華を思う
ママは考え込んでるけど、わたしとパパはぜんぜん分かってない。
「ほら、爽知も考えましょう? パパとママじゃ分からないこともあるわよ」
ママはそういうけど、わたしが考えるより、ママが考えた方が早い気がするよ?
でもパパはママの顔を見て、なにか分かったみたい。ひらめいたって感じがにじみ出てる。
「爽知も考えることを止めちゃダメだよ。ナゾトキみたいなことなら、爽知も得意だろう?」
パパはママの言葉と同じようなことをいう。パパとママは、もう答えが分かってるみたいにいうのね。
あ。そうか。わたしが“答え”を出さなくちゃいけないんだ。パパとママに頼りきるんじゃ、いけないんだ。
ハルくんも“自分の答え”を見つけたから、笑えて、ひとりでも遊べるんだもんね。
ハルくんの答えは、あのこわいおじいちゃんより、パパとママを信じたことだよね。わたしも、パパやママを信じてるけど、それだけじゃ、ないんだよね。
「ママ、花ことばは、ヒントなの?」
わたしがきくと、ママが笑ってくれた。
わたしがちゃんと考えてるっていうのがうれしいのかな。それともあってる?
ママがわざわざパパに聞いた花ことば。
“幸福はきっとあなたのもの”
でもあのお花は、黒くなって消えちゃう……。幸福が黒くなったら、不幸ってことなんじゃ……。
また不安になったとき、パパがあたまをなでてくれた。
「爽知、声に出して、一つ一つ確認……パパとママの考えと、“答え合わせ”していこうよ?」
パパがやさしく言ってくれた。やっぱりパパはエスパーなんだ。だからわたし、ヒントに思った理由も、パパとママにいったの。
「パパとママに頼るだけじゃなくて、ちゃんとわたしが答えを見つけようと思って、考えたの」
ことばを止めると、パパもママもうんって返事をくれる。
「ママが花ことばを聞いたのも、わたしに気づかせるヒントなのかなって思ったの」
このときは、ママが分かってくれたのねっていってくれた。やっぱり、そうなんだね。
「花ことばは、幸福はきっとあなたのもの。いま、わたしのことだから、幸福はわたしのものってことだと思ったの」
そう。でも、ここで止まるの。
「でも、お花は黒くなっちゃうから、だから……」
なんて言葉にしていいのかとまっちゃった。だけどパパとママはちがうように思ったみたい。二人して立ち上がったの。
「爽知、本当に、赤かった?」
「電気点けた?」
……電気…つけてない、かも。
「あれ、赤じゃ……ないの?」
だってこわかったし、窓からの光もあったし。
「三人で、電気をつけて、しっかり見てみないか? 爽知」
「パパとママもいれば、怖いことないよ」
こわい……けど、でも、今なら、パパとママがいるなら、わたしの答え、見つけられるかもしれない……。
こわい………けど!
「……いく!」
まずはパパが、わたしの前を歩く。わたしは、ママと手をつなぐ。こわいけど、今やらなかったら、あのとき!っておもうかもしれない。
パパが部屋に入って、パチッて電気をつけた。わたしがそぅっと部屋をのぞくと、わたしのつくえの上にあった。花束みたいに、青や、こいムラサキの花があふれていた。
「どう? 爽知、お花ある?」
本当に、パパたちには見えないの? こんなにこんもりしてるのに?
「あるよ、ママ。だけど……だけど……」
「色は、どうかな……」
パパが心配ってかんじで聞いてくれる。うん、パパ。
「……青……。きれいな青と、ムラサキ色だ。どうして……」
あんなに、怖かったのに。
本当に、どうして? って思っちゃうほど、とてもきれいな色をしている。
これが、かきつばたの花……。
「爽知。もしかしたら、爽知がひとりで見たときは、本当に赤かったかもしれない。だけど、今の、ちゃんと自分の答えを見つけようと頑張った爽知には、キラキラしてるように見えるのかもしれないよ?」
あんなに怖い思いしたけど、わたしにはもう、このお花は怖くないって、絶対大丈夫って思ったの。なんでかな、自信があった。
だから、花束みたいなお花をひとつ、手に取ったの。
両手でつつむようにすくうと、それはパチパチって、キラキラって、消えていっちゃいました。
そのとき。
『子どもは、宝物なんだよ』
ハルくんパパの、声が聞こえた気がしました。
「あ……」
パパとママが見守ってくれるなか、わたしはかきつばたの花束を、全部抱きしめてみました。
そうしたら、次々と。
『お花きれいだね、さっちゃん』
『心を強くね! 負けちゃダメだよ!』
『お散歩行こうか、爽知』
『パパとママを仲間はずれにしないで』
みんなの声が、今までわたしにかけてくれた想いが、いっぱい、聞こえました。
うれしくて、でも気づけなかったくやしさも、全部、涙になって流れてゆきました。
わたしには、味方になってくれる人が、いっぱいいたんです。
みんなとても、気づかってくれてたんです。
かきつばた、みんなの優しい想いだったんです!
わたしは決して一人じゃなかった。
ハルくんもハルくんのパパとママも。お花見で声をかけてくれたおじちゃんもおばちゃんも。相談したらパパもママも一緒に考えてくれました。
わたしがずっと、一人だと思いこんで、カラの中にこもっていたんだ…。
ハルくんがカラをやぶったって、こういうことだったんだ!
抱きしめた花束は、優しい声になって、わたしの心に届きました。
そうだね。あのときもきっと、だれかの優しさがあったんだ。だけどわたしが怖がって、キョヒしちゃったんだ。
「パパ、ママ、ありがとう! わたしはひとりじゃなかった」
にっこり笑ってふりむいたら、パパとママにぎゅうぅって抱きしめられてしまいました。
「良かった! 爽知。気づいてくれて、良かったよ!」
「爽知もカラをやぶってくれたんだね! ありがとう! 爽知!」
うん! うん!
うれしい! うれしい!
ちょこっとだけ泣いて、笑ったあとに、ママがお菓子を作ってくれると言いました。
わたしが成長したお祝いだよって!
「じゃあ、パパも手伝うよ!」
「みんなで作りましょう!」
パパもやる気です。もちろんわたしも。
そう言って、ママが、パパが部屋を出ました。わたしが電気を消そうとなにげなくふり向いたとき、かきつばたがひとつ残っているのに気づきました。きっと、抱きしめたときに落ちちゃったのね。
そう思って、そおっとすくいあげると、やっぱり声が聞こえました。
みんなの声が、一緒になって聞こえました。
『大好きだよ』
この話は、ちょっと体験したことでした。酔っ払いに暴言吐かれたあたりです。
ダメな大人の理不尽に、(当時の私は小学生ではありませんが)ひどく傷つきました。
もちろん、花が見えたりはしてませんが、周りの人々に助けられ、今、お話を書けるくらいに立ち直りました。
もし、理不尽なことで悩んでいる方がいましたら、どうか周りの人々の優しさを思い出して欲しい。その優しさは、あなたの殻を破る力になります。
そう思って、作りました。
最後まで読んでくださって、ありがとうございます。