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オン・ワンズ・ワァンダー・トリップ!!  作者: 羽田 智鷹
二章 交錯・倒錯する王都
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第二章 十二話 二人のお姉ちゃん

 

 「お姉ちゃんたち、自己紹介してなかったね。お姉ちゃんはお姉ちゃんのイル」

 

 「私は妹のナルです」


 大広間から出るやいなや、彼女たちはそう口を開いた。


 口当たりは優しくとても話しやすそうな感じだと俺は思った。

 

 赤髪の方が姉で、濃いめの紫っぽい方が妹か。

 

 「そういえば、セロもあなた方のことをイル姉、ナル姉って呼んでたみたいですけど……」


 俺はこの人たちとセロが実際の姉妹なのか質問したつもりだった。


 しかし隣でルカが「何訊いてんの?」って顔をしている。

 

 「まあ、ナル。この方、お姉ちゃんのことを"イル姉"って」


 「イル、やばいよイル。私のことを"ナル姉"って……。なんだか弟ができたみたいだよ」

 

 うれしそうに顔を見合わせるやや不満に思ったのか、何か焦ったように頬を火照られたルカも口を開く。


 「イルさんとナルさんは何歳ですか?」


 ルカが煮え切らないような顔をして訊ねる。


 「私はにじゅうで……」


 「私はじゅうきゅうーー」


 俺たちは全員十七だから……。


 「俺たち、ナルさんたちと結構近いな」


 ライアンが驚いたような声を出す。


 「ということはやっぱり弟だね」


 「お世話したい。ねえ、イル。私この子たちのお世話したい」


 二人にはセロに見せた表情のものとは若干違うが、それでも似た雰囲気を感じる。

 

 「フィリーはイルさんたちと血がつながっていないんですよ」


 ルカが抗議するように訴える。


 「大丈夫だよ。お姉ちゃんたちは血の繋がった姉妹だけど、セロ様とは血はつながっていないしね」


 「心配しなくてもいいよ。血がつながっているかなんて、小さなことだからね。それより君、フィルセくんって言うんだよね。それをフィリー君か」

 

 ルカはその言葉を聞いてさらに何かを言おうとしていた。


 勢いに任せて口を開いたようだったが、なんの言葉も出なかった。


 「でもでも……。私たちの妹ちゃん、どうだった? すごーく可愛かったよね?」


 「お姉ちゃんがしっかり面倒見てあげてるんだよ」


 二人は頬を赤らめて、俺たちに言った。

 

 「セロ様はね、魔法の腕すごいんだよ」


 「それに花とか植物とか鑑賞するのが好きでね。加えて薬草についての知識もあるんだよ。博学なんだよ」


 小さいうちはいろいろと吸収しやすいということなのだろうか。


 「でも正直、セロの口調が変わるのは正直びっくりしました」


 ていうか、びっくりしないほうがおかしい。


 「そうだよね。あの俺様系も最高だったよね。お姉ちゃんもいつも、あの強気な感じはビリビリ来るというか」


 「私たちが自慢の妹に必死にその喋り方を強よゥ……、いや、勧めてきたからだよ。これこそ、私たちの教育の賜物って感じです!!」


 彼らは顔を赤らめたまま感慨深い様子で喋る。

 

 「あっでも、フィルセくんは俺様系の口調はしないほうがいいかな」


 「それよりも何かあったら、すぐに助けをお姉ちゃんたちに求めてくる、お世話しがいのある弟のほうがいいかな……」


 どんどん勝手に彼らの妄想は膨らんでいく。


 「俺はどうですか?」


 ライアンは意外に興味津々に聞くと、


 「えっと君はライアン君だっけ? お姉ちゃんたちに口で反抗しつつも、行動が素直な弟っぽい」


 イルさんは楽しそうにそういった。


 「いいじゃん、なんか楽しそう」


 ライアンはその設定を素直に引き受けたらしい。

 いや、そこは口で反抗するところでしょ。



 後からルカやユーリから何か言われても知らないよ。


 と思って俺は二人を見てみたが、イルさんたちに反発しているのはルカだけだった。


 俺も案外楽しそうな予感がするので、反発していないでおこう。

 

 って、聞く限りだとライアンよりも俺の方が駄目な弟じゃん。

 すぐに助けを求めるとか。


 

 そうこうしているうちに、俺たちは屋敷の外へ出た。


 「セロちゃん、遅いですね」


 「まあ、大丈夫だよ。セロ様からお姉ちゃんたちは直接先に案内してて、って言われたし」


 「じゃあまず、街の中央商店街でも行こっか」


 イルさんたちに言われるがままについていく。


 王都は至るところの道が綺麗に整備され、石畳は形が揃えられている。


 

 「君たちが王都の外で『邪翼』の一人を倒してくれたんだよね。ありがとう」


 「そんな若いのにすげーなー。俺たちももっと頑張らないと」


 「この王都にいる五大明騎士が少ない今、君たちのような方がここに来てくれて助かるよ」

 

 街の人たちと通り過ぎ度に声をかけられる。


 案外俺たちの情報は王都で広まっているようだった。


 今まで訪れてきた街の人々とは違って、どの人も首元はえりのついた服で豪華な装飾が施されている。

 

 みすぼらしさは全くと言ってないほど、しっかりとした服装をしていた。


 流石は王国の中心の街と言った感じだった。


 

 「俺たちってそんなに有名なのかな」


 俺はふと思ったことを口に出すと、イルさんは


 「多分"審判ジャッジ"が下されたからでしょう。国民全員がその"投票ロット"に参加していると言っても過言ではありませんしね」



 イルさんたちは俺たちのその言葉への理解ができていないような顔を了解すると、


 「あー、その顔。やっぱりお姉ちゃんたちが手とり足取りお世話したくなっちゃうなあー。大丈夫、心配しなくてもいいよ。この道の先にその"投票ロット"のスクリーンがあるから。お姉ちゃんたちが説明するよりも多分実際に目で見たほうが早いから」


 俺たちの歩く隣の車道では馬や地竜が引く車が人や何か物を運搬していて、それらは忙しそうに往来している。

 


 「"投票ロット"も関係してきますが、この街プレシオラは『商業と取引』によって発展してきた街なのです」


 「その街では武器が使えない。だから安全に対等な取引や交渉ができるのがその一因だよ」


 お姉さんたちの丁寧な解説。



 「私さっきから思っていたけど、この街って物乞いとかする孤児とかいなさそうだし、家や商店街も清潔感に溢れているし。……治安がいいのね」


 ユーリは気づいたことを口にする。

 


 自分の住んでた街と、つい比べてしまうよな。


 スートラもどちらかといえば治安のいい街だったが、住人の暮らしはそこまで豊かなものではなかった。


 畑で育てた野菜や、裏山で取ったもの。

 商売も自営業として、街全体で自給自足生活だったし。

 

 「あとで連れて行くのですけど、この街は王様特性の結界門による魔法によって秩序が守られているのです。危険分子はできるだけ排除すべく、人も門によって選別されますね。つまりは、ある程度の収入がなければここに来ることができません」


 「しかし皆さん裕福な分、ここではお金に関する悶着はあまり起きないですね」


 ただこの街がスートラとかと違う理由が明確に存在する。


 「でもいいのかな。住民が自分の身を自分で守れるような術を持っていなくても」  


 俺が訊ねる。


 俺の違和感の原因はこの街では武器の類を一切見かけないことだった。


 そうスートラの街でも、ユーリのカタグプルでも人々はちゃんと武器の扱い方を知っている。

 


 「この街では五大明騎士が絶大な力を誇っています。国一番とも言える方々のみがこの街では唯一武器の仕様が許されているのです。この街の絶対的な平和のために」



 「それに万が一の自体では私たちも十分戦うことができます。騎士団に所属している私たちは日々鍛錬してますので。フィルセ君をも私たちは十分に鍛え上げることもできますよ?」


 二人はその光景を想像したのか笑みがこぼれている。


 確かに一度は手合わせをお願いしたいところなのだが。



 「だからこの国の結界を破るのは至難の業なんです。五大明騎士が皆、力を合わせても突破できないように幾重にも重ねた王様の結界が貼ってあります。さらに忌まわしいことに毎日、あのシスが結界に傷がないか点検していますから」


 しっかりこの王都は供えがある、と聞いてて分かった。

 


 「ずっと聞きたかったんだけど、シスとセロってどんな関係なの?」


 ルカが少しは彼女らに警戒心をいだきつつも、訊ねる。

 


 「そうですね、それもお姉ちゃんたちが説明しましょうか。まずこの国には五大明と名の持つ騎士がいて、五つの大名団クランに分かれています。目的としては国のためにまとまって行動することですが、五つの団である勝負をしているのです」


 「詳しいことは"投票ロット"のスクリーンがある場所で話します。けれど一ヶ月ほど前、シスは私たちのセロ様が率いている団を抜け、スチュアーノのところへ転団したのです。これは前代未聞の異例のことであり、不届き者なのです」


 そうは言うものの、ナルさんの口調はそこまで苦々しくは聞こえなかった。

 

 「それをセロは怒っているということか」


 ライアンがつぶやく。


 「その通りです。しかしシスにもシスの生き方があるわけですし、セロ様にはそろそろ機嫌を直してほしいのですよ。お姉ちゃんたちにお世話しがいがあるといえばあるのですが……」


 もう十分手は尽くした、というような言い方だった。



 「イルさんたちはシスさんには平気なんですか?」


 「遠慮なく姉さんって呼んでくれていいよ。むしろ推奨。シスはその行動さえなければ、完璧な程優しいやつで周りをよく見ていて、色々と私たちのこともセロ様のことを分かっている。セロ様が唯一男をこの団に認めるほどのいいやつだったのですからね。私たちも彼と過ごしていた日々は楽しかったと感じることもあります。が……」


 「お姉ちゃんたちにはセロ様が第一であり、平気では到底!! ありません!!!」


 彼女たちの口調が苦々しげに聞こえなかったのは多分、俺の聞き違いだな、これ。


 「もしかしたらどこかを境に、シスさんは心持ちが変わったのかもしれないな」


 だってそんな大きな決断をするなんて、簡単なことではない。


 俺はそう言ってみるものの、年上の人の気持ちは分かるはずがない。


 「お姉ちゃんたちもシスをちゃんと分かっていなかったのかもしれません。ただあの態度を見て、どうにも心の底から後悔なんてできそうにもないですけどね」

 


 そんな感傷に浸る彼女たちの気持ちをユーリは簡単にぶち壊した。



 「私はこの三日間しか見てませんけど、あのチャラ男にそこまで後悔する必要はないと思いますよ。何考えているかよく分からない感じだし、いかにも気持ちがころっと変わってしまいそうなやつですよ。しかもそれを反省してそうにもない」


 やっぱりまだ、ユーリは年上の男性に対する評価は辛辣だ。


 「まあ今はやつの行動からしか、今まで私たちのことをどう思っていたか推測するしかありませんし…………。お喋りしている間にもうすぐ中央広場です。あっ、何か買いたいものとかあったら私たちに言ってくださいね。特別に何でも買ってあげますよ」


 「ユーリちゃんの言うとおり、皆さんもシスのやつには気をつけてくださいね。やつに対してはお姉ちゃんたちにも対処できないことなので」


 俺たちの行く手に広場と噴水が見えてきた。

 


 この人たちが本当に俺のお姉さんだったら、とても甘やかせてくれそうな気がするし、それも悪くないと思ってしまう。

 

 よくよく考えると女子四人に対して、男子二人という肩身が狭いといえば狭いが、見方を変えればとても華やいだ状況であることに今更ながら気づく。

 


 俺は今日の朝に目覚めたばかりだが、ゆっくり心置きなくこの状況を楽しむことにした。

 

イル姉→二十歳→一人称お姉ちゃん

ナル姉→十九歳→一人称私


分かりにくかったらすみません

まあ話が進めば二人の区別がつくようになりますので……。

次回予告 「ロットは夢を打ち砕くもの」

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