第一章 十二話 情報交換
まだこの町の人とメターバード、それにもしかしたらミストさんにも何かしらの関係かが分からない。
もしかしたら、何か企みがあるかもしれない。
と、考えてしまうため何隔てなくは喋りにくいし、まずなにより祭りをやっているからなのか、住人たちはテンションが高い。
……なので、ミストさんと一緒に祭りを回り、夕食を取ることにした。
初の外夕食のメインメニューは、シトゥーだった。
俺たちは四人テーブルを囲んで、食べながら語りあう。
先程、ルカに邪魔されて聞けなかったことを話題にする。
「それで、その祭りってどんな感じなんですか? 魔法じゃないなら、どうやって…………」
「まあ、それぞれ体術なり、忍法なり、皆魔法はなくたって、独自戦闘技術をもっているから。やっぱり対戦相手とどう戦うかを考えないと、なかなか勝てないものなんだよ」
魔法はなくても、それぞれ別の方法がある。
その言葉が俺にとっては救いの言葉に聞こえた。
「ミストさんはどこから来たの?」
「方角で言えば北東の方。でも、徒歩じゃキツいぐらい遠いかぞ」
まじかよ。
さっきはそんなに遠いとはいっていなかったのに…………。
だからといって、いつかはその町に行きたいと俺は思った。
「えっ、でも今徒歩じゃん」
「お、よく見てるね。そんなこと急に言われると少しキュンとしちゃうな……」
いきなりの喋り方の変化に、ライアンが鋭い目つきでミストさんを睨んでいた。
そういうライアン君も、時々そういうとこあるからね。
君は自覚してないようだけど……。
「あー、ごめんごめん。実を言うと、私はこの町に来る、前の街で強盗にあったんだよね。その街の人って、結構貧富の差が激しいらしくてね。多分、私が貧民街に迷い込んじゃったのは悪かったんだと思うけど。私が乗ってきた土竜、売るために奪われちゃったんだー。あと財産も少々。あははははー。私は、剣しか使えないし、全然強くないから…………。笑ってくれて構わないよ。ていうか、もう、笑い話にしかならないし……。これが私のここまでの経緯」
空気が悪くならないようにミストさんはできるだけ明るく言っていた。
「結構大変だったんですね。私…………、この町に来た直後、ミストさんだけ一歩下がって祭りを見ていたからなんか、企んでるのかなって、疑ってしまってスミマセン!!」
ルカが軽く白状して、すぐさま謝る。
「俺も三人なら、もしあんたが暴れても抑えられるかなって思ってしまってスミマセン!!」
まさかのライアンも。
「ちょっ!! もっとオブラートに包んでよ。私は何もしていないのに、第一印象が悪い人って思われて、ちょっとどころか、だいぶ傷ついたよ!! 今ね!!」
「こいつら、思ったことを反射的に言うので、絶対に無理です」
俺がミストさんを慰めるつもりで言う。
そのせいで俺も何度同じ目にあった事か…。
魔法が使えないとか、魔法が使えないとか、役立たずとか…………。
ミストさんは、すぐに笑顔を取り戻して、今度は逆に俺たちに訊ねた。
「じゃあ、君たちはなんで旅をしてるの?」
この人はここらへんの事情に詳しそうではないから、敢えて抽象的な、簡単目の言葉を使っておく。
「実は、俺たちの街にヤバめの敵が来たらしく、王都へ救援をもらいに行っているところなんだよ」
「王に頼るってところからして、けっこうヤバめだね?」
「そうっぽいです。お前は戦力にならなさそうだから使いへ行ってこい的な雰囲気だったので。ていうか、使いへ行くって俺が決断したあとも、あのジジイ、役に立たないとか、お前は王都に行けるか心配だあ、とかで少し渋ってたくらいだし……」
「でも、あの時のフィリーの潔さはカッコよかったよ」
ルカの言葉に隣でライアンもうんうん、と頷いている。
ああ、仲間っていいなー。
あの時は内心、俺はそのぐらいしかジジイたちに貢献できないと思ってたからだ。
ルカの言葉に俺は、自分がしみじみ安い男だと悟った。
「じゃあ、ミストさんの旅の目的はなんですか?」
「私か。私は、私の街に、私の親友がいるんだけどね…………。私の彼は、生まれつき持病があるらしく、いつ見ても苦しそうなんだよ。そのくせ、元気が有り余ってる。だから、私の彼のそれを治すために、薬草探しをしてるんだ」
この人は自分は今一人だからって、こっちが仲間という持つべきもの同士でワイワイしているのを妬ましく思ったのか、逆に話をややこしくしてきた。
やっぱりこの人にもちゃんとした目的がある。
俺たちとは少し違うけど、人のために行動して言うという点で少し似ているな、と思った。
しかし、一箇所おかしな部分があったような気がしたが…………。
私の彼??
ミストさんはどう似ても男性だが…………。
「ミストさんって思ってた以上にいい人かも」
「青年面した仏か何かだったりしてーー」
ライアンとルカのその会話に彼は苦笑いしていた。
やっぱり彼らの会話、特に飛躍具合に戸惑いを見せている。
一旦話に切りがつくと、ミストさんは一度深呼吸をした。
そして先ほどとは声のトーンを変えて、急に真剣な面持ちで口を開いた。
「君たち王都へ行くらしいけど、私から少し忠告。少し前に私がそこを立ち寄った時、なんか王都周辺から不穏な空気を感じた。それも日に日に強くなるような嫌悪感。私は占い師じゃないけど、こういう感は結構当たる方なんだ。こうして、一人旅をしていても、自分の感に助かるくらい。君たちが王都へ行くことを止めはしないけど、正直勧めない。何かが渦巻いてる。悪い方向に何かが起ころうとしている。だから、もう一度考え直してみてほしいかな」
「ミストさんが勧めなくても、私たちは行かないといけないんだ。それが今回の私たちの旅の目的だから」
そう言ってルカは、はにかんだ。
「どんな障害でも乗り越えていくだけだしな」
ライアンも粋がる。
「ミストさんって王都とは反対側を目指するだよね? それって俺たちが来たほうだから逆に危険なんじゃね? 俺たちが報告するべき敵がいる方向だし」
少し皮肉を混ぜて言ってみる。
「言ってくれるな、少年。私は長い距離を一人で旅してきたんだぞ。君たちが進んできた道なら私も通れるさ」
「じゃあ私たちも王都へ行けるよ。それにもしかしたらミストさん、私たちの街も、通るかもよ」
「街の名前を聞いてもいいかな?」
「「「スートラ!!」」」
「覚えておくよ。どんな街なのだ?」
「えっと、大きくて広くて、騎士団カッコよくて、領主はクソ」
それほとんどライアンの感想じゃん。
「なんでクソなの?」
「だって、俺が街の外で魔法使っただけで、なんか言われるから」
「面白い街だね。スートラ………………行ってみるか」
それからは先ほど通り、今までの話やこれからの話で四人は笑いあった。
祭りのほとぼりが覚める頃、俺たちも大体の話をし終わっていた。
「じゃあ、私はそろそろ次の目的地へ向かうことにするよ」
ここは年長者が、といって俺たちは夕食すべてミストさんに、おごってもらった。
「え、もう夜なのに外へ出るのか?」
「ああ、慣れているからね。それにもう十分この町に堪能したさ。楽しいひとときをありがとさん」
「気をつけてくださいね、ミストさん。こちらこそ、色々ありがとー。楽しかったよ」
「また次会うときも語り合おーぜ」
ミストさんは、俺たちの顔を順に見て頷く。
「君たちはくれぐれも、スリには気をつけておくように……」
「心得た。じゃあねー」
ルカの胸の前に手を当てたかと思うと、すぐにその手をミストさんに振る。
スリの件は了解したとばかりに。
「ああ。再び会う時が、いつ来ることができるやら。楽しみにしておくよ」
そう言い残して、一人ミストさんはこの場を去っていった。
俺たちが進んできた道へ。
この世界には、一人で旅をする旅好きがいたんだなあーと、気づかされた。
誰かが歩んできた道がまた別の誰かのこれから歩む道になる。
でも、俺は旅といえば大人数でするものだと思うから、一人で旅に出ようとは思わないな。
町はまだ祝いムードが覚めていないのか、簡単に格安の宿が見つかった。
二つ部屋を取り、ライアンと一緒に寝ることにする。
ルカが一人、宿部屋をどのように使っているか、………………、端的に言えば、ルカの部屋を訪れて二人でおしゃべりをしたかったが、多分、旅初日の夜というだけの、突発的な且つ雰囲気的な気持ちであろう。
これから旅を共にしていくからにはそんな行動が無意味なことに思えた。
疲れからか簡単に寝付くことができた。
意外にも、ライアンもイビキのかかない人だったようだ。
見慣れぬ町で初めて夜を過ごすのだが、その日は快適な夜だった。
パンパカパーン、パンパンパンパーン
メターバードで聞いたのと同じ音で目が覚めた。
しかし、全然うるさくはない。
この町は規律がしっかりしているらしく、これが目覚めの合図らしい。
「さあ、今日からまたしっかり働くぞー」
「より一層やる気が出てきたぜ」
祭りモードは切り替わり、人々が落ち着き取り戻し始めている。
とりあえず朝食の席につき、俺たち三人は集まった。
ライアンやルカはいつも通りの早起きだ。
ルカなんて寝癖一つ無いようにしっかり整えてきている。
「さっきのメロディーが本当にメターバードまで届いているのかなー? あの音量じゃ無理な気がするけど……。それとも、前聞こえたやつは、別の場所からなのかな……」
「やっぱりここからだと無理があるよね? 五月蝿いって感じなかったし…」
俺もそれは思っていた。
「ていうかやっぱり、こっちのハイデバードの方が、住民元気じゃね? 風邪の原因とこの町、関係なさそうー」
白い米が出てきた。
それにスープにサラダ。
米はこの国では珍しいものだ。
この白くて粘っこいもの。
気候的にも栽培が難しいし、近年誰かに開発されてやっと、需要が増えたくらいだ。
スートラでは王都へ近づくほど、小麦料理が主流に変わると聞いていた。
「あんまりこの町に時間は割けないけど、出来る限り調査してみようか」
「何時ぐらいまで?」
「正午ぐらいかな。それにカノンさんの地図によると今夜は、野宿になるらしいです」
なるべく感情を込めずに伝える。
「「ええっーーー!!!」」
「魔獣はほとんど地帯いないのでご安心を、だって……」
「野宿なんて初めてだから期待していいのやら、悪いのやら……」
「これって、あれだろ。話に聞く、順番に見張りを決めて、その人に皆の命を授ける的な?」
ルカもライアンも楽しそうだった。
「まあ、夜のことよりも、まずは目の前のこの町のことだな。じゃあできる限りやりますか?」
朝食を食べ終え、宿を出る。
山の麓は天気が変わりやすいと言っていたが、今は雲一つない快晴だった。
祭り終了
祭りの時は、なんだか時間の流れが早く感じるのは、自分だけではないはず…………。
次回予告 「調査」




