第二章 十四話 勇敢なるライアンの
「王都プリシオラに入るための門は五つあるんですよ。以前は各五大明騎士がそれぞれ管理・管轄していたけれど今はこんな状況ですから、セロ様とスチュアーノさんの二人で五つを管理してます」
その中でも以前からセロが管轄していたという門へ俺たちは向かうことになった。
今度は街の中心から街の端までむかうことになった俺たちはイルさんナルさんの道案内の元、舗装され馬車や竜車など人通りの多い通りを歩いている。
王都は広く、街の端へ向かうにも距離があり一苦労だ。
俺たちは若めの集団だが、街では若者よりも年盛りの人のほうが多い。
世界は大人によって管理されている。
なんちって。
だが商売をやる上で、年をそれなりに取っているということは経験豊富ということなのだろう。
目利き、腕利き、交渉術。
この街の住人はお金を持っているため、商人たちは品質を求められるようだ。
『商業と取引の街』と言っていただけあって、大通りはとても忙しそうだった。
商人たちは早口で喋り、俺たちには言っていることが聞き取れない。
だがみんなある程度の収入はあるわけであり、お金のために働いているわけではないようにも見える。
やっぱり仕事は人生というわけか。
周りを見ながら歩いていると、俺はふと男性の怒鳴り声が聞こえた気がした。
俺は声のした方向を見ている。
「あれ、なんかあっちの方で誰か怒ってね?」
ライアンがそういったのを聞く限り、俺のも空耳ではないことが分かる。
「ちょっと、あっちの道に行きません?」
と声の聞こえた方向、大通りから外れた小道を俺は指差した。
「あれ、フィルセくんすごいっ!! 今から私たちもその道から行こうとしてたんだよ」
「時間短縮なのであるのだ」
イルさんたちは少し驚いたような顔をしたが、彼女たちも初めからその道をチョイスしていたらしい。
この街をよく知らない者のおこがましいお願いにならないでよかったあー。
若干薄暗く狭い小路にはなるものの、街に溢れる真新しい情報の波から逃れられたようで、俺は気分が少し軽くなったように感じる。
しかし数分と立たないうちに、俺たちの目の前には怒鳴り超えの主たちが現れた。
彼らは俺たちとほとんど変わらないような年齢だが、服装が派手である。
耳にピアス。それは色相感覚がないような補色通しの組み合わせ。
服は派手に着崩し、装飾品もチャラチャラとつけている。
「ちょっと、イルさんにナルさん。この街は平和なんですよね。どうしてこのいかにもチンピラってやつがいるんですか?」
俺は突然のこの一触即発の状態を察知して、イルさんたちに訊ねる。
俺は一本具現化可能のくないがあるけど、この場にいる誰も武器を携帯していないという状況に俺は不安すら覚える。
「いいよ、いいよ。フィルセくん、すぐに助けを求める弟的な感じていいよ」
ナルさんは声を荒げているが、逆にルカは俺に凍るような視線を送ってくる。怖い。
「多分彼ら、親が金持ちだからここにいるんだと思います。大げさに言うと、周りの環境の良い七光り的な感じ? それでこんなふうにグレてしまったか、もしくはいっときのストレス発散とか?」
イルさんがそういうが、彼らの"the・チンピラ"という格好からして、一時的な服装とは思えない。
それならいっときのために凝りすぎている。
いや、でも待てよ。
こいつらも金があるということは凝った服を一着買うくらいなんてことないのか?
そんなチンピラは現に人目につかないこの場所で一人の少女に対してカツアゲをしているようだった。
「すまん、嬢ちゃん。俺たち、この前の"投票"で大損しちまってな。このままじゃ、メンツが立たねえんだよ」
「今どんだけ持ってるか、見せてみ」
四人組の男だった。
こっちは六人と、数で見たら有利だが……。
武器が使えない以上体格が物を言う。
俺はスレンダーさには自信あるし、ルカとユーリは対人戦にとくいではなさそうだし……。
となると残るはライアンとイルさん、ナルさんだが…………。
「イルさんにナルさん。彼らを止めに入りますか?」
いつも通りの口調で聞いたつもりだった……。
しかし彼らは、
「やだなあ、フィルセくん。武器も持っていない無防備でか弱い乙女たちに、あのむさ苦しい男の止めに入れって。鬼畜だなあーー」
「でもお姉ちゃんたちは、そういうのも嫌いじゃないよ」
頬を赤らめながら、笑ってくる。
おいっ!!
「しょうがないな。俺が行くよ。接近戦ならこの中で一番経験してきてるし」
この中とは無論、イルさんナルさんを含めていないが……。
なんかあったときはこのくないを使おう。
この街に武器が存在すること自体問題になりかねるが、脅されている人を前にして、俺の能力暴露はやむを得ない。
チンピラたちは彼らの目の前で立ち止まった俺たちに、ようやく気がつき始めていた。
「おい、なにこっち見てこそこそ喋ってんだよ?」
「俺らーーお嬢さんたちに迷惑をかけた覚えはないんですけど」
お嬢さんというと、俺たちは含まれないのかな。
流石に男四人となると、集団心理として大口をたたけるのかもしれない。
「その娘から手を離れてもらえません? この場に居合わせた以上見過ごすわけには行きませんので」
俺は彼らにそう問いかけたが、彼らに応じる気配がさらさらない。
「ライアン、行くぞ」
一声かけると、俺は彼らの懐に飛び込んだ。
素早さに自信のある俺の行動は彼らにすぐさま動揺の波を与えた。
俺は難なく彼らに突きや手刀やらを繰り出し、彼らがバランスを失ったところで溝うちにトドメのケリ。
彼らは戦いに慣れていないのか、全く俺たちの動きに目が追いついていない。
一人、二人と気絶していく。
これなら案外早くかたが付きそうだと思った矢先、彼らの一人がそのカツアゲしていた少女の首を腕を回し、人質を取った。
「俺らは真の男女平等主義を掲げるものだ。お前らが容赦なく攻撃してくるようなら、俺らもこいつは好きなように盾に使うぞ」
その言葉だけ聞くと、本当に最低な男だ。
人質に取られた少女は怯えている。
俺はどうしようかと迷っていると、ライアンはそのチンピラに近づいていった。
男もライアンに気づいて身構える。
突然ライアンはチンピラに見事なまでの大外刈りを決めた。
片足を蹴り上げられ、バランスを失った彼の手は少女の首から少し外れ、スローモーションでライアンの意のままにチンピラは倒れていく。
少女の首を巻いていたチンピラの腕には力こそこもっていなかったものの、それでも彼女の肩を捉えていた。
つられるようにカツアゲされていた少女もゆっくり倒れていくように見えた。
しかし重力に則って地面に叩きつけられたのは、チンピラ一人だった。
少女が倒れる寸前、ライアンが少女の肩を持ち、チンピラと同じ衝撃が彼女に加わる前にそのモーションから解放させた。
ライアンの行動にブレはなかった。
チンピラ四人は敢えなく、地面で気絶している。
「あ……、あ、ありがとうございます。あの……、なんていうか、本当にかっこよかったです」
その少女は震えていながらも、真っ先にライアンにお礼を言っていた。
「いや、チンピラの割には全然強くなかったなあ」
俺はイルさんナルさんに対して言った。
「だからこの街の人は戦いには不慣れなんです。セロ様は犯罪を見かけたら容赦なく魔法を放ちますけど、正直フィルセくんたちぐらいの対処のほうがちょうどいい気がします」
彼らも、軽い気絶のようだから心配はいらないだろう。
「えっと、その他のみなさんもありがとうございます。よくこんな狭い路に来てくれましたね」
彼女は安心したようでニコッと笑うとおずおずと質問をした。
「どこに向かわれているんですか?」
「そうだね、セロ様陣営が管理している結界門ですよ」
ナルさんが答える。
「あのセロ様ですか? あ……あの、私もついていってよろしいでしょうか?」
イルさんがくすくす笑っている。
でも、どこに笑うところがあったのだろうか。
「理由を聞かせてもらってもいいかな」
ナルさんがさらに訊ねる。
「え?!! え、えっと……、その……、ライアンさんともう少しいたい……です」
えっええーーー!!!
俺は驚きを隠せない。
ルカやユーリも同じようだった。
隣でイルさんは笑いをこらえなれなくなったかのように、それを無理に止めようとせず……
アハハハ、フフフ………アハ、あはは……。
お姉さんが笑っていると、多分本当の弟だったらほっこりした気分になっていただろう。
だが俺はこの理解できない状況にほっこりなんてできない。
その一端を垣間見た気がした。
ライアンはその言葉に照れているのか、先程から無言だった。
「フィルセくんはどうする?」
イルさんが訊ねる。
「俺は別にいいですよ」
断るいわれがない……というとか、ここで断ったら俺がライアンを羨んでいるように勘違いされそうで嫌だ。
自分は何もおかしなことをしていないのに、相手の勝手な勘違いで俺に偏見を持たれるような事態にしたくはない。
俺は何も悪くないのにな。
「ありがとうございます。私、クーレナって言います」
「どう……ぞ……、よろ……しく」
今回に限ってライアンのテンションがおかしい。
この集団にさらに女の子が加わり、やはり少数である男子としては肩身が狭いな。
そうだよな、こんな狭い路だもんな。
彼女たちと俺たちとの歩いている距離は驚くほど近い。
しかし誰もそんなことお構いなしな感じだった。
ライアンはこんな調子だし、俺はいつもどおりだし……。
まあ、心持ちのもんだいなんだけど…………、いとやりにくし!!
ライアンはなんだかんだ言って男前なんです。
やっぱりチンピラは扱いやすい……なんて言うのは恐れ多いけど、 チンピラってが活躍する物語なんてどこかにありましたっけ?
次回予告 「結界の仕組み」




