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オン・ワンズ・ワァンダー・トリップ!!  作者: 羽田 智鷹
一章 井の中の使徒
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第一章 十五話 真実・接近


 町を出ると再び広い草原が広がっていた。


 比較的ここらへんは降水量が多いためか、植物が辺り一面、生い茂っている。


 

 「それで、フィリー。くしゃみとか騒音の原因ってなんだったの?」


 ライアンが、興味津々と言った感じで聞いてくる。



 そうだな。


 一呼吸おいて、分かったことを話し始める。


 自分で言うのもあれだが、少し自信ありげに……。



 「メターバードとハイデバードは、何かしらの関わりがあった。ハイデバードの人たち自身にはあんまり実感がないみたいだけど、やっぱり一ヶ月前とは違う行動を取っているのは確かだったからね。では、まずはくしゃみから。えっと…………原因は端的に、稲の花粉だ」


 「なんだそれ??」


 俺はライアンの驚きを期待したのだが、こいつは花粉を知らないようだった。



 「もうライアン。花びらの中に入っている粉だって」


 ルカが説明する。


 「へえー、その粉が風に乗って、空気に混じっているってことか。納得」


 勝手に納得するな。

 まだ、終わっていない。



 「でも稲って昔から栽培されてるんじゃないのか?」


 よかった。


 ルカがそんなに甘い女の子じゃなくて。



 「多分理由としては、収穫量が上がったことと、風が吹き荒れる前に収穫することだ。収穫するときって、大量の花粉が飛び散るはずだろ? でも町の人はほとんど、くしゃみをしていない。…………なぜなら、雨の前の突風が花粉を別のところへ飛ばしているからだ」


 「それがメターバードの町にってことね?」


 「そう。それに収穫量が上がったことで、花粉の量も増えた。だからメターバードの町の人たちが急に敏感になったんじゃないかな」


 「でも、メターバードもハイデバードも稲による恩恵はしっかり授かっているのよねー。稲にそんな害があるなんて……」


 俺たちはそこまで稲について知っているわけではないが。


 利害の釣り合い。


 ルカは、俺と同じことを考えているのかもしれない。


 

 「それと、騒音のことだけど、多分これも気候が関係している」


 「ほえーー」


 ーー、ほえーーとした顔だなあ、とは思っていたが、自分で効果音つけないでもいいぞ、ライアン。


 「ハイデバードのあの音はボーンに間違いない」


  「「えっ!!」」


 ここでやっと、二人の驚いた表情。



 「理由は、鳴らしている本人は五月蝿くないから?」


 「そう。ルカ、ボーンの少年は、いつあの音を鳴らすって言ってたっけ?」


 「ええっと、朝と夕方、それに祭りのときと天候が悪くなる前……だっけ?」


 「そう。ハイデバードの彼は、しっかり鳴らす時間が決まっていると言った。しかし、メターバードの領主は、不定期だ、とか言っていた。ここに意見の食い違いがあるから変だなって思ったんだー」

  


 「すげーーー!!」


 ライアンよ、ここで感心されては困る。


 「ボーンの少年はこうも言っていた。『天候は、一日前に分かり、わかったときと、悪くなる直前の合わせて二回知らせる』って。で、天候が悪くないときと悪いときに何か違いがあるんじゃないのかなって」



 「それって、雨の前には、音が聞こえやすいっていうやつ?」


 ルカは察しが早い。


 「そうそう、それだ。俺が小さいときだけど、スートラの森にいた時にその性質に気づいて、本当にそうなるのかなってカノンさんに聞いたことがあったんだ。カノンさんが言ったことをまとめると 『上空と地上の温度差が小さいときに音は空気中を伝わりやすい。詳しく言うと、音の屈折だよ。でも、フィーちゃん向けに簡単に言うとね、…………夜中のような気温が低いときとか湿度が高いときにそうなる』 らしい」



 ーーそういえば、面白いことに気温が高いほうが、音の伝達速度が早いらしい。遠くに飛ぶのは気温が低いときなのにーー

 っても言っていた気がする。


 (実際はもっとのんびり口調で、使っていた言葉も違っていた気がしたが、真似ができないし、時間短縮のため、引用)



 しかし、その時の言葉が強引にも少し俺の頭をよぎった。


 『えっ? フィーちゃんそのことに、よくきがついたね〜ーー。フィーちゃんはくがく〜ーー♡。フィーちゃんおおきくなったら、わたしのでしになりなよ~ーー。じゃあ、よく聞いてね~ーー。ええっと、おとのきこえかたっていうのはねえ〜ーー、…………」


 駄目だ。今この状況に集中しよう。


 カノンさんは何かにつけて、俺に優しくしてくれた。

 その頃の俺は少し、お姉さんみたいな人だと思っていた。


 だが、俺はもう誰かにただ頼るような年ではないのだぞ。



 あの時のカノンさんは、俺が幼いながらも、分かりやすいように教えてくれた。



 ありがとう、カノンさん。


 あの時聞いたことが今、役に立っていますよ?

 



 「だから多分、メターバードの町に騒音が聞こえたのは、雨が降る直前のやつとかなんじゃないのかなって」


 「その音が山の中でこだましてデッカくなるっていうのもありそうじゃね?」


 ライアンも分かったようだ。



 「多分それもある」


 「やっぱり、あの音の音源はボーンだったんだね」


 ルカがうんうん、と頷きながら言う。


 


 「で、結局悪い人は誰なんだ?」


 やっぱりそこ気になるよな、ライアン。


 「それがよく分からん。強いて言うなら、あの水晶を持ってきた人? が元凶だけど…………。それのせいでハイデバードの生活が変わったわけなんだよな」


 「でも、あの水晶、貰い物なんでしょ? その人は好意があって持ってきたのかもしれないよ。だってそのおかげで、ハイデバードは収穫量が上がったわけだから」



 「そうかもしれないけど、渡した人がいい人だったかも分からないぞ。何よりあの水晶の構造を町の誰も知らない。ボーンの少年だって。観察して、なんとなくの使い方が分かった、って言っていたし……」



 「そうだね。私はあのミストさんが渡したとも思えないし……。やっぱり一ヶ月前の出来事なら、もうその人を見つけれない可能性のほうが高いと思うな」


 俺もルカに、同意だ。



 「うんうん、あんな普通じゃない物。なんか祀ってあったけど、俺もあれが道端で落ちている、とはそうそう思わないぞ」

 


 「うんだから……結局犯人が分からないから、問題を解決できなかった」



 俺の宣言に、ルカとライアンはポカーンとしていた。



 こっから、説教タイム突入なのかな。


 二人とも事件解決に粋がってたわけだから…………。



 まあ、俺の独断でこの問題を解決しなかったことになってしまったし…………。



 しかし、予想を反して彼らの顔色は悪い方には変わらなかった。



 「うんまあ、しょうがないよね。それよりも、くしゃみとか騒音の謎が解けただけでもすごいよ。私なんか全然分かんなかったし」


 「そうだぜ。こんなんで落ち込むなよ。なんなら今日の野宿で俺が添い寝してやろうか?」


 二人が慰めてくれるのは嬉しいのだが…………。



 ーーすみません。俺は落ち込んではいないし、添い寝とか辞めてほしい。

 意外とライアンは静かに寝ているとは、昨日分かったが……。



 「でも、水晶送った人が分かれば、まだなんとかなるかもよ? だから、諦めないで一応、保留って言うことにしておこうよ」


 なんか、ルカって優しいなあ。

 小さい頃からいろんなルカを見てきたけど、まだ見ぬルカがたくさんありそうな気がする。


 今回のルカは、輝いて見える、なんか女神様のようだ…………。

 って、やっぱり俺って、チョロくないか……………。


 

 「もし、送った人に悪意が無かったら、誰も悪意がないのに、迷惑を受けている人がいるって、なんかちょっと滑稽だよなあー」



 ライアンという通りの、まったく、その通りである。



 「謎のわかったところのに、何もせず町を出て、しまいには、もう何もできないのに、謎の答えを言ってゴメンな」



 そう、ハイデバードは結界が貼られ、もう出入りが一時間はできない。



 「…………やっぱり世界は広くて、なんかよく分かんない問題もあるんだなあーって分かったよ。これなら、俺が魔法を使えるような場所も存在するかも……。なんか希望が見えてきた!!」


 「フィリー、まだそんなこと言ってるの? フィリーらしー」


 「諦めるときは、キッパリ諦めるのが大切だぞ!!」


 ライアンがニヤニヤしている。


 それと、これとは諦めの度合いが違う。

 なんかライアンの表情を見て、ムカムカしてきた。


 

 「でもメターバードの人よりハイデバードの人たちのほうが、人付き合いが良かったし、賑やかだったから。何より町の中にいて楽しかったから、個人的にはハイデの人たちの味方したくなってくるよな〜」


 ミストさんとおしゃべりできた、ということも要因に入っているかもしれない。



 「よっ、フィリー。ざっ人情。案外フィリーみたいなやつが黒幕だったりして……」



 俺に、犯人との共通点を見つけるのはやめてほしい。

 


 「あの町にけじめがついたなら、さっさと次行くぞ」


 そう言って二人を置いて、少し小走りになる。


 「あいよ!!」 「りょーかいっ!!」



 慌てて二人はついてくる。


 三人の旅は着実に王都へ近づいていた。

 


 

 均された道を外れ、カノンさんの地図どおりに進む。


 普通なら迂回する山を突っ切っていく。


 ちょうど川幅が狭まったポイント。



 崖に忘れ去られたような吊橋。


 深い森の中の中でも光ある道。

 


 カノンさんの言うとおり、魔獣と遭遇する頻度は少ないが、それでも戦闘シーンはいくつかあった。

 


 再び開けた草原に出ると、時間も時間なので、ここで夕食をとって野宿をすることにした。



 「私はご飯の用意をしておくから、二人はテントをよろしく〜」


 「りょうかい、ってその前に防御結界張っておけよ」


 「まあ、一応俺が周りを見ておくわ」


 ライアンはこういう時には頼りになる。


 あいにくテントは一つだ。


 だがその分中は広い。


 俺は一瞬、ドキッとするが、別にルカはそのことに対して、なんとも思っていないようだった。


 ーーまあ、幼馴染だもんな。

 



 ご飯もテントも手際よく進んだ。


 「多分明後日ぐらいには、王都手前の街につくと思うぞ。普通ならもっと日数がかかるはずだったけど、だいぶショートカットすることになるはずだからね」


 カノンさんの地図は案外正確だ。


 道も、掛かりそうな時間日数も。



 「王都って、騎士団の人より強い人がたくさんいるんだよな。早く会ってみてえー」


 「私は王都にある料理を覚えておきたいな」


 俺たちの王都への期待も同時に高まっている。



 夕食を食べ終わると見張りの順番を決めた。


 最初は、ライアンで、最後が俺。



 夜になってもそこまで気温は下がらない。


 三人草原に寝転がった。


 「案外旅って楽しいね」


 「このメンバーだからだろ」


 実際はまだ二日しか経ってないけどな。

 ここまでの時間が長く感じる。


 それからは、他愛もない話をしたような気がした。



 気づくと、歩いた疲れと頭を働かせた疲れが相まって、見張りの順番がまわってくるまで、俺は眠ってしまっていた。



 

 気にした者は、誰一人としていなかったが、その日は満点の星空はおろか、わずかばかりの星しか見えていなかった。




二つの街編終了です。


まだ、完璧に終わったわけではないですけど、まだ王都への道がありますので。


次回予告 「不適合の街」

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