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オン・ワンズ・ワァンダー・トリップ!!  作者: 羽田 智鷹
二章 交錯・倒錯する王都
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第二章 ニ話 小さな彼女


 ふと俺は自分の目が開けられることに気づき、ゆっくりと目を開ける。



 あれからどれだけの時間がたったのか分からない。


 しかしあの少年と戦ってから、そのほど時間は立っていないように思えた。



 ふと、背中に柔らかい感触があることに気づいた。

 どこまでも包み込むような、超低反発。


 体の痛みも感じなくなっていた。



 

 段々と意識が戻り、だんだん視界が冴えてきた。



 誰かが俺を上から覗き込んでいる。



 「フィリー、起きるの遅いよ。私がどんだけ待ってたと思ってるの?」



 俺はその声の主、ユーリを見る。


 彼女は俺の視線を認知すると、体の無事をアピールするかのように、腕や足を伸ばしたり縮めたり、しまいにはジャンプをしたりしている。



 ーー、寝ていた人の隣でバタバタしないでほしかったが……。



 「お兄さん、大丈夫だよ☆ 体の傷も身なりもちゃーんと治しておいてあるから☆」


 どこかで聞き覚えのあるキャピキャピした声だった。



 見るとユーリの隣には、俺たちの半分ほどの人生しか生きていないような幼女と呼んでもおかしくない少女がいた。



 金髪で足まではありそうな長いツインテール。



 

 俺のの体は少年との死闘の名残を一切感じさせるものがないほどにすべてが治っていた。



 切り裂かれ、破れたはずの服も。



 「俺の服装はどうやって直したんだ?」


 「実はセロ、裁縫結構得意なの☆ だけど勝手にお兄さんの服を脱がせるのもちょっとあれだから…………今は魔法なんだよ!! でも魔法と言っても一時的なものなの☆ だから効果が切れると以前の状態に戻っちゃうの。それまでには買えかえるか…………、それとも……“セロ“が縫ってあげようか☆」



 仕草や動作、言動のすべてが可愛かった。


 可愛いとしか表現しようがない。



 もしかしたら、この街の小さなアイドル的存在なのかもしれない。



 それなら、彼女を良くも悪くも何やら関係を作ると、色々と外野からヤジが飛んできそうだ。



 「ありがとう。考えておくよ」



 寝ているということは実質的に外界からのコネクトが切断されたことであり、あの時からどれほどに時間が立ったのか分からない。



 それは至極重要なことであり、聞かずにはいられなかった。



 「あと、俺ってどれくらい寝てたんだ?」



 「私なんか二日前に起きてたよ。ルカさんたちは昨日」


 ユーリは自信満々に言っているが、俺の質問に答えてはいない。



 「?!!。で、俺は?」



 「お兄さんは三日間は寝ていたことになるよ☆」




 三日間!?



 俺たちが時間を気にしながら王都を目指していたのに、ここで俺は三日間をこんなにも簡単に消費してしまっただなんて……。



 ジジィが言っていたことだと、敵がスートラに来るまでに最低で四日だったっけ。



 あの日少年と戦わずにいたら、俺たちはちょうど四日で王都入りを果たせていたはずだった。



 まあこっから『親書』を渡して、騎士さんたちにスートラに向かってもらうから、それ以上はかかるわけだけど。


 まだスートラで戦いが起こる前に俺たちは王都へ行き、スートラへ遣いを急がせたかった。



 実際スートラがどうなっているのかはまだ俺には分からないが…………。



 あれからさらに三日もたっているということはもう敵が攻めてきていてもおかしくない。



 「あのお嬢さん。俺たちこの国の偉い人と話すためにここに来たんだけど……。出来れば至急」


 「そんな急がなくても大丈夫だよ☆ この王都プレシオラの王さまもお兄さんたちとお話をしたいって言ってたからね☆」



 さっきから気にはなっていることだがこの部屋には四つのベッドがあり、一つは自分が使っている。



 だとすると残り三つは……。



 「そういえば、ライアンたちはどこだ?」



 当然俺がそのことを訊ねるだろうと予測できそうなことだったが、彼女は可愛く考え込むポーズを取る。



 「えっとねー。寝ていてなまっていた体を動かすついでに…………フィリーさん? が少年と戦っていたところの跡を見に行くんだってさ。二人じゃ不安だからって、五人の騎士うちの一人がついていったよ☆」



 「へえーー、それはすげぇーじゃん。お前は行かなくていいのか?」


 なぜユーリがこの場にいるのか分からない。



 「いいの。私が真っ先にやられたし、何よりもポイント稼いでおきたいから」


 「……何の?」


 「さあね」


 ユーリがくすくす笑っている。



 

 そういえば見ると俺は武器も防具もない。


 

 しかし思い返してみると、少年に俺の愛剣は割られ、くないも五本中四本消滅と、気分一転してどこか清々しい気分になる。



 しかし、残りの一本は服の裏側に隠してあったような…………。



 

 「そこのお嬢さん。俺の武器はどうなったの?」


 「ごめんなさい。お兄さんがどんな武器を使っていたかはわからないけど…………、もし持っていたなら大丈夫。今も持っているよ☆」



 そう言って、彼女はあどけなく片目をつむった。


 もし持っていたら、今も持っている? 



 よくわからない。



 「お兄さんたちはここ王都へ入る方法を知らずに入ったんだ。だから、全員集まったときに普通だったら知ってることをまとめて教えてあげるね☆」


 こんな幼い子に、『教えてあげるね』なんて言われると少しばかり不思議な気分になる。


 しかしそれも悪くない。



 「その武器って俺が前までと持っていた場所も変わらないのか?」


 「そうだよっ☆」



 俺はしまっておいた場所を手探りに探す。



 しかし手は虚空をつかむだけだった。


 俺の様子を見て、彼女は口には出していないものの笑いをこらえていた。


 艷やかな頬が緩んでいる。



 「でもね、実態がなくなっているから触れないんだよ。……フフ、ウフフ。お兄さんたち皆おんなじことしてた☆」



 俺はユーリを見た。


 ユーリは少し頬を赤らめながらも、笑って頷いた。


 「どうしてそんなことしてるんだ?」



 「詳しいことは後で話すけど、争いを起こさないためだよ☆ 王都では人は武器を持つことができないの。でもだから長年平和が守られているってわけなの☆」


 「皆全員?」



 「まあ、さすがに五大明騎士の……五人……、いや四人は違うね☆」

 


 「これは魔法のちから?」


 「そうそう、この国を統治する王が結界に織り交ぜて作った複雑な術式が組まれた超高度魔法なの。だから今まで誰も破れていないんだよ」



 いかにもすごいでしょ。


 とばかりに彼女はまだ発展途上の胸を張る。


 悪く言えば壁だったが、それもそれで、彼女はとても可愛くそして凛々しかった。

  


 ふと、魔法と聞いて、試してみたいことがあった。



 『解除こんなのチョロイだろ



 俺はくないがしまってあったであろう場所に手を置いて、心の中で唱えた。



 途端に手に重みを感じた。


 期待通り、手には一本のくないが握られていた。



 しかし、誰も破られたことがないということはこのことを知られたら騒動になりかねないと、内心俺は焦る。


 

 急いでくないを服の中に隠し、手を元に戻す。


 

 「ちょっとお兄さん」


 無意識に俺の体が少し震えた。

 よし、さっきあったことは忘れよう。


 何もなかった………………、何もなかった…。



 「えっ?」


 思わず素っ頓狂な声が出てしまった。


 その声にユーリが反応する。


 「フィリー、その声から察するにまさかこの子を見て、何か良くないこと考えてでもした…………?」



 ユーリがジト目で見てくる。


 「なんにもないぞ。でお嬢さん、なんだい?」


 ユーリに向かって急いで訂正を入れる。


 こんな幼い彼女への俺の第一印象を悪くする訳にはいかない。



 「この国では魔法も使えないからね☆」



 なんだ、そんなことかよ。


 悪態をつきそうになったが、美少女の前では表情に出さぬまいと努める。


 「そうなんだ〜」


 「そうなのっ☆」



 どこか彼女は嬉しそうだった。



 

 「フィリー、そろそろ起きてるか?」


 ライアンの声が聞こえ、だんだんと近づいてくる。


 「バカッ、ライアン。フィリー寝てるんだから静かにしてあげないさいよ。案外寝起きが悪いかもよ」


 「俺に比べたら相当悪いな」



 そりゃーそうだよ。


 前同じ部屋にいたときに知ったけど、ライアンは寝ているときは子鹿みたいだった。



 「でも、寝すぎじゃね?」


 「もしかしたら、俺は夢で魔法が使えたんだ。だから起こすんじゃねー。とか言ってくるかもよ」


 「それ、すんごくあるな」


 「うん、かなりあるかも」



 いやねーよ。


 ルカは俺をなんだと思っているんだ。


 もう現に今俺は起きてるし……。



 

 「そろそろお兄さんたち全員集まりそうだし。場所を変えようか☆ お兄さんたちはお腹空いてるよね?」



 「もち」 「ああ、言われてみれば」



 ユーリの言葉が超軽い。


 一体俺が寝てる間に何があったんだ?

 

 何やら余裕すら感じる。



 「王が会食やるらしいから、行こ☆ 私についてきて☆☆」


 「ライアンたちは?」

 



 「それなら、あのお兄さんたちなら大丈夫だよ☆ だって、あっちも五大明騎士の一人がついてるんだから☆」



 言ってる意味がよくわからなかったが、言われるままにベッドが並べられていた部屋をあとにする。


 「食事に、きたいしていいんだよな?」


 「も・ち・ろん!! セロの行動にも期待してね☆」


 「なんかやるのか?」


 「ひみつだよーー」


 俺は年の離れた女の子とのやり取りに慣れず、まだ彼女の行動が読めない。



 「そこは右だよっ☆☆ 王の屋敷は広いからしっかりついてきてね☆」


 少年と戦った疲れが完璧にとれてはいないようだが、俺はだいぶ回復したような気がする。


 なにより、彼女の笑顔に和まされる。



 ルカたちにはないものだ。

 



 俺とユーリはそんな小さくも凛々しいものについていった。



睡眠とは至福の時間だ。


次回予告 「王との対面」

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