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オン・ワンズ・ワァンダー・トリップ!!  作者: 羽田 智鷹
二章 交錯・倒錯する王都
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第二章 一話 始まり

  


 ガチャリ



 小さな人影が一つ、物静かな大広間へ入る。


 その施錠つき大理石の扉を開ける音が反響して幾つかの音に拡散していく。



 「運んでおいたぞ」


 簡潔な言葉だった。



 「ご苦労」



 今しがた大広間へ入った者の言葉に対して、初めからいた男は今朝からしていた考え事を辞めて、顔を上げる。


 そしてねぎらいの言葉をかけた。



 「お前も感じたであろう。あのただならぬ魔力。お前はあの場所で何があったと考える?」



 頭の中で考えていたことを静かに口に出した。



 問われた者はしばし、沈黙した。


 どう言えばいいのか、その者はよく分からず考えているようだった。



 問うた男も、静かに時間の流れるままに待つ。



 「俺様がついたときには四人の少年少女らが倒れていた。俺様も異常を感じてすぐに急いで向かったんだけどな。もう山場なるイベントは終わっていたらしかったぜ。かろうじて、彼らが戦っていた相手が灰へと変わっていったところだった。俺様がこの目で見たのはな」



 ある程度、問うた男はこの返答内容をある程度は想定していたようだった。



 「その"灰へと変わる"ということがどういうことを意味しているのか、汝は分かっているのだろう? この世界の理により、死ぬ直前は皆美しき光を放つ。そして次の生を与えられる。しかし、"灰へと変わる"この自体、その周期から逸脱したもの」



 その男は自分の中でくすぶっていた問を確かな言葉にするのを待っているかのように、さらにすぐさま別の質問をぶつける。


 「それなら案外、先に出ていったギルバードのやつらよりも俺様が功績が残せる可能性、急浮上って感じだな。やはり神は平等にチャンスを与えてくれなきゃ何のために神をやってるんだってーの」



 問われた者はわざらしく、明確な答えを出すことを避けた。

 


 

 「貴様もやつが誰なのか検討がついているのだろう。なぜハッキリ言わぬのだ」



 その男は、実際にその現場を見た者の言葉が自分の推測に確実性を与えてほしかった。


 話を聞く限り、その男にとっては早めに対処しなければならない案件だった。



 「むむう~ー。そこらへんは彼らが起きてからでいいとおもうのだ、そうなのだ」



 しかし問われた者はいずれすぐに分かるだろうと思っていた。




 ガチャリ。



 閉められていた扉が再び開けられる。



 「セロ、大丈夫かい? 朝から珍しいものを見つけたっていって、僕を呼び出してさ…………。運ぶのを手伝ってほしいんだって……? 君は国一番の魔術師なんだから、彼らを浮遊させて運ぶことぐらい容易いんだろ…………。僕達とセロは秀でているジャンルが違うんだよ。それなのによく頭の回る魔術師である君が僕を呼んで、物理的にそのものを運ばせたいっていうなんて…………、どこか調子が悪いのかい?」



 その場にセロという人物がいるのを予め分かっていたかのように、新たに現れた人物は入ってそうそう、そう言った。



 「イプセン。俺様にだっていろいろと都合があるんだぜ。イプセンがいろいろと勝手に考えていたようだが…………、そんな心配はただの杞憂だってもんだ。言っておくが、俺様がイプセンに朝の出来事を知らせなかったら、イプセンは何も知らずにいつも通りの生活を送ることになってたんだぜ。ーーーー、だ・か・らー、あれは俺様がイプセンを呼ぶ口実なんだよ。俺様のことをちっとも分かっていないんだな。少しは得した気分になるほうが自然な反応だと思うぜ」



 「また、その姿で…………。あんまり調子に乗らないでくださ……。おっと、そこまで僕のことを考えてくれていたんですか? そうまでしてくださり…………ありがとうございます」



 最近にしてはセロと呼ばれた人物が珍しく機嫌が良かったのを彼は見て、すぐさま言おうとしていた言葉を変えた。




 彼には年上としての自覚があった。


 別に彼女から何と言われようと、痛くも痒くもない。



 そんな彼の言葉からは悪意なんて微塵も感じさせない。


 清々しい感謝の言葉。




 「俺様が言うのもなんだけど、俺様に向かって敬語を使うなんて気分悪くならないのかよ。しょうがないな…………、それはどういたしまして☆」


 セロと呼ばれた人物、会話相手をからかうかのように普段通りの喋り方に戻す。

 



 ガチャーーン



 今日一日の一番派手な開け方で、三度目の扉が開けられる。



 「セロちゃん。セロちゃん。大丈夫だった? 俺もすぐに駆けつけたかったんだけど、いつも通りのやるべきことがあって……、だから許してね!!」



 先程の者とは声の調子、テンションがまるで違っていた。



 「俺様は許すどころかアンタの顔すら見たくないのだけれど」



 「もう~そんなツンツンしないでさ。若さは大事にしないと〜」

 


 彼女の毒舌をもろともしない切り返し。



 「アンタがいつも俺様を馬鹿にするような口から喋る言葉、一言一句も聞きたくないっ!!」



 「まあまあ。そこまで凛々しかったら、俺は安心だな」



 最近にしては珍しく機嫌が良かった彼女は、気分を害されたように軽口の男から距離を取った。



 「一切聞きたくない。一生聞きたくない………………。『此の世に生きる意味の無いもの。人から疎まれるに値するもの。未来永劫囚われろ。さすれば此の世に居する皆全てはそやつを追想するに能わず、悲しみ苛む者無かれ。全ては先なる行い。『スーパーノヴ……』 』」



 その言葉を聞いて、一番最後にこの場に来た男が慌て始める。


 「ちょっ。まて、まてって。“大明団クラン“同士の戦闘は禁止されてるって。セロちゃんも知ってるだろ。あと、あの魔法発動の前の呪文ぽいところでさりげなく悪意込めて言うの辞めてくれないかな。ホントにセロちゃんに対して悪かったって思ってるから……」



 そう言って、軽口の男は手を合わせて軽く頭を下げた。



 「どの口が“大明団クラン"を語ってるんだ? アンタの言葉は安っぽい。アンタの存在意義のようにな。それと俺様がこの呪文は悪意を込めれば込めるほど、魔法の効果を高めるだぞ」



 そうは言うものの、彼女は魔法を発動させはしなかった。



 そんなことは分かっていたと言わんばかりに、軽口の男は再び口を開く。


 「そういうところは昔と変わんないな。あと俺をアンタって呼ぶのはやめてくれよ、セロちゃん!! 名前でいいぞ」



 「アンタは俺様の何を知っていての、その態度だ?」


 「全部」


 「ぶっ殺す!!」


 「もう、そういうところとか。本当に可愛いなあ〜」

 


 そんな二人のやり取りを聞きつつ、今まで口数が少なかった初めにいた男と二番目にこの場に入ってきた者がヒソヒソと喋り始める。



 「いくら、お前さんがシスよりも実力があるからとは言え、あの二人の会話には混ざれないような異様な雰囲気を感じるな」



 「いえいえ、とんでもないですよ。二人が笑って喋っているなら僕も彼らの会話に無理に入ろうとは致しませんし」



 そうは言うものの、彼の顔にはいくらか哀愁が漂う。


 「まあな、あの二人もお前さんがしっかり舵を取ってくれているからこそなのだろうな」



 「そのつもりで僕は毎日頑張っているつもりなのですが…………、ところで朝の王都近隣での強大な魔力の行使。凄まじく乱れた戦いのあと……、やっぱり“邪翼“とお考えですか?」



 「…………。セロの報告によると、やっぱり奴らの中の一人の仕業だろうと特定できた」



 「古文書によると、“邪翼“は七人と統率者からなるやつらですね。昔に統率者は賢者に倒されたから、残る七人の中からですか。ということはこの王国の五大明騎士の空いた席が、もしかしたらこれで埋まるんじゃないでしょうか」



 しかし問われたはずの初めからいた男は、すぐには返答をせずしばし考え込む。




 「……そのことだが、まずは実際現場にいた者たちの話と照らし合わせようと思う。しかしは油断するなよ。彼らがそんな古文書に載るような奴らを倒せたとは到底思えん。“邪翼“の息がかかっているという可能性も捨てるなよ」



 「僕は人の企て事、人の心情、行動については見る目というか…………、熟知しているつもりではありますが……」



 彼は静かに訴えかけた。



 「すまぬ、そうであったな!! では、セロやシスたちが何かやらかさないように、とだけ頼む。というかお願いしておこうかな」



 「そこまでお期待なさらず。セロは僕には止められないと思いますので……」



 彼はそう言って笑った。




 王都の一角で、アポもないのに付きすぐさま招集に応じて、カシミール王国随一の猛者共が集まる。




 それは今朝起こった出来事が発端だった。

 



 「アンタなんかもうこっちの“大明団クラン"に関わらせないから」



 「俺の行動は“俺“が決めるさ」


 「うわ、カッコ悪」


 「ありがとさん」



 どこか楽しそうに見えるのは、お門違いか。



 楽しそうなのは軽口の男、一人だけ。

 …………にも見えなくはない。




 「そういえばシス、ここに何しに来たんですか?」


 「セロに会いに来たのと……へい、じいさん。今日も結界が何者かに攻撃されてややもろくーー、とはいっても十分破れねーけど、そんな場所があったぞ。詳しい場所は後で教えるから、修復しといたほうがいいぜ」

 



 時はみな、等しく流れる。


 彼らがこの先起こることの前兆を見逃すはずがなかった。


 なぜなら各々が国の誇る実力も持ち主であり、日々の鍛錬者であったから。



 

 この日フィルセ一行が目を覚ますことはなかった。

 



まだ会話主と会話文が一致しないかと思いますが、そのうちそれぞれの人柄が分かると思うので、どうかご容赦を。


ここまで読み進めてくれたことに感謝しつつこれからもお願いします、と言いたい…………ww。 


次回予告 「小さな彼女」

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