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オン・ワンズ・ワァンダー・トリップ!!  作者: 羽田 智鷹
二章 交錯・倒錯する王都
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第二章 十一話 アイツ現る

 

 「僕とセロは得意分野が違うのですよ。だからここは敵対するのではなく、手を取り合って……」


 スチュアーノさんのセロへのなだめは続く。

 

 「あっ、そうだ。俺様がイプセンの記憶を消す魔法を使ってやるよ。また俺達、ゼロから始めようぜ!!」


 セロがニヤッと笑って言う。


 「えっ……、それって禁録魔法じゃ……。シェレンベルクさんもそこでただじっとみてるだけじゃなくて。駄目でしょ? その魔法使ったら……」


 「セロがその魔法を使ったら、そのときには当然の罰を与える」


 王は静かに言った。


 「でもそれって、僕の記憶が消されたあとの出来事ですよね。シェレンベルクさん見てるんだから止めて下さいよ。しかもなんか笑ってないですか? シェレンベルクさん笑ってない? 傍観罪ですよ」



 いよいよ、スチュアーノさんは焦っている。

 

 「そんな罪はこの国には存在しない」


 感情の読めない声だった。

 


 「セロ様、スチュアーノさんに対して怒るのは程々にして…………、代わりにお姉ちゃんを罵ってくれませんか?」


 「セロ様、魔法を使ってスチュアーノさんの記憶を消すのを私は止めません。しかしその魔法を間違っても私達にはかけないでくださいね。セロ様の笑顔を毎日の糧として、しっかり記憶して私達は日々生きているんですから」


 先程、スチュアーノさんが手招きしていたセロの配下だ。


 最初に喋った彼女は茶色を帯びた桃色の髪で、その髪の毛はルカよりもずっと長い。



 次の彼女の髪は濃いめの紫っぽい色をしている。

 艷やかな髪質透き通っており、肩にかかるかかからないかの短髪だった。

 


 二人とも背丈は俺より少し小さいくらいだったが、セロからするとだいぶ大きい。

 


 二人とも実に健康そうで発育良好である。

 

 彼らはスチュアーノさんを引き合いに出して、しかしただ自分たちの意見願望を言っているだけで、それほどスチュアーノさんを助けようとはしていないように見えた。

 

 まだセロの配下はいるようだったが、彼女たち以外はその場を動いていない。

 ーーよく見ると壁にもたれかかって居眠りをしている娘もいるな……。

 


 「セロ様。スチュアーノさんだけ罵るのではなく、どうか私たちにも」


 「ほんとっ、お姉ちゃんたちになんでも言ってね」


 

 セロは二人の言葉攻めにあいながらも、どうにかして俺たちの方を向く。


 「この二人がセロの人格の元凶なの☆ なんだったら、お兄さんたちももう一人の方の私で罵ってあげようか?」


 しょうがないと言った感じで、どこか諦めたようにため息をつくとセロは俺たちにそう言った。

 

 しかし、俺は隣から何か別の物を感じた。

 見ると顔は笑っていながらも、俺に向けられたルカの目線が怖い。

 

 「そういうの求めてないから、遠慮しとくわ」


 ルカの視線がなくても、初めから断るつもりだったんだからね。

 


 俺たちはただぼうっと、セロとスチュアーノさんたちの行く末を見ていたときだった。

 


 バーーーーーン。



 突然、思い切り大広間の扉が開けられた。

 


 「ちょっと、…………ちょっと誰だよ? 今日お食事会をやるって言ったやつは? 俺聞いてないぞ。って皆さんお揃いで楽しそうだな。俺も誘えよ。俺はいつも通りの日課をこなしていたのに」


 「ご苦労だった、シス。しかしお前を今日ここへ招待するつもりはなかった」


 王が静かに答える。


 「えっ、それって俺をハブったってこと? 笑えない冗談だぜ。王様よう、国民みんな平等に扱おーぜ」


 「お前がいるとセロが機嫌を損ねる」

 


 それを聞いたシスと呼ばれた男は、セロたちのいる方を見た。


 そして何かがわかったように急に顔を輝かせると、セロたちの方へ歩き出した。


 

 「セロちゃん、そうやってスチュアーノを困らせちゃだめでしょ。ほんと変わんないなあ」


 そういって、はやセロまでの距離二メートルぐらいのところまで近づく。


 大してセロはその男と同様の距離を後ずさる。

 

 先程まで、セロに対して甘々のお子様カレー的な存在だったセロの配下である彼女二人が、その男の前に立ちはだかると、両側からそれぞれ回し蹴りを敢行した。


 その男はそれを両腕で受け止め、弾き返す。


 「イルにナル、元気そうだね。なかなか強いな。威力も前よりかは上がったみたいだし、もしかして筋肉付いたとか?」


 片足を弾き返され、バランスを崩している二人を助けるように彼らの肩を掴むと、その男は言った。



 「やはりこの男、邪道だわ」


 「セロ様にはもう近づけてはなるまい。お姉ちゃんたちで食い止めなければ」


 

 「そんな君たちまで俺を敵対しないでよ。ほんの一ヶ月前まで一緒にいた仲だろ?」


 男は嬉しそうにそういった。

 


 もしかして、この男がスチュアーノさんが言っていた男なのだろうか?

 


 「あの、あなたがセロに何かしたんですか?」


 「あ、客人方起きたんだね。俺はシス。よろしく〜」


 その男、シスは俺たちの前に来る。


 俺が思ってた以上によりも背が高いらしい。



 この人がほんとに今までは仲良くセロと絡んでいたとは、想像しにくい。


 

 「今しがたまで、俺たちはあなたの話を聞いていたのですが……」


 「えっ、そうなの!! 嬉しいなあーー。セロちゃんが俺の話をしてくれてたなんてーー。やっぱり素直じゃないけど中身はかわゆいなあ」



 先程ここに来たばっかりなのにテンションが高く、もうこの場に適応している気がする。

 


 「『破滅ラヴァ』」


 こっちを向いていたシスに、何か魔力の帯びたものが飛んでいく。

 どうやらセロが魔法を唱えたようだった。

 

 マグマのようにそれは時折沸騰したように禍々しい力を辺りに撒き散らしながら飛んでいく。


 

 「あっぶねっ!!!」


 シスが間一髪避けたそれは、大広間の壁にあたって消えた。


 そうだった。

 この屋敷は魔法でさえも壊れないようになっているんだった。

 今見たとおり、セロの魔法でさえびくともしていない。


 

 「ちょ、セロちゃん。当たってたらどうするんだい? あとシェレンベルクの魔法がなかったら、この城燃えてっぞ」


 「どうせ、アンタは避けれるでしょ」

 

 「分かってるーー!!」

 


 その言葉を聞いて再び杖を構えだしたセロ。


 「ちよっと、セロ様落ち着いてください」


 「大人数のいる場所での魔法はちょっと……。お姉ちゃんたちはセロ様に対抗できないので、魔法は程々に……。」


 

 そんなこんなで必死にセロをお姉さん方二人は落ち着かせようとしていた。


 しかし元凶主は、


 「セロ、俺お前の陣営やめて分かったんだ。俺がいなくても、お前はちゃんとやっていけてるし、日々成長している。それに比べて、今までの俺はお前のところでただ楽しく過ごしているだけで何もお前に出来てあげれていない。そりゃセロちゃんが強すぎるのも一因だけど……。遠くから見ていると、ほんとよく分かるよ。いつかまた、セロちゃんが俺にしてくれたことを恩返しする予定だからさ。それまでは俺のこと忘れていてもいいんだぜ。あっ、逆に忘れてくれてたほうがウェルカム的な? ギャップというやつがあるんじゃん。俺も日々進化してるから、来る日に俺に惚れるように」


 「はぁ???!!」


 それでもセロは嫌そうな表情。


 大人と子供のやり取りとは不釣り合いな会話の内容。


 「うわー、しくったわー。最後の一言いらんかったわー」

 

 一見シスさんはお気楽層に見えて、しっかりとセロの機嫌をとったことが俺には分かった。


 しかも喋りに勢いがあった。


 セロはというと先程までの怒りはどこへやら、いま自分がどんな気持ちでいるべきなのか自分でも分からず、若干オロオロしていた。

 

 シスさんとスチュアーノさんを比べると、シスさんの方が喋り上手らしい。

 


 「シェレンベルクさん。今日も異常なかったぜ。でも、少し調査したいことができた。スチュアーノ、今日も昼から時間がほしい」


 「いいですけど。僕は君より実力も立場も上なんですけどね。もう少し立場を意識してほしいですね。君がこちらに入りたいって言うので承知したはずですが……」


 「実力も、立場の違うからっすよ。せめて人間関係は柔らかめに行きやしょうよ。親しみを込めてさ」


 「やっぱり、君は変わってるなあ」


 「変わってない人なんていないですよ」


 会話だけを聞いているとどっちが本当の実力者であるのか分からない。


 しかし、セロも軽口が叩けるっていることはシスさんもそこそこ強いのだろう。

 

 「そうだ。気づいちゃったけど、そこの客人方のおかげでガッポガッポじゃない? シェレンベルクさんよ、給料増額期待してますっ!!」


 「その分はもっと衛兵育成の資金に使う予定だ。お前は仕事が増えたからな」


 「はい?」


 「用件は伝えた」


 

 「……。まあいいや。今度食事会やるなら、俺も呼んでくれよな」


 そう言ってシスは自分で開きっぱなしにしていた扉から出ていった。

 もちろん最後に扉を閉めて。

 


 「フィリー、まだこの街に見に行ってないだろ?」


 騎士たちもお開きを感じたのか、この会が無事に終わったことに安堵しながら、大広間から出ていきつつあった。


 シスさんを機に流れ解散ということだろう。

 


 ライアンが気の利いたことを俺に言ってきた。


 「やっと、四人揃ったしね」


 ユーリも待ちきれないご様子だ。

 そりゃ目覚めるのがお前が一番早かったしね。


 「でも、ここ結構広いよ」


 ルカも笑って言った。

 

 「セロ、案内でもしてやれ」


 王は静かに言う。


 「はいはい☆ イル姉とナル姉、先の外までお兄さんを案内しておいて☆ セロは後で」


 「任されました〜」 「ぎょい〜〜」


 セロのお姉さん役をしていた二人が俺たちの座っている席まで来る。


 「では、行きましょうか」


 俺たちは二人に続いて大広間を出た。

 

 

 

 「セロ、例の件頼んだぞ」


 「セロ。やっと機嫌が治ってくれてよかった〜」


 「スチュアーノものんきなこと言ってないで☆ これからの大掛かりミッションにはスチュアーノも一役買うんだよ☆」


 「分かっていますよ。でもひとまずはセロのほうが先です。頑張ってくださいね」


 三人になった大広間でのやり取りは部屋を反響しつつも、他の者の耳に入ることはなかった。



大人の余裕を感じさせるシスさん。

とっさに軽口が叩けるってやっぱりコミュ力が高いじゃないかよ。


次回予告 「二人のお姉ちゃん」

本日20時にも更新します

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