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オン・ワンズ・ワァンダー・トリップ!!  作者: 羽田 智鷹
二章 交錯・倒錯する王都
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第二章 十七話 デイリーミッション

 

 「お兄さんたち〜。セロについて来る?」


 俺たちがのんびり優雅に過ごしていたある日、セロはそう言い放った。


 「いったい何をやるんだ?」


 内容はしっかり聞いてから判断するものだ。

 相手が何を言いたいのかを分かってからじゃないと、何をさせられるか知れたもんじゃない。

 

 「王都周辺の見回りだよ☆ 毎日の日課なんだけど、お兄さんたちもどうかな〜って☆」


 いつ聞いても、可愛いなって思ってしまうその幼き声。


 「王都の外?」


 「うん」


 ということは久しぶりに剣を振れるのか。


 ………って剣、というかくない一本しか俺は持っていないんだった。


 「すまん。俺の武器は短剣のようなやつ一本しか持ってないんだけど」


 それはまずいね☆ じゃあまずはセロが……。


 俺はここでいい武器屋を紹介してくれることを祈っていたのだが……。


 しかし、

 「そっかーー☆ この街に武器屋なんてないんだよ☆ あっじゃあ、セロの力を見学する? 見ているだけでもいいよ☆」


 「じゃあ、それなら……」 


 あまり危険はなさそうな感じだった。


 何よりただ見ているだけで良いとは、なんて気楽なことだろう。

 セロの申し出を俺が断る理由はなかったが、人の性としてなんか流された感がちょっと嫌だな。

  


 「いっっ」

 ばしっと、俺の肩が強め叩かれ、俺は思わず口から息が漏れる。


 見ると俺を叩いたのはライアンだった。


 「なんだよ。フィリーみっともねーな。なんなら俺は全然魔法使えるからよ、フィリーのお守役としてついていってやろうか?」


 こいつはセロの魔法を実際に見ることが目的なのだろうが、実際童女であるセロに素直についていきたいと言えなかったのだろう。


 臆病なやつめ。


 しかしライアンは自分が戦力になるような言い草だが、セロの方が断然強いと思うぞ。

 

 それにそんな簡単に俺のお守りが務まるかよ。


 「じゃあ、私も。セロちゃんの魔法興味あるよ」


 ルカもそう言った。


 「お兄さんにお姉さんありがとうね☆ イル姉とナル姉。お兄さんにもしものことがあったときにセロも手いっっぱあいだったら、お兄さんのこと守ってあげてね☆」


 「お姉ちゃんはとても喜んでーー」


 「何かあってもなくても、私たちに遠慮せずに言ってね」


 なんだか、セロと同様にイルさんたちも嬉しそうだった。


 

 っていうか、ウルス・ラグナとの戦闘のことを考えれば、俺よりもライアンたちの方を守ったほうがいいんじゃないのか? 


 俺が何もできないみたいで、少し違和感を覚えたが……。


 「じゃあ、みんなさっそく支度してね☆」


 セロはそう言い放った。

 



 支度とは何をするんだろう、と一瞬期待した俺の心を返してほしい。

 俺は王から鎧やら剣やらが支給されるのかと思った…………が、なにもなかった。

 

 セロは長々の若干あっていないダボダボのローブを身にまとい、イルさんナルさんはそれぞれの鎧を身に着けてきた。

 


 彼らについて結界門まで行く。


 「あれ、この結界って魔獣を呼び寄せないためのものでもあるんじゃないのか?」

 ここの結界はスートラのやつよりも効果が強めだし……。


 「そうだね☆ だけど一応門の外を見回るんだよ☆ お兄さんたちがウルス・ラグナと戦ってから、王がね、見張りを強化するって言い出したんだよ☆」

 

 結界をくぐると、相変わらず見えない滝壺に川の水がまっすぐ流れ落ちる様子が目の前に当然出現し、轟々と音を立てている。

 

 しかし向こうの岸の崖へ続く橋のようなこの道は、珍しく風が全くない。

 滝の音以外はとても穏やかだ。


 

 空も一面、静かに青々と澄んでいたが、雲だけは音をたてずに足早に移動していた。

 

 ライアンは久しぶりに、手に取った杖を陽気にくるくると回していた。


 「ライアンさん楽しそうですね☆」


 セロはライアンを見て言った。


 「セロもやってみたらどうだ?」


 人の技はよく見て盗めってよく言うしね。


 てっていてきにパクるよりも、ちょっとかえてパクるった方がオリジナリティーがあるからいい、って昔ジジイに稽古をつけてもらったときに散々言われてきたが、今の俺たちは出来るものならセロからTTPの方が良い気がする。


 あれっ、ふと思ったけどTPOって何の略だっけ。



 「いや。今のセロの体型上、杖を回すなんて難しいから☆ 他にもお兄さんたちにはできて、セロにできないことたくさんある☆」


 言われてみれば、セロの小さな腕でセロと同じぐらいある杖を回すのは大変そうだ。


 「すまん。でも今のセロもいいとこいっぱいあると思うぞ」


 「ホントに? ありがと☆」


 セロはそう言って微笑んだ。


 ここで俺の発言を細かく追求してこないところがルカたちと違っていいところだ。


 しかしセロの悩みらしきものを垣間見た気がして、少しびっくりだ。


 

 しばらく喋りながら歩いて、やっと俺たちは向こう岸までついた。


 「この王都の周りをぐるっと一周するのは流石に時間がかかりすぎるので、毎回見回る場所を決めてるんですよ」


 イルさんが言った。

 

 王都を取り囲む崖のどこにいても、吹き抜けの広い谷底の上にぽっかり浮かんでいるような王都が小さく見える。


 いや違うな。


 確かに王都は広いのだが、それを取り囲む何もない部分が大きすぎるのだ。


 崖と王都をつなぐ道を実際に歩いている分にはあまり何も感じないのだが、こうして少し離れてみるといつその道が崩落するのかと肝を冷やす。


 まあ多分魔法か何かで強化されているから大丈夫なのだけれども。


 崖になっているところは土壌に栄養がないらしく、地面がむき出しになっている。

 多分谷底から吹き上げる強風の影響もあるのだろう。


 

 俺は集団の中心で歩いていた。

 もちろんセロが先頭だ。


 王都から離れるほとんど木々が生い茂り始め、今は森の中を進んでいる。


 この木が生えている部分を王都を中心にぐるっと探索しているようだった。


 俺には決まりなくセロのおもうがままに進んでいるように見えたが…………。



 「全然魔獣いねーじゃん」


 一番初めにしびれを切らしたのはライアンだった。


 「まあ、いつもこんな感じなのですけどね」


 ナルさんは少し困ったふうに言った。

 しかし、その顔は全然困っていなさそうに見える。

 

 「でもこの辺にもたまに普通並に魔獣いますけど……。あのウルス・ラグナがこんなところに現れたのはすごくびっくりしたしましたね」


 ナルさんはそう言って歩き続けているが、俺たちは一向に魔獣と出会わない。

 

 「イル姉とナル姉、今日はもう少し王都から離れたいな☆ 魔獣に会いにさあ☆」


 セロが突然切り出した。


 「しょうがないですね。でもセロ様のお願いなら……」


 「全然許可しますよ。では、向かいましょうか」


 そう言ってナルさんは後ろで手を組んで、のびーー、っと腕を伸ばした。


 その動作に若干胸が強調されたようで俺の目は惹きつけられたが、敢えて俺は何もなかったように振る舞う。


 その豊満なのにハリがあって柔らかそうだな、とか決して断じて思っていない。

 

 そもそもイルさんもナルさんも凄くモテそうなくらい格好良くて可愛いのが悪い。

 彼女たちの性格や性癖については別として…………。



 イルさんは気合を入れるかのようにぶん、っと手で髪を後ろに振り払った。

 


 俺はこの人たちの気迫で魔獣が寄ってこないのでは……、と内心思った。

  


 と、早速目の前の草むらがささっと揺れた。


 「うっしゃーー」


 ライアンが杖を片手にその草むらへと飛び出していく。


 「早すぎだよ☆」


 セロも続く。


 俺たちは少し警戒しながら後に駆けた。

 



 来てみるのとそれは野うさぎだった。

 三匹ほどいる。


 「ちぇ、なんなんだよーー」


 ライアンが叫ぶ。


 「まあ、そういうこともありますよ」 


 ナルさんが言う。


 「へえーー、ここらへんにうさぎなんているんだー」 


 「そういえば、時々カタグプルの商店でうさぎ肉が売られているのを見たことがあるよん」


 ユーリがルカに向かって言う。


 「えっ、それって美味しいの?」


 「当たり前じゃん」


 へえーー。


 「今度私試してみよ〜」


 そういえばルカは王都で自分の料理スキルを磨きたいと言っていたな。


 耳に入ってくる彼女たちの声を聞きながら俺も軽く興味を持つ。


 「そうだ。今度フィリーたちに取ってきてもらって、私の料理のレパートリーに加えようかな」


 ……ちょっと待って。俺あの小動物に剣を突き立てたくないんだけど……。


 「ライアン君。ここらへんに野うさぎがいたってことはそれを食料にしている魔獣がいる可能性が高いってことだよ」


 イルさんがそう言った。

 



 と、その時だった。


 猿らしきものがライアンの昨日買ったばかりのハットをかっさらっていく。


 尾長猿エイパムタークという、狙ったものはなんでもかっさらいに来ると評判の猿型の魔獣だ。


 尻尾は手のひらのように五叉に分かれている。

 それを自在に使い、木から木へ移動していく。


 瞬発力にたけ、鋭い爪で攻撃や移動を素早くしているらしい。



 「くっそーー、昨日買った新ライアンヘブンを返せ。クソザルがーーーー!!!」


 そういって、ライアンは尾長猿エイパムタークに多数の炎弾を放つ。


 どれも外れ、木々に火が移る。


 「『放水ウォータ』」


 ルカがライアンの後を追いながら、仕方なく消火していく。



 「フィルセくんはお姉ちゃんの後ろにいてね」


 そうナルさんが言って、俺の前に立った。

 


 ここは俺の出る幕じゃなさそうだし、ゆっくり見学することにする。

  

 バーーン、バーーン。


 ライアンが久しぶりに、派手にやっているようだ。


 俺は気楽にライアンと尾長猿エイパムタークとの戦闘を眺める。


 「セロはあいつを助けに行かなくていいのか?」


 未だ焦らずこの場を動こうとしないセロに、俺は聞いてみた。


 「ライアンさんの実力が見てみたかったんだ☆ あとあれくらいの魔獣なら、人に大きな被害が出ることなんて滅多にないから☆」


 なるほどライアンの力を見てるのか……。


 普段だったらこんなこと言ったりしないが、

 ーー仲間として応援してるぞ、ライアン。ここで漢を見せろ。

 そう心で思いつつ、俺は見学を続ける。

 


 ふと俺は強い力を俺たちの後方から感じ取った。 


 まだ距離は遠いが結構な実力の持ち主だ。


 しかも、だんだんこちらに近づいてきている。


 「あの……。セロさんたち、何かが後ろから来てません?」


 「うーん、よく分かんないけど……。お兄さんの言葉信じよ☆ 『滅戒ノヴァーー☆』」


 ライアンのものとは比べ物にならないほどの魔力の光線が一直線に俺の指差した方向に飛んでいく。


 一直線に木々を貫通していくその魔法に俺は感動すら覚える。


 が、言い出したのは俺なんだけど、流石に敵を確認せずこんなものを放つのはやばいんじゃ……。

 


 まあこんな何もない森にまず普通の人はいないだろうし、セロの魔法がやばいことは誰でも気づくから、多分避難してくれるだろう。

 


 バーーン。


 まだ、ライアンは尾長猿エイパムタークを仕留めきれていないようだった。 


 っていうか炎を使って攻撃していたら、結局にライアンの帽子を取り返す前にそれも燃えてしまうのではと思った。


 「ライアン。火を使うのはやめといたほうがいいんじゃないか?」


 この場に緊張感はないし、俺の言葉に何の重みもない。


 まあ、見学中の身だしいいかな。


 それに人の意見を聞き入れるか入れないかは、ライアン次第だし。



久しぶりの戦闘シーンです。

二章内でも少しばかり……? 戦闘はあるつもりです。今回は軽めで。


ときばしょきかいでしたね。

ちなみにTPPは、環太平洋連携協…………


次回予告 「巡り合わせ」

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