったものですので、どうしようかと迷っていたのですが、その問題は解決されました。あなた方も彼らの後を追ってもらいます」

 こんなことをした犯人に制裁を下したいと思っていたこちら側としても、運のいいことだった。

 「誰の命令だ?」

 「そんなもの、領主に決まってるじゃないか。ここら一帯を再構成し直すんですよ。だから、あなた方は邪魔なのです」

 「そうですか」

 リューゲルはそれだけいうと、今までダンジョンで使っていた愛用の剣を宙に浮かせた。

 そしてそれは、剣先を奴らに向け、飛び出す。

 

 奴らの一人に突き刺さる。

 とっさの出来事に対応できず、奴らの一人は剣に身体を射抜かれた。

 すぐさま剣を引き抜き、別のやつに照準を合わせている。

 

 しかしそのような剣の使い方を俺は初めて見た。

 リューゲルは今までこのような技を使っていなかった。

 

 多分、思いが無意識に行動を影響を及ぼしたというやつだろう。

 高度な魔法のテクニックを使っているようだった。

 

 「ちっ、一斉攻撃だ。一気に片付けるぞ」

 長官らしき人物が焦ったように命令を出す。

 すると、黒装束は皆魔法を唱え始める。

 大人数の、一斉魔法を食らったらひとたまりもない。

 流石は街の魔術学会といったところだ。

 しかし、実際彼らは曲がった正義を持っているとは薄々感じていたのだが。

 

 リューゲルが必死に一本の剣を操っているが、態勢を整えた彼らには防がれてしまう。

 俺はなんだかやれそうな気がした。

 

 スタンに渡す予定だった杖を思い切り握りしめる。

 そして感じたまま、詠唱もなしに、振り払った。

 すると、杖が自然と魔法陣を描き出す。

 

 ビュゴオオーー

 途端に奴らに向かって魔法の爆風が解き放たれる。

 詠唱途中の不完全な奴らは耐えきれず、皆後方にすごいスピードでふっとばされていく。

 

 さらにもう一振り。

 一回目の俺のこれを受けないところにいた奴らにも一回目以上のものが杖から放たれ、なんとも軽々と飛ばされていく。

 

 目の前に立場がかるものはいなくなり、途端に視界が拓けた。

 

 かろうじて防御していた長官は驚き、飛ばされた仲間を見るために振り返ったときには、胸にリューゲルの剣が刺さり体を貫く、口が何かを言いたげを開くが、何もできずそのまま前に倒れ込んだ。

 

 リューゲルは歩いていき、俺がふっ飛ばした有象無象の黒装束のもとへ行く。

 皆、壁にあたって意識を失っている。 

 

 リューゲルは、剣の手元まで持ってくると、一人ずつ柄で思い切り殴った。

 鈍い打撲音が満点の星空の下に鳴り響く。

 

 俺は杖も下ろすと、ネモネたちをつれて、崩れがかった我が家に戻ることにした。

 「リューゲルを止めなくていいの?」

 マギサが心配したように俺の顔を覗き込んでくる。

 「あいつがやりたいことを俺が止めることはできん」

 みると、ミレアは恐怖のような眼差しをリューゲルに送っていた。

 確かに今の殺気がかったリューゲルはやや怖かった。

 しかし、彼の思いはそのぐらい強かったのだと思う。

 

 リューゲルとラルトス以外はみな俺に続いてホームに戻った。

 「何か食べるものでも作ろうか?」

 今や料理のできるリーンも、カルナもいない。

 俺は心の中で彼女たちに黙祷を捧げながら、皆に尋ねた。

 

 しかし、予想に反して返答がない。

 皆何かを食べたいような気分ではなかった。

 

 二階に行って、屋根のない天井から星空を見上げながら俺は寝転がった。

 気持ちを落ち着かせるために、ぶらぶらとどこかへ行ったり、この暗がりの中、仲間の形見になるようなものがないかそれぞれが思うままに行動している。

 

 俺が横になるとネモネやダリア、ロベリアにモクレンも俺の隣に横になった。

 普段、寝るときは男子と女子で別れているのだが、今日という日はそうも言っていられなかった。

 「だいぶ変わったね」

 ロベリアがポツリと言った。

 

 まだ、リューゲルが憂さ晴らしのように彼らを殴り続けている音が聞こえてくる。

 多分、容赦なく殺すところまでやっているのだろう。

 俺はそこまでする気にはなれなかった。

 

 「大丈夫だ。お前たちの未来は俺が守るから」

 スタンが引き繋いでくれた彼女たちは俺がこれからはしっかりと見守っていかなければならない。

 彼女たちは疲れが溜まっていたのか、すぐさま眠りについていた。

 

 「シスはあたしのもとからいなくなったりしないよね?」

 気づくとマギサが隣にいた。

 「ああ、そのつもりはない」

 

 気づくとミレア、ヴェイルとビュートも近くに来ていた。

 「俺たちこれから協力が必須じゃね?」

 ビュートに肩を叩かれる。

 「ホントは今日、明日どうするか決める予定だったんだよな」

 ヴェイルが名残惜しそうに言った。

 「俺たちどうなっちゃうんだろうな」

 「一応まとめ役であるリューゲルがどういう決断をするのかだよな」

 ビュートも空を見上げながら言う。

 

 「私、今日のゲルっちを見て、これから……、もしかしたら素直には従えなくなったかも」

 ミレアがボソリという。

 「そんなもの、自分と事は自分で決断すればいい。リューゲルは一つの選択肢を提案してくれるだけ」

 俺は思ったことを言う。

 

 リューゲルのあの顔を初めて見た。

 多分今まで大きな選択ミスをしなかったからだろう。

 なぜかあの顔が頭から離れない。

 

 自分も責任を追う立場になったら逃れられない宿命だというかのように。

 

 その日、俺は……というか彼女たちを除いて皆、ほとんど眠ることができなかった。

 

 朝起きると、部屋の惨状が身に沁みる。

 誰のものとも知らない血は壁に張り付き、消せない記憶として俺たちに寄りかかる。

 

 台所は幸い使える状態にあったので、あった食材で軽めの朝食を作る。

 何かに集中して手を動かしていると、気分が紛れるのはただの現実逃避だろうか。

 

 日が少し高く上り始めた頃、この家に訪問者が来た。

 ネモネたちとミレアは外観だけかもしれないが楽しそうにおしゃべりをして二階にいたが、俺は階下へ下りていく。

 「私と一緒に来る決意は決まりましたか?」

 それは例の警備団の団長だった。

 

 「もう一度言うが、何故俺たちにそうまでする?」

 「言った通り、今夜ここは火の海になります。明日この国の王がこの街を訪れます。錆びたここらを消すとともに再生させる予定なのです」

 「再生?」

 「はい、人で賑わうような新しい地区に」

 「へえー、そうか」

 リューゲルが考え込むような態度を取る。

 「俺たちはこれからどこへ行ける?」

 「そりゃ、安全な街の中心部の家に。私が手配しておきましたよ」

 

 彼の明るさは場違いなように俺は感じた。

 「ところでここで何があったのですか?」

 彼は不思議そうに訊ねる。

 「…………」

 リューゲルは何も答えない。



 ただ、自嘲気味に笑う。

 彼は無防備にリューゲルの言葉を待っている。

 その様子を見てリューゲルは、何かを決心したようだった。

 「ふふっ、俺たちの答えはこうだ」

 突然、警備団の団長の後方上に、リューゲルの剣が現れる。

 しかし、彼にはそれは、死角で見えていないようだった。

 リューゲルの顔を真摯に見つめる彼に、剣は容赦なく背中からぶすりと突き刺さった。

 

 彼と同じくらい、俺たちもリューゲルの行動に驚いていたと思う。

 彼は痛みに顔を歪めた。

 「小僧、なぜ……」

 吐血しながら、苦し紛れに言う。

 「お前が昨日、ここで何があったか知らないからだ。お前の上の立場の人間がこうしたんだよ」

 彼は堪忍袋の緒が切れたような表情をすると、必死に自らに突き刺さる剣を引き抜こうとした。

 両手で刃に触り、手からも鮮血が吹き出る。

 

 俺たちはただ彼の様子を見守っていた。


 しかし彼の奮闘も虚しく、ホームに血溜まりを作って倒れた。

 

 「リューゲル、ここでこれ以上人を殺めるな」

 ラルトスが酷く気分を害したかのように言う。

 「これどうするんだよ?」

 ヴェイルが気に悪そうに死んだ団長を指差す。

 「俺が処理しておくから気にするな」

 淡々と言った。

 「気にするなじゃないでしょ。あたしたちこれからどうするんだよ?」

 マギサが怒ったように言う。

 

 「それから、勝手に街に忍び込むか、最悪この街から出て別の街を探すかだ」

 「でも、俺たち別の街に行ったことねーぞ」

 ビュートが呟く。

 「だから、それは最悪の案だ。この人数だし、装備や貴重品アイテムもそこまで揃っていないしな」

 とはいいつつ、リューゲルの剣術は確実に開花していた。

 「そんなに体力が余っているなら、街の境界線上にある門まで行って侵入できそうな方法を考えてきてくれよ。こっちにはネモネたちもいる、移動は最小限で抑えたい」

 「ネモネたちがいるってんならこんなところで、人を殺めるなよ。それはネモネたちを思っての行動とは思えねい」

 ヴェイルが強く言う。

 「俺は自分決断が間違っていると思ったことはない」

 リューゲルはピシャリと言った。

 リューゲルの強い精神の現れだった。

 

 そこまで言われるとヴェイルたちは何も言い返せないようだった。

 

 「分かったよ。門へ行ってくる」

 門には見張りがついているはずだ。

 それさえなんとか出来れば、行けるはずだ。

 

 普段なら自由に行き来できるそこも、領主が本当に俺たちを消そうと思っているのなら必ず門で一悶着はあるはずだった。

 

 ヴェイルとビュートは振り返ることなく出ていった。

 

 リューゲルも自分以上の背丈である警備団長を担ぐと無い扉から出ていった。

 

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