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オン・ワンズ・ワァンダー・トリップ!!  作者: 羽田 智鷹
一章 井の中の使徒
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第一章 五話 将来資金と鷲

 

 「さあ、いっくよ〜」


 ルカが防御壁を展開する。


 強敵に二、三度攻撃されたら、壊れるような防御力の造りだが、その分他の魔法も同時に詠唱できる。

 


 見つけた敵から手当り次第討伐していく俺たちが今日対峙しようとしているのはゴブリンだ。

 

 何と言っても集団戦法に長けている彼らは、アジトを作り、社会を形成している。


 昨日倒した奴らが出てきた巣穴の入り口を見つけ、今こうして奇襲を仕掛けようとしていた。


 「俺が一発御見舞しようか?」


 ライアンにここは任せてもいいのだが、せっかく見つけた奴らのアジトである地下空間を魔法で生き埋めにすることは、奴らが集めた財宝諸とも地下に眠ることになるのと同じだ。


 そんな心残りになるようなことは、しないほうがいい。



 中に何体いるのかは分からないが、剣を使いこなし鎧をつけていることは今まで戦った奴らから推測できる。


 三人で顔に見合わせた。


 「開戦の火蓋(プレイボールーー)!!!」


 俺は街で買ってきた、威力の低い爆弾を巣穴に投げ込んだ。


 そしてそのままルカの防御壁に入って、入り口で待機しながら敵を待つ。

 敵が出てきたところを叩く寸法だ。

 


 「「「「ギャーーーーー」」」」


 何体かの悲痛な叫びがこだまする。

 


 穴から煙が晴れた頃、第一波が地上へ流れ出てきた。


 すると寸分違わずライアンが炎弾を、ルカは氷弾を放つ。


 そして、俺はその攻撃から生き残った敵を接近戦で倒す。


 今までの剣なら、やつらの鎧がしっかりしているため、関節や脇など防御の弱いところを狙わないといけなかったが、やはりこの剣は、隊長さんが選んだだけあって、軽く綺麗な軌跡を描いて、鎧に突き刺さる。



 彼らも生きている。


 剣を失ってもなお、鋭い歯で最期まで猛攻する。


 彼らのたいていは俺と同じように魔法が使えないため、同類的な感じがしなくはないが、躊躇せず攻撃する。


 この森では躊躇していたら逆にこちらがやられる。



 ヒュドラと違ってゴブリンどもは、自分に死角ができないように常に周りに気をつけなければならない。




 しかしながら、ヒュドラと同様に稀に魔法を使えるゴブリンもいる。


 そいつには深い、深い怨念を込めて斬る。



 一瞬乱闘状態になるが、程なくしてケリがついた。


 魔獣たちは人とは体の造りが違うため、魔獣特有の血が流れている。


 しかも、その血の量は人間ほど多くはない。



 魔獣の血というものは薬になったり、魔法の粒子を帯びていたりして、利用価値が高い。

 


 大抵のトレジャーハンターは魔獣への最後の一撃(ラストショット)に気を配る。


 しかし、今回の戦闘あとには血痕がほとんどなかった。

ーー無論、敵がゴブリンだったということもある。


 

 魔法使いたちは防御壁の中に入っているためほとんど無傷だが、俺はいつも戦いが終わるとズタボロだ。



 ルカの回復魔法で傷口は塞いでくれるが、斬られる瞬間は痛いし、塞いでもズキズキ痛むことに変わりはない。


 「まだ、終わってないよ。テンションあげてこーー」


 ルカがそう言うものの、いつまで立っても第二波が地上に到達してこない。


 「あれ、なんか相手来ないね」



 不思議に思い、誰かが中に潜入することにした。


 というか、魔法使いはある程度の空間がないと魔法を使えないらしい。



 結局、中へ潜入することになったのは俺だった。



 ゴブリンどものアジトはけっこう奥深くまで続いている。


 松明のような光が点々と通路に灯っている。


 床がボコボコに凹みながらも、かなり踏み固められている。


 奴らは俺たち人間よりも小さく、その分すばしっこい。


 俺はゴブリン臭のする狭い通路を早く抜けようと、なるべく早く前へ進もうとする。



 部屋のような空間まで来て見るものの、そこはもぬけの殻だった。


 途中天然素材のイガグリを通路に置かれていたが、仕掛け(トラップ)としては、あまりにお粗末すぎる。


 そのぐらい、奴らは急いでいたのだろうか。


 しょうがなくイガグリをどけて前に進もうと思ったが、ライアンたちが後から入って来るときに、せっかく仕掛けてもらったトラップを取ってしまうのは申し訳ないと思った。


 俺は再びイガグリを暗い足元にばらまいておいてから、先に進む。



 やっと俺は狭い通路から抜けて、何やら大きな空間に出る。


 巣穴はしっかりとした造りで、多分大広間的な場所か何かだろう。



 つい先程まで生活していたような温かみがある。

 まだまだたくさんのゴブリンたちが生きているようだ。



 さらに奥にも通路があり、部屋がありそうだったが、ひとまず安全だと判断しライアンたちを呼んだ。


 少しして、ライアンたちがこの大広間に来た。


 「フィルセ、途中で栗が落ちてたぞ」


 「まさかのライアンが知らずに思いっきり踏むなんてね」


 ルカはほくそ笑みながら、その情報を俺に伝えた。


 俺のニヤけながらライアンを見る。


 それとは対象的にライアンは苦々しげに俺を見た。


 「フィルセが一人でゴブリンどもの財宝を掻っ攫うんじゃないかって、急いでたんだよ。それに、フィルセが一回通った道だろ。なんで、罠がそのままになってんだよ。というか、お前はどうやってあの罠を抜けてきたんだよ」


 俺が独り占めするようなやつだと、こいつは思っていたのかよ。


 「なんでイガグリの罠にかかるんだよ」


 「普通足元なんて見ねーよ」


 これだから魔法使いは。

 

 普段から森中を駆け回っている俺からしたら、足元に何があるかも分からないからしっかり自分の行く先を見る、なんてことは当たり前なのに……。



 ライアンは俺の後ろにたたずむゴブリンどもの財宝が目に入る。


 「これって、マジかよ」 


 ライアンはその財宝に駆け寄っていく。


 「これって結構な価値ありそうじゃね?」


 ライアンが手に持っているのは、銀色に光る筒のようなものだった。


 ゴブリンたちは慌てて逃げたのか、部屋には色々なものが転がっていた。



 ルカもゴブリンの寝床を調べるのをやめ、ゴブリンが人から奪ったのであろう財宝に手を伸ばす。



 俺は火薬が仕掛けられていないことを部屋の隅々まで確認した。


 「別に爆弾とかも仕掛けられていないし、多分もう戦闘はないかもな」


 そう聞くと彼らは財宝を査定することに専念し始めた。



 逃げるときにやつらが移動できなかった財宝の中で、特に価値の有りそうなものを選んだ。


 それでも三人の両手分くらいはある。


 それらを持ち帰ることにした。

 


 街には騎士団とは別に小さなギルドがある。


 騎士団が対処できないような庶民の小さな依頼を引き受けるところだ。


 例えば、薬草採取や隣町までの援護など。



 それには当然報酬がつく。

 



 俺たちはギルドに所属はしていない。



 なぜって、人のためにその人が言うことをしなければならないことが俺たちの心持ちと違っているから。

 ーーなんか手下みたいで嫌じゃん。



 「フィリーはもしこれで大金が手に入ったら何を使うの?」


 「まあ日頃の武器代で結構消えそうだけど、余った分は将来の旅への貯金」


 「ルカはどうするんだ?」


 「ええっと、まず買いたかった服を買って……、買いたい本もあったし……、そろそろヘアピンも買おうかな~って思っていたし、自分の部屋の模様替えもしようかな…………」


 長そうなので、視線をルカからライアンに自然に移す。


 「ああ~、俺かっ!!。そんなん決まってるやん。杖を新調して、そんでとびきり性能の良い盾を買う!!!」


 今回初めて自分たちの戦いで報酬のような戦利品が手に入ったからか、三人とも舞い上がっている。


 ルカは倹約家だったはずだが…………。


 ライアンなんて買ったばかりなのに、杖を新調しようかな〜とか言ってやがる。


 剣を買え!! 剣をーーーー!!!



 そんなこれからの夢が膨らむ話をしながら巣穴の外に出た。


 そしてそのまま次の敵を探しに行こうとしたゴブリンたちの巣穴から出たその瞬間だった。



 空から何かが降ってくる。


 弾丸のような何かのようだ。


 「『緊急展開(テクト)』!!!」


 ルカが間一髪防御壁を展開し、なんとか助かる。


 しかしそんな壁も一瞬で粉々に割れてしまった。


 割れた反動で何かが空へ吹き飛ばされる。



 ゴブリンでさえ三度の攻撃でやっと壁を壊していたのに、今回は一撃だった。


 相当強いことが伺える。


 ーーというか、ルカの魔法が少しでも力負けしていたら、俺たちが危なかった。


 頭に串刺しの焼き鳥が浮かぶ。



 やつは俺たちが巣から出てくるところを狙っていたらしい。


 巨大な鷲のような体で鋭い鉤爪とクチバシ。


 三人とも手に入れた財宝を近くに置いて、それぞれ戦闘態勢に入る。


 「『越炎オーバークロス』!!」


 ライアンが必死に炎弾を打ち込むが空高く飛んでいるため、簡単に避けられてしまう。

 


 再び急降下してくる。


 羽を体にピッタリとつけ、弾丸のように目標である俺たちをめがけて一直線に降ってくる。



 そしてスピードが安定したその瞬間、翼を横一直線に広げ、風を切り、羽の色が鋼に変わる。

 


 その広げた翼は確実に俺たちを捉えて飛んでくる。


 俺は避けられないと判断して、剣を翼に向かって上から振り下ろしたのだが、


 キーーーーン!!!!!


 という強い衝撃とともに、翼に剣を縦に押し付けているような状態になった。



 翼は結構な硬度をもっているらしい。



 翼が剣の鋭さに対抗していて斬られていない。


 力を受け流すようにして横にそらすと、やつはそのままそっちの方向へ飛んでいった。



 グガガガガ。


 地響きを立て、木がなぎ倒される。


 みるとやつが通ったあとの木々の幹が切り裂かれている。


 やつの体が黄金だったらやつの体そのものが金になるかもしれない、という考えが頭をよぎったが、あいにくそれどころではない。


 やつの翼の切れ味は折り紙付きだ。


 「次降下してきたときに、援護を頼む」


 相変わらずライアンは無駄打ちをしているが、俺が言うと分かったような返事を返す。


 ルカはとっさに魔法を使ったため、少し魔力が回復するまでは魔法が使えないらしい。


 

 ギュオーーーーン!!!!


 咆哮とともに再び急降下を始める。


 やはりやつの一番の武器は鋼鉄の翼らしい。


 前の安物では折れていたであろうが、この剣なら対抗できる。

 


 しかし威力の差があり、受け流すことでさいいっぱいだった。


 ギーーーーン!!!!



 こいつを止めている間の至近距離でライアンにとどめを刺してもらおうと思っていたが、狙いが定まらないため、やつは、俺の剣とぶつかり、一旦は静止状態に入るもののすぐさまかわされてしまう。


 ライアンも俺に炎弾が当たらないように必死に狙いを定めている。


 何回か同じことが続くが、一発もライアンの魔法はやつに当たらない。


 

 次第ににルカも段々と回復してきた。


 しかしあたりの木々が切り倒されて、場所が開け始めている。


 俺たちは空からの格好の獲物になっていた。 


 「『旋風(ウィンディア)』!!」


 ルカが風を起こすが、一向にやつの威力、加速度、スピードは弱まらない。


 今回も同じように横一面に翼を広げ突進してきたようだった。



 そのため今回も縦に剣を構えた………………ーーー瞬間、やつは体を捻って、九十度回転させて俺の剣をかわす。

 炎弾を鬱陶しく思っていたのか、ライアンの方へ向かっていった。


 ライアンは必死に向かって来るやつに無数の炎弾を飛ばす。


 しかし巧みにかわしされる。



 「『攻岩ロックブラスト』!!!」


 すんでのところでルカの魔法により、地面から鋭い岩が突き出す。


 やつは若干スピードを落としてルカの魔法を避け、急上昇する。


 しかし、気づいた頃にはライアンの被っていた帽子は鉤爪で奪われていた。



 流石に空中の敵にはまだ自分たちの経験不足なのか、対抗できていないことを思い知らされた。


 「今日は、街に戻るぞ!! こいつは多分、今日は無理だ。一旦、作戦を考えて体勢を立て直そう。明日にお預けだ!!」


 正直、この敵とどう戦えばいいのか分からない。


 それに俺たちは消耗しすぎている。

 今日はこの財宝を持って帰れば十分じゃないか。


 「えっっ!! でも、俺のハットが…………」


 「ライアン、深追いするな。また明日だ」


 「そうだよ。ライアン、引き際だよ。……ごめん、私も正直魔力が限界まで来てる」


 実を言うとあの帽子はライアンには似合っていなかった。

 だからヤツが取ってくれたのかもしれない。


 と俺は心の何処かで思った。



 ライアンはどこか心残りのある表情をしていたが、ヤツに見切りをつけて逃げることに専念する。



 ヤツは少しは追ってきたが、ライアンの再び炎弾が打つと、途端に追いかけてこなくなった。


 敵が近くにいないことを確認して俺たちは足を止めて息を整える。


 「フィリー。ちょっと今日は魔力の消費が激しすぎて、少しの間足が動かないかも」


 しょうがなく俺はルカをおぶることにした。


 そのままスートラの街の門を目指す。



 財宝プラス、ルカで俺の足も結構しんどい。


 ただそれを口に出してしまうと、今後のルカとの関係がどうなるか分からないので止めておく。



 帰ったら三人で空中への敵に対する作戦を考えようかな、と思う。


 スートラの結界門が見えればもう大丈夫。


 

 俺たちは衛兵に怪しまれないように懐には財宝を隠し、結界門を駆け抜ける。

 


 やっぱり何よりまずは換金して、ほしいものを買うから、作戦会議としよう。



 ジジィが大金を見たらどう思うかな、と一瞬考えたが、このことは秘密にしておくことにした。

 ーーージジィの知らないうちに俺らは、勝手に強くなる。


 ジジィにとっての未知数的な存在になったほうがカッコイイじゃん。



 三人ともどこか心残りがあったが、それでも得たものが大きかったのか、清々しい気分だった。 

 

お読み頂きありがとうございます。


自分は海沿いに住んでいる者なので、時々とんびを見かけます。やつらはなぜか、時々弧を描きながら飛んでいるんですよね。

あと、あの孤高感が堪りません。


次回予告 「静けさの満ちる日常茶番」

お楽しみに

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