シルヴィア、侍女と語らう。
「このドレスはシルヴィア様のお美しい碧眼に似合うかと思いお選びしたのです」
ドレスに腕を通し終え、生地を引き伸ばし皺を整えるシルヴィアにターニャが言う。
「そうなの。ありがとう。とっても素敵だわ」
薄水色のドレスは大人らしい仕様で、シルヴィアの体のラインがくっきりと浮きでるものだった。袖や裾にはレースが付いており、一つ一つ丁寧にサファイアとダイヤモンドが縫い付けられている。地味過ぎず、派手過ぎず、シルヴィアの好みにぴったりだ。
「家では適当に選んだのを適当に自分で着るだけだったもの。こうして誰かに選んでもらい、手伝ってもらうのは新鮮ね」
と、シルヴィアは微笑む。やはり15歳の少女。お洒落が楽しくてたまらない様子だ。
「あら、そろそろ3時ですわね。ネルガ夫人をお呼びします」
「……あぁ、うん、頼むわ」
ネルガ夫人、って誰だっけ。
そう思ったシルヴィアだったが、すぐにリリアンナの事だと思い出す。夫人、ということはリリアンナは既にどなたかに嫁いでいるのか。まぁ、20歳をとうに過ぎている訳だし、嫁いでいない方が珍しいのだが。
「ソフィア。居る?」
「はい、ここに控えております」
リリアンナを呼びに行ったターニャと入れ違うようにしてソフィアが室に入ってくる。
「何かございましたか?」
「いいえ。ターニャが出ていって寂しかったのよ。リリアンナが来るまでお話しましょ?」
侍女が主と私情を挟んだ会話などもってのほかなのだが、シルヴィアの無知さはそれさえも許してしまう。
ソフィアはこう言い始めたらもう聞かない、というシルヴィア性格を出会って数時間で見抜いていた。
「……はい」
頷くと、主に咎められないならばいいや、とばかりにソファーに体を沈める。
「そうねぇ。んー、ソフィア。貴方は陛下にお会いした事があるの?」
「ありますわ。本当にお素晴らしい方です」
ソフィアには敬愛の表情が浮かんでいる。
「お若いのにご立派で。先日、狩りを見る機会があったのですが、陛下のご勇姿はそこらの兵士が逃げ出す程で……」
「へぇー」
ソフィアは陛下の事が好きなのかもしれないわ。
と、シルヴィアは思った。
そして、もしそうならば陛下に頼んでソフィアを妻の1人に加えて頂こうか。
「ソフィアは陛下の事がお好きなの?」
「な、な、な、そんなわけありません!」
と、顔を真っ赤にし頭をブンブンと振るソフィアにシルヴィアは嘆息した。
何もそんなに否定しなくてもいいのに……。
「拝見したと言ってもチラッとですし、陛下とお話したこともございませんし!どんな方なのかも存じ上げません……」
段々と尻すぼみになるソフィアに、シルヴィアは微笑みかける。
「いいわ、私陛下にお会いしたら話してみる。私の侍女を是非奥様の1人にお加えください!って」
「なりません!」
「えー、即答?」
むう、とシルヴィアがむくれる。
その顔には不満がありありと浮かんでいた。
「だって、後宮って怖いらしいじゃない。ソフィアが一緒なら頑張れるかな、って」
「わ、わたくしのような身分の低い者が王の妃になど……夢のまた夢でございます」
「ふーん、そんなの?」
「そうです」