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伍《件》

男が出張へと出掛けた。少し、嫌な予感がしてしまう。

私は玄関先で見送りをしながら、ぼんやりとそう思った。

「じゃあね、行ってくるよ」

ニッコリ微笑み身軽な男はいつもとは違って和装を着込んでいる。

荷物はすべて従者の男たちが持ち、男が持つものは財布や少しの陰陽師としての道具くらいで大掛かりな道具はスーツケースやボストンバックなどに丁寧に仕舞われている。

「待って、これ持っていって」

そういいつつ、家の者の強い視線の中、男に手渡す。

「金平糖?いいの、これ」

「うん、最近買ってしまったものだから」

思わず買ってしまった、金平糖を手渡すと男が微笑んだ。

「ありがとう」

「金平糖も、破邪対魔になるかもしれないし」

そう言えば男は虚を突かれたのかぽかんとする。よりいっそう男以外の視線が痛くなる。なに言っているんだコイツみたいな視線がぐさりぐさりと刺さる。

「心配してくれるの?嬉しいな」

男はニマニマしながら私の頭をぽんぽんすると、出ていった。

私は、無表情に戻りすぐに自室へと戻る。この家で私の安らげる場所なんてないのだから当たり前。



*****


いつもとは違って一人のベッド、少し寂しく感じるのは気のせいにした。ひんやりして、寒い。いつもなら無駄に近くて、暑く感じるのにと思いつつ神経を尖らせた。


なにが、あるか分からない。

そう言って、男が残していった式紙がちょこんと寝室の戸の前に座っていた。私は、動物が好きだとくに柴犬のあのしっぽがたまらない。そう言ったことを覚えていたのかは分からないが、柴犬の形をした式紙がちょこんと座っている。可愛い。

「おいで、」

式紙というのはこの家に来てからと言うもの頻繁に見たが、ここまでリアルな犬の形をできるとは驚きだった。なにこの、しっぽ!

ちょこちょこと歩いて、ベッド脇にちょこんと座った。それに手を伸ばして抱き抱える。

「ふぉ、もふもふ」

すりすり、しながらやっぱり、式紙だから匂いはしないか。それに、反応もない。ちょっとだけ寂しくなった。


ぴくり。思わず身体が揺れ、式紙から目を離して部屋中を見回す。式紙がひらりとその隙に飛び降りてくんくん部屋を嗅いで回る。

そして安心したかのように、また部屋の戸の前に戻りちょこんと座った。


それを見て、思わず微笑んで。ベッド脇に置いた、すべて紫色の金平糖が入った瓶。

確認して、今度こそ瞳を閉じた。



カタン、カタン、トトトト。いつもはしない音が聞こえ、頭が冴えてくる。ようやく眠りに入りかけたのに、そう悪態をつきつつ瞳を閉じたまま周囲に気を配らせる。

紙を媒体に作られたとは思えない式紙が戸を守っているのだろう。カタコト、この部屋の戸を開けようとしている音が響いている。あの男が私が嫁いできてから家を空けたことないからかこの期を逃すまいとしているのだろうか?


いつも気が抜けない、そう思いつつ男が残していった式紙がありがたい。式紙は作った人間に忠実だから、唆されることもないゆえに安心した。


一頻りカタカタいわせていたが、諦めたようで遠ざかる足音が聞こえた。それに、ホッと息をはいた。

この分なら、実家に帰るか。そう思いつつ、漸く眠りに入った。



朝、適当に着替えとその他もろもろを詰め込んで式紙を抱える。

そういえば、男が言っていた。いいや、私が聞いたのか。

「式神は、旦那さんが作ったの?」

疑問に思い、つい聞いた。男は嬉しそうに一人、でぶつぶつと

「旦那、さん。いい……」

と言っていたのは無視した。この時、籍を入れて2日目。私を世話する座敷わらしみたいなモノをシキガミと呼んだ男に聞いた。

「きっと、神の方で思ってると思うけれど…こっちの紙、だよ」

基本的に室内では和装の男は、懐から一枚の紙を取り出しながら言った。

「そっちの?式紙、ね」

「そう、言わば僕の分身みたいなモノかな。これに僕の霊力を込めて作り上げたこの子は幻影だね。込める力が強ければ強いほど、イメージ通りになるんだ」

イメージしながら霊力を込めて、作り上げるらしい。モチーフはなんでもいいのか、だから動物型とか人型があるのかと屋敷でスレ違う式紙を思い出す。

「鬼でもなく神でもないから式紙なのか」

そう呟くと男は驚きつつも頷く。

「僕の奥さんは、察しがいいね」

そう自分でいいながら、奥さん…いい。という男に引く私がいた。


安倍晴明は、十二神将…あれは神だから式神?なんとなく分かったような、分からないような?


もう一度、腕のなかのもふもふに見とれる。

これも元は一枚の紙なのだ、そうか。あの男も柴犬が好きなのか。


サッと、何故か血の気が引いたと同時に抱えていた式紙がひらりと紙に戻る。

「どうした、の」


「弥代様」

聞き慣れない男の声が聞こえた。


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