花を想う
おうちで、ママと二人でパパを待つ。パパがおしょうゆを買いにいってる間に、ママにも、夢の話をしようと思った。思ったんだけど、お昼ごはんを作ってるから、ごはんを食べ終わってからにしようって、さち、お部屋に戻ったの。そしたら──。
「うわぁああん!!!」
さちは走ってパパとママのベッドに向かった。
──怖かった。
──なんで? どうして???
「爽知!? どうしたの! 何かあったの!? 爽知!」
ママがキッチンからすっ飛んできてくれたけど、何も、考えられなかった。
赤いのが、黒いのが来る……。
さちを、壊しに……。
「爽知……」
「……さち…」
パパとママの声。
くるまってる毛布にも手が置かれて、なでなでしてくれる。
「爽知、夢はゆめだよ。この世界にまで爽知を追いかけてくることはないよ?」
パパが言った。なでなでしてくれる手は止まらない。
夢じゃない…。ゆめじゃないの、パパ。
「花が、あるの………あの花っ……うぅ……」
「お花?」
「……っさわると、パッて黒く、なるの……消えちゃうの……こわい、お花なの……」
きっとパパとママは、さちのこと不思議な子だと思ってる、よね。嫌われちゃったらどうしよう。
思わずぶちまけちゃったけど。まだ、せなかなでてくれるけど、気味悪いって思ってたら……どうしよう。
「爽知」
ママの、さちを呼ぶ声。すき。
「爽知のいう、お花。ママには見えなかったの……」
え………パパとママには見えないの?
「ぁ……ぅ……」
こわいっっ!!
「だけど、爽知だけに見えるのは、きっと意味のあることだから、パパとママと爽知で、意味を見つけましょう? パパとママを仲間はずれにしないで?」
「ママたちを仲間はずれなんて!!」
毛布をのけて、ガバッと起き上がってしまったけど、その場合、仲間はずれっていうの? って、そんなことを考えてしまうくらい。
パパもママも泣いてた。ママは、さちとおんなじくらい泣いてる。びっくりしすぎて涙がひっこんだ。
「ママ……」
「爽知、やっとママの顔を見てくれたね」
「ママ……」
さちとママとでぎゅーってしてたら、さらにパパがぎゅーってしてくれた。三人でぎゅうぎゅうして、それから、笑った。ママも、さちも。
「爽知、やっと笑ったね」
「さぁ、まずはごはんを食べましょうね」
「うん!!」
怖いと思うことはまだあるけど、さちが笑うとママも笑う。わたしは、それがうれしい。
三人で向かい合って、ごはんを食べる。顔を合わせて、笑いあう。
いつもより、ご飯がおいしい気がするけど、きっと、気のせいじゃないよね。
ごはんを食べおわって、片付けものをすませて、ホッと一息ついた。
L字型のソファに座って、パパとママにお花のことを話した。
わたしのつくえの上に、花があること。
さわると黒くなって、消えちゃうこと。
お花見から帰ってきたら現れたこと。
そしてママが言ってた。わたしにしか見えないこと。
話すと怖い思いが出てきて震えちゃったけど、ちょっとスッキリというか、せいりできた気がした。
「爽知、そのお花、どんな花なの?」
ママがわたしの背中をさすさすしながら聞いた。わたしは怖がりながらも、思い出して、少しずついう。
「えっと、赤い花で、花びらはベロみたいにベーってしてて、真ん中は短いのが立ってて……」
言ってて訳がわからなくなってきたとき、パパが植物ずかんを持ってきてくれたから、あれじゃなくてそれじゃなくてってしながら見た。
「花びらが下がってるので始めに思い付くのは、かきつばた、かしら」
お花大好きのママが、ずかんを見てるわたしとパパより先にいう。パパはかきつばたのページをめくりながら、うーんとうなる。
「でもママ、かきつばたって赤じゃないよ?」
「え」
「そうなのよ。青か紫。花菖蒲なら、赤っぽいのもあるんだけどねぇ」
パパとママはうーむとうなる。ママはわたしの左手を握った。
「爽知、部屋に」
「ねぇパパ。かきつばたの花言葉ってなに?」
「え? えーっと……“幸福はきっとあなたのもの”だね」
パパがなにかを言いかけたけど、ママがそれに被るように花言葉と言った。もちろん、パパはママのしつもんに答える。