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オン・ワンズ・ワァンダー・トリップ!!  作者: 羽田 智鷹
一章 井の中の使徒
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第一章 二十話 決断×結団


 「本当に俺たちのものを盗んだのか見せてくれないか? そうじゃないと信用できないぞ」



 「ーーーーーーーー。」


 しばしばの沈黙。


 

 「ーーーー、リグ頼む」


 「爾、その形状を示せ」


 いきなりの命令口調に、一瞬、その召喚士が誰に向かって声を発したのか分からなかったが、すぐに俺たちへのものだと気づいた。


 「筒型の入れ物だが金、銀の装飾品がある。それとお前らがユーリから盗んだものも見せてほしい」



 「了解、『具現表象インタールシム』」



 今度もまた魔法陣が現れ、『親書』とユーリの持ち物(持ち金)であろう袋が現れた。


 親書の入った入れ物は、ユーリの袋なんぞ取るに足らないほどの豪華さだった。



 「お前、今度は長ったらしい呪文、言わないんだな?」



 ライアンが不思議に思っている。



 「ああ、対象が持ち主の許可を受けた無機物の場合は理屈が違う」


 親切にもその召喚士は応えてくれる。



 「ふ〜ん。さっぱりわかんねえな」


 相変わらずである。


 

 「あれ、私の部屋においてあった大切なものたちですよ!!!」


 盗賊サイドで戦いを見守っていたユーリも口を開く。



 「ーーーーー。で、どうするつもりだ?」

 

 長身の彼は俺の真意を伺うかのように、上から俺を見下ろす。



 戦いを終えるためにはこれが一番手っ取り早いだろうとわかってはいたが、このような決断をまた勝手に一人で決めてしまうことに、悪気を感じてしまう。


 でも、俺はこれ以外の解決方法を思い浮かばない。


 人生金が全てではない。

 

 金というものはその時々で価値が変わると俺は思う。


 時間だって、買おうと思えば金で買える。


 例えば、移動に龍車を使うとか……………。



 今は金の使いどきだ。



 人生後悔はつきもの。

 どっちを選択したって結局いつかは後悔するんだから、まあ、気楽にいこうや。


 

 「俺がそれを全部買い取る!!!!!」

 

 

 「「ふぇ……?」」




 「ええーーーーーーー!!!!」



 盗賊たちよりも先に、こちら側の二人が言葉に言い表せないような声を出した。


 中でもいち早く意味を理解したのは、ルカ。


 「マジで言ってる? あの時のお金をここで使うってこと?」


 「そう」


 ルカのまじの呆れ顔。


 「…………。しょうがないな、うん。私はフィリーの決断に私は乗るよ」

 


 「ジュノー。これは凄いよ。こんな奴らがこんなに持ってるなんて…………。人生捨てたもんじゃないね」 


 「……………………」


 「ーーーーー。どれだけの金があるんだ?」




 自分たちの若干の、保険のための資金をカバンの中に移しておく。


 それでも、袋いっぱいに入った金貨を俺は盗賊たちに見せる。



 「えっ、そんなに…………。でも…………、それだと、フィリーさんたちが王都へ行けないんじゃあ……」



 ユーリは驚き、しかしすぐにうつむいて声をすぼめる。



 「そもそも、依頼を投げ出して王都へ行っても後味悪いし……」


 立場上、俺の意識の中で同盟から依頼に自然と変わっていた。

 


 「ーーーー。俺達がこいつから盗る金と額が違う。お前たちがマイナスになるはずだが……、変わったやつだな。了解した、条件を飲む」



 うまく行けばそこまで赤字にならない計画がまだ、俺の中にあるっちゃあ、ある。



 「ありがとさん。そこ二つと交換だからな」


 「ーーーーー。分かっている。こんな交渉をなかったことにはしない」



 ジュノーと呼ばれた棟梁が先程召喚術を使ったリグという男に目を向ける。



 「『精彩移動エクスポート』」


 俺が手に持っていた金貨の袋、とリグが呼び出した俺たちとユーリから盗ったものが光に包まれる。


 そして次の瞬間、それらのものが入れ替わっていた。



 それを見届けたジュノーがユーリの縄を解いて解放する。



 「案外、あっさりと提案に乗ってくれたな」


 そうじゃなかったら、俺たちはこの盗賊たちに勝てる勝算なんてなかったからな。


 「ーー。ああ、お前の暴牛士ミノタウロスとの戦いを見て、全くこ尊敬ではないが、少し見直した」



 ツンデレ感ゼロの落ち着いた低音ボイス。



 ユーリは解かれるとすぐさま、俺の後ろにいるライアンたちの元へかけて行った。



 「あれでも、召喚したミ暴牛士ミノタウロス、俺達の目からしても強い方だったと思うんだよねえ〜。俺達はあんなやつとは戦ったことないけど」



 カッターシャツ、もとよりカバリが言う。


 

 俺は最後に盗賊たちに言いたいことがあった。



 奴らも撤収モードらしく、俺たちに背を向けて去り始めている。



 一見無防備に見えるが死角なんてなく、こちらが攻撃しても、すぐに対処できるのだろう。



 このつもりは毛頭ないが、もし……と考えてみた。



 背を向けている彼らに俺は、………………ライアンたちには多分聞こえていないが、しかしはっきりときっぱりと言い放った。



 「もう、お前らにユーリに巻き込まないからな!!」



 

 「てめえ、喧嘩売っとんのか、今からでも全然……」


 ジュノーが振り返って、リグの前に一歩出ようとするが、背を向けたままの棟梁に腕で行く手を塞がれて、制止をされられる。


 「ーーーーー。ああ、そうか」


 表情は見えなかったが、どうやら、ジュノーには俺の言いたいことが伝わったようだった。

 

 

 「それにしても、あの時の……ゴブリンのときの、初報酬の大方をここで使っちまうとはなあ、。夢にも思わなかったぜ」


 ホントっライアンすまん。



 「まあ、何、その分このユーリちゃんから、ガッポリ貰う気でしょ、フィリーはガッポリと……」



 「いやいや、そんなことはしないよ。けど……そうだな、今日泊まる宿でも紹介してくれないかな」


 「そんなん、俺たちで見つけられるだろ??」


 ライアンが不思議がっている。


 「いやいや、ユーリみたいに俺たちも強盗が宿に入ってくるかもしれんぞ。ユーリはもうこれで懲りて、安全な宿屋でも知ってるだろ」


 「フィリー。お前、こいつのこと何も知らねーのに、信頼しすぎじゃね? 盗賊の奴らも言ってたけど、俺たち今のところ損しかしてねーぞ」


 ライアンがユーリがこの場にいるにも関わらず、責めるようなことを言う。


 ほんとに、素直に口から言葉が出すぎ。



 しかし、ユーリは俺たち三人の会話にも全く入って来ないらしく、終始顔を下に向けていた。


 その表情は沈んでいて、どこかまだ悩みがあるのか、難しい顔をしていた。



 「ユーリ?」


 俺が呼びかける。


 ユーリははっとして、顔を上げた。



 「本当に…………、ありがとうございました!!! 私のためにお金まで使ってくれるなんて…………。私これから何をしたら、これの恩を返せるのですか? …………、ていうか、もしかしてこれから私に何かをさせようとし……」


 気持ちよりも口が先を走るのか、ユーリの口からは封が切れたように、どんどん言葉が溢れ出る。


 「そんな、大げさな。あと、その言い方だと、俺が君自身に対して、お金を使ったみたいだけど、君の「モノ」と俺たちが盗まれた「モノ」を取り返すために使っただけだから、勘違いしないでね?」


 俺はユーリの形にならない気持ちを、言葉で制するかのように言う。



 ユーリは口をつぐんだ。

 その目にうっすらと涙を浮かべて。


 

 俺たちは貧民街から少し離れた中心街へ向かって、歩いているが、俺はまだ暴牛士ミノタウロスにふっとばされた傷がまだ痛む。


 「ありがとうございます。……えっと…………、宿でしたら、私の部屋とその隣の、兄にの部屋を借りているので、そこまで案内しますね」


 宿の問題はすぐに解決した。

 しかも、金はいらないらしい。



 今日も疲れた。


 どうやら、王都行きは明日になりそうだが、まだそこまでの気分の昂りはなかった。


 

 彼女と初めてあったあの宿屋に戻るまでまだ距離があるな、と思い始めていた頃には、すでに日が沈みかけていた。



 「あの、宿に行く前に夕食食べに行きませんか? 私のお金でいいんで、食べにいきましょう」 


 断る理由はなかった。


 ユーリも俺たちも貴重品を肌見放さず持って、移動する。



 道の両脇に所狭しと立ち並ぶ、宿屋や店に明かりがつき始める。

 道幅が狭いところほど、建物が反り返って高く感じるが、逆に裏ルート気分がある。


 「ユーリちゃんは、お兄ちゃんがいたんだね」


 ルカがそこに興味をもつ。


 「ホントはフィリーさんたちに言いたくなかったんですが、知られたからにはしょうがないです……。」


 しょうがないから、俺たちに南下するのか?


 ……じゃなくて、俺たちに口封じ的な何かするのかな?



 「でも、人生切り替えというものが大事です。そうです!! フィリーさんたちもお金がないなら、私と一緒に働きましょう!! 実はクソ兄にに会うために私はお金をためているです。前にフィリーさんが、私は王都に行こうとしていないのかと、聞きましたね? あの時の私の答えは嘘です。フィリーさん達と同じで王都目指してるんですよ? 割りと本気で」


 王都の通行料よりも明日の生活の金がない、と困っていたから助けたのに。



 「はっ、やだし。俺たちは働きなくな……」


 バチーーン!!


 俺が速攻でライアンを叩いた。



 すまん、ライアン。

 俺も本望じゃないんだ。


 「この際だから……あっ、やっぱりやめよ。えっと……ライアン。そういうことは三人でしっかり話し合ってから決めようぜ」


 ついでにルカに目配せをする。


 ルカは困惑しながらも頷いた。


 「そうだよ、ライアン。ゆっくり……考えよ?」


 「あーわかったよ。 ……………なんか意味分かんねぇし」


 独り言モードになったようだ。


 ーーすまん、ここでこれからの計画を伝えるとお前がうっかり喋っちゃいそうだからまだやめとくよ。


 ルカはなんとなく、それに気づいてくれたようだった。



 

 そうこうするうちに、ユーリおすすめのお店に行き着いた。


 大通りからは外れているものの、そこまで店内は狭くなく、明るい。



 「この街は、いろんな人たちが訪れてくるから、料理もいろんなものがあるんですよ。せっかくなので、好きなもの頼んでいいですよ。私が全部お金は出しますので」



 「あ、じゃあユーリのおすすめ料理頼んでくれ」


 

 なんだかよく分からない生物の唐揚げ、なんの肉だか分からないハンバーグ、キャベツとレタスの間のような野菜の和物、豆と果物のハーフハーフのようなデザート、などなど……。


 しかし、実に絶品だった。



 「案外、私たちの知らない料理がたくさんあるもんなんだね。なんか勉強になる〜」


 ルカが目を輝かせながら言っている。


 「あっ、そうだ。これからは、ずっとあの宿部屋に住みなよ〜。兄にの部屋だからって、余分に代金払ってるのに、誰も使ってないんじゃあ、もったいないしね。どうせ兄になんていつ帰ってくるのかわかんないんだし。、ね〜、ね〜、それがいいじゃん。フィリー、いいでしょーー。名案、めいあんーー」



 こいつ、まだ未成年なのに酒が入っているようだ。

 一応この国にも法律というものはある。


 「ルカさんには、私とシェアルームして〜〜。隣にはフィリーたち。なんだか、明日からが楽しみだなあ〜」


 「ああ、俺たちも楽しみだよ」

 

 俺たちも乗っておく。


 「嘘ついたら恨むからね〜〜。そうやって私に好意を見せておいて、ある時さっといなくなる。私がこんな気持ちになったのは、久しぶりなんだよーー。私の前からいなくなるなんてこと、このわたしが……、させないからねぇ〜〜〜」


 「酒入ってるなあー」


 そのやや脅迫じみた言葉に、少しビクッときたが、なんとか繕う。



 こいつはどうやら、寂しかったようだ。

 まあ、兄が勝手にどっか行ったって言うし、一人で生計立ててきたみたいだし、しょうがないことだと思う。


 

 俺たちも未成年だが、…………、前夜祭と称して、旅の任務完遂目前を祝い少しだけ、うん、ほんの少しだけお酒をしたためることにした。

 

 





 次の日の朝、ユーリの部屋にて。


 小声の秘密会議。


 「さあ、フィリー。今から何やるんだ?」


 俺たちがユーリの部屋を訪れるとルカ一人だった。


 「ユーリなら午前中は、仕事があるって言って出かけてったよ。昼には帰ってくるって言っていたけど……」


 「じゃあ、ユーリを誘拐しよう!!」


 俺がきっぱりと言い放つ。


 「おおーーー」 「えっ??」


 こいつらは意外と酒に強いらしい。

 

 しかし俺はそうでもなかった。


 急なこいつらの驚きの大声に少し頭がガンガンする。


 作戦の妨げにはならない程度であったが……。


 「ユーリはさ、なんか自分を押し殺してるって感じがするんだよね。なんか可哀想っているか」


 「フィリーは、優しいもんね」


 ルカが俺の目を、何かうっとりとした瞳で見つめてくる。


 ルカは賛成したということでいいのかな?



 「で、誘拐したら、どうするだ?」


 「ひとまず一緒に王都へ連れて行く。こいつがあれば、あいつも金がなくても王都へ入れるっぽいから」


 俺は取り返したあれを見せる。



 「おおー、じゃああいつは俺たちの仲間になるのか?」


 「多分ね。……だって、今日の夜のあの立ち直り方、あれは結構重症だよ。早く誰かがユーリに手を伸ばしたほうがいいって思ったし」



 「確かに〜〜!!!」


 「それで誘拐するってわけか」


 「そうだよ」



 一呼吸おく。


 そして、作戦内容を打ち明けた。



 「ユーリは今、どこらへんにいるか分かる?」


 「さあ……でも、服装は軽装だったし、そんな嫌そうな雰囲気でもなかったかな」


 「まあ、じゃあ、俺たち二人で誘拐してくるから、ルカはユーリが必要になりそうなものをこの部屋から持ち出してくれ。武器とか、服とか、大事そうにしているものとか……、あ、あと金とか金ね」


 俺たち男子が勝手に、ユーリの部屋を探るのは申し訳ない。


 「そこは了解。でも案外、この部屋に隠し扉とか、小物入れとかあるって、昨日ユーリが言っていたから、結構時間かかるかもよ」



 「まあ、ゆっくりでもいいよ。俺たちもまずユーリを探さないといけないしね。えっと、じゃあ集合場所の王都行きの門の前で!!!!」


 「じゃあな、ルカ。……あっ、フィリー。まず、衣服が売ってるところ行こうぜ。せっかく悪っぽいことするならさ。顔に仮面とかつけよーぜ。この街の人の口元を隠すマスクもカッコイイけどさ、やっぱり俺たちはフェイス全体を隠さないと!!」


 それはすごく男子心をくすぐる提案だ。


 「いいな、それっ。乗った」


 「じゃあ二人とも、また後でね。しくじるなら、そっち側の問題しかないからね」

 

 ルカが自身有りげだった。



 「これであいつはもう、俺たちについてくるしかない状況になるってわけか」


 ライアンがとても悪そうな笑みを浮かべていた。



 大丈夫。


 俺たちは何も悪いことをしようとはしていないからな。




 俺はふと、自分の首に手を当ててみた。

 かかっているはずの、カノンさんにもらったペンダントが消えていた。


 カノンさんも、ものを壊したりなくしたりすることがよくある人だから、別に怒られたりはしないかな、と俺は心の中で割り切っている。


 ただカノンさんが特別なものと言っていたので、なくしてしまったことには少し、残念な気持ちがある。


 

 真っ白な雲がゆったりと流れる快晴の空のもと、日差しの照り注ぐ人通りの多い商店街へと俺とライアンは踏み出した。




やっと二十話到達です。

第一章も残すところあと四話でありまする。


さて、フィルセたちの作戦はうまく行くのやら


次回予告 「いまひとたびの」

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