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オン・ワンズ・ワァンダー・トリップ!!  作者: 羽田 智鷹
二章 交錯・倒錯する王都
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第二章 二十九話 盗品の意味


 俺たちが屋根を伝って現場に着くと、残る犯人二人もスチュアーノさんの部下たちが片付けてしまったようだった。


 「で、彼らは何を盗んだのですか?」


 スチュアーノさんはよくやったとばかりに、配下に訊ねる。


 「それがお金を少々と、貴重品アイテム"炭石"です」


 「"炭石"とはあれですか? 暖を取るために熱を生み出す貴重品アイテムの?」


 スチュアーノさんは拍子抜けだ、と言った感じで犯人たちを見る。


 「そうだ。テメーがスチュアーノか。このっ!!」


 犯人の三人は縄でぐるぐる巻きにされていた。

 そのうちの一人が威勢を上げ、縄を解こうと暴れる。


 「皆さんはなぜ"炭石"を? 窃盗をするほど大胆なものではないと思うのですが……」


 「そうだよな。誰の家にも或るもんな。でも、てめーは知らねーらしーがな。こいつは最近高額になってきてんだよ」


 もう一人もジタバタと叫びながら暴れる。


 となると最後の一人も……、と、スチュアーノさんの衝撃波を食らって気絶していた。


 お気の毒に。


 「そういえばそうですね。"炭石"といえば、僕たちも最近買う量が増えましたね」


 思い出したかのようにスチュアーノさんはつぶやく。


 「そう、それだよ。テメーが急に買い占めるから値が上がったんだよ」


 「それは仕方がないのです。僕は例年の変わらずに"炭石"を使っているはずですが、なぜか最近は消費が早いのです。その分いつも以上にしっかりと暖が取れているのですが。貴重品アイテム自体の耐久値が下がったとかですかね」


 「知らねーし聞いてねーよ、そんなの。でもてめーがこんなことしなければ、俺らは窃盗なんてしなかった。"投票ロット"で金を取られた。そしてさらによりにもよって、あんたが黒幕で"炭石"の値を上げることが、俺らには嫌がらせでしかねえんだよ」

 

 まさかそんな普通の家庭で使われているような貴重品アイテムで事件が起きるなんて。

 びっくりだ。


 「リーダー。報告します。取られたはずの"炭石"がこの竜車には積み込まれていません。こやつらが別の場所に隠したとか」



 制服をびしっと決めた好青年がスチュアーノさんに状況報告をする。

 


 スチュアーノさんは彼らの前に一歩近づくと、威圧するように拳を光らせる。


 「だそうですよ。皆さん。"炭石"どこへ隠したんですか?」


 「へっ、教えるはずが……」


 「はいっ? ……えっここは……。俺たちは炭石を手に入れて……、って、あ、この人が"石炭王"か?」


 場違いのような間の抜けた返答。


 口からはよだれを垂らし、徐々に目を開いて焦点を合わせていく縛られた三人目の犯人の青年。


 犯人の二人は隣から聞こえるそんな間抜けたの返答に驚き、言葉を失っている。

 

 "石炭王"って単語を初めて聞いたが、語尾に王ってついているにも関わらず、間抜けな響きがある。


 「なんだそれは……」


 スチュアーノさんの今日一番のドスのきいた声が訊ねる。

 朝の彼からは想像できない声だ。

 


 「えっ、おにいさん知らないんすか? ここらの人の中では案外名のしれた"あだ名"ですよ。人々は尊敬と滑稽を込めて……」


 「ちょ、おま。おい!! コータそれ以上は言うな」


 「えっ、なんで?」


 後から目の覚めた彼の態度に、初めは威勢の良かった犯人二人はオロオロし始める。


 流石に犯人の二人は空気が読めているようだった。


 「なんだそれは………」


 スチュアーノさんの拳が輝きを増し、震え始める。


 「すみません。俺今猛烈に反省してます」


 「すみません。最近の貴方様の態度から俺らに喧嘩を売っているのかと勝手に勘違いしてしまいまして……。このようなことを」


 「そだね。俺たち実はスチュアーノ陣営に"投票ロット"したんですよ。もっと頑張ってくださいよ」


 もう五大明騎士に捕まった時点で、犯人の彼らに勝機はないのだろうか。 


 必死の謝罪モードに突入した。


 

 「でだ。炭石はどこへやった?」


 まだ低い声のままスチュアーノは続ける。


 「さあ、俺たちは知りません。ずっと竜車の中に置いておいたはずです」


 確かにこの竜車は盗まれたもので、操舵手はスチュアーノさんから竜車を攻撃したのに怯えて何処かへ行ってしまった。

 だからこの竜車が誰のものかは分からない。


 「それかあれじゃないっすかね。俺らの逃走中に"炭石"は竜車から落ちた。もしくは、貴方様の攻撃を受けた際に外へ投げ出されたとか」


 彼らは必死に訴えかけてくる。



 「いちおう、皆さんを僕の屋敷まで連行する。動けるものは監視に回れ。それと第三班、僕と今追って来た道を捜索しましょうか。地竜に乗ったままでいいですが、なるべく丁寧に」


 犯人たちは途端に安堵したような表情を見せる。

 まだ、罪状も何も救われていないような気がするが……。

 



 と、数十五分程捜索していると……。


 「スチュアーノ様。ここにもう一つ別の竜車が急いで通った跡があります。はて、騒ぎのあった通りの近くの道をあえて使おうとしますかね」


 「野次馬かもしれません。事件の近くを通りたいとする者はザラにいるでしょう。僕たちのとっては惑わすだけの余計な情報です。気にせず続けましょう」


 その時、犯人の一人がニヤッと笑ったように俺は見えた。



 

 更に探すこともう十五分。


 ほとんど探し終え、窃盗犯とスチュアーノさんが衝撃波を打って、初めて交錯した場所まで戻ってきた。



 「おい、お前ら"炭石"どこにあるのですか?」


流石にスチュアーノさんも痺れを切らしてきたようだった。 


 「知らないですよ。俺らにとっても大事なものですから」 


 「それにけっこうな量ですから、探せばきっと見つかると思うっすけどね」


 俺たちも彼らの言った方を捜索をしているが、一向に見つかる気配がない。


 「あっ。もしかしたら落ちてた"炭石"を別の人が拾って持って行っちゃったとか。俺たちと同じ気持ちの人はたくさんいると思うので、俺たちのをさらに誰かが盗んだとか……」


 空気の読めていない犯人の一人が口を開いた瞬間、犯人の二人の顔が少し厳しくなったような気がした。


 「まあ、何にしても。どっちにしても。俺たちは知らねーよ」


 「そうですか。ならばしょうがないです」


 そう言ってスチュアーノさんは自分の拳を合わせて不気味に笑う。


 その瞬間、三人は森の中でクマを見たときの子鹿のような目をした。

 彼らから笑顔が消え、焦りの色が現れる。


 やはりこの街では五大明騎士のみが武器を使えるという状況が、弱い者イジメをする者の様な雰囲気を今のスチュアーノさんから感じた。



 「俺たちホントは、初めからふた…………」



 「では。もう一度来た道を戻って探しましょうかっ」


 スチュアーノさんの間の抜けた言葉に一瞬俺も耳を疑う。


 犯人たちの時間も一瞬止まり、そして次第に言葉を理解し始める。



 「えっ」 「へっ」

 「そうとなったら急がないと」


 相変わらず三人目の彼は場の空気は掴めていない様子。



 しかし、いくら探しても"炭石"は一向に見つかる気配がない。


 「スチュアーノさん。やっぱりこの人達が何か知っているんだと思いまーす」


 ユーリが探すのに飽きた。……もしくは疲れたことを主張するかのような声を出して指摘する。


 「フィルセもそう思うでしょ?」


 そうだな。俺のことよく分かってるな。


 「俺も同じく。どうしても口を割らないなら何か別の方法を考えるのも有りだと思いますよ」


 

 と、その時だった。


 スチュアーノさんが持っていた通信用の貴重品アイテムから着信が入る。



 「至急、リーダー。応答してください。至急です」


 「なんですか?」


 通信用の貴重品アイテムをスチュアーノさんは取り出す。


 「あっ、良かった〜。こちら南結界門。街の中から物凄いスピードを出して竜車が突進してきてます」

 


 それを聞いて犯人たちは突然各々口を開き始める。


 「はははは。俺らは駒として終わったが、目的は達される」


 「俺らはそれを北国に売りつけてくるんだ。あれだけの量があれば一年は暮らせる」


 犯人の二人は縄でしばられながらも絶骨頂のような顔をして、笑う。


 そんな態度に俺たちを含めた、周りは警戒の態勢をとる。


 「お前ら、何を知っている?」 


 スチュアーノさんは威厳を崩さない。


 「だーかーら。俺たちは三人じゃないんだよ」


 「良かったあ。引っかかってくれたね。俺のおかげかあ?」


 三人目の空気の読めていなかった青年がそう呟いた。


 その発言に二人は顔を少ししかめたのを俺は見た。



 しかし彼らは自分たちの後先のことよりも、作戦が成功したことに無邪気に喜びを表している。


 「至急。応答してください。リーダー、聞いてます?」


 貴重品アイテムから時間が迫ったような焦り声が聞こえる。


 「聞こえている。結界門の警備をしている皆さん。外に出てください。そしてそこで街から突っ込んできたやつを捕まえろです。久しぶりの武器に腕とかなまってませんよね?」


 スチュアーノさんは常に武器が使えるが、その他の者は久しぶりだという事実をやや皮肉的にも聞こえる言い方だった。



 門の外に出てしまえば、スチュアーノさんこ騎士たちも武器も使えるし、何よりこっちには人数がいるだろう。 


 「僕たちも今から南結界門に向かいます。この三人は第三班の皆さんで抑えておいてくださいよ」


 そう言って今度はスチュアーノさんが普通に路を走り始める。


 「追いつけますか?」


 「それは不可能ですが、こうするしか方法がありません」


 五大明騎士といえども、王都を壊して道を作るような街に干渉することはできないために仕方がない。


 スチュアーノさんを先頭にちょこまかと南結界門を目指す。

 


 街の人々は俺たちのために路をあけ、時々


 「お、スチュアーノさんだ。しっかりポイント稼いでくれよ」


 なんて声も聞こえてくる。


 物干し竿にかかっている衣服はまだ間に合うぞと言わんばかりに、日光浴に勤しみ気持ち良い。


 洗濯物の心地よい香りが時々鼻孔をくすぐる。



 「報告します。竜車はスピードを落とさず結界門に近づいてきています。……、総員、武器を構えろ」


 貴重品アイテムの奥からは緊迫した雰囲気が伝わってくる。 


 

 地竜では通れないような路をも俺たちは自らの足で駆け抜けていく。



 結界門を守り騎士たちの時間は速く、俺たちのいる時間はゆったりと感じた。


 「車輪を狙え。ち、このスピードじゃあ近づけねえ。おい、ただ車輪を狙うだけじゃダメだ。あのスピードでは力の加わる方向が少しでも変わるだけで、"炭石"ごと滝の底へ真っ逆さまだ」


結界門側で誰か指示と状況が垂れ流れる聞こえてくる。


 「おい、"炭石"は持っているのですか?」


 「はい、確かに積んであります。が凄い量です。これは簡単にはスピードが落ちない」


 「今どこです?」


 「只今、王都から繋がる崖の上の小路を三分の一程のところです」


 これならイケる、とばかりにスチュアーノさんは少し笑う。


 「そうですか。分かりました」




 俺たちの場所からもやっと結界門が見えてきた。


 家々から突き出るようにしてそびえる門までは、まだ少し遠い。

 


 「犯人、魔法が使えるようです。簡単な魔法ですが、あのスピードの竜車の上から旋風系魔法は、意外とキツイです。俺たちの魔法の狙いが定まらない」


 「僕が結界門までついたら、一直線に衝撃波を放ちます。皆さん。しっかり避けて下さい」



 何やら俺は既にスチュアーノさんの右手から魔力を感じる。


 スチュアーノさんのグローブは空気中を物質を吸収し始めているようだ。


 幸い、王都から向こう岸まで続く橋のような路が一直線なため、衝撃波が追いつくことができるのだろう。


 「おっ、じゃあ俺もレーザーを放とうかな」


 「お前のやつだと、竜車が燃えるんじゃ……」


 「大丈夫ですよ。君の力も邪魔にはならない」


 「ほらみろ、フィリー。勝手なこと言うなよ」


 ライアンはニヤリと笑いかけてくる。


 そんな顔を見てもクーレナさんは驚いたりしていない。


 ライアンが普段から素の態度で接しているかららしいな。


 

 スチュアーノさんの力強い声にライアンも成果を上げようとイキりだした。

 

 「只今距離にして半分を突破。若干スピードは落とせてきているものの、まだ無理です」


 通信には剣が何かに当たる接触音や魔法による音が、砂嵐のごとく入ってくる。


 「この陣営のリーダーが何もしないとは顔が立ちません。それに国を守る一騎士として、なんとしても皆さん少しでも悪事を止めていてください」


 

 そう言って、さらにスチュアーノさんはスピードを上げた。



 そのスピードでよく路を選べるものだ。

 地面をしっかり蹴り上げて一歩での進む距離が尋常ではない。



 家々を越えていくと突如視界が開け、目の前に草原が広がり始める。


 「さあ、結界門まであと少しです。みなさんも頑張ってくださいよ」


 ここで言う皆さんには、俺たちの他、今窃盗犯と戦っているスチュアーノさんの部下たちも含まれているような気がした。

 貴重品アイテムごしにスチュアーノさんの言葉は伝わって知るのだろうか。


 「へいへい。お前らへばってきてるのか?」


 俺の体力はそのようなことでは尽きない。


 日々の努力の多摩モノレールだ。



 「なわけ」 

 「フィリーに言われるまでも」 

 「なめないでくださいよ」


 草原を通るそよ風が俺たちの走力を援助するかのごとく、背中から酸素に送り込んで燃焼を高めさせた。


 俺たちはさらにヒートアップして門まで向かった。



壊せないもの、普通のゴミに出せないものって意外と不便なところありますよね。

邪魔、邪魔、ジャマイカウサイン・ボルト!!


次回予告 「美味を噛みしめる運」



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