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オン・ワンズ・ワァンダー・トリップ!!  作者: 羽田 智鷹
二章 交錯・倒錯する王都
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第二章 十八話 巡り合わせ

 

 俺はセロが放った魔法の行き着く先をずっと見続けていた。


 時にはピンク、時には紫、時には黄色と統一的に暖色に輝く魔法は一直線に木々を貫通しながら突き進む。


 俺が感知した物以上の魔力を視覚から感じるような気分。


 十秒ほど立った後、セロの魔法は突如、何かにぶつかったかのように進行方向とは垂直に三百六十度、辺り一面きれいに拡散して消えていった。

 

 何かがその場所にはいて、セロの魔法を防いだらしい。


 「ホントだお兄さん、誰かいるみたいだね☆ 一応手加減しておいたからよかった☆」


 しかし、手加減とは言ってもセロほどの魔力を防ぐとは……。

 いったい何者なのだろう。



 図らずともそんな疑問は砂埃が晴れるとすぐに明らかになった。


 「いきなりなんですか。僕がとっさに行動できたからよかったけども、それでもすごく危なかったんですけど。ていうか、僕じゃなかったらどうするつもりだったんですか?」


 その者の両手には空色のクリスタルがはめ込まれた、青を基調としているグローブがはめられていた。


 そのグローブは指の先から肘を覆うまである。


 どうやら、腕全体を盾のように合わせてセロの魔法を防いだようだ。

 さも人のパンチを防ぐときのような構え。


 「よう、セロちゃんにイルにナルちゃん。ここらへんをピクニックでもしに来てたのか?」


 スチュアーノさんとシスさんだった。


 今の様子を見る限り、スチュアーノさんは相当の実力者であることが伺える。


 しかしシスさんはなんの武器を構えず、俺と同じようにただ見学をしにでも来たかのように軽装だった。


 その後ろには、何人かのスチュアーノさん直属の鎧姿の騎士たちがいる。


 今気づいたのだが、この場にライアンとルカ、それにユーリがいない。

 三人はあの尾長猿エイパムタークと野うさぎの方にいるらしい。


 「こっちの方で何か音が聞こえてきたから、セロの方でなにかあったかと思って。急いできたんですよ」


 スチュアーノさんが悲壮感を漂わせて言う。


 「それなのに、なんでこちらに魔法を撃つわけですか?」



 「魔獣ならいたし☆ だから、こっちもスチュアーノたちが魔獣かと思ったの☆」


 「……それならしっかり敵は何かを確認してからにして下さい。セロの魔法だったら余裕で跡形もなく消し飛びますよ。今日はやけに魔獣が多いな。僕なんて今日の日課だけで二十体以上討伐してきましたし」



 その言葉を聞いて、セロが反応した。


 「今日だけでにじっぴき? だからその、『大威徳だいいとく』が今日は一段と光ってるんだー☆」

 

 「だいいとく、って何ですか?」


 セロの様子を見守っていた、俺の前にいるナルさんに聞いてみた。



 「えっと、『大威徳』っていうのがスチュアーノさんの拳の名前だよ。でうちのセロ様が持っている杖が『烏枢沙摩うすさま』。この国の古文書に載っていた『五大明王』の名を持つすっごい武器。五大明騎士様方が一本ずつ持っているよ。というか、逆にその武器を持っているからセロ様たちは"五大明騎士"って呼ばれているんだよ」



 彼らは持つ武器が特殊だったのか。


 「まあ、武器以上に実力が超人なんだけどね」


 ナルさんが少し笑った。


 「セロも今日はお兄さんたちと一緒に来たから、スチュアーノほどばんばん魔獣を倒すつもりなの☆ だけど、全然セロの前に出てくれないかの☆ だ・か・ら、セロたちは魔獣を自ら探しに行っているってわけ☆」


 「それは僕と比べると……、運が悪い? ですね」


 スチュアーノさんは、疑問気味だ。

 



 「そうだ、せっかくだからセロちゃん。俺と今から勝負しないか? 好きだろ、勝負」


 シスさんが急に思いついたかのように言う。


 「すみません☆ あなたは誰ですか?」


 シスさんが軽く驚く。


 「セロちゃんの猛烈なファンだね」


 自信有りげにに言った。


 「スチュアーノ側にいてよくそんなこと言えるね☆ 建前バレバレ」


 「俺と勝負したくないのか? 実力ではセロちゃんの方が圧倒的に上だし、勝算ありありなんだけどなー。やっぱり、まだセロちゃんは俺に勝てるか自信がまだないのかな」


 シスはセロの様子をうかがいながら言っていた。


 「話を横入りするようですが、シス。俺と、じゃなくて俺たちと言ってくれませんか? というか、僕がここの団のリーダーであるはずなんだけどなあ……」



 しかしシスさんにとってはそのことはさほど重要ではないらしく、スチュアーノさんに目を向けることはなくセロをずっと見つめている。


 その沈黙をシスさんは肯定と捉えたのか、


 「そうだな。先に五メートル級以上の魔獣を討伐したほうが勝ちとか」


 「なんだか、面白そうね」


 イルさんが賛同した。


 「シス、いいのか……。五メートル級なんてそうそういないですよ」


 「大丈夫だ、スチュアーノ。今日のあんたはなんだか運がいい。それを真横で見てきた俺が言うんだ。多分行けるぜ」


 「魔獣に出会うことを運がいいと言っていいのかな?」


 しかしスチュアーノさんもそれほど嫌そうではなかった。


 「クソシス☆ アンタが自分の実力を過大評価しているということを分からせてあげるよ☆」


 「お、いいねいいね。ありがとう」


 やっぱりスチュアーノさんよりも、シスさんの方が楽しそうだった。

 


 「ていうか、スチュアーノが今日運がいいのって、その貴重品アイテムのせいでもあるよね☆」


 そう言って、セロはスチュアーノが首から下げているネックレスを指差した。

 中央には光り輝く鉱石のようなものがついている。



 「そうだねスチュアーノ。あんたにはそれだってあるから勝負なんて楽勝だって。……まさか、セロちゃん。これを外せっとか言うんじゃないだろうな」


 あながちあの貴重品アイテムは若干運気を上げるものらしいことがシスさんの言葉から分かる。


 それ故かシスさんはスチュアーノさんのその貴重品アイテムを外させないような空気を作ろうとしているようだった。



 「いい、そんなもの。セロはそんな力なんて借りない☆」


 セロはきっぱりと言った。

 


 「その貴重品アイテムってそんなに凄いものなんですか?」


 貴重品アイテムなんてただ気休め程度の物だと俺は思っている。


 しかし彼らがそこまで気に掛けるからには少しばかり気になった。


 俺はスチュアーノさんが首から下げているものが何の貴重品アイテムなのかわからなかった。


 俺はナルさんに訊いてみようと彼女を方を向いてみたら、なんだかさっきよりも俺とナルさんの距離が近くなったような気がする。


 無論、比喩ではない。


 「えっと。確かあれは七つある天眼石系アイアゲートっていう貴重品アイテムの一つで『空色縞瑪瑙ブルーレース』って言う名称の物だった気がする…………。この前屋敷で読んだ『古文書』のウルス・ラグナを倒したんじゃないか、って思っわれていた人が持っていた天眼石系アイアゲートの物とは別種だね。あれにどんな効果があるのか私は詳しく知らないけど」

 

 ナルさんは俺の質問に完璧に答えられなくてどこかもどかしそうだった。


 「他にその天眼石系アイアゲートっていうやつを、誰か持っていたりするんですか?」


 たいていの貴重品アイテムは、その人の実力に関係なく効果を発揮するものだ。


 つまり俺でもこの恩恵を受けることができる。


 「私は他に聞いたことないです。伝説級なそうで見たこと、ましてや名前すら…………知らないです!!」


 ナルさんは悔しそうに少し顔を赤らめながら、最後をきっぱりと少し俯きながら言った。


 そこまで俺はナルさんを困らせるようなことを言ったのだろうか…………。

 ごめんなさい、自分では自覚がありません。



 

 しかしよく考えるとそんな凄い物をスチュアーノさんが持っているのか。

 

 「これは常時効果を発揮するのですが、しょうがないです。セロ、その勝負に二言はないですね。……………『展開エボルブ!!』」


 スチュアーノさんがそういった瞬間、首から下げていたその鉱石は蒼く輝き出した。


 その様子を見ている限り、スチュアーノさんの貴重品アイテムをただの気休め程度、とは口が裂けても言えないと俺は思った。


 「じゃあ、セロちゃんたちも頑張ってね」


 シスさんたちはスチュアーノさんと共に、俺たちの進行方向とは別の方へと歩きだした。


 「セロたちもさっさと行くよ☆」


 少し怒ったような口調のように俺には聞こえたが、この前屋敷で見た彼女に比べるとなんてことない。



 セロの杖の先端は黄色く光りだしていた。

 

 ライアンの魔法が聞こえなくなったと思ってきてみると、ライアンは尾長猿エイパムタークと相手の出方を伺い、見合っているところだった。


 今スチュアーノさんと出来事をライアンたちに伝える。


 

 「それなら多分、あっちの方にでけーやついたぞ」


 ライアンは口だけ俺たちに向けて教えてくれた。


 びっくりだ。たまにはライアンが役に立つなんて……。


 ルカとユーリはライアンを見ながらお喋りしている。



 俺たちはライアンの言った方へ向かうことにした。


 お前はどうするのか、と聞いてみたが、尾長猿エイパムタークの相手をしておくらしい。


 まだ、帽子を取り返せていないようだったし。


 

 と、少し歩くとそこには甲虫らしい形の魔獣がいた。


 樹液を求めて木をなぎ倒しているところだった。


 高さは三メートル、横幅五メートルを有に超えている。


 「セロ様、これでいい?」


 「十分だね☆」


 セロが嬉しそうに笑った。


 俺たちはやつをぐるっと囲むように立った。

 逃さないためだ。


 「あいつの甲羅はすっごく大きくて硬そうだね☆」


 イルさんが剣を一度振り下ろしてみるが、弾き返される。


 「セロの魔法を使えば一発なんだけど、皆いるんだしもう楽しい他の方法を考えてみようかな☆」


 セロが指示した。


 どこか余裕が出てきた言い方だった。


 一発なんだ……。なんだろう、この気分の格差。



 「腹を攻撃すれば剣は通りそうですね」


 イルさんが提案する。

 やつに俺たちに気づいてもそれほど動く気配がなかったので、セロは作戦会議を続ける。


 「じゃあ、ここをこうして腹を見せたスキを狙うとか☆…………」


 「私なら、やつの攻撃を受け止めることができます。なので、私が囮になって攻撃を受けようかな…………」


 「それかいっそ、火、つけてみちゃう☆?」


 

 ジビーーーーン


 突然、地響きが起きた。


 驚いたことに甲虫型のやつが羽を出して俺たちの包囲をくぐり抜け空へ飛び上がった。


 俺たちにはやつの風が直撃する。

 


 気づくと、さきほどライアンがいた所に一緒にいたルカが走ってきた。


 「尾長猿エイパムターク鷲木タレポに喰われちゃった。ライアンの帽子は無事。だけど、あれもデカかったよ。フィリーちょっと来てみて」


 タレポは鷲のような魔獣だ。

 足の力も強い。

 


 風の向きが変わった。


 ブーーーン


 空を見ると、甲虫型の魔獣はルカが今来た方ーーすなわちライアンのいる方に向かって飛び出した。


 

 「追いかけよう☆」


 まだ魔法を使わないでいるセロが言った。

 一体何を考えているのだろう。

 


 というかルカは俺を名指ししたのに、集団行動みたいに皆で動くことなってしまった。


 「フィルセくん、大丈夫ですか? あれだったら私が肩や背中でも喜んで貸しますけど?」


 ナルさんが優しく訊いてきた。

 本当にお姉さんみたいだ。

 

 まだ大丈夫だ。



 俺たちがその魔獣追っていくと、鷲木タレポは丁度俺たちの前方にいた。



 驚くことにスチュアーノさんたちが鷲木タレポと戦っている。


 そして甲虫型の魔獣はそこを目指しているようだった。


 「行け、行け。そのままシスをぶっ飛ばしちゃえ☆」


 多分これはセロの本音だろう……。

 


 「ちょっとシス。これは流石に運がいいとは言えないでしょ。逆に不運というべきではないですか?」


 「まさかこんなに仕事詰めにされるとは……。やっぱりスチュアーノは持ってるでしょ」


 「いや何をですか?」


 彼らは喋りながら攻撃を繰り返しているが、鷲木タレポにはかわされてしまっている。


 「これはやりたくなかったですが……。家臣たち、出番ですよ」


 そう言ってスチュアーノはそのグローブで鷲木タレポの足を両手出握った。


 その瞬間、タレポは暴れようとしたが動けないらしい。


 多分スチュアーノさんの拳の握力、腕力が強いのだと思う。



 「『吸収アヴゾー……」


 スチュアーノさんが何か言いかけたときだった。



 「『魔弾サーガ』」


 俺の後ろから何かが聞こえた。



 その瞬間俺は強い魔力を感じて、思わず体がそれから遠ざかるように避けるように低くなる。



 それは黄色く狼の形となって駆け、スチュアーノさんが止めている鷲木タレポを貫いた。



 スチュアーノさんの部下が鷲木タレポに、剣を下ろす前に……。


 「やりました。セロ様の勝ちです!!」


 イルさんが楽しそうに言った。

 


 鷲木タレポは射抜かれた部分から薄れ始め、次第に光となって消え始める。



 この俺が木彫り経験からタレポの細部まで知っているからだろうか。 



 なんだか、少し悲しく……、寂しい気がした。



 まあ、鷲木タレポはここ以外にもよくいる魔獣だけど。




 「おい、セロちゃん大人げないぞ。まじ子供っぽい。容貌と中身が釣り合ってる。まじで可愛す」


 シスさんは何を言いたいのかよく分からなかった。


 セロはガッツポーズをとっているがシスさんを無視する態度をとっている。



 シスさんは悔しがっている素振りもない。

 見るとルカは、ぷっ、と吹き出していた。


 シスさんの言葉が面白かったようだ。


 

 しかし、対してスチュアーノさんはとても悔しそう。


 口調は軽めだけど……。



 「油断した……。流石に注意力が欠けてましたね。っていうかまず……人が戦っている相手を横取りするなんて、どういう教育を受けたんですか? セロ、僕を侮辱しているのですか? 悔しい」



 しかし、まだこの場には甲虫型のやつがいる。


 「じゃあスチュアーノ、そいつは任せたよ☆」


 セロはニコッ、と笑った。


 昆虫型の魔獣は鷲木タレポを狙っていたらしく、それが突然消えたことに驚いていながらも、先程まで鷲木タレポを握っていたスチュアーノさんに狙いを定めたようだった。


 もう彼らの勝負に決着はついたのに、まだ戦わないといけないとか理不尽だね。(他人事)

 


セロはなんだかんだ言って皆から愛されているので、横取りとかしてもそこまで皆から怒られないんです。


次回予告 「スチュアーノ、不運の始まり」

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