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オン・ワンズ・ワァンダー・トリップ!!  作者: 羽田 智鷹
二章 交錯・倒錯する王都
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第二章 四十三話 新たな刺客

 

 「ここの騎士の人、あんたはここで何が起こっているのか正しく見えていないようだな」


 その人物は、吐き捨てるように冷たく言い放った。


 「どういうことですか?」


 スチュアーノさんは、仮面の人物を正面で仁王立ちで構えて言う。

 一瞬、虎が袋小路に狐を追い込んだときのような威圧感が、スチュアーノさんから湧き上がってきていた。

 しかし、すぐさまそれは彼の体の奥に姿を消す。

 

 仮面の人物は、スチュアーノさんの威圧に臆することなく無言を貫き通している。

 


 「貴方はどう足掻いても、もう助からない命です。ならば目的とあなたのその決意くらい聞かせてもらえませんか?」


 スチュアーノさんの声は非常に穏やかだった。

 その穏やかさが聞くものに、不安感を与える。


 

 俺からは今スチュアーノさんがどのような表情をしているか見えないが、きっと複雑な感情が渦巻いているのだろう。

 彼の魔法からそのような雰囲気が伝わってくるのだ。

 

 仮面の奥から光が不敵に瞬く。

 言葉を発しはしないものの、スチュアーノさんの言動に対して何かしらの反応を示していることがわかる。

 

 途端にスチュアーノさんの中でくすぶっていた炎に再び空気が送り込まれ、抑えていたものが吹き出すような感じがした。


 「なぜ、何も言わないのです? 貴方がなぜセロや…………、シスを手に掛けておいてなぜ今は静かに黙っているのですか?」


 スチュアーノさんが抑えられなくなった怒りを徐々に滲み始めている。

 


 流石にこれは、演技ではない。


 なぜ先程まで、俺たちと敵対するかのように仮面を被って戦っていたのかは未だ謎だが、スチュアーノさんとは話ができそうだった。


 「あんたはいい言われようだな。現場にずっといながらも何も見えていない」


 仮面の人物は、どこか嘲笑うかのように二言目を発した。


 しかし、その声からは確かにその人物なりの覚悟が伺える。

 自分がしでかしたことへの覚悟なのだろうか。

 はたまた、これから起こることへの覚悟なのだろうか。

 


 「僕のことはどうでもいいのです。貴方は誰で、なぜこのようなことをしたのか。遺言を残す気すらないのですか?」


 ふふふふっ。


 仮面の奥からではあったが、確かにくぐもった笑い声が聞こえた。

 


 その瞬間、スチュアーノさんは右手に魔力をため始めて胸の前まで持ち上げる。


 仮面の人物が自分の質問を蔑ろにする、そんな態度に嫌気が差したのだろうか。

 俺も仮面の人物が何かの行動に出るのかと身構える。


 しかし、絶対防御フォービデゥンは消えることなく依然としてそこに存在している。



 俺は一瞬自分が持つあの"解除"を使ってみようかと思った。

 しかし、それは魔法に対してであって、貴重品アイテムには効果がないことは実証済みだ。



 俺たちと、仮面の人物との空気さえも隔てているような感じがする。


 スチュアーノは衝動を抑えるかのように、持ち上げた速さとは対照的に、ゆっくりと元あった場所へだらりと垂らす。


 「僕の言葉のどこに笑える場所があったのか教えてもらえませんか?」


 平穏を装った声だが、その背後に隠れるトゲトゲしさを隠せないでいる。

 

 仮面の人物が笑いをおさえるのにそれから数秒はかかっただろう。


 「知るか」


 仮面の人物は、笑いやめてもどこか余裕ぶったような不気味さがある。


 「わかるように話せ。お前には逃げ場はない」


 スチュアーノさんがそう言うと、俺の目の前ーー仮面の人物の周りーースチュアーノさんが立っている場所を除いたーーの床が形を変え、槍のように鋭く先を尖らせながら、仮面の人物の防御壁に三百六十度に突き刺さる。


 

 それでも仮面の人物は、その槍が壁を越えることがないことが自明のことのように不敵に笑う。

 


 「貴方は自分の立場というものが分かっていないようですね。どこにそんな余裕が残っているのか。直にセロも回復する」


 「そうか? あんたは体の仕組みについて本当によく分かっているのか。魔法ってそんなに有能なものなのか」


 仮面の人物は、暇つぶし程度の軽い口調だった。

 

 俺は、クーレナさんの方を見てみる。

 しかし、一向にセロは目を覚ます様子はなかった。

 

 「それにシスだ。あいつは戦えないのに、無理に僕が誘って戦闘に関わるべきじゃなかった」


 スチュアーノさんは、悔やむように言った。


 「だから、お前が助かる道はない」


 怒りの矛先を仮面の人物に向ける。

 

 しかし仮面の人物はスチュアーノさんに顔を向けるのも飽きたらしく、天井や壁などに顔を向けて、どこ吹く風、と言った感じだった。


 「スチュアーノさんは俺たちに何をするつもりだったのですか?」


 仮面の人物は応答するのをやめ、手持ち無沙汰になったスチュアーノさんに俺は訊ねる。


 「フィルセくんたちと、手合わせをしてみたかったんです。君たちはあのウルス・ラグナを倒した者たちですから」


 「それなら、そうと言ってくれれば」


 それなら、さっき寸止めと言っていた理由も分かる。


 「それだと、君たちが本気でやってるかどうかわからないのです。だから、このような状況を作ってもらい……」


 「このような状況って?」


 「いや、王都の廊下を破壊したり、僕らが悪者を演じることです」


 「……、ということは、セロはこれを知っていたのか?」


 「もちろんですよ」


 スチュアーノさんの言葉を俺は言葉を失った。

 俺が急いで駆けつけてきた原因を作ったのが、この人たちだったなんて。

 しかし、そのような必死さをこの人たちは求めていたのだろう。


 なんだか、俺はこの人を信用できなくなってきた。


 「貴方、本当に俺たちの味方ですよね? あっち側だったりしませんか?」


 そう言って、俺は防御壁にもたれかかって腕組んで下を向いている仮面の人物を指差した。


 「違いますよ。全く。セロは見張りというか、何かあったときの為に備えて、ここにいたのですよ」


 そのようなことに全く気が付かなかった。

 というか、この状況を見るに、何かあるのは"俺たち"か、"スチュアーノさんたち"だと思っていたのだろう。


 まさか、自分に何か起こるとは予想していないことだったのだ。


 

 セロは幼い割には意外と役者だ。

 ーー、と、俺様キャラを演じていたのをみると、意外でもなんでもないか。

 

 「だから、僕は余計にお前を許さない」


 俺にあっちの仲間かと疑われてやや気分を害したのか、再びスチュアーノさんの拳が……、やや禍々しげに輝き始める。

 それにしても、なぜ俺たちの実力を試すためだけにそれだけ大掛かりなことをするのだろうかと疑問が思い浮かんだところだった。

 

 ドカーーーん!!!!


 再び屋敷の別の場所から何かが破壊されるような衝撃音が聞こえてくる。


 「今度はなんですか?」


 そう言って、スチュアーノさんは仮面の人物に説明を求める。

 俺は、「一回目はあんたたちが自らやったことだろ」と、突っ込むのはよした。


 「あんたはここにいていいのか? 王都には今、騎士はあんたしかいないのだろ」


 瞳の奥がかすかに光る。


 「なぜそれを知っている?」


 しかし、仮面の人物はにやりと笑うだけだった。


 

 「まだ、絶対防御フォービデゥンが消えるまでには当分時間がかかる。フィルセくん、一旦爆発があったところへ向かおう」

 ライアンとルカたちが心配だ。

 この部屋に来る通路が塞がれていたから、当然反対側に向かうしかない。

 音の方向からして、敵とライアンたちが接触した可能性は高い。


 「最後に聞く。今のはお前の仲間ですか?」


 しかし、仮面の人物は手を組んだまま反応を示さない。

 

 俺とスチュアーノさんは入っていた扉とは別の扉へむかう。

 傍から見ると、仮面の人物の周りは空色のベールで覆われ、さらにその周りを床に使われていた大理石が、矢の様に先を尖らせてた細長い形で、無数に地面から飛び出している。


 そこは時間が止まった空間、いわば精巧に作られた立体彫刻の作品ように見える。

 

 スチュアーノさんたちが俺たちとの戦いでこの部屋を選んだだけあって、部屋が縦も横も奥行きも広く、目指している扉まで少しある。


 

 俺たちがやっと半分ほど来たときだった。


 バン!!!!!


 横にスライドする形の金属製で作られた、結構重量がありそうな扉が、正規の方法ではなく、無理やり力任せに力が加えられたようで、扉の中央からこちらに引きずり込まれるようにして歪み、そのまま、扉が定位置を外れてこちらに飛んでいた。

 ちょうど俺たちの立っている直線上だ。


 

 衝撃はスピードと重量に比例する。


 俺は急な減少に脳が追いつかず、気づいたとには逃げても間に合わないと悟ったときだった。


 スチュアーノさんは、真っ直ぐ飛んでくる扉を凝視したまま、拳に魔力をため始める。

 右手を左脇腹に持ってくる。


 そして、俺たちとそれが衝突すると思った瞬間、スチュアーノさんは、右手の甲で叩くかのように右手を振るった。


 扉は直角に軌道を変えて、横の壁にぶつかった。

 俺は突風に顔の前で腕を構えて遮りながら、扉の外れた先を見ると、一人の人物が立っていた。


 俺たちよりも少し年上そうな青年だった。

 ゴツゴツとしている手袋をつけた左手には長槍を持っているが、この扉は確かに脚で蹴り飛ばしたようである。


 片目は髪の毛で隠れているが、もう片目の色から、この国のものではないことを物語っていた。


 ゆったりと来たローブは所々裂け……、意図的かもしれないが葉っぱなどもついている。

 この人物もフードを持っているが、そこには何やら文字が書いてある。


 しかし、見た目上フードはローブと不釣り合いなほどピカピカで、この人物はほとんどフードを使っていないことを物語っている。


 「あっれーーーー。運良くナイスなところに立っていながらも、なんで俺っちの攻撃をかわっしゃうかなあー。と、俺っち、ここ、ディスルームに待ち合わせ人がいるはずなんだけどなあーー。広い割には人全然のすっかすっかだし…………って、みっけーー!! ゼノ、静かすぎっしょ。俺っちスルーするとこだったぞ。いつも以上にゼノバース(ゼノの妄想空間)作りすぎ」


 「時間ギリギリだぞ」


 「そっちのほうが楽しくない?」


 「ふっ」


 明らかにその仮面の人物の仲間らしかった。

 俺とスチュアーノさんは戦闘態勢でその人物と対峙した。

 


 

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