表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
オン・ワンズ・ワァンダー・トリップ!!  作者: 羽田 智鷹
二章 交錯・倒錯する王都
60/86

第二章 三十四話 有る非ぬは蚊帳(かや)の外

 

 「いらっしゃい」


 露天商は俺たちには目もくれず、新たな客に向かって爽やかな雰囲気で呼びかける。


 その客は俺たちと露天商を仲介するかのように、小さな足幅ストライドでゆっくりと俺たちの横を通り過ぎると、俺たちと露天商の間の僅かなスペースまで歩いて来る。


 そして露天商をやや見上げた。


 「おじさん、ここで何かあったの?☆」


 「おやっ!! これは失礼いたしました。五大明騎士が一人、『烏枢沙摩ウスサマ』でしたか」 


 露天商が彼女をそう呼んだ。

 


 彼女はまさしくセロだった。


 「で、何があったの☆?」


 セロは興味津々、と言った様子で可愛く訊ねる。


 「それがですぜ。この客さんたちが俺が毒草を売ってるってイチャモンをつけてきてですね。挙句の果に自分らが今からよく調べるからって、よこせだのして盗みを働くのをちょうど俺が気づいて退治してるところですぞ」


 露天商は自信満々でここであったことのように如実に語ると、「これでお前たちは終わりだ!!」 と言った感じで俺たちをその悪そうな眼つきと、ほくそ笑みを浮かべて見る。

 


 当のルカは既にセロに気づき、先程からは何も言わないでいる。


 ルカがセロのことをよく知っているのかどうかは分からないが、多分セロがどうにかしてくれるのだろうと思っているのだろう。


 「そこのお姉さん、どれのこと☆?」


 セロはルカを呼んだらしかったが、皆気づくのに数秒がかかる。


 「これだよ。この"ベラドンナ"」


 セロに言われ、ルカがその干草を指差す。

 

 「これだね☆」


 そう言って、セロはその薬草を手に取った。

 

 (ゼー。ハァハァ)


 吐息の音が聞こえたと思ったら、俺は突然背中を突つくような感触を感じ取った。

 その信号はすぐさま脳へと伝わり、反射的に体はびくっ、と反応する。

 

 みるとナルさんがそこにはいた。


 顔はやや赤く染まり、よく目を凝らせば体から蒸気が出てるんじゃないか、と思わされるくらい体が火照っているようだった。


 「そんな貪るようにお姉さんを見ないでほしいな、弟くん」


 いきなり何言ってるんですか、ナルさん。


 「ところで、今どんな状況?」


 すぐさま俺を試すような顔からいつもの優しげな顔に戻る。

 多分こっちが本題なのだろう。

 

 俺はルカたちから一歩離れてナルさんの方へ行く。


 「ルカが毒草だって言うものを見つけて、そのことで露天商と揉めてたんです」


 「へえーー、それならセロちゃんが多分解決してくれるね」


 それなら良かった。

 気兼ねなく、彼らのやり取りをナルさんの近くから、遠目に見ていられる。


 「ところでナルさんたちは何やってたんですか? そんな様子で……」


 「あ、えっと、いつも通りの王都周辺の警護の後なんだけど…………。最近やることなさすぎて、セロちゃんに皆が稽古をつけてもらってるんだ」


 「それでそんなに」


 「うん。しかもね、あの俺様口調で相手をしてもらうと、セロちゃん感情移入しちゃうっぽくて凄くなりきっちゃうの。今日は一段と厳しかった」

 

 何言っているんだ、この人。

 つい数十分前を思い浮かべているのだろう。

 頬が緩んで、軽く顔がニマニマしている。


 「でも、それってお姉さんという立場からしたら、妹に厳しくされるってどんな心持ちですか?」


 俺は真剣味の帯びた口調で問う。


 「そう、そこなんだよ弟よ。流石は弟だ。厳しくしてくれて嬉しいのと、お姉ちゃんという立場が私の中で葛藤して……」


 やばい。

 ナルさんをエスカレートさせてしまったようだった。

 俺も好奇心を抑えないとな。

 

 そうこうする頃には、現場検証は終わっていたようだった。


 「確かにこれ、ベラドンナだね☆ お姉さんの言っている通り猛毒がある☆」


 「へっへーーん」


 ルカがゲスな笑顔を露天商に向ける。


 「はっ?! でもこの王都にそんなものあるわけ」


 「だから、これはベラドンナなの。私を信用しないのなら、おじさん試しに食べてみる☆? おじさんって経験するまで信じてくれない部類の大人なのかな☆ 大丈夫、ここに最強の魔法使いがいるから、たとえ逝ったとしてもすぐにこっちに戻ってこさせて上げるから☆」


 それって、一回は向こうの世界に行くってことだよな。


 セロちゃん、可愛いのに言っていることは恐るべし。


 「『烏枢沙摩ウスサマ』ご容赦を。俺が間違ってました。どうぞそれ、持ってってくださいよ」


 露天商の顔が青ざめ、ベラドンナを押し付けるようにしてすぐさま、全てセロの手に載せる。


 「ほらね。私が正しかった。では、私はこれで」


 セロのあとをニヤニヤしながらルカはそう言うと、店から軽い足取りで出てきた。



 

 「いっやあ気分いいーー!!」


 ルカがいいことした、って顔をしている。


 「しかし、なぜこのようなものが……」


 店から出てきた途端、セロは困ったように顔を歪めている。

 しかしそれも可愛い以外の何者でもない。


 「よく、これが毒草だってわかったな」


 俺が訊ねる。


 「当たり前じゃん。前に私たち一緒に山菜取りとか行っていたでしょ。薬草とかの知識なかったら、もしかしたらフィリーたちはもう死んでるっなんてことあったかもよ。だ・か・ら……、私に感謝してね」


 「くっ」


 小さかったが、確かに今ユーリが何か言った気がする。


 

 見ていると、なぜか今日のライアンはやる気がない様子だった。


 「ライアン、どうかしたか?」


 「いや、なんでも」


 しかししきりに周りを気にしている様子だった。

 


 「それで。なんで、ルカさんがここにいるんですか? 今日は私がフィリーに頼み込んでお願いを聞いてもらってるのに、邪魔しないでもらえません?」


 意を決したかのようにユーリが切り出す。


 「ほらやっぱり……。じゃなくて、たまたまの偶然だよ」


 「王都はこんなに広おくて、人が多いいのにですか?」


 ユーリとルカが顔を突き合わせて言い合いを始めた。


 ここで俺が余計な口出しをすると、両者から俺は息のあったダメ出し食らわされる場面であろう。

 しかし俺は進んで的になりに行く主義ではない。

 

 「なあ、セロ。あの露天商、知らずにベラドンナを入荷してたんだろ。だったら、同じような目にあってる露天商もいるんじゃないのか」


 「お兄さん、さすが☆ ちょっと待ってて…………、『周辺捜索ヴェスティゲート』」


 セロの杖の先をベラドンナに当てて呪文をつぶやく。

 すると杖の先が赤く光り出す。

 

 その光が少し空に伸びながらまとまっていく。

 そしてそこから幾本の線となって俺たちの目の前の道の先へと伸びていく。


 「あっほんとだ☆ あっちとあっちの方からベラドンナの反応がある☆」


 「よかったな。ルカにユーリ、まだ終わってなさそうだぞ」


 二人は一瞬睨み合って視線を外すと、早く行くぞとばかりに俺とライアンをそれぞれ睨みつけた。



 結局俺たち六人は、その線の先へと向かうことになった。

 

 いうまでもなく、先程の露天商と同じように、何の情報も知識もない露天商たちがベラドンナを店頭に並べて売っていた。


 セロが説明すると、彼らは話の飲み込みが早い。


 勿論一番初めに言い出したルカの頑張りも俺はすごいと思うが。



 なぜならルカが言わなければ、こんないろんな店の立ち並ぶ王都では、人々はなんの疑いを持たずセロでさえ、気づくことなく未然防ぐことはできなかっただろうと思う。

 

 俺たちが"ベラドンナ"を回収中に露天商たちは共通して、竜車に乗った商人の中に紛れ込んでいたと言っていた。

 その言葉に嘘はないだろう。

 

 俺ののんびり休日生活が、人助けをして王都を駆け回る駆け回る羽目になってしまったのは、もう俺の運を恨むしかない。


 

 四、五件の"ベラドンナ"露天を回りきり、セロの使った魔法の線がやっと残り一本となる。


 「はあ、ほんとお兄さんたちには感謝だよ☆ 王様も抜けてるんだから☆」


 セロが疲れの色を見せ始める。

 

 「セロちゃん。お姉ちゃんがおんぶしましょうか」


 「いいよ。セロ自分で歩けるし。もしあれだったら、魔法で浮くから☆」


 「なんだかなあ〜、釣れてほしいなあ」


 ナルさんが落ち込んだように言う。


 

 ちょっと、今聞き捨てならないことを聞いた気がした。

 浮いて移動ってセコくないですか。


 最後の線上の先を目指していくら歩いても、なかなか示された地点に辿り着かない。


 「変だね」


 それにセロの魔法は辿る先を最短ルートで示しているはずなのに、さっきより時間が経つに連れてやや方角がずれてきている気がする。


 しかし俺たちはただ示された道を行く他にない。

 

 

 少し経つとやっと目的の露天が見えてきた。

 商人の竜車の止まっている露店を目的地として指し示しているのが分かる。

 

 「おじさーん☆」


 セロが再び聞き込みをする。


 セロたちが店内に入っていったのと同時に、中にいた客たちが入れ替わるようにして店から出ていく。


 ちょうどここでの買い物が終わったのだろう。


 店内ではテーブルの上に硬貨が数枚おいてある。

 テーブルの奥には少し雑に高く積まれた木箱が乗せてある。


 日用品や雑貨など、売り物は綺麗に整然となっていた。


 「いらっしゃいまし」

 店主は気前よく俺たちに声をかけてくる。

 

 「やっぱり。あった」

 ルカがそう言って、積まれた木箱の一つを指差す。


 「嬢さんはそれがめたてですかな?」


 「うん、おねがい☆」


 セロが頼む。


 木箱の蓋を開けると案の定"ベラドンナ"が入っていた。


 「おじさん、何処から仕入れたの☆?」


 「えっとなあ。今来た商人からだな」


 「えっ……。今!!」


 「うん。今だな」


 俺は急いで店の外に出ると、言われた通り竜車の姿が見えたが、既にその商人は竜者を走らせ道の少し先にいる。


 この露店が最後の一件だと思われていたが、セロの追跡魔法は実際にはもう一本、その竜車を指していた。

 先程まではこの露店と竜車の二本の線が重なっていたため、"ベラドンナ"は残り一件だと俺たちは勘違いしていたようだった。


 俺はあまり大声を出すのが得意ではないので叫ぼうかどうしようかと迷っていると、隣から、


 「しょうにんさーーーーん☆」 


 セロは躊躇もなく可愛らしい声で叫んでいるが、竜車を止める様子もなければ、振り返ってこちらを気にする様子もない。


 「セロ。どうする」


 「大丈夫☆ 『氷結アイスワンド』」


 セロが魔法を唱えると、ピンポイントでその竜車の四輪全てが凍りつく。

 竜車の生み出す物理エネルギーは瞬時に抹殺され、竜車はその場に止まる。

 

 当の商人の顔には驚きの色が浮かび、辺りをキョロキョロしていた。


 「しょうにんさん☆ ちょっと中身見せてねーー☆」


 セロがそう言うと自然に木箱の蓋が開く。


 「はっ……なんで勝手に蓋が……」


 案の定、この竜車の一角には大量のベラドンナが積まれていたようだった。 


 「お兄さん。ちょっと、拘置所で詳しく話を聞かないとイケないよ☆」

 

 「カルスト、俺はどうしたらいい??」


 少し若めの商人は俺たちが自分を見ているとこに気づくと、苛立ったように土竜に鞭を打って、その場から早く出たいとばかり独り言を呟く。


 もしかしたら、前の"炭石"の時のように共同犯かも知れない。


 「その、かるすとって誰なの?☆」


 彼はセロを一瞬嫌そうに見下ろす。


 「ちっ。こいつのことだよ」


 そう言って前を軽く顎で示す。


 …………、どーいうこと??



 「多分あれ、あの土竜のこと言ってると思う」

 俺の困惑した表情に気づいてユーリが耳打ちしてきた。

 「商人ってね、自分の土竜との信頼が妙に深いんだよ」


 なるほど、それならユーリの言葉に納得だ。



 「で? 俺みたいなやつに騎士様は何のようです?」


 彼はセロの存在に気づくと、諦めたように手綱から手を離した。


 「君を毒物輸送の疑いで一応王のもとまで連れてく☆」



 「っ?!!!! はっ?? 無罪だ。冤罪だ。童女が何ふざせたこと言ってんだ」


 「そこらへんも、詳しく聞いてあげるからね。さあ行こうよ☆」


 「やめろ、俺は本当に何もしてねーぞ」 


 彼は必死に抵抗しようと、手に持ったムチを振り回し始める。


 「もー。こーなったら☆ ほんとはこれ、使いたくないんだけどね☆ 『導睡リッチ』」


 すると途端のその商人の目がとろんとし始める。

 そして数秒立たないうちに静かになり、寝てしまった。


 「はあ、ナル姉。今日はやること多いね☆」


 「ほんとですよ。だったら今日はあそこまで本気で稽古つけてくださらなくても良かったのに」


 そう言いつつも、ナルさんは少し赤く染まっている。


 セロがその商人の体を魔法で浮かせると自分と一緒に移動させる。


 「お兄さんたち、ありがとう☆。こんな事件未然に防げるなんて、やっぱりお兄さんたちほんとに頼りになるね☆ お兄さん、案外セロの中で新しい属性かも」


 はいっ?? 

 属性という言葉とナルさんたちの性癖からして嫌な予感しかしないし、それに俺を勝手に当てはめないでほしい。


 「フィルセ君たちもお疲れ様」


 ナルさんはそう言うと、彼女たちはゆっくり犯人の商人を連れて通りに中に溶け込んでいった。

 


 さて、俺たちはどうしたことか。

 疲れたし、屋敷にでも帰ろうかな。



 「さあ、フィリー。私との続きがまだあるかんね」


 ユーリが即座に俺の手をとった。


 まるで逃げられないことを告げるかのように。


 「私とライアンも同行するわ」


 「はあ、俺もかよ」


 ライアンが嫌そうに呟く。


 「ルカさんもですか……。これは貸しですよ。もうこんな状態になってしまったし、正直こうなるかも思ってましたよ。しょうがないですね。いいです。…………ただし、行くところは私が決めますから」


 ユーリは少し威張ったかのように、ルカに対して敬語で返答をする。


 そして開き直ったように、トコトコとユーリが歩き出した。


 「で、今度はどこ目指すんだ?」


 「昨日、言ったじゃありませんか。オワモテのお兄さんの店ですよ」


 あっ。そこが今日の本命だったな。


 「ほんとにそこ、大丈夫なのか」


 逆に俺は少し怖くなってきたのだが。

 

 

 少し歩くのお目当ての店が見えてきた。


 確かに店主であろう人が少し怖い。

 どういう店かというとそのコワモテ外見によらず、小物とかアクセサリーとか骨董品の類を扱う店のようだった。


 さらに怪しい店だ。


 「フィリー、先に行ってくださいよ。私はその後をついていきます」


 ユーリが俺の勝手に押してくる。


 「その人に、ユーリのお兄さんのことを聞けばいいのか?」 


 なぜ、ユーリのお兄さんとこのコワモテでアクセサリーショップの定員さんが繋がるのだろう。

 もしかしたら、ユーリのお兄さんにもそういうところがあるのかもしれないとか?

 

 「違いますよ。ただ最初は普通に店内に入ってください。店内に入るまでにあの人が道を塞ぐように立ってるんですよ。すごく難問です」 


 「はあ」


 ユーリのお兄さんも危ない人なのかもしれなかった。


 

 そうと決まれば…………。


 俺はユーリが反応できないように、いきなり、そして素早く店内に入っていった。

 

王都では実際にはどんな事件が起きているのか……。


次回予告 「ドン底の前には一服を」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ