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オン・ワンズ・ワァンダー・トリップ!!  作者: 羽田 智鷹
二章 交錯・倒錯する王都
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第二章 八話 ドラゴン無き大陸の転換

 

 「なんだ、もうドラゴンいねーのかよ」


 ライアンが残念がる。


 「でもそんなものがいたら、この土地はメチャメチャだったかもしれないぞ。まあ俺も実際には見たことないから想像できないけど」

 


 「その可能性は十分にありえますね。あ、そうだ。ちょっと、セロ。分かりやすいようにイラスト描いてください」 


 

 「はあっ? また突然な!!」



 再びの振りにセロはうわずった声を上げた。


 スチュアーノさんを取り巻く気迫の力に押されるようにして、俺たちもスチュアーノさんの鬼カーブな発言にビックリする。


 自ずと皆セロを見る。



 「まさか、また分かんないんですか?」



 ここで煽りとは…………。デジャブってるとはいえ凄く面白い。



 「おい、スチュアーノ。またってなんだよ。ていうか、お兄さんもドラゴンくらいイメージ持ってるだろ?」



 「だろ?」


 「でしょ? てへ☆」



 片手を目の前に持っていく。そこでぴーーーす。



 さっきまではセロがスチュアーノさんより上の立場かと思われたが、今は逆のような気がする。



 

 「そういうのいいですから、早く描いてください」



 「なっ、しょうがないな…………。しかし実際描くのなると、意外とむずかしいからな……」


 セロは画用紙のページを一枚めくる。



 右手にペンを持って考え込んでいる。



 

 「まだまだかかりそうなので、続きを話しますね」



 話を振っておいたにも関わらず、再びの急カーブ。



 これはよそ見なんかしてられないな。



 

 ーーーーーーーーーーーーー。



 私がこれを書くとなると、仮にこれを手にとっているとしたら久しぶりなのかな。



 読み返してみると三年ほどの月日が流れている。



 何のために書いているのかは、私では分からないがな。




 

 時代の流れとは全くわからないものである。



 しかし、再びこれに書かなければならない事態になりつつあることは確かなのだろうな。



 

 あれからの続きである。



 二体のドラゴンとの戦いの後、多族軍は深い傷跡の残る土地を再び元の姿に戻そうと尽力した。



 『黑羽族』は姿を消し、我々人間はと言うと、一つ残った兵器の処遇についてどうするべきか迷っていた。


 

 大いなる力はやがて厄災を生む。

 ノブレスオブリージュといったほうが聞こえが良いかな。


 

 使うべき敵を失った兵器は今、ひとまず王が管理している。

 


 外部事情はというと、近年見かける種族が減ってきているとの報告が増えてきている。



 ここからが私が続きを書こうと思った次第である。


 

 先日、王都周辺の見回り行っていた衛兵がある商人と遭遇した。


 彼によると、"黒い翼を持った"何者かが他の種族と対立している、と噂が地方の至るところで流れているらしい。



 黒い翼と言う言葉に『黑羽族』を思い浮かべるが、彼らは漆黒のドラゴンの消滅とともにピタリと息を止めてしまっている。



 それが仮に『黑羽族』自身の仕業だとしても、漆黒のドラゴンがいない今、この前のようにこの大陸を揺るがすことは不可能だろう。

 

 しかしよくよく考えてみると、彼らはあの時からすっかり姿をくらましたわけで、用心は怠るべきではないのだろう。

 

 



 ーーーーーーーーーーーー。




 今私がこうしているうちにも、この土地にいる種族がどんどん減ってゆく。

 


 まだここには書いていないようなので現状況を記しておくが、人間のテリトリーとしてはこの土地に五つの国家がある。



 大陸中央には我が国カシミール。

 北西にベルファスト、北東に要塞国家ランカシャー、真東はオルギン、真南オーガスタが位置しているのが今の大陸の人間時勢だ。


 我が国カシミール王国がこの大陸内で一番栄えているのは、このすべての国と接するほどの国土を持つことから一目瞭然だろう。



 そして、今日事件が起こった。



 カシミールとオルギンの国境付近で一人の少年がまず初めに現れたと言う。


 それからその他少数、青年やら筋肉質のおっさん、少女やらが続いて現れたらしい。



 報告によると、正確には少年プラス七人だそうだ。


 

 彼らは現れるやいなや、突如破壊行為を始めた。



 数分と立たずに両国の国境付近の監視砦において、戦闘状態になったらしい。



 彼らは八人しかいないのに、一人一人の実力が折り紙つきだった。



 無論、我々が国境付近にそれほどの兵力を置いていなかったこともあるが……。




 只今新参謀本部に緊急招集がかかり、私はこれから会議を行うところだ。

 

  



 ーーーーーーーーーー。

 我々は五大明騎士五人のうち、三人をそちらへ向かわせることにした。

 彼らからの"遠距離通信手段マジックミスト"を使った通信によると、彼らはみなどこまでも吸い込まれるように深く、漆黒に近い黒色の翼を持っているとのことだ。



 やはり、『黑羽族』との関わりが否定できなくなってきた。



 しかし何千といる彼らのうち、たったの八人で攻撃を仕掛けるほどの力があるとは驚きだ。



 しかも、一人一人個性的な戦い方をしているらしい。



 我が国としては残るもう二人の五大明騎士も戦場へ送るべきだろうか。

 



 ーーーーーーーーーー。



 彼らが戦いのさなか二手に分散した。


 多分我が国が戦力を投入したからだろう。



 リーダーである少年と筋肉質のおっさん、少年より少し年上の青年は我々カシミールに、残る五人は我が隣国オルギンへ前進を始めた。


 

 カシミール王国は今勢力があると言えよう。


 やつらはオルギンを初めに落とすつもりなのだろうか。



 しかし我々も戦力を投入しているにも関わらず、一向にやつらの快進撃が止まらない。



 新参謀本部の見解としては、我が国に対抗する三人は多分実力がトップスリーなのだろうとのことだ。



 

 ーーーーーーーーーー。


 黒い翼を持つ者が現れて一ヶ月がたった。


 我が国は持ちこたえて入るが、徐々に領土を侵されてつつある。


 しかし驚くことに隣国オルギンは壊滅的らしい。

 


 ついにオルギンは戦場に"王家の加護"の者を投入したらしい。


 え、難しい言い方をするな。って……。



 簡単に言うと、オルギン王国の王族ということだ。



 過度な力の使い方は王族自身のの寿命を縮めることになるのだから、普通は戦場へ姿を見せないものだ。


 しかし、むろんその力は絶大である。



 

 我が国にも"王家の加護"持ちはいるが、今のところは五大明騎士たちで持ちこたえているのだから、彼らだけでなんとかなることを祈るのみだ。

 



 

 ーーーーーーーーーー。



 歴史あるオルギン王国が完全崩壊したらしい。



 まさかここまでになるとは予想もしていなかった。



 "王家の加護"持ちでさえ対処することができず、やつらに国土を縦断され、蹂躙されたらしいのだ。

 

 

 オルギン王国はその国の歴史もろともに滅び、生き残った者はほとんどいない。



 やつらにさっそくその戦利地を拠点にし始めたらしい。


 

 つまりは制圧、支配されたらしい。



 

 今我が国に来ている敵にもオルギンが滅んだ今、新たに援軍が来るのも時間の問題だ。



 と書いたものの、未だに報告による分で確認された敵はたった八人だとのことだ。


 ドラゴンのときと違って、標的がよくわからないのは非常に心苦しい。

 

 


 ーーーーーーーーーー。



 予想通り敵に援軍が来た。



 危機的状況だ。


 我が広い国土も五分の一程乗っ取られた。



 五大明騎士の方々が敵の情報を引き出しているものの、まだ対処方が思いつかない。


 

 早く何かしらの策を講じなければならないだろう。



 ああ、いやだ。



 上の命令で、どうやら私も戦場に偵察しに行かなければならないらしい。




 ああ、やだなー。



 

 ーーーーーーー。


 状況は急に一変した。



 私が……

 



 ー ー ー ー



 「おい、すちゅあーの。描き終わったよ☆」



 「もうドラゴンが出て来る場面は終わってしまいましたが……」



 それって、話を振る前から終わっていたんじゃ………。



 「じゃーーん☆」



 ドン、と書いた画用紙をテーブルに立てる。



 それは小型のトカゲに羽を生やしたようなものだった。



 「セロ、これ可愛すぎませんか? ドラゴンの、ドラゴンのみが所有する、ドラゴン特有の、威厳というか覇気というものがないのですが」



 「いやどうみてもこれ、ドラゴンでしょ☆」



 セロは胸を張ってスチュアーノの言葉をはね返す。



 「こんなもの二匹では、到底この広い大陸を支配できそうにありませんね。セロ、先人たちを馬鹿にするのは辞めたほうがいいですよ」



 「はっ?!! それよりも、スチュアーノがおれサマを…………じゃなくて、セロの絵をバカにしすぎでしょ☆」



 「童女の虚想ですね」



 聞くに耐えないとばかりにセロはスチュアーノから背を向ける。



 「…………。ねえ、お兄さん。私の絵をどう思う☆?」


 

 「俺もスチュアーノさんと一緒だぜ。フィリーはどうだ?」



 ライアンは相変わらず反応が早い。


 セロはライアンに渋い顔をする。



 「そうだな……。可愛さは認めるけど、やっぱり俺たちのイメージするドラゴンとは少しずれてるというか……」



 「そんなことないよ。私はいいと思う。可愛いドラゴンがいないなんていう証拠なんてないし…………。ねえ、フィリー?」


 なんでルカが必死にフォローしようとしてるんだよ。



 相手はあの五代明騎士の…………、あ、童女だった。


 彼女が絵を描く姿が健気で心打たれたとかなのかな。

 



 しかし今の場の絵柄としては、自分が書いた絵にケチをつけられて拗ねた童女を優しいお姉さんが慰めているって感じだ。




 うん、全然おかしくない。

 


 「フィリーが描いたほうが上手いんじゃね?」



 「ムムッッーーーー」


 セロがよくわからない唸り声を上げている。



 

 長年、スートラの街にいたときにやってきた置物づくり職人をなめないでほしい。


 あれは立体だったが、こっちは平面であり絵だ。


 

 なんてことない。

 


 少し頭の中でドラゴンをイメージしてみる。

 大体のイメージは固まっているから時間はかからない。

 そこに、覇気やかっこよさを付け足して……。

 



 俺はセロの画用紙帳をめくって一枚はがした。

 そしてペンを取って、すいすいすいっ、………………と案外ものの数分で書き終わってしまった。

 



 「これだよ、これ。フィルセ君絵が上手いんですね。セロとは描く雰囲気から全く違いますし」



 「だしょ、こいつ絵だけは上手いんだよ」



 なぜ、お前が得意げになる……。


 と、ライアンに物申したい。



 「まあまあ、でもフィリーって意外とよく見てるんだよ。この前なんて、私がたった五センチ髪を切っただけで……」



 「ちょっと、それはこの前防御壁に入れてもらったときにふと思っただけで、日頃からルカのことしっかり見てるわけじゃないぞ」



 「いや、気づくだけでもすげーよ。俺なんてさっぱり気が付かなかったし」



 それは、ライアンは周りをよく見ていないだけだ。


 もっというと興味のジャンルが偏っている。



 「私はどんな感じ?」


 ユーリがふと訊ねてくる。


 「変わってる」



 「はっ?! そうじゃなくて……」

 

 


 「……いや、私は認めない。これのどこが……」


 今まで黙っていたセロがいきなり口を開くが……、



 「いや、どう見てもドラゴンだろ」


 ライアンがツッコむ。

 



 ルカさんすみません。  

 どうやら、あなたが必死に慰めていた童女はどうやら俺の絵で気分損ねたようです。



 「だったら、もっと早く描いてよ☆…………」


 ついに折れたようだ。


 睨んでくるが、到底その容貌では威力はない。



 「まあ、いいじゃないですか。皆さんにセロのイメージ確立に協力したってことで」


 「すちゅあーのの助けを借りなくてもなんとかなったと思うんだ☆」


 セロは目線をこちらに向けたまま、口だけをスチュアーノに向ける。

 


 「おっと、まだもう少し残ってますね。では………」



 まだ、よくはわからないがこの大陸の歴史にはびっくりだ。


 そしてこのやり取りにも。



 急に世界観が広がった気分。


 

 しかし相変わらず彼らの言う『邪翼族』についてはいまだ、よく分からなかったが……。

 



風邪を引くと喉→鼻→咳の順で来るんですけど、鼻に移行した瞬間から治るまで声が出なくなるの不便すぎる。


次回予告 「英雄」

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