壱《男》
神の贔屓でできたような極上の男、彼の名は矢蔓木暮。現在、大学2年生であるが彼の家が経営している会社の上役でもある。大学生が上司だとか、下の人間がついていくのだろうか?とふと、思う。しかしまあ、あの男は神の贔屓で出来ている。絶対、そうだ。
あの男は、上に立つ存在なのだと思う。絶対的な支持、例え若輩者だとしても付いていこうと思わせるなにかを持っているのだと思うのだ。
カリッ、もうひとつ金平糖を頬張る。
「ふぁ、眠い」
大学が終わると、その足で会社に赴く男の帰りは大抵遅い。といえども、8時前には帰りついているが毎回玄関での一悶着?があるためすぐに9時になるのだ。
秘書の男と話を終えた男が、ぼふりとソファーを弾ませながら座る。その際、私に出来るだけくっつこうとしてくるので即座に立って退避する。
「お先に」
私はいつも7時には夕食を終わらせ、すぐにお風呂を済ませる。髪を乾かして、一息ついたら男が帰ってくるのでとりあえず出迎えを不本意だがする。その後は、読書をしたりするのだが大抵邪魔が入る。それを如何に気にしないか、が最近は上達している気がする。
「え、もう?」
男が慌てて、立ち上がりそう言うのでこくりと頷いた。
「夕食は、外でたべてきたから…そう、お風呂!お風呂済ませてくる!」
そう言うと、即座に駆けていった男を見送って寝室へと私は進む。
この家、というか屋敷は和風だが寝室と私の部屋、他何部屋かは洋式だ。
その為、寝室にはベッドがある。キングサイズのそのベッドに潜り込み、私は目を閉じた。数分後、すごい勢いで寝室が開けられシャンプーの香りが鼻を掠める。
「寝ちゃった?」
「……」
まだ起きてはいるが、寝たふりをすることにした。男がそそくさと、ベッドに潜り込み私をじっと見ているのだろうすごく視線を感じる。
それにしても、風呂早くないか?
と思った瞬間、男は私を抱き寄せまさぐる。
「ちょっと、」
「夫婦だし、いいよね?」
暗い寝室、だがあまりの近さに男の表情が笑顔だということが分かってしまう。
そう、男と私は夫婦関係にあるのだが……今はものすごく眠い。
「待って、まってマッテ、一回だけー」
そう言う男を私は睨む。そう言って結局一回で終わった試しがないからだ。
「い、や」
そう残して、寝返りを打つ。男に背を向けて、私はもう一度目を閉じた。
「………」
「……ヤメロ」
またまさぐってきた手を掴み、ぐいっとあらぬ方向へ指を曲げてみた。
「痛い痛い痛い痛い!」
「そりゃそうだ、だって普通曲がらない方向へ曲げてるから」
「ごめんね、でも一回!」
そんな悶着があって、結局許してしまう私も変だ。いや、結局寝れないので思考回路がおかしくなったことにしておこう。そして、やはり一回では終わらないで私の意識が薄れかかってようやく離れた男。
好きでもない女と、寝て夫婦でいることは苦痛ではないのだろうか?
そう思いつつ、ぴくりと何かを感じた。瞳を閉じて、神経を尖らす。
「っち、余韻に酔いしれていたのに」
男が飛び起きて、そう吐いた。
もぞり、私の方へ向いて額にキスを落とす。
男は、私が寝ているのだと疑わない。
ベッド脇に乱雑にかけてあった着物を羽織る音が聞こえ、男は寝室から出ていった。
もぞり、私は起きあがってため息をはく。
ベッド脇の時計に目を走らせ、時間を確認する。
「よく言ったものだね、丑三つ時って」
ばふり、ベッドに倒れこみ眠りに入る。私は、知っているけれど関わらないようにしている。だって、面倒なことは嫌いだから。
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