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オン・ワンズ・ワァンダー・トリップ!!  作者: 羽田 智鷹
二章 交錯・倒錯する王都
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第二章 十五話 結界の仕組み

 

 入り組む路を抜け、俺たちはやっとセロの管理している結界門まで辿り着いた。

 


 道中いろいろと気になるものを売っている店がたくさんあった。


 道行く人たちに商人たちは声をかけて呼び止め、必死に商品の宣伝をしている。


 しかしそんな彼らもイルさんナルさんを見るなり、俺たちへの勧誘はとても控えめになった。


 もしイルさんたちがいなかったら、俺たちもあんな親切心に漬け込むような商法の的になっていたかと今思うとゾッとする。

 



 結界門には衛兵が五、六人いて入都や出都について監査をしているらしい。

 


 街の端の方は急に家がなくなり、辺りが緑一色に変わる。



 人のいないこのような草原が結構続いていた。


 そよ風が吹き抜け、中心街とはまったく違う自然な感じ。


 「ここはまだ王都だから、魔獣もいないんだよ」


 「閑静な場所でしょ? 絶好のデートスポットだったりしたりする」


 確かにここなら、時間の流れがゆっくりに感じられる。



 目を凝らすと奥の草原が少しこんもりと盛り上がり、丘のような情景を作り出している。


 その中で突如として、自然物に溶け込むように大きく巨大な門が俺たちの斜め前方にそびえ立っている。



 門は開かれて入るが、何やら魔法がかけられていて向こうが見えない。



 「門でかいですね」


 俺は指を指して言う。


 見ると門からは舗装された道が、俺たちのずっと横の方に伸びていた。


 俺たちがいるのは正規の道ではないようだった。


 「そうだね。そのぐらい頑丈に結界門を造れってシェレンベルクさんがうるさかったらしいですよ。王都の出入り口でありますし」


 「門はここにあるのに、王都の草原がずっと奥まで続いているのはなぜですか?」


 これでは門の意味がないのではと、俺は思う。


 「いや、そこで王都は終わりだよ」


 イルさんがそういった。



 「…………ということは。俺下を見てくるわ」


 と言ってライアンがその盛り上がっている丘へ走っていく。




 「王都から落ちたりしないんですか?」


 確かこの王都は谷の上に作られていたはず。 


 俺が不安になって聞くがイルさんは、心配ないよ、と言った感じで答える。


 「王都の外縁は魔獣や敵から守るために防御壁の呪文が掛かっているからね、大丈夫。落ちたりしないよ……。というか、誰も結界門以外からは出入りなんて出来ないよ」



 俺たちもライアンがいるところまで歩いていくと、そこからは何も変わらずにまだ奥に草原が続いているように見える。


 しかし俺たちが足を踏み出してみても、先に進むことはできなかった。


 何かの壁にぶつかったように見えない何かが確かにそこに存在していた。




 俺たちは今度は結界門を通って、一度外から王都を見ることにした。



 街の外はいきなり地割れが起きたかとように周りの地面が裂けて無くなり、そこへ川の水が降り注いでそのまま底の見えない地下へと流れ注ぐ。



 しかもその地面が裂けたような、抜け落ちたような場所の面積は王都だけならず、王都の周囲を一.五キロほど囲うほどにまで及ぶ。


 滝の水しぶきが霧のように王都と崖とを結ぶ道を濡らし、湿らせている。


 そんな空気中に漂う水蒸気に太陽が反射してキラキラと輝いていた。


 

 この街はその抜け落ちた地面の上に浮いた島のように作られている。


 どうやって浮遊しているのかは俺たちにはわからない。

 


 そんな底の見えない地面の上を橋のように、向こうの崖から王都をつなぐ道がちょうど五本あった。



 長く細く続く道。


 それほど道幅は大きくないため、道の両サイドには安全対策の魔法による手すりというか壁のようなものが敷かれていた。



 地下から地上へと吹き抜ける風は荒れ、滝の音と相まって轟々と鳴り響く。


 王都を覆うように境界線には結界が張られているらしく、街の中と外にいるとではだいぶ見える景色や環境要因が違う。


 というか、街の中にいたら多分魔法で外の世界が見えないようになっているらしい。


 実際王都内では滝の音も、王都を覆う崖も、王都に降り注ぐ水も見えなかった。



 「イルさん、ナルさん。お疲れ様です」


 監査していた娘の一人が声をかけている。



 「貴方もお疲れさまですよ。何かあったらすぐにお姉ちゃん教えて下さいね」


 イルさんがそう言うと、娘は仕事場ーー、監査の仕事へと戻っていった。



 「では、フィルセくん。少し見学しようか」


 そういって、イルさんたちはさらにその向こう岸まで続く長い道を歩き始めた。


 俺たちも続く。



 

 すると、突如ライアンの目の前に彼の愛用している杖が現れた。


 ライアンはそれを手に取る。


 ユーリやルカ、イルさんナルさんも同様に王都に入る前に携帯していたところからそれぞれの武器が現れ始める。

 

 どうやら手に持っていた武器は宙から現れ、携帯していたものはそのままの場所らしい。

 

 しかし、なぜ急に??



 「この街に全体に対魔獣結界が張られているんです。さらにこの結界門。武器や入街者の管理をしているシェレンベルクさんの魔法がかけられているんですよ」


 武器についてはだいたい分かったが…、


 「入街者を管理するとはどういうことですか?」 


 俺は訊いてみる。


 「資金が満たない人とか違法品を運ぶ商人とかはこの街に入れないようにしているとかかな」


 そう言って、ちょうど今門の監査をする少女たちと言い争っている商人を指差した。


 

 少女たちは商人に入街の許可を出せない状況らしい。


 しかし商人は食い下がらず何か抗議の声を上げている。


 一人見逃してしまえば、次の人も……、と秩序が乱れてしまうのだろう。


 なかなか大変そうな仕事だった。


 頭に血が上ったのか、商人はとうとう堪忍袋の緒が切れたのか、少女たちの制止も聞かずに土竜の手綱を握って土竜にムチを打った。

 

 「街に入れればいいんだよ」


 そう商人は吐き捨てると、土竜を走らせ王都へ強行突破をしようと試みた。



 俺が驚いたことにしかし、少女たちやイルさんたちに焦りはない。


 

 「あの荷台に違法取扱物があったのだろう。彼女たちは商人たちの取扱物を監査して、注意を促す仕事をしてるんだよ」


 ナルさんが補足説明する。


 「そして彼女たちの制止を聞かずに行動すると、どうなるかというと……」

 


 門の境目で、土竜は壁にぶつかったように跳ね返された。


 作用反作用というやつだ。


 土竜の生み出したスピードによるエネルギーがそのまま土竜にぶつかる。


 土竜は結界に跳ね返されて四肢を空に投げ出した。


 繋がれていた荷台もつられて弾かれたように横っ倒れになる。



 少女たちは倒れた竜車から商人を救出すべく、竜車を立て直そうと動き始めた。



 「これがシェレンベルクさんの力ですね。そしてこの門をくぐって街中にいる間はシェレンベルクさんの魔法が常時有効というものです」


 「この前は私たちがフィルセくんたちの手荷物を一通りチェックして、大丈夫そうだったので。私たちが屋敷まで運んだんですよ。武器は門を通った瞬間実態を無くすけど、今出てきたみたいに街の外に出れば大丈夫だからね」


 しかし、門を出てすぐ武器は出てこなかったらしいのだが……。


 俺は王都にいたときから"くない"を秘密で顕現させてたから、ここで今起きたことに直接は分からないのだけれど。


 イルさんに俺の疑問が伝わったらしい。


 「シェレンベルクさんはそれでも用心深く警戒するために、門から少し離れたところで武器が現れるようにしたんです。久しぶりに武器を見た者が興奮して門に攻撃をしないように、だとか。この門自体十分に頑丈なのにね」



 五つの道が王都に入る手前の場所にこの結界門があるため、王都に入る入るにはこの門を通らざるを得ない。



 しかし万が一この門を通らずにこの街に入ることができたとしたら……。


 例えば、空から降ってくるとか……。


 「街の周辺の結界も強力なんですか?」


 俺は訊ねる。



 「街周辺は対魔獣結界って言われているけれど、本当は人間の出入りもできない作りなんですよ。何重にも結界を重ね、万が一の場合にもシェレンベルクさんは対処するつもりなんですよ。だからこの門からしか入れないんです」


 それって、この街超安全じゃん。



 「だから、我が国の国民はこの街に入ることを夢にしている人も多いんです。絶対的な安全の中で、"投票ロット"によって楽して暮らす。"投票ロット"の勝率っていうか、国民が儲けられるの確率を上げたのも、国民に夢を与えることだってシェレンベルクさんは言ってましたし」


 「でも、他にも何か企んでそうな匂いはプンプンするなあ。あの人から」


 ユーリがぼそっとつぶやく。


 「まあ、今回みたいに王側に大金が入ることもありますしね。王と私たちは年も離れてますし、王のお考えを理解するのは難しいかと……」

 


 こんな話をしている間にも、結界門を出入りする人がちょくちょくいる。


 「そういえば、セロは今何やっているんですか?」


 肝心のイルさんたちの上官がいない。


 「少しやることがあるそうなんです。できればお姉ちゃんが代わりにやってあげたいのですが、そうもいかないらしいです」


 「セロ様の方が実際に私たちよりも能力があるし、何より私やイルがセロ様に対して手とり足取りやるよりも、セロちゃんの成長を暖かく見守っていた方がセロ様のためな……の……で………」


 最後の方を何やら苦しげに口から言葉を紡いでいるのはなぜだろう。


 多分、自分の欲求に逆らっているからじゃないかな。

 


 と先程からライアンが静かだなと今頃になって、俺は不思議になってライアンの方を見ていると、彼はどうやらクーレナさんと視線を合わせないようにしているらしい。



 しかしクーレナさんの方はと言うと、時折必死にライアンの顔を見ようと、首をキョロキョロとしている。


 そんな二人を見ていると、吹き出してしまいそうになるのを我慢する。


 恋は盲目っていうもんな……、ってそんなことあるかよ!!


 何か目的がありそうだな。



 

 気づけば陽はだいぶ傾いており、朝から時間がだいぶ立ったようだった。


 まだ、俺の体の疲れが完全に取れていないこともあっただろうが……。


 「じゃあフィルセくん、そろそろ屋敷に戻ろうか」


 「今の王はリッチだから何も遠慮することはないよ。むしろ私たちにもどんどん頼ってくれてもいいよ」


 イルさんナルさんが俺の肩を組んで静かに耳元で囁く。


 一体俺はどんな態度を取ればいいのかわからなかった。



 俺たちは門をくぐり、街に再び入った。


 その瞬間、イルさんナルさんを含め、皆の武器が消滅した。


 無論、俺のくないも。

 


 ーー今回はまだ、具現化するのはやめておこう。


 「イルさんたちも私たちと同じ様にあの屋敷に住んでいるんですか?」


 ルカが口を開く。


 「ううんうん。五大明騎士にはそれぞれ別に屋敷を持っていてね。私たちはセロ様の屋敷」


 「へえーー。あの屋敷も結構広いのになあ」


 ユーリが羨ましそうに言う。


 「クーレナさんはどうするんだ? 今から」


 「私は自分の居場所に戻るよ。この街にちゃんと私の居場所があるしね。それに私は何もしていないのに、ライアンさんたちと同じような環境で過ごすのは恐れ多いよ。今日はありがとうございました。何もしてないけれども私も楽しかったです。明日以降も会うことがありましたら、どうか同行させてくださいね」


 そういって、暮れだした街並みに溶け込むように彼女は駆けていく、そして消えていった。



 「変わった娘だったなあ」


 と俺はつぶやいていると、隣でため息が聞こえた。


 見てみるとそれはライアンだった。

 長年の付き合いからすると、今のは安堵のため息。


 「ーー、疲れた。ほんとに」


 どうやら今日もライアンはおかしい。


 「私たちはひとまず、フィルセくんたちをシェレンベルクさんの屋敷まで送りますね。なにせ、お姉ちゃんですから」


 「これも大事な活動の一つです」


 イルさんナルさんも、今日一日まるっきりブレない。

 


 ふと気づいたが、今いる街の端であるこの門から俺たちの居候をしている王の屋敷までけっこうな距離がある。



 帰りは王都内は別の景色のように見えた。


 夕焼けに佇む町並みも悪くない。

 

 そんな景色を眺めている余裕も徐々に薄らいでいく。


 屋敷についた頃には俺の脚はパンパンだった。

 

二章はほとんど王都での出来事になりますが、少し長めかもです。

もう八月だなんてすごくびっくり


次回予告 「王の居場所」




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