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オン・ワンズ・ワァンダー・トリップ!!  作者: 羽田 智鷹
二章 交錯・倒錯する王都
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シス③

 俺たちは戻ってこのことをリューゲルたちに伝えた。

 現場に一緒にいたはずの彼女たちは、今日のお出かけは楽しかったね、と別にさっきまでの出来事を気にした様子はない。

 

 「その警備団の団長さんを信用できるかが肝だな」

 リューゲルは、今夜の会議の議題にしておくと言った。

 

 「しーすー。今日のばんごはんはなーにー?」

 戦闘スキルはないが、家事スキルはそこそこある俺は交代制で飯の当番することになっている。

 

 当然、先程の街で食材は買い求めてきた。

 彼女たちには内緒だったが、俺にとっては買い出しのほうを真の目的だと捉えていなくもない。

 

 普段は自給自足できる場所だが、それでも買い足さないと行けないものはある。

 肉類や陸魚だ。

 畑作だけでは栄養が偏る。

 

 先程は俺の分もけっこう食べたというのにもう晩飯の話をし始めている。


 俺は彼女たちの胃袋は底なしなのではないかと思う。

 俺は大食いではなく、逆に少なくても苦には感じないし、別にたくさん食べたいとも思わない。

 

 まあ、作る側としては晩飯が決して翌日のおかずになるほど残ったことは今までにないし、彼女たちの食事厨の楽しげな笑顔を見ていると、俺も心温まるものがある。



 一通り飯が終わり、それぞれが家に集まり始める。

 家にはちゃんと街で働きに出ているやつもいる。

 

 小さい子たちは夢の海へと船を漕ぎ始めると、俺たちは今日の会議を始めた。

 

 警備団長の力を借りるにしても、明日はまだ暇がある。

 「貴重品アイテムも必要数は揃ったことだし、明日ダンジョン攻略を行おうと思う。装備も使っておかないと大事なときに使い物にならないなんてこともあるからね。それに関してだが、まずはラルトスが考えた作戦についてだ。…………」

 リューゲルは、ひとまず明日のダンジョン攻略に皆の意識を向けることにしたらしい。

 

 ダンジョンは魔獣で溢れ、生きるか死ぬかの戦いが待っている。

 しかし、俺たちはしっかりと連携し潮時を見極めることに重点を置いているため、今まで少数ほどしか死者は出していない。

 

 これの参加は自主性なので、参加するものはそんなことを恐れてはいない。

 

 俺たちが社会に不適合だからという理由もあるのだろう。

 自分を制限するような他者の思いがない分、自分自身の体を自分自身で選択して駆使できるのだから、俺たちに迷いはない。


 そして、ダンジョンは普段の日常では出会えないもので溢れている。

 

 まず、魔獣を倒す快感が日々の抑圧された日常のストレスを発散させてくれる。

 それにだ。

 こんな自らの命をかけるような場所に普通の人は訪れることはない。

 その分、そこでドロップする貴重品アイテムや見つけた物たちは、街で高値で買い取ってくれる。

 

 街での稼ぎどころが少ない俺たちは、警備団のお世話になるにしろ、ならないにしろ、ここでお金を稼ぐべきだとリューゲルは考えているらしい。

 

 「今回は俺も参加していいか?」

 あの非日常な場所で久しぶりに体を思うように動かしてみたい気分だった。


 実を言わなくても、俺は時々参加する程度の人間だった。

 「今回は行けるところまで進みますよ?」

 ダンジョンには、ちゃんと最下層クリアというものがあるらしい。

 そこには何があるのかは分からないが、そこまで到達することがダンジョン制覇を意味するとどこかの文書で読んだ気がする。

 「今回は強い意志があるようだな。しかし……、彼女たちの面倒は誰が見る?」

 十五人ほどの一同がお互いを見渡す。

 年長者が皆、ホームを空けるのは流石にきついことだった。


 みなそれぞれ思うように日々を過ごしているが、それでも全体のまとめ役も言うものが必要なのだ。


 「今日がけっこう活発的に動き回っていたから、明日は比較的落ち着いてると思うぞ」

 「いやいや、チビッコどもの体力はそこがしれねーぞ。あたしは無理だ」

 「マギサだって、あんな頃があったんだぜ」

 お調子者のヴェイルがすかさずつっこむ。

 「はあ、なんであんたがあたしのピュアな時期を知ったような口をきいてるわけ? って、はあっっ。みんな想像するじゃないし」

 突如向けられた皆からの視線に、マギサが慌てたように手を振って赤面する。

 

 俺がここで過ごした六年間は、人を、集団を、信じられるようなものにしてくれたと今でははっきりと分かる。

 「一応、また警備団の団長が来るかもしれないし、年長者の中から数人はここにいてもらいたい」

 誰が残ってもそれが務まるというのだから、なかなか決まらないのだろう。

 

 皆ダンジョンに行く気満々だった分、なかなか解決しないように思われたが……、

 「じゃあ、俺が残るよ」

 スタンがきっぱりと言い放った。

 「シスの頼みなら、しょうがないがな……。が、その分なんかレアな物が手に入ったら俺に譲れよな」

 スタンが親指を突き立てて満面の笑顔でこっちを向いてくる。

 ああ、分かったよ。ありがと。

 

 「スタンさんが残るなら、僕も残ります!」

 スタンに続いて、クラネルも名乗り出た。

 彼は、俺たちに比べて年齢もここに来たのも遅い。

 が、その分先輩から見て盗むのがうまく、この場になれるのも人一倍早かった。

 スタンといることも多く、彼を慕っているようだった。

 「じゃあ、これで決まりだな。街の奴らのことは明日、ダンジョンから帰ってきてから本格的に話し合うとしよう。もしかしたら、時間というものが解決してくれるかもしれないしね」

 リューゲルはこの場をお開きにした。

 

 「シス、お前はなるべく中核にいろよ。なんかあったときに身近にいてくれたほうが助かる」

 リューゲルは、この中で一番強いと言っても過言ではない。

 俺が彼の剣さばきに見とれるくらいの実力の持ち主だった。


 「そうだぜ。俺はその場にはいないから、お前のことを守れねーが、元気にダンジョンから帰ってこいよ」

 自ら待機を名乗り出たスタンまでもがからかいを入れてくる。


 俺が久しぶりにダンジョンにいくからだろう。

 しかし俺もそこまでヤワじゃないし、攻略を目指すのに足手まといになるつもりはサラサラない。


 なによりこの編成に俺より年下が数人入るのだから、少し癪に障る。

 

 いいよな、お前らは魔法が使えてよ。

 

 まあ、皆で行くのだからそこまでの妬みはない。

 事実は受け入れるしかないのだし、俺は俺のやりたいようにやるつもりだから。

 

 ダンジョンでは、集団での判断が重要になる。

 リューゲルは団みんなの意見を無碍に扱わず、その場に即した回答を出してくれる。

 「明日は早いから、みんな早く寝ろよ」

 リューゲルはそう言うと、会議で使っていた松明を吹き消した。

 

 

 翌日は早朝に『ホーム』を出発して、ダンジョンに向かう。

 ダンジョンは森を抜けた先にあり、付近には独特の石の建物が立ち並ぶ。

 

 俺たち十七、十八の年長者は今日は『ホーム』にほとんどいないとは言うものの、スタンとクラネルの他にも十五、十六の子たちもいる。

 

 家を失って、ここに行き着く子は、十歳になるよりも前の子が多いため、十四、五でも十分頼りになるはずだ。

 

 スタンに土産を期待されているから、何が何でも積極的にダンジョンを散策しようと思う。

 

 行く途中で何度か魔獣との戦闘はあったが準備万全である俺たちには障害にもならない。

 

 皆楽しそうに、自分の得意武器を操っている。


 ある地点を境に空気は急変する。

 何か魔法がかかっているのかもしれないし、何かの警告かもしれない。

 単なる環境要因かもしれないけれど……。



 ダンジョンの周りは魔獣はいなく、静かで荘厳な雰囲気を醸し出している。

 「では、今日こそ最下層クリアへ!!」

 皆が武器をしっかりと握って、ダンジョンへと潜っていった。

 

 長剣に短剣、杖や弓、盾や斧などみなそれぞれ得意の武器を持っている。

 しかし、誰もが簡単な魔法くらいは使えていた。

 戦闘において、何気に一番役に立つのは魔法だった。

 瞬時に効果を発動できるし、敵から遠距離でも近距離でも対応でき、また自分がむやみに動く必要もない。

 

 俺は魔法に一番感覚が近いであろう弓矢を使っているが、それでも全然違う。

 何もかも違うのだ。

 威力も効果も多様的で、ただ一直線に空気を切り裂いて飛んでいく弓矢とは。

 

 ダンジョン内にいる魔獣は俺たちを見ると襲い掛かってくる。

 しかし彼らはダンジョンの外に出ることはしない。

 ダンジョンにいる同種族の個体なら会話ができるものもいるようだった。

 

 俺たちは敵が落とす貴重品アイテムやら素材やらをしっかりと回収しながら、順調に奥へと進んでいった。

 

 俺たちには一人ずつ、装備用の貴重品アイテムを割り振られていた。

 そのおかげもあり、皆悠々と魔獣を倒していく。

 

 「そろそろ気を引き締めていこうか」 

 五階層を越えたあたりでリューゲルが一旦休憩を入れる。

 

 普段なら、ここから地上に戻る間にも同じくらいの貴重品アイテムが手に入り、それだけで十分だった。

 

 その後も異形物ゴーレム火喰虫サラマンダー単眼巨兵サイクロプスなどと戦った。

 階を進むごとに敵が強くなっているにも関わらず、順調に進めているのは多分火力組が敵を倒すごとに返り血をもろに浴びているからだろう。

 魔獣の返り血は治癒力を高め、全身の活力を漲らせると聞いたことがある。

 俺は援護として弓矢を使いながらも、ドロップ品を集めたり、道中に時々出現する珍しい岩を砕いてレアな貴重品アイテムを探していた。

 

 しかし段々と俺も戦わなくてはならない場面が増えてきた。

 俺は弓に力を加えて敵を定めながら、矢をつがえる。

 

 中には擬態化する紅華狼ローズウルフ親木精トレントなどには少なからず陣形を崩されはした。

 

 万が一の貴重品ポーションを使いながらも十階層に到達した。

 ここまでは、俺のいないときに来たことがあるらしい。

 そのときは結構な消耗だったが今回はこの先へも十分進める感じだった。

 

 みんなの指揮が俄然上がる。

 ダンジョンでは大声は自らの居場所を伝えるため、厳禁であったが、彼らは敵が向かってきても構わないと言う感じでお互いに今までの戦いの良い点と改善点を楽しそうに言い合っている。


 ところが、十一階層へと向かう途中俺は突然の頭痛に襲われた。

 目の前が一瞬白んだ。

 何かの射程に入ったのか、俺に魔法か何かが当たって引き起こっているようだった。

 

 「シスっ、どうした!!!」

 マギサが俺の方を見て心配し始めた。

 マギサの透き通っているとも言い難いが、聞き取りやすい声で皆も気づく。


 中には、高性能な万が一の貴重品ハイポーションを鞄から出してくれる人もいた。

 もしものときの自分のため皆に秘密で、自腹で買っておいたのだろう。

 しかし、俺は皆の声が雑音混じりに聞こえた。

 

 と、突然、ダンジョンの壁をぶち破って半山羊人間バフォメットが棍棒を持って現れた。

 飛んできた壁の破片で何人かは軽く傷を負った。

 「臨戦態勢!!」

 リューゲルが指示を出した。

 

 皆が俺を囲むように位置して、一斉に魔法で攻撃を始める。

 詠唱のスキは、武器班がカバーをする。

 

 その時、俺たちの前方からもう一匹の半山羊人間バフォメットが来るのが見えた。

 

 集団に若干のパニックが起こる。

 しかし、その時俺の中の何かが変わった気がした。

 

 俺の懐に入れてあった貴重品アイテムが四つほど、光りながら中に浮かび始める。

 

 俺は自身の能力が発動したことが分かった。

 貴重品アイテムから急速に力が伝わってくるのが分かる。

 

 俺は前方の敵に向かって走った。

 護身用に持っていた短剣を右手に構えながら。

 

 俺にとってもヤツの動きがとてもスローに見えた。

 俺が三、四箇所の急所を斬りつけると、やつはもう動かなくなった。

 

 俺にとってはなんともなかったのだが、みんなにとっては一瞬の出来事だったらしい。

 

 俺の能力は同じ空間にある貴重品アイテムにも同様に機能する。

 だから、俺がみんなと同じ空間にいるということは、彼らを加勢する貴重品アイテムの効果を俺が奪ってしまうことになる。

 しかも、通常以上の大食いで。

 

 俺はみんなと一緒にいてはいけないと本能が告げている。

 

 一人はみんなのために

 

 俺のせいでこの集団を崩壊させるわけにはいかない。

 「先へ行っている」

 ただそれだけ言い残すと、俺は彼らに影響が出ないように必死にその場を去った。

 

 非力な俺は、ただ敵と遭遇しないように全力で突き進むしかなかった。

 しかし、なぜか体の内側から力が漲ってくるような感覚がした。


 暗いはずのダンジョンを俺の周りを浮遊する貴重品アイテムが明るく照らす。

 俺はただただ前方に向かって進み続けた。

 

 さらに下へと続く階段を見つけては、深淵へと向かう覚悟で下り続けた。

 

 いつしか俺の頭痛と耳鳴りは気がつかないうちに消えてなくなっていた。

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