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オン・ワンズ・ワァンダー・トリップ!!  作者: 羽田 智鷹
一章 井の中の使徒
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第一章 二十一話 いまひとたびの

 

 目的の衣服屋に来てみると、マスクといってもとても種類が豊富だった。


 口元だけのもの。

 目と鼻を隠し口元だけしか出ていないもの。

 顔半分を隠しているもの。


 顔全部隠しているものもあったが、さすがに却下。


 時間がかかるかと思ったが、気に入ったというか、しっくり来たものがすぐに見つかった。


 ライアンと揃えて鼻から上を隠す白黒の仮面と口元はスカーフで覆う。


 髪の毛は隠せていないが別に問題ないだろう。



 

 早速本題のユーリ探しをすることにした。


 仮面をつけていると人に尋ねづらいので、まだやめておく。



 屋台の売り子、店の勧誘、それとも何かモノ作り才能とかあるのだろうか。


 

 王都手前の街だけあって広く、職種も多そうだった。



 マスクのことよりも、ここからが長かった。



 カランカラン


 もうこの音も何度目だろうか。


 扉に設置された鈴の音を聞きながら、もう数十件目の飲食店内を見回して、ユーリがいないのを確認するやいなやため息が出る。



 街中の飲食店や工房を見て回ったけれど見つからない。


 「軽装していたってことは、別に作業着とかあるかもな」


 「警備隊とかどう? 盗賊のこととか詳しそうだぜ」


 「それあるな」


 ユーリが盗賊業から改心しているかもしれない。



 今度は駐屯所を目指してみる。

 

 「はあ? そんなやつ知らねーよ」


 警備隊は身なりはしっかりしているにも関わらず、口はこの街の雰囲気通り荒い。


 さすがに警備隊は忙しそうだから、ユーリがやりたいとは思わないだろうな。

 


 結局見つからず、行く宛がないので宿へ戻ることにする。



 通りは人で溢れ、売る人も買う人もただおしゃべりしているだけの人も皆楽しそうだ。


 ふと、武器屋が目に入った。



 武器屋というものはどこの街でもある程度の人は必ず寄る。


 武器を買いたい人。

 武器の手入れを依頼したい人。

 持ってきた素材を武器に変えてもらう人。


 武器屋と鍛冶屋は認識上同じである。


 それゆえに人網も多く、何かユーリについても知っているかもしれない。



 やや疲れ始めている俺たちは淡い期待を抱きながらも、そんな軽い気持ちだった。


 

 「おっちゃん。ユーリって子、知らない?」


 どこの店でも武器は筋骨隆々のおっちゃんと相場が決まっているのだろうか。


 「!!。ユーリって、あの兄貴に捨てられたユーリか?」


 「えっ!! おっちゃん、それ知ってんの?」


 「何言ってんだよ、お二人さん。この街じゃ有名な話だぜ。まあ、みんな気を遣ってユーリのことを知らないふりはしてるけどよ」


 俺たちはユーリが案外有名だったことに驚く。


 「おっちゃん。他にどんな噂があるの?」


 「ええっとだなあ。盗賊やめたあと飲食店で仕事をするも、客に冷たい態度で接し、店の評価を下げる。大人数で来た客には何かしらの注文を取り違え、……………えーと、例えば一人だけ注文してない料理に変更されたり、同じ料理なのに量が違ったりと、客の間に気まずいに空気を漂わせ、店の評価を下げる。それでクビだ」



 あれっ、なんかユーリ面白いじゃん。


 武器屋のおじさんは腕を組み、目を瞑って思い出すように、時々頷きながら語る。


 「それで次は縫製工房に入るも手先が器用すぎるのか、普通の人に不必要な細かな構造の変わった服を作ったり、丁寧で細部までしっかり作っているにも関わらず、作業効率が悪くそこまで値段と売れ行きが釣り合わない服を作ったりと。職人いわくユーリには才能があるらしんだけどな。だから普通のを作れって言っても、それだと面白くないとか言って、今度はユーリが自分から辞めたらしい」



 「やべーー。けっこう頭のおかしいやつじゃん」


 ライアンのその発言を直にユーリに聞かれていたら、すげー怒っただろうなと、想像できる。


 「今はどこにいるかは知らないか?」



 「それからも色々と転職を繰り返し、今はギルドの受付とか冒険者たちの助っ人をやってたと思うぞ。ということはお前たちは冒険者じゃないんだな」



 「そうだ。旅人だぜ」


 「ありがとねー。おっちゃん」


 ライアン、旅人なんて職業はないと思うぞ。



 

 ユーリの居場所はわかったが、勝手に誘拐して冒険者たちから恨まれたりしないよな?

 

 「じゃあ、さっそくギルドに乗り込もーぜ」


 「乗り込む言うな、人聞き悪い」


 俺たちとは関わりの薄いギルドへ向かうことにした。



 

 これだけ大きな街であり、色々と事情を抱えているのだろう。

 ギルド周辺は冒険者たちがとてもたくさんたむろっていた。



 仮面とスカーフを装着してギルド中へ入る。


 掲示板には依頼内容の書かれた紙。


 その奥にはクエストの受付嬢。



 ユーリはというと………、すぐに見つかった。

 ギルドの隅の方で助っ人を雇ってくれる冒険者を探しているようだ。



 そういう冒険者はたいていダンジョンに行く。


 詳しいことはよく分からないが、換金率の高いアイテムとかを手に入れるためだ。



 今日はまだ、ユーリには冒険者が見つかっていないようなので、俺たちから少し声を変えて話しかけてみる。



 「お嬢さんが、助っ人をやっている子でいいんだーよね」


 「はいっ、そうです。今日はどんな依頼内容で?」


 「ダンジョンに潜りてーから助っ人としてだぜ、だ」


 「今、準備しますね。手に入れた報酬についてはこちらでよろしいでしょうか」


 ユーリは自分で書いたのであろう、手書きの貼り紙を指差す。


 見ると得た報酬の二割を代金とするらしい。


 「かまわないーだよ」

 

 交渉は思い他すんなりと行き、早速俺たちはダンジョンに向かって歩き出す。



 俺たちは昨日もユーリと会っていたから分かるが、なぜかユーリの足取りが軽快だった。


 もうあと少しでもすればスキップでもしそうなくらい。


 「お嬢さん。何かあったーのかな?」


 俺は不思議に思って訊く。



 ユーリは驚いたような表情を見せ、すぐに普通の歩き方に戻そうとする。


 「こんなこと。今日あったばっかりの人に言うのも何ですけど、昨日から私の家に同居人が増えたんです。今までは早くこんな街から出て行きたいと思って…………、一発入れたい人もいるんですけど、誰か心の通うような人たちといたいなって思ってたんです。まあ、そうじゃなくても一緒に同居してくれる人ができただけでも嬉しいので。まだ多分こんな気持ちに慣れてないんだと思いますよ」


 「それはよかっただなー」


 若干ライアンのその発言は棒読みぽかった。



 ひとまずルカと待ち合わせいていた門を目指す。 


 しかし、そうも簡単ではないようだった。


 「ちょっとすみませんが、ダンジョンはこっちの方向ではないのでは?」


 流石にこの街に住み慣れているユーリからしたら、不思議に思うのも当然だ。


 くそ、ダンジョンがどこにあるのか知らずに適当に待ち合われ場所に向かって歩いていたのが稚拙だったか。



 「いや、ちょっと寄りたいところがあったんだぜだ」


 ライアンの喋り方が非常におかしい。



 「どこにですか?」


 「えっと……、薬草刈りだーな」


 「そうそう、回復アイテムは自分たちで調達する派だぜだ」


 さすがに覆面二人組を怪しく思ったのか、ユーリは少し距離を開けてついてくる。

 


 すまんルカ。


 多分門で止まっていると怪しまられるから、王都の方へすこし先に向かっておくことにする。

 


 そう思いつつ、門を抜け森の中へ入る。


 今ユーリと少し距離が離れている分、ユーリに気づかれないように空に信号弾を打つのは、容易かった。


 ここからはルカと、合流できるまで時間を稼がないといけない。

 「報酬三割でいいから、ちょっとおしゃべりしてくれなーーいかい?」


 「まあ、別にいいですけど……」


 ユーリは俺たちを怪しみつつも、まだ一金も手に入れていないからか逃げることはしていない。


 「ぶっちゃけ、助っ人って儲かるの?」


 「うわーー、この人いきなり金の話かよ。……まあ、そこそこですよ」



 「でも、冒険者のほうが報酬が……」


 「そんなの分かってますよ!!!」


 ユーリのいきなりの大声に、俺は心のなかで驚く。


 「でも、一人だと何かあったとき危険だし…………、一緒に組みたい人と思うような人は………………あっ、彼らは違う違う。……………ごめんなさい、独り言です忘れてください。一緒に組みたいと思える人はいませんので!!」


 そう言って下を向きながら、ユーリは薬草を抜く。


 明らかにユーリが手に持つ薬草の数が俺たちよりも多い。


 俺も数を稼ぐため、種類は分からないが適宜適当なものも抜いておく。


 「それに今の助っ人としての暮らしも悪くないんじゃないかって思うんですよね。人ともそこそこの関係の付き合いで私はいいんですよ。行きたかったところもありますけど、ちゃんと住む場所もあって、いつもと何一つ変わらない日常がある。それ以上は望んではいけないと」



 でも、スートラでのジジィの焦り具合からして、俺たちのスートラでの日常が壊されるということすらある。


 だからユーリのもいつ壊れるか分からない、と俺はふと思った。



 「戦う技はどこで習ったんだぜ?」


 今度はライアンが質問をする。



 一瞬、はっ、という顔をしたがすぐにユーリは答える。



 「自然にですよ。昔、思い出したくないようなやつと付き添っていたら自然に。別に戦う技を覚えようとしていなかったんですけどね」


 「でも、戦う技を持っているってカッコイイことだと思うぞ」



 「そちらさんは仮面被っているだけで、すごーく陰気臭いですけどね」

 


 タッ、タッ、タッタッタ。



 だんだん足音が近づいてくる。


 「敵か」


 俺たちは武器を構える。



 突如俺たちの前にルカが現れた。



 「あれっ、ルカさん」


 ユーリの驚いた声。


 「二人とも何でこんなところに来てるのよ」



 「えっ?」

 

 ユーリの困惑した声。


 急にユーリの素っ気なさが消え始める。



 俺は仮面をこの瞬間に外さないかを迷ったが、誤解を招くといけないので外すことにした。



 「ユーリ、俺たちと一緒に王都へ行こう」


 俺はユーリに向かって言った。



 「えっーーー!! フィリーさんたち??!!!」



 「お前の宿部屋、契約解除してきたから」



 ーー、もちろん嘘だけど。



 「えっ、じゃあ私の所有物は?」


 「それは大丈夫。私がちゃーんと持ってきたから」



 「フィリーさんたち、お金がないのに王都へ入れるんですか?」



 「そこんとこは心配するな!!」


 まだユーリは困惑しているが、だんだんと状況がわかってきたようだった。


 「私、外のことあんまり知らないから、やばくなったらこの街に戻りたくなるかもしれないよ」



 「俺が、そうはさせないから」


 ライアンが笑う。


 多分これでいいのだ。

 だって、こいつはこの街から出たいと言っていたし、一緒にいる仲間が欲しいとも言っていた。


 「これで約束通り。俺たちはお前の前からいなくなったりしないだろ。一緒に旅するんだし」



 突如、ユーリはうつむき、片手を目のところへ持っていった。


 肩が小刻みに震えている。


 「本当にいいの?」


 

 俺たちは急にどうしたのかと焦ったが、泣くのをこらえているようだった。


 「私の兄にへの事情があるのに…………?」


 「あの街に縛られなくていいんだぜ。俺たちも協力してユーリの兄さん探しを手伝ってやる。ていうか、けっこう街の人ユーリのいろんな事情知ってたし」



 「ーーーー」


 何も応答はない。


 しかし、様子に見ただけで十分だった。



 ルカがユーリの背中をさすって落ち着くまで待つ。



 

 しばらくしてユーリは顔を上げた。


 赤く、腫れぼったい目が俺たち三人を見る。



 「…………世間知らずで、………元盗賊でありました、ユーリ・エルです。今まで本当にありがとうございました。それからもどうかよろしくおね……」



 そう言って頭を下げようとする前に、俺はユーリの顔の前に手を突き出してそれを制す。



 「敬語なんていいよ。俺はフィルセ・アーカイム」


 「んで、俺がライアン・コークハイ」


 「私は知っての通り、ルカね」


 ユーリの顔から不安が消え始める。


 「よろしくです!!!」


 そう言って、会ってから一番の笑顔で笑っていた。



 

 「ていうか、あなた、ライアンって言うんですね……。ナイアンだと思っていました」



 「はっ、誰も俺のことそんなふうに呼んでね~し」


 「いや確か前、ルカが呼んでた」


 俺はそのことをしかと覚えたいるぞ。

 面白かったからね。



 「えっ、マジで?」


 「ごめん、身に覚えがない!!」


 なんだ無意識だったのか、それならナイアンに似ていたライアンが悪い。


 「よっと、ユーリの部屋にあったものだいたい持ってきたから、ほらこれ。使い込んでいる武器でしょ?」 



 そういってルカがユーリに短剣を手渡す。


 「おいお前、なんでさっき持ってないんだよ」


 助っ人としてのこいつは、剣を腰に下げている。


 「違います〜。これは盗賊時代の愛武器ですよ。まあ、これのほうが使い慣れてるんですけど」


 「こいつ、アホだな」


 「あなたに言われたくありませんよ。ナイアン」


 俺たちの誘拐が和やかに済んでよかった、と俺は思った。



 

 あと二、三時間もすれば、王都入りを果たしているだろう。


 王都周辺は強めの魔獣もいないらしいので、この和やかな感じのままで行けそうだ。



 一人仲間が増えたことで、こんなにも自分の中の気持ちが変わるなんてな。


 ユーリは何か持っているのかな。



 昨日と違ってとても打ち解けた感じになっていた。


 笑顔が素敵だ。



 ユーリが加わったことで、多分王都での目的を果たしたあとも俺たちは何かしらの旅をするのだろうな。



 まあ、これからのことはもう少し先になってから考えるとするか。

 

 



 余談


 フィルセとライアンがユーリを探しに行ったあと。


 私はユーリの部屋を徹底的に物色ーーーー、ではなく彼女の旅たちへの準備をしていた。


 隠し棚。

 二重の引き出し。


 よく物がいろんなとこに隠してあるこの部屋の中で、盗賊たちが金目のものを見つけられたなあと、私は不覚にも感心してしまう。


 お兄さんが使っていたと言っていた部屋も一応一通り見ておいたが、ほとんどモノがおいていなかった。



 あらかたユーリが以前に整理して処分したのだろう。



 それに比べて、ユーリ自身の部屋は思考を凝らしすぎだ。


 女の私でも、ここまで部屋を自分の空間に変えられる自信はない。


 

 そもそも、私に女友達がいないというせいでもある。



 大体のユーリのものを自分のバックパックにいれた。

 しかしまだ何かあるのではないかと、私は落ち着かなく、探さざるを得ない。



 ふと思いたち寝台を動かしてみると、床に小さな扉を見つけた。


 フィルセたちには、私は大丈夫だと自信有りげに言ったのだが、ここまでこの部屋が厄介だとは思っても見なかった。



 ここにも何かあるのか、と開けて手を伸ばしてみるがその前にホコリが手に触れた。


 それでも気にせずそのまま伸ばし続ける。

 

 と、別の何かが手に触れた。



 取り出してみると、一枚の写真だった。


 幼い頃のユーリと、お兄さんと思われる人物が一緒にこちらに微笑みかけている。


 多少は色落ちしているものの、ユーリの大切なものだと分かる。

 私は心の中がほっこりした気がした。



 しかもこのホコリの量からして、本人もこの写真の存在を忘れているんじゃないかな。


 そう思うとなぜかよけいに笑みがこぼれてしまう。



 

 ユーリとお兄さんが再び顔を合わせたときに渡そうかな。


 そう思った私は今までのユーリのものとは別の場所である、私自身の服の内ポケットに入れておいた。



 フィルセたちは多分確実にユーリを探しはしてくれるだろうけど、ユーリを安心させるためにも、同じ女子である私が早くその場に行かないとユーリを怖がらせてしまうかもしれない。


 男子なんて、少し大げさに行動するに決まってる。


 長い間彼らと一緒にいる私は大丈夫だが、ユーリは兄と離れた後以降、男子との関わりが薄かったように私には思える。



 少ししゃくなところもあるが、私もユーリとこれから一緒に旅をしたいと思っているのは事実だ。



 ルカは最後にもう一通りユーリの部屋を見渡して見落としがないことを確認すると、集合場所である街の門へと急いで向かった。

 

 

 

仲間が増える話を書いていて楽しかったです。

仮面をつけるかっこよさ、ってガンダムから来てるのでしょうか? 例の赤い彗星ですよ。そうキャスバル・レイ・ダイクン (マニアックな話をしてすみません…………)

早く二章へ行きたいところなのですが、まだ一章は終わりません…………


次回予告 「ウルス」

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