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オン・ワンズ・ワァンダー・トリップ!!  作者: 羽田 智鷹
二章 交錯・倒錯する王都
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第二章 十三話 ロットは夢を打ち砕くもの

 

 俺たちが中央広場につくと、大勢の人がいた。


 広場の真ん中には大きな噴水があり、噴水を囲むかのようにそれぞれ色の違う五色のクリスタルが回転しながら宙に浮いている。


 青、黃、赤、黒に白。



 どれも同じくらい光っている。


 水しぶきを上げて高々と上る噴水はスクリーンのように光が投影されていて、何かを映し出している。


 よく見るとそこにはデカデカと何やら数字が書かれており、見ている間にも刻々と数字が大きくなっている。


 数はと言えば、五百万ちょい。

 


 そんなスクリーンを見ては考え込んでいたり、唸っている人たちが広場にいる。


 「あの人たちは何やっているんですか?」


 俺たちは彼らを遠目に見ながらイルさんたちに訊ねた。


 

 「あれが"投票ロット"だよ。分かりやすく言えば、宝くじ」


 そういって、イルさんはスクリーンに投影されている数字に指を指す。


 宝くじなんて本でしか聞いたことがない。

 しかも大概が売り手が得する詐欺商法として。

 

 「一口五万プラフで、あの数字がみんなが賭けた合計金額ね」


 一般庶民にとって一回五万はほとんど手を出さないであろう金額であるが、やっぱりこの街の人は金持ちなのだろうか。


 「一口がまあまあする割には、全然合計金額が高くないのだけれど……」


 ルカが首を傾げる。


 「それはね、最近集計リセットされたからだよ」


 ナルさんが言う。

 


 自分が聞いていた宝くじとは少し違っていそうだ。



 「知っているように、この国では五大明騎士が五つの大名団クランを形成しているの。あそこのクリスタルが各団の象徴。そして、どれかの大名団が『邪翼族』またはそれに匹敵するこの国に敵対するものを倒したときは即決。普段は人助けとか魔獣狩りで大名団クランに貯まるポイントが一定値を超えたらお金が配分されるよ」


 「賭けた大名団クランが当たったときは、合計金額から当たり口の総計で割って、均等に一口辺りの当たり金額を出すの。それから当たりくじの口の枚数分の金額がもらえるってわけ。ちなみに王は掛けに関係なく当たり口、十五枚として計算されるよ」


 

 街中が参加しているので、当たりくじ十五口分とは大した額にならないだろう。


 見たところ一万人は軽くいるだろうし……。


 「最近集計リセットされたってどういうことですか? 私たちは五大明騎士とは関係がありませんから……。となると……」


 ユーリが核心をついたような発言をする。

 こいつ、お金のことになると鋭いな。

 

 「おっと、今回は特殊な場合でしたね。大名団に所属していないものが『邪翼族』やその他の悪者を倒した場合、掛けの項目の『無所属』というところが当たったことになります。従来からこの項目はありますが、めったに当たったことがないので、皆さんからは無いもののように思われていましたが」


 「フィルセくんたちのおかげで、今回も多額のお金が動いてね。『無所属』になんて誰も賭けていなかったわけですから、スクリーン上の金額が全て王に入ったんですよ。ちょっと前まではあの無表情の王も少し浮かれていたんですよね」


 あの食事の様子からして無愛想な王様が少し浮かれていた状態だった? 

 

 そんなん全然わからんわ。

 

 「ちょうど今、五大明騎士の二人がフィルセくんたちが知らせてくれた"国境付近に現れた邪翼族"の対処に行っているでしょ。あの方々はフィルセくんたちがここに来る少し前にここを出発したの」


 「それで街の人たちは大金を全て彼らに賭けたってわけか」


 

 「そりゃあ、俺でもそのどっちかに掛けるわな。しかも大量に。だってその人たちはこれから戦いに行くんだし、普通に二分の一の確率だろ。フィリー。お前、みんなの期待を裏切ったなー。まさにペテン師!!」


 ライアンよ、その言い分は間違っている。


 だってこれは賭けであり、自分がそう選択したのだから。


 「でも俺があいつを倒してなかったら、俺たちここまで来れていなかったかもしれないぞ」


 少し脅しにも聞こえるが、実際そうなっていた可能性は高い。


 それに俺は見知らぬ人の福利のために、好き好んで自分を犠牲に、危険を冒すつもりは毛頭ない。

 

 「大丈夫ですよ。フィルセくん。むしろお姉ちゃんたちがお礼を言いたいくらいです。セロ様はお金には興味がないのですが、生活する上でお金があるに越したことはないですので」


 「それに王様が各大名団クランの教育費を増やしてくれたり、私たちのところやスチュアーノさんのところには多からずお金が渡るのでありがたいことです 

 

 俺たちの会話は、"投票ロット"の掛口に悩んでいる人たちには聞こえないような声量で喋っているが、もしこの内容が聞こえたら十中八九、俺たちに敵意を向けそうな気がする。


 いくら、清楚で和やかなこの二人でも……。



 

 そのぐらい、賭け事のスリルというものは中毒性と聞くし、何より額が額だ。


 しかしイルさんたちは俺のその考えもお見通しのようで、


 「フィルセくんたちはそのことを誇ってくれていいと思うよ。だってあの『邪翼族』の頭領を倒したわけだし、その街の住人もそのことぐらいはわかっているから」


 「そう"ロット"は彼らにとってなくてはならない"楽しみ"の一つになっているのですから。楽しみには当然リスクがないと楽しめません」


 彼女たちの言葉はとても頼もしかった。


 俺たちにこの件で何かあったときは、彼女たちが助けてくれそうなくらい……。

 


 「だから、当分王の屋敷の方で色々と面倒を見てくれると思うよ。もちろんお姉ちゃんがメインで世話をするけどね」


 「なんでも私たちに頼ってよね」


 

 俺たちは"投票ロット"場の熱気に包まれながらも、実際に賭けをするのはやめておいた。

 

 「よく見ると、あのクリスタルの輝きぐらいが違うように見えるのだけど……」


 ルカは投票ロットよりも、宙に浮いているクリスタルに興味が移ったようだ。

 


 「さっきも言ったようにあのクリスタルはそれぞれの大名団を象徴しているんです。だから各大名団クランの代表がピンチや危険に晒されたときには輝きが曇る。それによってここにいる私たちは彼らの状態を把握でき、救援に向かうべきか分かる」


 「国民にはどこに賭けるか手がかりになるね」


 「逆に『邪翼族』やその他の悪者を倒したときはそのクリスタルは明るい光を放つ。今回は特殊で『無所属』にクリスタルはないから、スクリーンの金額が勝手にリセットされただけだったけどね」

 

 王都には俺たちの知らなかったことがたくさんある。


 スートラの街に帰ったときのいい話土産になりそうだ。


 でもただ聞いた話だけだと、特にカノンさんとか、カノンさんが突っ込んだ質問をしてきそうだし……。


 あの人結構、ものの構造を知るのが好きなんだよなあ。


 

 「そのスクリーンはどうやって動いてるんですか?」


 それをきいて、イルさんナルさんは少しビックリしたように顔を見合わせる。


 「えっと、まずこの水は街の外からの自然水でしょ」


 「スクリーンを投影しているのは王シェレンベルクさんの魔法で……。えっと、当たったお金も自動で分配され手元に現れるのも確かに、シェレンベルクさんの魔法だよね?」


 なんだ、魔法のたぐいかよ。


 これは見聞きしたことをそのまま伝えるしかない。


 質問疑問改善点は一切受け付けません。

 


 「やっぱり王が裏でこの街を仕切ってるんだな」


 ライアンが納得の言ったようにつぶやくと、


 「当たり前じゃん。街じゃなくて国を仕切ってるんだから」


 ルカがツッコミを入れた。

 


 それにしても、この風景もこの街からしたらいつも通りの一面らしい。


 ワイワイガヤガヤしているものの、武器を一切見かけないということが自分にとっては違和感を感じるが、その国の平和そのものという感じがする。

 


 「まだどのクリスタルも輝きを失っていないから、多分スートラの街に被害が出ていることはないと思う」


 

 ナルさんのその言葉を聞いて、いつスートラの街に戻ろうかと悩んでいた俺だが、しばらくはここにいていいと確信できた。


 まあジジィも一ヶ月ぐらい帰ってこなくてもいいとは言っていたし……。

 


 「五大明騎士が一応この街を区切って地区ごとに管理しているけど、今はこんな状況で二人が街の外にいってるから、そこまではっきり区切りというものはないのです」


 「次は結界の原点地である王都の門に行くけどいい?」


 

 「喜んで」 「らじゃ」


 俺たち(弟?)のそんな元気な返事を聞いて、ナルさんたちはいやお姉ちゃんとしてだろうか、とても嬉しそうな表情をしていた。



ギャンブルって結構勇気入りますよね。

賭けって狂ってますよ


にわか発言すみません……

次回予告 「勇敢なるライアンの」

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