参《婚》
考えた。けれど、まんまと私は結婚する羽目になるのはその1ヶ月後の出来事。
あの時はなんだかんだで、逃げることに成功した。しかし、男と遭遇する率が上がった。今まで遭遇しなかったことが奇跡だったのかもしれない。
学校でも、男が一人の時に。それもオニのようなモノ、男は妖怪と呼んだソレとセットで。校外でも、ばったりと出会し秘密に関することを聞いてしまったり。
そしてある時、
私は呪を受けてしまう。
今でも思い出す。あの男の焦った顔が、その後、こっそり愉しそうに笑っていたことも。
校外で出会し私は、最悪だと思った。最近こうして出会してしまうことに苛立っていたこともある。会うたびに、結婚をちらつかせる男に辟易していた。
その日は、男は仕事を早々に終わらせ帰路についていたらしい。なにせ、陰陽師モノでよく見かける装束、狩衣を纏っていたから。その格好でよく、公道を歩けたなと思った。
「術を使えばいいんだよ?」
どうやら私の考えは、口からするりと出ていたらしい。
「あーそれはそれは、便利ですねぇ」
なぜこいつはあからさまに、秘密を暴露するのか理解し難い。適当にあしらい、私は帰ろうとした。
「っ!まって!」
私は唐突に引き寄せられ、固まる。
グッとなにかが入り込む感覚がして、吐きそうになる。
「ごめんね、弥代」
また、名前を勝手に呼びやがって。そう思ったが、吐き気でそれどころではないのだ。男の腕のなかから逃れ座り込む。最悪だ。
そっと背中を擦る男の手が心地よくて。吐き気と戦いながら私は変だとさえ思った。
「まさか、僕に対して宣戦布告とはね。ごめんね、巻き込んじゃった」
宣戦布告なら、あんたにするだろう。巻き込んじゃった、ナニソレ軽い。というか、この吐き気は。
「一般的に知られる呪い、呪と僕らはいうモノだよ。そう簡単に剥がせないんだ、弥代の命に関わっちゃう」
焦った表情は、一瞬で。その後、冷静な顔付きに変わった。でも見てしまった、良いことを思い付いたときの顔を本の一瞬だけした。笑っていた。
「……はぁ」
呪、ねぇ。これ以上はないところまで来てしまったようだ。
「責任、取るよ。もともと君とは結婚するつもりだったしね」
「責任?」
「そう、呪いをかからせちゃったし。僕ならその呪いが効かないように出来る。但し、毎日の祈祷が必要だけど。それに何れは剥がすよ」
淡々と告げる男に、私は無表情のまま聞いた。
「それで?」
「一緒に住んだほうがいいだろうし」
「同居は百歩譲るとして、結婚は?無意味じゃない?」
「夫婦の関係がいいんだよ。家の者になってしまえば、口止めする必要がないし」
*******
「弥代、嫁に行け。あんないい所のご子息に見初められるとは」
と父にあっさりと言われたことは、一生忘れてあげない。もう少し、悲しんでくれてもいいと思うのは私だけだろうか?
「定期的に顔は見せなさい」
「お母さんは反対したのよ?でも、あの子すごく綺麗な顔をしていたわねぇ。孫があんな子に育ったら自慢モノよねぇ」
母よ、それはまるっきり反対してはいないじゃないか。高校生の娘に、結婚、そして孫をもう産ませる気ですか。
「行くな、妹よ!俺は猛反対したんだ!」
ボロボロ泣くのは、我が兄さまだ。これを両親に期待したのに、あんたかよ。無駄に身長の高い兄にすがり付かれ、私は徐に蹴った。
「なんか違う」
兄には、行けば?と逆に言ってもらった方が良かった。ええ、兄よ。あなたは重度のシスコンだと認定しよう。今までの行動も含めて厳重に鑑定した結果だ。
「姉さま、行っちゃうの?」
妹は目をうるうるさせて、言う。よし、可愛いなぁこいつぅ。
「うん、大丈夫だよ。すぐ帰ってくるから」
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矢蔓家の鋭い視線、殺気、すべてを感じていたが滞りなく婚姻が結ばれたのは男の18歳の誕生日を迎えてすぐだった。
あちら側は不本意らしいことは、すぐに気づいた。そもそもあの男には分家筋に婚約者がいたらしい、かの婚約者は破棄され居どころが悪くなり家を飛び出したのだとか。嫌味なこそこそ話がするりと聞こえてくるのだから仕方ない。
それよりも、殺気が気になる……女、ならまだしも…男も。まさかそっち系の、なわけないか。秘密を知っちゃったから、抹殺の方が有力だぁね。
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